SDGs 大学プロジェクト × Tezukayama Univ. -Part 2-

帝塚山大学の紹介

2024年、開学60周年を迎えた帝塚山大学は、1964年、教養学部のみの女子単科大学として開学。
1987年に経済学部を新設すると同時に男女共学化へと舵を切り、2000年には短期大学を組み入れて総合大学へと発展を遂げました。

現在は、文学部、経済経営学部、法学部、心理学部、現代生活学部(食物栄養学科・居住空間デザイン学科)、教育学部の6学部 7学科、及び2研究科を擁する、奈良県下最大規模の文系総合大学として、3,000人を超える学生が、「東生駒キャンパス」と「学園前キャンパス」の2キャンパスで学びを深めています。

近年では、「実学の帝塚山大学」を標榜し、教育研究活動の成果を地域社会へ還元することを目指した多種多様な地域連携・産学官連携プロジェクトを積極的に推進。幅広い教育研究分野を基盤に、SDGs問題をはじめとする地域や社会の課題解決に向けたプロジェクト型学習を全学で展開し、学術調査や商品開発、イベント実施など、さまざまな形での社会的成果へと結びつけています。

多くの学生が、これらのプロジェクト型学習に主体的に取り組み、立場や分野の異なる人々との協働を通じて、地域や社会が抱える課題に対して適切な提案ができる「実践力」を身につけています。

兵庫県川西市で取り組むまちづくりについて

― 北澤先生の研究や活動内容について教えていただけますか?

私はもともと建築設計の仕事に従事していました。その後、大学での教育に携わるようになり、建築デザインを中心とした授業を担当しています。その中で、本学の社会連携プロジェクトに携わる機会があり、都市計画やまちづくりのプロジェクトにも取り組むようになりました。

現在は建築デザイン、まちづくり、都市計画を総合的にマネジメントしていく仕組みについて研究しています。

― 今回は、北澤先生の取り組みのうち、まちづくりの分野について詳しくお話しいただけますか?

私のまちづくりへの取り組みは、今から10年以上も前、兵庫県川西市のイベントに協力したことから始まりました。

当時から川西市の市民の中には、自身が住む街に積極的に関わりたいという強い意志をお持ちの方々が多く、街のインフラだけでなく、住民同士のつながりも大切にされていました。市民を巻き込むコミュニティデザインは難しい試みではありますが、私自身も 「住民間のつながりが街を良くする鍵」であると考えています。

住民の街に対する関わり方は、まちづくりにおける重要な要素となります。住民が積極的に活動できる場をどのように作るかを考えながら、さまざまなワークショップや社会実験を行っています。

また、私は川西市中心市街地活性化協議会のタウンマネージャーも務めていたことがあり、駅前広場や公道の活用に関する行政との交渉などにも携わっていました。このようなパブリックな場を起点として街の賑わいを生み出すことも、まちづくりや住民のつながりを育む上で非常に重要だと考えています。

まちづくりに不可欠なのは、住民との連携

― 市民の声をプロジェクトに反映させることは難しいと思います。住民の意見の吸い上げにも先生が携わっていらっしゃったのでしょうか?

私も、市の委員会などで活動したことがあります。例えば、川西市のシティプロモーション事業において、市民や大学教員、PTA、市職員などがアイデアを出し合うワークショップを開催し、その内容を踏まえ、魅力発信の方法や新しいイベントなどについて川西市の行政にプレゼンテーションしました。

市民が持ち込んだ意見をすべて反映することは容易ではありませんが、最近では住民に対して開かれた姿勢の行政も増えており、市民と行政が協力し合いながらまちづくりを推進する動きも出てきています。

― なぜ、行政が住民に対して開かれつつあるのでしょうか?

少子高齢化や税収の減少により、街のアメニティの維持には行政だけでなく住民の協力も必要不可欠となってきています。

一方で、当然のことながら、住民も各自の意見や要望をお持ちですよね。従って、例えば住民が駅前広場の利用を希望した場合など、広場の使用許可と同時に広場の清掃の協力をお願いするなど、住民と行政が協力し合い、双方にとって利益のあるWin-Winの関係を築くことが、現代のまちづくりにおいては非常に重要な一歩になるのではないかと思います。

― 北澤先生は、市民に対して行政とどのように関わってほしいと考えられていますか?

まちづくりにおいて、自発的に活動する市民のことを「プレイヤー」と呼んでいます。私は、プレイヤーの要望が実現できるような街が、SDGsの観点からも持続可能な街になると考えています。

市民が街に対して抱く愛着、いわゆる「シビックプライド」と呼ばれるものを醸成することが、街の発展において極めて重要であると考えています。

そして、プレイヤーを見つける鍵は、人々の結びつきにあります。例えば、あるプレイヤーがフリーマーケットなどのイベントを主催した際に、そのイベントに参加した住民が「自分もやってみたい」と思い、新たなプレイヤーとなって街の活動に積極的に関わるようになることがあります。プレイヤーの数が増加すると、ますます多くのイベントが開催されるようになります。

さまざまな市民が活動することによって、街中に多彩なイベントで 賑わう場所が増えるので、高齢者、ファミリー層、学生など、幅広い年齢層の人々が街に集まることになります。

特に、現在のように、地方から大都市へと若者の流出が進行している状況を考えれば、自分が住む街に対する愛着を高めることはとても重要です。このような取り組みは、街の持続可能な発展に欠かせない要素だと考えています。

UR都市機構との連携事業について

― UR都市機構と貴学が連携事業を展開されていると伺いました。そこでは、どのような取り組みをされているのでしょうか?

UR都市機構と本学の現代生活学部が連携協定を結び、さまざまな協働プロジェクトが進行中です。その一つとして、奈良市の学園前地区にあるUR鶴舞団地で、UR都市機構と共催するコミュニティ・フェスタを開催する際に学生の卒業研究展を実施しています。

この卒業研究展の目的の一つは、団地内の高齢者と学生が対話できる場を提供することです。団地全体が高齢化しており、高齢の住民にとって若い学生と交流する機会は貴重であり、また学生にとっても異なる世代の方々とコミュニケーションを取る機会が得られます。このような交流を通じて、団地内が活性化する可能性に期待しています。

その他にも、UR都市機構の仲介で、近鉄不動産が開発する団地の街づくり計画において、本学学生が施設に関する提案の機会を得ました。学生たちは、さまざまな世代が集まり交流できる施設として、団地の集会所の設計提案を作成し、関係者にプレゼンテーションを行いました。

さらに、UR都市機構が奈良市にある中登美第三団地の将来を考えるための調査に協力し、本学の学生が団地居住者の方々にアンケートやヒアリング調査を実施しました。UR都市機構と協力してアンケートを作成し、集計結果をもとに情報交換を行ったことで、将来の方針策定の一助となりました。

▼UR中登美第三団地集会所のPJについてはこちら
【居住】UR中登美第三団地集会所で研究結果の掲示を行いました(大学HP)

このように、UR都市機構との連携事業を通じて、SDGsの目標の一つでもある「住み続けられるまちづくり」を視野に入れた提案を行う多くの機会をいただいています。

― 中登美第三団地でのアンケートを実施された際、住民からの回答を得ることは難しかったのではないでしょうか?

まずは、ポスティングによるペーパーアンケートを実施いたしました。集まった回答の中で、特に印象的だったのは 対面調査への参加を希望する項目にチェックを入れた方が数多くいらっしゃったことです。

その中から17名の方にお願いして、学生たちが2日間にわたり、朝から夕方まで時間をかけて、対面でのヒアリング調査を行いました。

学生が高齢者の方々と団地内を歩きながらお話を聞いた結果、多くの住民が同じような場所を訪れていることや、特定の景色や花が咲いている場所を好む傾向など、団地の構造や住民の生活様式に関して興味深いことがわかりました。調査を通じて団地の現状や住民の生活パターンについて理解ができたことは、非常に有意義なことでした。

― 近鉄不動産やUR都市機構と取り組まれた新たなまちづくりでは、学生たちからどのようなアイデアが出されましたか?

特に印象に残った点は、集会所に対する新しいコンセプトではないでしょうか。一般的に団地の集会所は高齢者が集まる場所というイメージがありますが、学生たちはそれとは異なるアプローチを提案してくれました。

集会所を複数のエリアに分割し、商業施設やカフェなども導入することで、単なる集会所ではなく、多世代の人々が集まり楽しむことができるスペースを創造するという発想です。

これまでの商業施設は建物内でサービスを提供する形式が主流でしたが、近年ではオープンスペースを活用し、人々の賑わいを生み出す方向にシフトしています。現代の学生や若者は、周囲の人々と共に活気を創出することの重要性を強く感じているようです。

学外活動を通じて得られた学生の変化

― 先生が担当されている学部・学科の学生たちは、将来的には建築業界に進まれる方が多いのでしょうか?

本学の居住空間デザイン学科では、将来的にインテリアや建築の仕事を希望する学生が多く学んでいるので、団地のリノベーションや建て替えなどのプロジェクトに関わる可能性が高いと考えています。

そのため、高齢化が進む団地の現状を調査・研究できたことは、彼らにとって非常に重要な学びの場となったと思います。中登美団地で実施されたアンケート調査は、未来の彼らが直接対応するであろう顧客のモデルケースとして、非常に貴重な経験となったのではないでしょうか。

― 団地などでの活動を通じて、学生たちの意識や考え方に変化は見られましたか?

普段、高齢者との接点が少ない学生たちは、初めは緊張していましたが、すぐに打ち解けて交流できるようになりました。

高齢者の方々と積極的に関わることで、社会の現状をより深く理解する機会となり、今後は自分たちがどのように社会を形成していくべきかを自分ごととして捉えるきっかけになったと思います。

世代間で異なる価値観や生活様式を理解することの重要性を、学生たちも実感してくれたのではないでしょうか。

多くの人を巻き込んだ、有意義なまちづくりに向けて

― 地域によっては閉鎖的なコミュニティがあるほか、コロナ禍によって人との触れ合いが減少しました。地域で新たな賑わいを生むための道筋や工夫について、どのように考えられていますか?

住民の意識は地域や世代によって大きく異なるため、「賑わいを生むための取り組み」は非常に難しい課題です。活動的なコミュニティがある地域においては、新たな試みに対する市民の積極的な参加が多数生まれてきますが、閉鎖的な地域においては変化が進まないことがあります。

そのため、まずは「街でできることを示す」ことが重要であると考えています。例えば、近年ではキャッチボールやサッカーなどの運動を制限する公園が増えてきています。こうした規制については、行政と協議することで少しずつ緩和し、「この場所ではこういったことができます」という活動の見本を示すことが大切です。見本を示すことで、参加を希望する人々や、「自分はこれをやりたい」と活動を始める意欲的な市民が増えていくでしょう。

人々は何かが行われている場所に集まってくるので、実際の活動を通して「何ができるか」を示すことが鍵となります。徐々に新たな取り組みが受け入れられ、そういった活動が継続できる仕組みを作ることが、賑わいを生み出すための第一歩であると考えています。

― 今後のまちづくりでは、どのような要素が必要になるとお考えですか?

前提として、街は人々のコミュニティと建築物から成り立っています。優れたデザインの建築や素晴らしいロケーションも重要ですが、それ以上に 市民のニーズに適った「建て方」が重要です。市民が望まないものは、たとえ立派であっても活用されません。

市民のニーズに合った施設や仕組みを考えて建築するには、市民と行政の間で建物のデザインや機能について一緒に考えていく仲介者が必要だと考えています。まちづくりにおいては、コミュニティのデザインが重要視されていますが、建築デザインも大切な要素です。建物の良し悪しは、街の魅力を伝える上で大きな役割を果たしています。

このため、行政側と市民側の異なる立場や考え方を踏まえ、ハブとして調整する役割が今後ますます重要となるでしょう。私自身も、市民の声を行政に届け、行政の立場を理解し、実現可能な提案を行うよう心がけています。こうした地道な取り組みが街全体の価値を高め、楽しいまちづくりに貢献していくことを期待しています。

― 多くの人々をまちづくりに巻き込むためには、どのようなアプローチが必要でしょうか?

まず、行政が持つ力は、まちづくりにおいて非常に大きなものです。ただし、行政が「市民の意見を聞きたい」という姿勢を示すだけでは、市民を巻き込むことは難しいでしょう。具体的に「公園などの利用規制を緩和するとしたら、何をしたいですか?」といった質問をして、市民が自発的に意見を言える場が必要であると考えています。

行政がオープンかつ対話を通じて意思決定を行う態度を示すことで、自主的に活動する市民が必ず現れてきます。まず行政が、まちづくりに真剣に取り組む姿勢を示すことが、市民の中にプレイヤーが生まれるために必要なのではないでしょうか。

学生に向けたメッセージ

― 最後に、建築士を目指す学生に向けてメッセージをお願いします。

建築は、人々の生活に深く関わる非常に重要な職業です。住居、職場、遊び場所など、どこにいても、そこには必ず建築が関わっています。そのため、「社会にとって必要なものを作っている」という意識を強く持ってほしいと思います。

建築には、社会を変える力があります。私は、そのために必要な実行力を、ぜひ大学で身につけてほしいと願っています。

実行力には「構想力」「提案力」「行動力」の三つの要素があり、特に現代社会では「提案力」が重要になっています。これは、相手を理解し、的確な提案を行う能力です。建築に限りませんが、相手の気持ちを理解することが、コミュニケーションにおいては非常に大切だからです。

これら三つの力を大学で身に付けることができれば、社会に出てからも、建築だけでなく、さまざまな分野で活躍できる人材になれると思います。