
SDGs 大学プロジェクト × Chikushi Jogakuen Univ. – Part1 –
目次
筑紫女学園大学の紹介

筑紫女学園大学は、福岡県太宰府市にある私立女子大学です。仏教の浄土真宗の教えを建学の精神として設立されました。「自律」「和平」「感恩」を校訓とし、社会を生きるしなやかな感性と教養を身につけ、勇気と誇りをもって新しい時代を創造する女性を育成しています。
学部は文学部と人間科学部、現代社会学部の3つを設置。「人に寄り添うひとを育てる」をコンセプトに、SDGsの考えも取り入れたカリキュラムに基づいて科目を編成しているのが特徴です。
現代社会学部の紹介
筑紫女学園大学の現代社会学部は「社会が求める即戦力と人間力を備えた自律的女性」の育成を目指し、現代社会の実態やその仕組みについて学ぶとともに、フィールド調査やデータ分析などの手法を用いて社会の多様な課題解決に取り組むことで、4年後に飛び込む実社会で活躍できる「実践力」を身につける学びを進めています。
そのような「実践力」を身につけるために、SDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた諸課題を5つのP(人間文化:People、地域繁栄:Prosperity、地球環境:Planet、平和共存:Peace、パートナーシップ構築:Partnership)といった視点から学びつつ、それら諸課題を「デザイン思考」という手法を用いて実践的に解決していく授業を進めています。学生達は1年次からゼミに所属して段階的に学びを深めることができる「少人数ゼミナール」や、在学中から企業・行政機関とコラボしながら課題解決に取り組むなど、特徴ある学習プログラムを通して、自ら主体的に考え、他者と協働しながら社会に貢献する力を身に着けていくことができます。
今回は、現代社会学部の藤原 隆信 教授に、ゼミナールで取り組んでいるソーシャルビジネス活動「Smile For Nepal」について伺いました。「Smile For Nepal」は、世界最貧国の1つと言われているネパールの子どもたちへの教育支援と女性たちへの自立支援を目的とした活動です。
本記事では、「Smile For Nepal」の具体的な活動内容やソーシャルビジネスに対する藤原教授の思いを紹介しています。
ソーシャルビジネス活動「Smile For Nepal」
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―藤原ゼミが「Smile For Nepal」に取り組まれたきっかけを教えていただけますか?
藤原 隆信 教授(以下、藤原教授):「Smile For Nepal」は現在は藤原ゼミの実践活動として行っていますが、ゼミでの活動が始まる以前から筑紫女学園大学で行っていたネパールの支援活動が前身となっています。
筑紫女学園大学は、1990年代から研修などでネパールとの交流があったため、2015年の4月に発生したネパール大地震を受けて、大学として何かサポートできることはないかと考え、ネパールの子ども達の教育支援をするプロジェクトが立ち上がりました。
当初、このプロジェクトは寄付金を募り、集まった資金で支援を行う形で進めておりましたが、日本国内でも震災や水害などの自然災害が頻発したことから次第に海外支援のための募金が集まらなくなり、支援を継続することが困難になってきました。
しかし、ネパール支援のプロジェクトは現地の子どもたちの教育を中・長期的に支援していく目的で立ち上がったものであり、「活動を継続したい」という思いが強かったため、2017年度からは藤原ゼミでソーシャルビジネスをすることで資金を獲得しながらネパール支援を続けていこうということになり、「Smile For Nepal」の活動が始まりました。
―ありがとうございます。「Smile For Nepal」の活動内容について詳しく教えていただけますか?
藤原教授:「Smile For Nepal」は、ネパールの子どもたちの教育支援と女性達の自立支援を目指したソーシャルビジネスです。筑紫女学園大学の藤原ゼミではソーシャルビジネスを「理論」と「実践」の両面から学んでいますが、この実践に当たる活動が「Smile for Nepal」です。
「Smile For Nepal」は、学生たちが自分達でビジネスの立ち上げ方を学ぶところから始まりました。学生たちはゼミでの学習はもちろん学外のさまざまな勉強会などにも積極的に参加してくれました。そして、自分たちで学んだ知識やノウハウをもとに以下のような「Smile For Nepal」のソーシャルビジネスモデルを創り上げました。
- 現地の女性が手作りしたネパールグッズの買付け
- 日本の各種イベントに出店し、ネパールグッズを販売
- 販売した利益でネパールの子ども達の教育支援(文法具のプレゼント等)を行う
つまり、ネパールで買付けた商品を日本で販売して利益を上げ、その利益で教育支援のための文房具などを購入し、再び現地に赴いて子ども達にプレゼントするというビジネスモデルです。
活動初期の買付品としては例えば、日本で環境問題への関心が高まっていたことから「エコ」という視点でネパール女性が手作りしたエコバッグを買付けてきました(その後、レジ袋の有料化が始まる)。その後も学生達はニーズ調査をして買付品を決めるなど、日本でのトレンドなども考えながら現地の女性が作ったグッズを買付けて日本で販売し、その利益で子どもたちへの教育支援を行うといった流れを繰り返しています。
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プレスリリースやSNSを駆使した広報活動を実施
―「Smile For Nepal」の取り組みを知ってもらうために工夫したことを教えていただけますか?
藤原教授:学生たちがFacebookやInstagramなどのSNSを使って活動内容の情報発信を行っていることです。また、大学の広報担当の職員に協力していただきながら、学生たちが自分でプレスリリースを作成・発信し、各種メディアの取材対応も行っています。
実際にプレスリリースを見てくださった地元のテレビ局が取材に来ることもあり、学生たちの発信の効果が出ていることを感じています。このように「Smile For Nepal」では、活動そのものを知ってもらうための広報活動も、学生たち自身で行っているのです。
―プレスリリースを書くことは簡単ではないと思うのですが、学生のうちから広報戦略として取り組んでいらっしゃるのが素晴らしいですね。プレスリリースを出す際に、意識していることはありますか?
藤原教授:情報発信は、お金をかけずにいかに多くの方に知ってもらうかが大事だと思っています。プレスリリースは広報活動の一環として行っているものですが、より多くの方の気を引くようなタイトルになるよう、学生たちに試行錯誤してもらっていますね。
具体的には、パッと見てどれだけ凄いのかを伝えるために、「今までになかったもの」を「○○初!」という表現でアピールする方法や、読者の興味を惹きつける面白いタイトルを付ける方法などがあります。例えば「商品開発で途上国支援」というテーマで筑紫ガスが運営している施設のカフェとコラボをした際には、開発した商品がワッフルということと、カーリング女子で有名になった「もぐもぐタイム」という言葉を掛け合わせて「モグモグ支援!」というワードをタイトルに入れてプレスリリースを出しました。こうして発信方法にも細かい工夫を凝らすことで、お金をかけずに多くの方に取り組みを知ってもらえるような情報発信を心がけています。
―ありがとうございます。では、逆に活動の中で大変だったことを教えていただけますか?
藤原教授:一番大変だったことはコロナ禍で3年間ネパールへ行くことができなかったことです。その間は現地での支援活動はもちろん、現地での商品の買付けもできませんでした。私のゼミに入ってくる学生の中にはネパールに行くことを希望してゼミに入ってくれる学生もいるので、現地訪問ができないことを残念がっていましたね。
しかし、学生たちはそんな状況でも「今、自分たちにできることは何か?」を常に考え続けてくれたため、幸いにもコロナ禍でも活動が止まってしまうことはありませんでした。
具体的には、対面販売ができなくなったので販路拡大のための通信販売モデルを構築したり、コロナ禍でSNSが活発に動いていたことを受けた広報活動の再検討、企業とのコラボなどです。私にとっても学生にとってもコロナ流行は予測できなかった事であり、その間は試行錯誤の連続でしたが、結果として学生たちが自分たちでオリジナルグッズを企画して販売するなど、継続的に資金を調達しながら乗り越えることができました。
また、実際に通信販売を実施し、対面ではない販売方式も体験したことで、対面でしっかりと活動の意義を伝えながら販売することの重要性を実感する機会にもなりました。
支援の輪はどんどん拡がってきている
―2017年から「Smile For Nepal」の活動を開始し5年ほど経っているかと思いますが、始めた当初と比べて周りからの反応はいかがでしょうか?
藤原教授:活動を始めた頃よりメディアに取り上げていただくことも増え、徐々に活動が浸透していっているように感じています。毎回イベントに来てグッズを購入して応援してくださる方もいらっしゃいますし、協業やサポートしてくださる企業も増えています。
コロナ禍でネパールへ行くことができなかった期間中も支援を継続してくれた「株式会社ジック」の方々や、現地での買付けができないため自分たちでオリジナルグッズを作る検討をしていた時に声を掛けてくれた企業もありました。具体的には、めんたいこで有名な「ふくや」は利益度外視でオリジナルグッズの企画・販売に協力してくれましたし、「筑紫ガス」は一緒に商品開発を行い、売上の一部をネパール支援のために寄付してくれました。
このように、支援をしてくださる方がどんどん広がってきていることを実感しています。
社会問題解決に資するビジネスを実践する中で、幸せな働き方を見つけてほしい
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―藤原教授から見て、活動を通じて学生が変化・成長したと感じる点はどこですか?
藤原教授:ネパールの子どもたちが厳しい環境の中でも一生懸命に勉強している姿を見ることで、自分たちがいかに恵まれた環境で勉強できているかを自覚するとともに、そのような環境を与えてくれている親に感謝するようになります。また、現地での活動の様子を見ていると、日々逞しくなっていることを実感します。たとえば、ネパール訪問前に「英語は全然分からない」と弱音を吐いていた学生でも、現地では自分でお店を探し、英語で商品買付けの値段交渉をするようになるのです。
現地で実際に子どもたちの笑顔を見ることで、自分たちが何のために活動しているのかをより深く理解できるようになるのだと思います。
―これから社会に出ていく学生さんたちに期待していることはありますか?
藤原教授:ソーシャルビジネスの実践を通じて得た経験を活かして、社会に出てからも「仕事を通じて社会に貢献する」ことを実践して欲しいと思います。
私は、他の人々のために働くことが、結果的に自分自身の充実感ややりがいに繋がり、それが幸せな働き方につながるのだと考えています。営利企業に就職するとお金儲けが第一の目的になってしまいがちですが、そのような中でも多くの人に幸せを届ける視点を持ち続けられる人になって欲しいと思っています。できれば、営利企業の中に「社会問題をビジネスで解決する仕組み(事業)」を作りだし、少しずつ企業のあり方を変えていける人間になってくれればうれしいです。
ネパールの子どもたちが笑顔で勉強できるように

―最後に、今後の展望を教えていただけますか?
藤原教授:「より良い活動にするにはどうすれば良いか」を意識しながら、とにかく継続していくことです。ネパールには支援が必要な学校がまだまだあるため、現在は支援が行き届いていない学校にも活動の幅を拡げていきたいと思っています。これまでに10校の校舎を建ててきましたが、コロナ禍を経て校舎の建設はストップしてしまっているので再開させたいです。目標は100校で、実現できるようこれからも継続していきたいと思います。
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ネパールは経済がだんだんと発展してきており、生活が豊かになってきていることを実感するものの、困っている子どもは依然としてたくさんいます。そういう子どもたちが笑顔で勉強できる環境を作っていきたいです。私は将来を担う若者たちへの教育こそが、貧困問題を解決する1番の近道だと信じています。
そのためにも、より多くの方々にこの活動を知ってもらい、協力してくれる方々や協働してくれる企業との輪を拡げていきたいです。ネパールがより豊かな国になり、将来的に”Smile for Nepal”の活動が必要なくなることを願っています。