SDGs 大学プロジェクト × Hiroshima Bunkyo Univ.

広島文教大学の紹介

広島文教大学は、広島県広島市安佐北区に位置する私立大学です。学部学科編成は、教育学部教育学科、人間科学部人間福祉学科、心理学科、人間栄養学科、グローバルコミュニケーション学科の2学部5学科です。

「心を育て 人を育てる(育心育人)」を教育理念に掲げ、教職員が学生一人ひとりにきめ細かに寄り添う「面倒見の良い大学※」として、全国の高等学校の進路指導教諭から高く評価されています。

卒業後の進路の特徴は、専門職就職率が70.6%と高く、なかでも「2023年小学校教諭実就職率」「2023年保育士実就職率」は、ともに広島県内大学で第1位※です。就職支援では、鳥取県・島根県・山口県・愛媛県と就職支援に関する協定を締結。各県で開催される説明会等のイベントや企業等の求人情報を学生に提供するなど、IJUターン就職希望者が安心して就職活動ができるよう支援しています。

その他の特徴として、県外出身生も多く在学しており、4年間の家賃が無料の学生寮(女子)も特徴的です。

近年のトピックスとしては、2021年9月にフィリピン・セブに海外姉妹校「ラプラプセブ国際大学(LCIC)」が開学。広島文教大学生は特別価格で留学することができ、英語学修はもちろんのこと、SDGsに関連した教養科目を英語で学ぶ機会を提供しています。

こうしたすべての教育活動を支えているのは、本学伝統の「育心育人」の教育理念です。教育力の文教は、こころ輝く学生一人ひとりの夢の実現に向けて、ともに歩みます。

(2023/11/16現在の情報)※大学通信 2023年調査より

SDGsに取り組んだきっかけ

–松原教授のゼミでSDGsに取り組んだ背景には、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

私たちの住む広島県は、自動車・造船・鉄鋼などの重化学工業を中心に経済発展してきた背景があります。しかしながら、広島の若者の多くが広島に魅力を感じず、県外に流出してしまうという課題に直面しています。

広島を若者にとって魅力的な街にするにはどうすべきなのか。この問題について、学生と一緒にさまざまな角度から研究を行い、2019年にはその成果を「広島の経済」(南々社)という本にまとめ、発刊しました。

その後も、広島を魅力的な街に変えるための研究を進める中で、偶然にもSDGs関連の本に触れる機会があり、私たちが目指すべき未来とSDGsの理念が近いことに気づきました。そこで、SDGsの視点から広島を分析すると、広島は非常に遅れていることが分かりました。

SDGsが目指すような社会に広島を変革できれば、広島が若者にとって魅力的な場所となる可能性があるのではないかという考えに至りました。

2022年8月、私たちはその研究成果をまとめ、「大学生が本気で考えた『広島SDGs戦略』」(南々社)を発表しました。この中で、広島県がSDGsの達成において遅れを取っていることを指摘した上で、それに適した魅力的な地域へと変革するための方策として、「①国際平和文化都市広島としての発展」「②瀬戸内リゾートとしての発展」の2つを提案しています。

–もともとSDGsについて研究されていたわけではないのですね。

そうですね。私たちのゼミでは、SDGsに関連する研究に着手したのは約3年前からです。当初、私たちは広島地域の課題、特に人口流出などに焦点を当てた研究を行っており、それらの課題の分析にSDGsのアプローチを導入しました。

本の発行が生んだ波及効果

コロナ禍による自粛が徐々に解除される中で、本書を発刊した後の2022年秋頃から、執筆に携わった学生の話が聞きたいとの依頼が来るようになりました。広島経済同友会や地域の公民館など、さまざまな団体からお寄せいただいております。

–本を発刊した後、こうした形で派生することを予想されていましたか?

はい、ある程度は予想していました。本のタイトルは大学生が執筆したという特徴を前面に押し出し、ブックカバーは学生に作画させました。こうした波及効果を見込んでの戦略です。学生たちも自分たちも知っている企業の社長なども講演を聴きに来ているわけですから新鮮だったと思います。今でも講演の依頼をいただいており、最近では公民館などからの依頼が多いですね。

今の4年生が研究している「SDGs Life Style」では、食べ物、服、家電製品、家庭用品の4つについて、SDGsの視点から見て、何を購入すべきか、どのように使うべきかを分析しています。これは一般の消費者に向けた提案ですので、今後も公民館など、一般市民が集まる場での講演の機会が増えるのではないかと予想しています。

研究成果はしっかりアウトプットを

学生が本を出版する例はあまり見かけないため、この取り組みは非常にユニークなものかもしれません。しかし、私たちは特別なことをしているという感覚はありません。

調査結果や研究成果を多くの人にみてもらいたいというのは普通の感覚だと思います。また、外部に発信することで、大きな影響を与えることができます。そのため、私は学生たちに日常的に、調査したことは単なる終わりではなく、適切にまとめて発表する、つまりアウトプットすることの重要性を伝えています。

しかし、現状では本で発表した提言が実際の地域政策に反映されていくほどの影響力はまだありません。これまでの取り組みとして、私たちは2020年から2022年までの3年間にわたる研究論文を書籍にまとめました。今後、より多くの人に見てもらうためには、ウェブサイト上で公開するなど、SNSを活用することも考えたいと思います。

書籍は数千部ですが、ウェブサイトの場合、何万人もの人々に情報が届く可能性があります。この方が、より大きな影響を持つことができるのかもしれません。

現代の若者たちは、自分の調査結果や研究成果を簡単に発信できるツールに恵まれています。そのため、私は学生たちに対して、言いたいことや調べたいことをどんどん書いて、多くの人に見てもらうよう伝えています。

チームワークの大切さ

また、もう一つ学生たちに普段からよく伝えているのが、研究におけるチームワークの大切さです。

本に掲載したのは学生それぞれの卒業論文をコンパクトに要約したものですが、それでも20人分の原稿が集まれば1冊の本にして売り出すことができます。1人ではなくチームだと大きなことができるわけですね。

–社会に出てからもチームワークというのは必要不可欠な力ですよね。

その通りです。しかし、大学ではチームで行うことがそれほど多くありません。学業成績は個人別に評価され、卒業論文なども個人で取り組むことが多いですね。

一方、民間のシンクタンクなどでは、研究やプロジェクトにチームで取り組むことが一般的であり、その利点は短期間で大きな成果を上げられるという点にあります。

私のゼミでは、一般企業への就職を進路に選ぶ学生が大半です。就職して社会に出ると、仕事の多くは個人ではなくチームで行われます。チームワークが重要です。

ただし、今回の書籍発刊でも、20人の学生がチームとして一冊の本を執筆していますが、テーマに一貫性を持たせる必要があります。そのためには、学生それぞれが担当する研究テーマにおいても一定の統一感を持たせる必要があり、自由度は制約されることになります。1冊の本として、バランスの取れた内容に仕上げるためには、この点を考慮する必要があります。

学生たちには、チームでの研究は個人の自由度に制約がある側面もあることを理解してもらっています。

学生有志による研究会が発足

2022年夏に、学生有志によって「広島文教大学SDGs研究会」が設立されました。この研究会では、SDGsに関する研究と運動の両面からアプローチしています。

研究会は2023年1月から、本学のグローバルコミュニケーション学科の関連組織として認められ、私が顧問をしていますが、学生が主体の組織であることに変わりはありません。現在、研究会はグローバルコミュニケーション学科の3〜4年生を中心にした30〜40人のメンバーが活動しています。

活動内容①「SDGsに関する研究」

先ほどご説明した通り、グローバルコミュニケーション学科の2020〜2022年度の卒業生が作成した論文集を、「大学生が本気で考えた『広島SDGs戦略』」として発刊しました。

これ以降も、SDGsの視点で考えると私たちの生活はどうあるべきかという観点で、「SDGs Life Style」を研究しています。具体的に説明すると、SDGsに適合した消費生活とはどのような生活スタイルなのか明らかにするということです。

例えば、牛肉・豚肉・鶏肉を比べた場合、生産の過程で排出する二酸化炭素の量をみると鶏肉が最も少なく望ましいと言われていますが、それは本当なのかどうか。魚類・穀物・野菜はどうか、衣料品は天然素材と合成繊維のどちらを着るべきか、家庭用品は何を使うべきかなど、消費者の日常生活に焦点を当てた研究をしています。

活動内容②「SDGsに関する運動」

研究成果は書籍にまとめられ、広島経済同友会ひとづくり委員会、広島陵北ロータリークラブの定例会、そして可部公民館での研修会など、多くの場で学生によるプレゼンテーションの機会に恵まれました。さらに、これらのプレゼンテーションの模様は、地元の新聞社やテレビ局に取材いただき、広く報道されました。

その他にも、消費者庁主催の食品ロス削減推進サポーターの研修会に積極的に参加し、学内では年に約6回、学生向けの食品配布活動を実施しています。また、海洋プラスチックの回収運動にも積極的に取り組んでおり、広島県が提唱する「せとうち海援隊」の活動に参加し、廿日市市鳴川海岸での海岸清掃活動には年に約4回程度参加しています。

さらに、地域のイベントである「大林 木と食の里祭り」では、子ども向けのSDGsクイズを作成し、イベントステージでクイズ大会を主催しました。また、地域の各種行事にも協力し、地域社会への貢献に努めています。

「広島を変えるのは若者だ!」

–松原教授の目から見て、本の発行や講演などを通して学生たちにはどんな成長がありましたか?

研究活動を続ける中で、広島県にはSDGsの課題が多いことが分かってきました。そこで学生たちに「みんなが広島を変えたらどうだ」と呼びかけたところ、当初は「先生は何を言っているのだろう。学生が世の中を変えるなんてできるはずがない」という反応でしたね。

しかし、「研究したことを本にすれば多くの人が読んでくれる。みんなが調べた結果を地域でプレゼンしたら、世の中が変わるかもしれない」と背中を押すと、学生たちは休みを返上して原稿をまとめ上げ、その後のプレゼンにも意欲的に取り組んでくれました。

出版社も私たちの意図をくみ、「広島を変えるのは若者だ!」というPOPを作って書店に配るなど積極的にPRしてくれました。

–今後の展望をお聞かせください。

2023年度のSDGs研究会は、研究と運動を両輪として活動していきます。

研究の面では、個人が生活の中でSDGsに取り組むためのSDGs Life Styleの提言はもちろんのこと、マッチングアプリを活用した人口減少対策の提案、人口減少下における地域コミュニティ(町内会)の再興策、広島を世界一流の観光地にするための提言など、多岐にわたる研究を進めております。

また、運動の面では、食品ロス削減活動、海岸清掃活動、地域コミュニティ活動のお手伝い、公民館などでの研究発表を予定しています。

–最後に、SDGsに取り組む若い世代へのメッセージやアドバイスをお願いします。

学生に対し、世の中の大人は温かいまなざしで接してくれます。思い切って踏み出して主張してみませんか?

きっと、ネットの世界では得られない新たな発見に満ちています。

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広島文教大学SDGs研究会