
社会貢献活動 × Koyasan Univ.
目次
高野山大学の紹介

高野山大学は、国内唯一の密教学科がある高野山キャンパスと、2020年度に大阪府河内長野市に設立した教育学科がある河内長野キャンパスを有しています。
設立から3年目を迎えた教育学科の特長は、実践的な体験活動を重視した1年次からの「学校・保育現場体験」と「地域体験」です。多様な体験活動を通じ、「人間力」のある教員養成に取り組んでいます。
小学校教諭、幼稚園教諭、保育士の養成に加え、2023年度からは中学校・高等学校「英語」の教員免許状を取得できる「中等英語教育コース」もスタートするなど、教育内容の一層の充実を図っています。
地域支援センターの活動内容
「人間力」のある教員となるためには、さまざまな体験とともに幅広い世代の方々と触れあう中で自身の成長を図ることが必要です。このため、地域支援センターは、1・2年次の必修科目である「地域体験」の活動支援並びに地域の皆様と学生との交流促進を設置の目的としています。具体的には、地域の活動団体と連携し、円滑な活動実施に向けた計画づくりや活動の準備・打ち合わせ、学生の相談窓口の設置、新たな地域連携の企画などを行っています。
教育学科は、体験学習に多くの時間をとっています。学修期間は4ターム制を採用しており、第1ターム(4月から6月)と第3ターム(9月から11月)は地域体験、第2タームと第4タームは学校・保育現場体験(1年次から小学校・幼稚園等に出向き教育現場を経験する)となっています。
地域体験の学修期間中は、学生は毎週火曜日の10時から16時まで連携団体で実践活動に取り組み、金曜日までに活動レポートを提出します。このサイクルが5週間続き、その後1週間をかけて学修発表の準備を行い、地域の皆様、河内長野市の関係者、高校の教員などの前で学びの成果を発表します。
地域体験の内容
地域体験の内容は、多岐にわたります。
農業体験

農業体験として、米作り、野菜栽培、果物の栽培などを行います。NPO法人里山ひだまりファーム、和泉体験農園、野菜農園豊泉の皆様にご協力を賜り、メンバーの方々の指導の下、学生たちは農業体験に取り組みます。
森林体験

森林体験として、NPO法人森林ボランティアトモロスの皆様にご協力を賜り、大学の裏手にある10年間手つかずの森を活動に使用できるよう整備に当たっています。最初は道作りから始め、今では人が通る道はもちろん、幼稚園児の遊び場として「森のようちえん」を開催できるまでになりました。地域の皆様にも利用していただいています。
市街緑化

市街緑化活動として、キャンパス近隣の市有地に花壇を整備・維持管理する活動を行っています。大阪府立花の文化園の方々が花の苗の提供と指導をしてくださり、学生たちが花壇のデザインを考案し整備しました。後日、花壇の向かい側の福祉施設に入所されている方々から「毎日部屋から花壇の花を見るのが楽しみである、活動に感謝している。」とのお礼の手紙が届き、学生たちもとても喜んでいました。
動物との関わり

動物との関わりとして、乗馬クラブクレインと連携し、主に馬育(うまいく)について学んでいます。単に乗馬技術を向上させるのではなく、馬を知ることを第一の目的としているので、馬の歴史や人との関連性といった座学から馬房の掃除、馬の健康診断や蹄鉄作りなどの実践に至るまで総合的に学びます。
学生たちは馬育を通じて、優しさや生命の尊さ、動物に対する理解を深めます。
地域を知る
地域を知るという側面では、小山田小学校区まちづくり会の方々から、まちの課題と解決に向けた取り組みを学んでいます。大学のある小山田地区は、住民の皆様の活動が活発な地域です。
授業では、こども食堂の活動に参加したり、買い物困難者の支援活動のお手伝いをしたり、防災の観点から暮らしについて考えてみたりと、地域の理解を深めるための活動を実施しています。また、校区にある世界かんがい施設遺産について学び、水路を管理・保全されている方々からの聞き取りもしています。
日本初となる本格的体験学習の意義


教育学科は、教員を養成する学科です。特に小学校や幼稚園の教員には、子どもと深く関わりながら教育・保育目標を達成するという粘り強さが求められます。したがって、困難を乗り越え、諦めずに目標を達成する姿勢を養っていく一つの方法として、体験学習を重視しています。
教員は、教科書の内容や映像だけでなく、自分の体験を生の声で伝えることが大事です。例えば、小学生にお米作りを教えるときに、教室で写真や教科書を見て教えるのと、実際に田植えをしてコンバインで刈り取った話やマムシが出てきて驚いた話など、実際に体験したエピソードを交えて伝えるのとでは、大きな違いがあります。
また、それぞれの地域で長く活動しノウハウを有する活動団体の方々と触れ合い、さまざまな知恵や工夫について学ぶことは、将来子どもたちに知識を伝えるときにも大きく役立ちます。
いまの子どもたちが社会で活躍するのは20年後になりますが、急速に目まぐるしく変わる社会において、20年後は誰にも予測できません。ダイナミックに変貌する世界にも対応できるよう子どもたちを教育するために、教員も自らがさまざまな体験をするとともに、先達から得た知恵や工夫をしっかり伝えていく存在となることが大切だと考えています。
地域の方々との関わりをサポートする中で意識していること
学生は、自分たちよりも長く人生を生きてきて様々な経験をしている地域の方々と関わることで、期待以上の良い影響を受けています。
地域学習を体験した学生の変化
学生たちの非認知能力の伸びを実感しています。この能力は、知能指数や学業および偏差値のように点数や数値で測ることのできる認知能力とは異なる心理特性と考えられています(小塩,2021)。2年間の体験を通して、連携団体の皆様との集団の中で自分の役割を認識し行動する「他者とつながる力」、活動の意義や自ら問いを立て探求する意欲を持つ「自己を高める力」、そして難しい課題に対しても諦めずに取り組む「自己と向き合う力」に関して、明らかなポジティブな変化が見られました。奥田ら(2023)は大きな変化として、2年次の体験においてさまざまな場面で、自分の気持ちを伝えようとする意欲がとても高まっていたことを報告しました(P=0.02)。これは「他者とつながる力」に当たる非認知能力を高めることができたものと考えています。
初めは、学生たちの地域体験への参加動機はもっぱら単位取得のためであることが多く”やらされ感”が強く出ることもありましたが、地域について理解を深めるにつれて、主体的に取り組むように変化していきました。特に、1年次より2年次で「自己を高める力」である自ら進んで活動に取り組む意識が向上する傾向が見られました(P=0.08)。
例えば河内長野に住んでいる学生が、今までは目を向けなかった防災に着目し、地元の防災施設やまちを守るために頑張っている方々について学ぶ過程で、地域の取り組みに興味を持つようになった、という事例もあります。
小山田小学校区まちづくり会に参加した学生たちは、地域への理解が深まるだけでなく、地域の住民の方々との関係を築く機会を得、折に触れ声をかけていただくなど、学生たちと地域のコミュニティとの結びつきが強まっています。
また、地域体験を通して、地域の子ども食堂のボランティア活動に自主的に参加する学生も増えています。学生たちが授業から学んだことを実践し、自身が求められる場所や貢献できる場所があることを掴んでいるようにも思います。学生たちはこれらの体験を通して、1年次ではできなかったこともできるようになっていき、それが自信につながり「自己と向き合う力」を伸ばすことができたと考えています。
※P値…論文で使用するP値のこと。Pは有意確率(有意水準)を表す。
栁原センター長の考える「人間力」
「人間力」とは、コミュニケーション能力、一般教養、人間関係の構築力から構成される重要な資質です。私達はさらに、それに加えて困難を乗り切る力と、人と協働して物事に取り組む能力も含むと考えています。
先程も申し上げた通り、小学校や幼稚園の教員には粘り強さが求められます。学生たちにはいろいろな体験をする中で、苦しい思いの中でもあと一歩踏ん張る経験や、もう駄目だと思っても粘り強くやってみて乗り越える経験を積み、困難を乗り切る力を身に付けてほしいと願っています。
さらに、「人と協働して物事に取り組む力」は、コミュニケーションスキルだけでなく、一人では達成できない課題に対して協力を仰ぐこともできる能力と考えています。問題が発生した際に声を上げるのは勿論のこと、相手と協力し合えるような関係を築くことも大切です。
これら2つの力を身に付けることで、教育の現場では子どもたちに寄り添った適切なコミュニケーションをとることができますし、地域においても社会や文化を大切にしながら皆と協力して地域活性化に貢献していくことのできる人材を育成したいと考えています。
今後の展望
教育学科を設立してから今年で3年目を迎え、地域連携団体も約10団体に増えました。今後も地域体験を通じ、さまざまな体験に裏打ちされた総合的な「人間力」のある教員養成に取り組んでいきたいと考えています。
現代社会において、普段我々が何気なく口にしている食べ物はどのように生産され、収穫され、運搬されているのかという過程を考える機会は非常に限られています。自身が食べ物の生産に関与した経験があるかどうかは、自然や社会の捉え方にも影響を及ぼします。そのため、学生たちには地域体験を通じ、これらの意味を理解し、それを子どもたちに伝えることのできる教員になることを願っています。
活動をさらに発展させるためには、活動そのものに対する理解が不可欠です。そのためにも、活動ひとつひとつの意味を分かりやすく伝えていくことが大切であると強く感じております。
参考文献
1.小塩真司,2021,『非認知能力』北大路書房.
2.奥田修一郎,本山司,村尾聡,松本歩子,栁原高文,2023,「地域体験における学生の学びⅢ−非認知能力「他者とつながる力」に着目して−」『綜芸』高野山大学教育学科紀要,第2号,pp113-129.