社会貢献活動 × Advanced Institute of Industrial Technology.

東京都立産業技術大学院大学の紹介

東京都公立大学法人が運営する専門職大学院です。2006年開学、専門職学位課程だけからなり、学生定員は200名。国内外の産業技術分野において活躍できる高度で専門的な知識・スキルと実務遂行能力を備えた高度専門職業人を養成することを目的としています。すでに数多くのITエンジニアやデザインエンジニア、事業イノベーターを育成し、産業振興に貢献しています。

リカレント教育の背景と大学の特徴

–リカレント教育を推進する背景や学校の特徴について教えていただけますか?

大学の特徴について、具体的に申し上げますと、本学は専門職大学院です。専門職大学院は、高度な専門職人材の育成を目指しており、職業人のスキル向上と社会への貢献を重要視しています。これは、従来の4年制大学や大学院の修士課程とは異なるアプローチで、主に社会人の方々を対象にした教育を提供しています。

そのため、昨今のリカレント教育のトレンドとは関係がなく、本学は当初より社会人の方々のスキル向上と社会の活性化を支援する使命を担って設立されました。この大学の理念が特徴と言えるでしょう。

–なるほど。近年のSDGsの流れが、貴学の理念に合致してきたという印象ですね。

働きながら学びやすいシステムや社会人向けのカリキュラムなど、我々は開学当初からこれらを取り入れており、現在も既存のシステムや学内のリソースを活用しながら、変化する時代に柔軟に対応している点が強みです。そのため、リカレント教育の概念が注目されている中でも、新たにプログラムを立て直す必要はなく、我々の特色が存続できると考えています。

–多くの学生が社会人と両立しながら学ばれているとのことですが、どのような志向が多いのでしょうか?

一般的に、大学で学んだ知識を深めることや、自身の職務に役立つスキルの習得を目指す方が多いです。また、仕事において活躍するために必要なスキルや知識を得ると同時に、上位の職位を目指すためのステップアップを望む方もいます。さらに、最新情報の習得や、自身の職場ではキャッチアップしきれない専門的な知識を体系立てて学びたいという意欲も多く見られます。

シニア人材マネジメントプログラム

今秋、開講予定の「社会にベネフィットをもたらすシニア人材マネジメントのためのAIIT型リカレントプログラム」。その概要や、開発の経緯についてお伺いしました。

プログラムの概要

–シニア人材マネジメントプログラムについて、その概要を教えていただけますか?

本プログラムは、シニア世代の適切なマネジメントを行う能力を向上させるためのものです。ここでの「シニア」とは65歳以上の方々を指し、この年齢層の中には、体調や能力の変化からこれまでのフルタイムの職務が困難に感じられる方もいるかと思います。

その結果、退職やパートタイム勤務を検討される方が増えます。シニア世代の特有のニーズや変化を理解し、それに応じたサポートや仕事の提供ができるマネジメント能力を育成することは、現代において非常に重要です。

そこで、本プログラムはマネジメント層の皆様に、シニア世代の特性やニーズを深く理解し、彼らをサポートする最適な方法を探求するスキルを身につけていただくことを目的としています。

具体的なカリキュラムを通じて、シニアの特性や独自のニーズに応じた業務配分や職務設計について学ぶことができます。さらに、経営やマネジメントの基本的な知識も提供し、より広い視野からシニアをマネジメントできるようになることを期待しています。

また、本プログラムは実践的な学びを重視しています。PBL(Project Based Learning)の手法を活用し、実際の職場で起こりうるシニア関連の課題を取り上げ、それに対する効果的な対策や解決策をグループワークを通じて考案します。これにより、実際の現場での即戦力としての役割を果たすことができるマネジメント層の育成を目指しています。

プログラムは約6か月間を予定しており、9月27日(水)に開講いたします。

「シニアをマネジメントする人材」に注目したきっかけ

–「シニアをマネジメントする人材」という側面に焦点を当てたきっかけについてお話しいただけますか?

私が研究してきた分野は、認知症の予防や進行の抑制に特化しています。この研究の実施を通じて、認知症に関する専門的知識を持つ多くの方々との交流が増えました。そして、認知症の予防策を日常に取り入れ、活発で健康的な生活を営むシニアの方々と出会う機会も増えました。

しかし、驚くべきことに、これらのエネルギッシュなシニアたちがそのポテンシャルや経験を社会で存分に発揮する場は意外と限定的であることに気付きました。公民館のプログラムだけが彼らの活躍の場ではないはずです。彼らが一生を通して培ってきた知識やスキルを最大限に活かす機会は、もっと広がっていくべきです。

日本の高齢者の雇用率は、少子高齢化の影響で年々上昇しており、シニア層の労働市場への参加意欲も高まっています。しかしながら、多くの企業や組織は、シニアの健康状態やスキルセットに目を向けず、従来の働き方や雇用形態をそのまま適用するケースが見られます。シルバー人材センターなど、シニアのための就労支援機関も存在しますが、常に適切なマッチングが行われているわけではないとの声も聞かれます。

このような背景から、シニアの可能性とニーズをきちんと理解し、それをビジネスや社会に適切に反映させることの重要性を、特にマネジメント層の方々に認識していただくことが、今後の課題として大きく浮かび上がっています。

プロジェクトを通して育成したい人材

–このプロジェクトの目標とする人物像や、マネジメント層の意識の変化ついてお聞きしてもよろしいでしょうか?

大学の設立以来、私たちは高度な専門職人材の育成に尽力してきました。今回もその精神を継承し、多くの専門家との連携のもと、新たなプログラムを展開しています。私たちの目標は、シニア層の持つ潜在能力を最大限に引き出すマネジメントのエキスパートを養成することです。シニア世代の健康や雇用、そして地域社会のニーズに関する情報を持ち、その知識をベースに横断的な問題解決ができるスキルやコンピテンシー(業務遂行能力)の育成は、現代社会において極めて重要です。

自動化が進む中で大切な「人」の存在

–最近は、AI化やロボット化が注目を浴びており、20代や30代の就職や転職ではAI化や自動化の影響で選択肢が限られてきていると感じます。一方で、事前にお伺いした話では、生産年齢人口の減少という課題に対して、ロボット導入よりも人を増やす方が即効性があって有効だという意見がありますが、具体的な理由やその考えの背景をお聞きしたいです。

技術の進歩、特にAIやロボット技術の急速な発展は、多くの業務や作業の効率化と最適化に大きく寄与しています。その中でも、機械学習などのAI技術が担うべき仕事の範囲は広がりつつあります。しかし、その一方で、人間の持つ感受性、思いやりといった資質は、現段階の技術では代替しきれない部分が存在します。

介護や医療の現場は、その象徴的な例としてしばしば引き合いに出されます。ロボット技術の進化により、物理的な補助や一部のケアタスクが助けられることは確かです。しかし、介護の受け手の心のケアや、繊細な感情のニュアンスを捉える部分は、人間の持つ能力が必要とされます。高齢者が求めているのは、単なる身体的なサポートではなく、心のつながりや安心感、そして人間としての尊厳を感じることです。

技術の進化と人間の役割は、対立するものではなく、補完する関係にあるべきです。ロボットが担うことで、人間がより高度で、かつ人間らしいケアやサポートに専念する時間を増やすことができるのです。医療や福祉の分野でのサービスを受けるとき、多くの人々は技術的なサポートと人間の温かさの両方を欲しています。

現代の医療や福祉におけるプロジェクトは、技術の進化を最大限に活用しつつ、人間の持つ独特の価値や能力を大切にするバランスを模索し続ける必要があるでしょう。それによって、より質の高いサービスを提供し、受け手の心にも寄り添うことが可能となります。

今後の展望

本プログラムは、現代の高齢化社会における新しいニーズに応えるための一つの提案として設計されています。高齢者の活躍や多世代間のコミュニケーションを促進することは、今後ますます重要となってくるテーマといえるでしょう。

東京都内だけでなく、全国的なスケールでの展開を目指すことにより、地域による特色や課題を含めた幅広い視野での学びや実践の機会が増えることでしょう。それに伴い、各地域の特性や資源を活かしたシニアの活用方法が模索され、多様な成功事例やノウハウの共有が進む可能性が高まります。

地域社会全体の活性化や多世代のつながりの強化という、本プログラムが掲げるビジョンは非常に重要です。その実現に向けて、今後の更なる展開が楽しみであり、多くの関係者や参加者とともに、新たな未来を創造していくことを期待しています。