社会貢献活動 × Tokyo Gakugei Univ.

東京学芸大学の紹介

国立大学法人東京学芸大学は、教育者育成を専門とする国立大学として昭和24年に創立され、以来、「有為の教育者」の育成を使命として日本の教員養成の中核を担ってきました。これまでに多くの卒業生・修了生を全国の教育界に輩出しています。

本学が考える「有為の教育者」とは、「高い知識と教養を備えた創造力・実践力に富む」教育者です。そのため、本学の教職課程では、各教科や学校教育・学校心理・国際教育・環境教育などの深い専門性が身に付けられるようになっており、多彩な附属学校等を活用した実習も充実しています。

また、「教育者」には、教員のほかにも、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーといった教員以外の「教育支援職」も含んでおり、これらの専門職を養成するための課程も設置しています。
本学の前身は、最も古いもので明治6年に設置された東京府小学教則講習所(師範学校)があり、令和5年で創基150周年を迎える歴史と伝統のある大学でもあります。

令和4年度からは、文部科学省の「教員養成フラッグシップ大学」に東日本の大学で唯一指定され、多くの教育委員会と連携・協力しながら、教育現場のレジリエンス、子供の学び困難、チーム学校、探究授業など現代の様々な教育課題に対応した先導的な教職カリキュラムの開発に取り組んでいます。

今回、ご紹介する環境養育も、本学が先導的に取り組んでいる教育研究の一つです。

社会貢献に取り組んだきっかけ

環境教育研究センターは、教育学部の学校教育教員養成課程にある初等教育専攻(A類)環境教育プログラムおよび教職大学院環境教育サブプログラムにおいて、フィールド体験を重視した多彩な授業を提供しています。また、学校や地域と連携しながら、環境教育に関する様々なプロジェクトを行っています。

その中でも、特に1995年にスタートしたグローブ(GLOBE:Global Learning and Observations to Benefit the Environment)は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に深く関連したプログラムです。

このプログラムは、生徒が主体的に地域の環境の観測を行いながら地球環境に関する理解を深め、課題解決型の学習を推進するという趣旨で1995年にアメリカで始まり、日本は開始当初から参画し、環境教育研究センターを事務局としてその運営を行ってきました。

SDGs(持続可能な開発目標)という概念が注目を浴びて以降は、グローブの活動がその目標に貢献しうることから、新たに(2021年~現在)文科省のSDGs担い手育成事業の中でプログラムの運営が行われています。

社会貢献施策の内容

この章では、グローブという国際的な環境観測プログラムについての概要に触れていきます。

グローブ・プログラムの特徴

グローブ・プログラムは、2023年現在、世界の127か国が参加しており、最近ではブータンなど新たな国も加わっています。

グローブの活動は学校単位で行われており、児童生徒が国際的に統一された観測手法(観測プロトコル)を用いて環境観測を実施するのが特徴です。共通の観測プロトコルが用いられることにより、データの信頼性と客観性が担保され、世界各地で観測されたデータを比較することが可能になります。

グローブ・プログラムの発端は、元々NASAの衛星観測に関連する環境観測であり、衛星データに対応するグラウンドトゥルースデータの必要性から生まれました。地上での観測データを収集し、衛星データと照合・解析する仕組みが採用されています。このため、グローブはNASAとの深い関わりを持つ環境学習とも言えます。

観測分野は、気圏、水圏、生物圏、土壌圏の4つに分けられ、それぞれの分野において観測項目が定められています。

例えば、水質に関する観測項目では水のpHなどが含まれ、日本のグローブスクールでは身近な海や川、湖の水質観測に力を入れている学校が多く存在します。こうした取り組みを通じて、水環境の重要性の理解を深めるとともに、地域の水質改善への対策を進めています。また、海洋高校もグローブ活動に参加しており、水質の観測を漁業資源や温暖化と結びつけて解析しています。

生物圏においては、植物のフェノロジーや生態系の変化に関する観測項目が存在し、気候変動の影響や生物多様性の変化に関するデータが収集されています。

日本の参加校の特徴としては、参加した学校ごとに地域の特色や課題を発掘して、児童や生徒が主体的に観測してきたことです。2年一期で、新しい学校が参画し、継続する学校も多かったりしますが、1995年以降でのべ230校以上が参加してきました。

今年度も、グローブスクールを新たに公募したところ、全国の20校以上が手を挙げました。これらグローブスクールでの環境学習を、これからも環境教育研究センターが事務局として支援していく予定です。

東京学芸大学でグローブ事業が始まったきっかけ

既に述べた通り、日本および東京学芸大学でのグローブの取り組みは、1995年に開始されました。当時、NASAと現・環境省・文科省との間で「実施機関取り決め」が締結され、文科省からの事業委託を受ける形で、環境教育研究センター(当時は、環境教育実践施設)を事務局としたグローブ事業の運営が開始されました。

社会貢献施策と学生とのつながり

全国の教育委員会等に対して文部科学省からグローブスクールの募集に関する情報が発信され、その情報に応じて学校が応募し、参加して活動を開始しています。参加する際には、各学校のグローブ担当の先生が観測手法を学ぶための観測講習会に参加し、グローブティーチャーの認定を受けてから活動が始まります。この先生が学校内での窓口となり、各学校でできる範囲から活動がスタートします。

事務局としては、講習会の開催や活動成果を発表する発表会の開催、観測機器に関する相談などに対応しています。また、学校訪問をして児童生徒さんと交流したり、最後の発表会のときには事務局の先生方も全員参加して、生徒さんたちの発表を聞いてコメントしたり、児童生徒さんとの交流もあります。コロナ前は、オリンピックセンターに集まって発表会を開催しました。

生徒たちは主体的にグローブ活動に取り組んでおり、部活動や委員会の活動として行われることも多く、次の学年に引き継いで継続する形で取り組む学校も多いです。海洋高校や工業高校、農林水産関連の専門高校も多く参加しており、その場合、授業とも関連しており、グローブを活用した観測や学習がプロジェクトとして展開されていることもあります。活動自体は学校に委ねており、2年間のプロジェクトの終了後に新たなテーマを採用する学校もあれば、これまでのテーマを継続して発展させる学校も存在します。

グローブの特徴として、生徒が地元で観測したデータをアメリカの本部に随時送信できることが挙げられます。これにより、世界中のデータがアメリカ本部に集約され、日々の観測活動が世界規模の研究に繋がる構造があります。NASAやアメリカ本部からのメールや、英語での交流を通じて、生徒や先生がさらなるモチベーションを保つような仕組みも存在します。

約4年ごとに国際生徒会議が開催され、参加を希望する学校は自己負担で国際会議に参加して発表する機会もあります。参加した生徒たちの話によれば、国際的な舞台で発表することは大きな経験となり、海外の生徒とのコミュニケーションだけでも貴重な学びとなると言います。アイルランドで開催された際に参加した神奈川県の生田高校の先生との会話からは、2022年はコロナ禍のため国際会議が中止となったものの、来年や再来年に再開されることを楽しみにしている様子が伺えました。

さらに、グローブの観測について、大学の学部・教職大学院の学生たちも授業で学ぶことがあります。実際に、授業の一環としてグローブについて学び、在学中にグローブティーチャーの資格を取得し、卒業後に学校でグローブスクールに応募した東京学芸大学の学生の例もあります。

社会貢献施策を進めていくうえでの課題と解決

特に公立学校において、先生の異動が課題となっています。グローブティーチャーのアカウントはアメリカ本部から発行され、個々の先生に紐付いています。このため、先生の異動により学校での活動の継続性の確保が難しい側面があります。

2021年以降、ユネスコのSDGs担い手育成事業の一環として運営されるようになったグローブですが、それ以前とは異なるアプローチとして、学芸大学がある東京都小金井市の教育委員会との連携が挙げられます。地元の学校の先生方に声をかけ、昨年度からグローブティーチャーの養成講習を開始しました。また、SDGsのテーマに密接に結びついたグローブの活動を強調し、そのコンセプトに基づく教材を数年にわたり制作しています。これは、アメリカ発の共通調査方法に基づくものですが、より地域に根差し、各教育段階のニーズに適した教材を提供することを目指しています。これらの教材は、日本事務局のウェブサイトでも公開されています。

今後の施策

学芸大学周辺地域では、さまざまな地域課題や環境問題に関連する取り組みを行う、住民主導の環境活動団体が多数存在し、幅広い活動が展開されています。特に小金井市においては、行政や教育委員会も高い関心を寄せており、地域の皆様や関係者・団体と連携し、これまで学芸大学環境教育研究センターが築いてきた成果を実践的な形で具現化していく考えです。

当センターでは、学内外との交流や協力が盛んに行われています。また、辻󠄀調理師専門学校 東京が学芸大学敷地内に移転することになり、新校舎は、センターの農園の隣に位置するため、企業や他のステークホルダーとの連携を含め、昨年度から自然の農業体験を共同で行い、今後は新たな教育プログラムを開発していく予定です。

具体的なプロジェクトとして、エコール辻東京の教員や生徒と協力し、通常のカリキュラムとは異なるアプローチで、月に一度以上の頻度で農作業や調理を共に行い、食に関連する多様な体験を行うプロジェクトが進行中です。以前は、コカ・コーラ財団など民間企業との提携もあり、センターとしてのプロジェクトが展開されました。また、小金井市役所や市民会議、市内の団体とも協力して、農園を活用した取り組みが行われ、公的な機関との連携も充実しています。

メッセージ

環境分野に興味があり、環境と教育をリンクさせて取り組んでいきたい方には、学芸大学の環境教育プログラムならびに当センターはぴったりです。コロナ禍では入校制限があったのですが、今年度から再び誰でも入校できるようになり、農園も散策できるようになったので、是非近くの方には遊びに来ていただけると嬉しいです。

センターとして大事にしているのがフィールドです。生のフィールドで、五感を通して、いろいろなことを体験的に学んでいくことを重視しています。自然体験や人とのコミュニケーションを通して環境について考えたり、課題に立ち向かっていきたいと考えている方は、ぜひ一緒に現場に出て学んでいきましょう。