アセットプライシングの研究と投資アドバイス:酒本隆太准教授の見解

酒本隆太准教授の経歴と研究内容の背景について

酒本隆太准教授は、岡山大学経済学部の国際金融の専門家です。

彼の主な研究は、金利や国ごとの経常収支などの経済指標の変化を基に、株価や為替などの金融商品の価格がなぜ変動するのか、そしてどのように変動するのかを説明することです。

理論的なモデルを作成して経済変動を研究されることが一般的ですが、酒本准教授は実際のデータを集め、株価や為替などの価格変動や経済指標のデータを統計的手法を使って分析することに主眼を置いています。特に為替の変動に注力されています。

なぜアセットプライシングの研究を始めたのですか?

金融に興味を持ったのは、大学生時代に学んだ経済学や統計学を直接的に活かせるキャリアを考えたときに、金融であれば選択肢が多そうだと思ったことがきっかけです。

金融の中でも特にアセットプライシングの実証研究に興味を持ち、為替や原油などのコモディティ*におけるアセットプライシングモデルの応用を本格的に研究し始めたのは、英国で博士論文を執筆する時期でした。

※ コモディティとは、エネルギー源や原材料などとして使われる商品のことで、原油や金属、小麦、貴金属などが含まれます。これらの商品は、先物市場で取引が行われることが特徴です。

現在の市場状況や経済情勢など、研究の動機になった要因はありますか?

大学生当時(2003年〜2007年)は、”日本の不景気が長引いたのはなぜか”という点について、金融政策の面から議論した書籍が色々と出版されており、そのことも金融に興味をもった理由の1つです。

金融に興味を持ち、資産運用会社で4年半の実務経験を積んだのちに、英国の経済学の博士課程に留学しました。経済学の観点から為替市場やコモディティ市場を研究されていた当時の指導教員に、私の資産運用での実務経験を為替やコモディティに活かせないかと提案され、為替やコモディティへのアセットプライシングモデルの応用を始めました。

今振り返るとちょうど2010年代に入り、その分野の世界的な研究者たちも同じようなテーマを研究し始めたということもあり、研究上のトレンドに乗れたという面もあります。

私はその分野の研究者として今も研究を続けています。

研究の成果について

これまでの研究で得られた成果や新たな発見はありましたか?

成果の中で、特にビジネスへの親和性が高いものとしては、通貨の分散投資に関する研究があります。

通貨への分散投資でよく使われる方法としては、下記 3パターン への投資 などが一般的です。

  1. 高金利の通貨への投資
  2. 過去の値上がりが大きい通貨への投資
  3. 物価上昇率から計算した 為替の理論価格から割安になっている通貨への投資

コモディティ価格の指数を利用しながらこれらの投資方法を入れ替えることにより、効率的にリターンを獲得することができることがわかりました。さらに、上記の投資方法と貴金属(金や銀)の保有を同時に行うことにより、分散効果により保有資産全体のリスクを低下させることがわかりました。

ただし、これらの方法を個人で直接行うにはある程度の資産規模が必要であり、常にモデルで利用するデータを更新する必要があります。したがって、やや難易度が高いといえます。

研究成果をビジネスや日常生活に活かすことは難しいのでしょうか?

研究の過程で得た知識は、日常の資産運用に活かすことができると感じています。

例えば、米国の金利が上昇しそうなときは、金の価格が下落する傾向があることを過去の研究結果から知っています。そのため、金価格に連動する投資信託の保有比率を減らすなどの対応策を取っています。

また、私が英国に留学したのは2013年の夏からでしたが、2013年に入り日本の金融緩和などの影響で円安ポンド高が進むと予想して、早めにポンドに両替しておいたため、円安ポンド高の影響を和らげることができました。これも金融緩和と資産価格についての研究を通じて行った判断だと考えています。

また、株式市場の研究では100年以上にわたる長期データを分析する機会も多くあります。そのため、株式で運用する際には、長期的に得られる収益率の判断基準を持っていることも役立ちます。

私のファイナンスの授業でも取り上げているのですが、世界の株式に分散投資した場合の平均的なリターンは、年間でおよそ 5%〜8% 程度です。したがって、安定的にこの水準以上のリターンを得られる話を聞いたときは注意が必要です。また、この 5%〜8% という数字も平均値であり、年によっては +20% の年もあれば -20% の年もあります。すなわち、安定的に 5% のリターンを得られるわけではないことに注意が必要です。

投資についてのアドバイス

新社会人が投資を始める際に注意すべき点やアドバイスはありますか?

一番重要なことは、無理をしないことです。

先述の通り、世界の株式市場に分散投資した場合の収益率は年間でおよそ 5%〜8% 程度です。また、これは平均の数字であり、当然悪い時もあります。しかし、パフォーマンスが悪い時に焦って売却してしまうと、この平均の収益率を得ることが難しくなってしまいます。

したがって、投資資産のパフォーマンスが悪くても、焦らずに現金化する必要のない金額から投資を始めるのが良いと思います。また、下落した時に買い増しすることは心理的になかなか難しいため、毎月一定の金額を投資する積み立て投資を検討する価値があります。

リスク管理のためにポートフォリオを組む際の考え方やコツはありますか?

一般的に、投資による収益を上げることは、何らかのリスクを取ることによって可能となります。

例えば、景気が悪い時に株式に投資するとその後の収益率が高いのは、景気が悪い時に敢えて株式に投資したことによる見返りだと考えられます。

為替の分野でも、高金利の国の通貨に投資した場合の収益率が高いのは、景気が悪い時に高金利の国の通貨が価値の減少が大きい傾向があるため、平均的に高い収益率が得られると考えることができます。

不動産などの実物資産の収益率が高いのは、すぐに現金化できないリスクを取っているからとも考えられます。したがって、自分が行っている投資においてどのようなリスクを取っているのかを意識することが重要です。

どのようなリスクを取っているかわからないまま、高い収益率が出る投資は一時的なものであり、長期的には高い収益率を維持することは難しいかもしれません。

※重要 このコラムは投資に関する見解を述べたものであり、投資は自己責任です。投資の判断や売買の決定は、ご自身の判断に基づいて行ってください。本記事は情報提供の一助としてのみ意図されており、具体的な投資助言を提供するものではありません。投資にはリスクが伴いますので、ご自身の責任において慎重にご判断ください。

▼取材にご協力いただいた酒本 隆太 准教授のHPはこちら
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