社会貢献活動 × Tokyo Healthcare Univ. -Part 2-

東京医療保健大学の紹介

東京医療保健大学は、「いのち」「思いやり」「絆」「愛」を尊重する心を持った医療人を育成するため、2005年に1学部3学科で開学しました。現在は、5学部7学科、4研究科、2専攻科(7キャンパス)を有する医療系大学に発展し、2018年度には看護師養成者数が4年制大学の中で国内最大規模になりました。

建学の精神である「科学技術に基づく正確な医療保健の学問的教育・研究及び臨床活動」「寛容と温かみのある人間性と生命に対する畏敬の念を尊重する精神」に則り、医療分野において特色ある教育研究を実践しています。

直近では、複数のキャンパスとの連携強化や医療分野において特色のある教育研究を実践する基盤として、DX(デジタル・トランスフォーメーション) を積極的に推進しデジタル社会を先導するスマートキャンパスの実現を目指しています。文部科学省の令和2年度 Plus-DX(デジタルを活用した大学、高専教育高度化プラン)、令和3年度 産業DX(デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業)、令和5年度「大学・高専機能強化支援事業」に採択される等、健康・医療分野におけるDX推進の成果が高く評価されております。

新たな動きとしては、2024年度、医療保健学部医療栄養学科に「臨床検査学専攻(仮称)」の設置を構想中です。

地域健康づくり研究・教育センター設立の経緯について

— 地域健康づくり研究・教育センター設立までの流れや、設立に至るきっかけについて教えてください。

私は「住民とともに活動する保健師の会」を立ち上げ、保健師の方々と協力し、子ども向けの活動やコロナ対策、震災対策、避難所の運営など、さまざまな地域活動を行ってきました。

ある時、この会に対し、東京都から「エイズ・ピア・エデュケーター(※)の育成」および「若者が若者に対してエイズに関する教育をする」という性教育の運営の委託がありました。

※ 高校生や大学生など同じ年代の仲間が集い、エイズの予防、命の大切さ、共に生きることの大切さなどを一緒に学び、考え、さらに周囲の仲間に伝えていく普及啓発活動のこと。
引用:https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/minamitama//gyoumu/kansen/hiv/pia.html 2023年9月14日閲覧

東京都の大きな仕事をするのであれば、本学も関わることによって積極的な活動ができるのではないか、と思いました。しかも、本学には「2SK会(青少年の性と健康を考え活動する会)」という約100名の部員で構成された部活動があり、毎年30名から40名の部員がエイズ・ピア・エデュケーターの資格をとるための講座を受けています。

このような本学の学生たちのがんばりも背景となり、「東京都の委託事業に本学も関わっていけるように、地域健康づくり研究・教育センターを作りませんか?」と大学に声をかけたのが設立の始まりです。

以前からずっと、学生たちが健康作りを行う「地域保健活動演習」という授業だけではなく、保健師としての経歴を活かした東京都の委託事業などに参画していたため、その流れで「センターを作りたい」と申し入れました。さまざまな実績を重ね、地域看護学領域で多くの地域作りにも携わってきた経験から、大学のためにもセンターとしてそれらを明文化したい思いもありました。

— 今の社会においては、余裕がない人も多いので「多くの方に貢献したい」という思いを持つことはなかなか難しいと思います。その気持ちの源泉や原点はどこにあったのでしょうか?

保健師は「健康を保つ」と書くじゃないですか。「住民が健康になる」ことは「自分の家族も自分も健康になる」ことだと思っているからこそ、環境を整えていきたいという思いをもっているんだと思います。

実はセンターを作る前に、私の家を含む約350世帯が入居しているマンションで、マナー防災カルタを作るイベントを行いました。役員の方々も巻き込むかたちでマンション全戸から標語を集め、それをカルタにしてPDFで提供したのです。本当はマンションのロビーに子どもたちを集めて楽しく交流する場を設けることを考えていましたが、新型コロナウイルスの影響を受けて、各自が自宅で印刷できる形式に変更しました。

このアイデアを思いついた一番の背景は、引っ越してきた際に、近隣の子どもたちが戸惑っていたように見えた経験にあります。彼らが緊張せずに挨拶できるようになれば、安心してコミュニケーションをとれる空間ができると考えました。また、挨拶ができる人とできない人との見分けをつけることで、マンション内の安全なコミュニティを築く手助けにもなると考えました。

カルタ作りだけではなくハロウィンパーティや防災訓練などを通じ、マンション内での人間関係を築けたことで「少し子どもを預かってほしい」という相談も受けるようになりました。このようなコミュニティを築くことで、親子が共に幸せになれる環境を作っていきたいと常に考えているからこそ、本学がある地域でも、同じような繋がりを作っていきたい。そのような思いと保健師としての経験をもっているからこそ、実践できているんだと思います。

ほかにも、 地域健康づくり研究・教育センターで働いている方の中には近隣の小学校に通う児童の保護者の方々がいらっしゃいます。小学校とも関係を築いているため、「人材を募集しているので、保護者の方々にも案内していただけませんか?」と声をかけたことから情報が広がり、雇用にも繋がりました。

こうした取り組みを通じて双方にとって良い繋がりが生まれ、人々の繋がりが強化されていく様子を実感しています。私たちの取り組みはかなり多岐にわたるため、説明が難しい部分もあるかもしれませんが、このような成果があることが伝わればうれしいです。

地域の健康づくりや健康教育を行うことの意義について

— 人と人との繋がりや支え合いが薄くなっている昨今の課題を受け、地域の健康作りの大切さを感じました。あらためて、地域の健康づくりや健康教育を行うことの意義についてはどのように考えていらっしゃいますか?

極端なケースですが、孤独死の予防や孤立感に悩む人々を支援し、人々の結びつきを促進する取り組みは、高齢者や若者の精神的な健康状態をサポートする上で極めて重要だと考えます。さらに、この取り組みは高齢者に限らず、地域との繋がりが薄い母子家庭の方々や、支援が必要な人々に対しても、大学を通じたサポートネットワークの構築に貢献できると考えています。

新型コロナウィルス感染症流行前に担当していた大学2年生「地域保健活動演習」の授業では、運動やフラダンス、また落語家の方など、大学内外から多様な分野の方々を招き、楽しみながら健康作りを促進する活動にも取り組んでいました。これらの活動を通じて学生が地域と繋がり、日常的に住民の方々と挨拶できる関係構築を経験してもらうことができたと思っています。

もう一つの重要な経験は、東日本大震災です。震災発生後の2011年3月16日から、私は仙台の避難所運営に参加しました。さらに、福島県では原発事故の関係で避難所運営の人手が不足していたため、4月には福島県で行政の支援に従事しました。

現地では、町内会長や自治会のメンバーのほとんどが80歳以上の高齢者で、彼らが避難所で炊き出しを行っている姿を目の当たりにしました。避難所の運営は町内会に委ねられ、高齢者たちは血圧が200以上になりながらも、がんばって運営していたんです。このような状況を支援できる若者が必要だと考えた私は、学生たちを被災地に連れて行き、現地の方々との繋がり作りも行いました。その結果、学生たちは高齢者の状況に関する理解を深め、避難所の運営を支援する経験も身につけられたのではないかと思います。

こうした経験から、繋がりを築くことが震災時においても極めて重要であることを実感しました。

— 東日本大震災は多くの人々の意識や思いを変えるきっかけになったと思います。最近でも災害が頻繁に発生していることからも、若者に意識を呼びかけることの重要性が浮かび上がってきますね。

実際には、震災の際に救助活動を行うのは60%以上が近隣住民であるというデータがあります。大きな地震が起きた場合、消防署などの公的機関がすぐに駆けつけられるわけではないため、消火活動などの緊急措置は近隣の人たちによって行われねばなりません。このような現状から、人々の繋がりをしっかりと築いておくことが非常に重要だと感じました。災害時においても、地域コミュニティ内での協力と信頼が支えとなります。繋がりを作ることは大きな転機となるはずです。

一方、児童教育や育児に関してはさらに深いお話になるため今回は割愛しますが、私は児童養護施設のケアにも関わっています。例えば虐待などの問題が発生した場合、地域のサポーターがいなければ、子どもや関係者にとって非常に厳しい状況が生じることがあります。地域の方々が助けを求められる存在としてそこにいることは、とても意味のあることです。このような関係性が築けることで地域の支え合いが一段と強化され、誰もが安心して生活できる環境が整うと思っています。

地域と医療保健学部、その他の学部との関わりについて

— 地域と大学が連携して進められている具体的な活動内容について教えていただけますか?

「地域保健活動演習」という2年生の授業では「健康作りの会」を設立し、学生と地域の方々がさまざまな活動を通じて交流しています。

この活動を通じて、学生たちは現場に出る前に近隣の方々とコミュニケーションをとり、健康に関する情報や考え方を共有するとともに、コミュニケーション術だけではなく、地域コミュニティ形成のプロセスを学ぶことができます。

また、本学がある地域全体でも、認知症の理解を深めるためのお祭り「ファームエイド東五反田」を開催しています。このイベントは病院や薬局などと協力して行われ、講演会や子ども向けの催しを通じて地域全体で認知症に関する理解を広げることを目的としています。学生たちも、出し物や手伝いといったかたちで貢献してくれています。今年も打ち合わせを進めており、この11月に開催予定です。

こうした活動を通じて、学生たちは地域の方々と関わりながら健康に関する情報や繋がりを深め、地域コミュニティの強化や支援体制の構築について学んでいるのではないかと思っています。

— 最近では、取り組みの一環として「ジャム作り」を全学部で展開されているとお聞きしました。具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか?

現在、若年性認知症の方々の就労支援を行うためのチャネルを構築を進めており、その一環として、全学部が連携して行う「ジャムの製造販売」に着手しています。

例えば、看護学科では若年認知症の理解を広めるためにパンフレットなどの制作に取り組んでいます。医療栄養学科では、ジャム作りにおける衛生管理の指導を担当し、医療情報学科では、販売のための分析や準備を担当してもらうことを考えています。ただ、現在「製品を売る」過程において課題にぶつかっており、新しいアプローチを模索しながら進めている段階です。

実際に就労支援に至るまでの道のりは長そうではありますが、これまでに築いたコミュニティや経験を活かし、柔軟に進めていきたいです。

— 新型コロナウイルスの流行などもあり、コミュニティを広げたり繋がりを作ることに苦労している方も多い中で、どのようにコミュニティを広げているのでしょうか?また、繋がりを作るために意識していることはありますか?

私は、人との関係性を構築する際に、まずは挨拶や笑顔、そして仲良くしたいという姿勢が非常に重要だと思っています。日頃からなるべく断らず、どんなことにも取り組む姿勢も大切にしていますね。最近では、厚生労働省や文部科学省など複数の研究を進めているなか、異なる研究や組織を結びつけて連携させることで、新たな展望を拓けそうだと思うこともあります。

具体的な例を挙げると、現在、本学で外国人の模擬患者の方と英語の勉強ができる授業を担当している先生を、外国人の保護などを行っている区役所の課に紹介しようとしています。困っている外国の方々と大学が繋がることで、将来的には外国人の医療支援に関する活動ができればとても良いですよね。

このように、今後は人や組織を結びつける役割も担っていかなければいけないと思っています。

活動に参加している学生の様子、意識や行動の変化について

— 実際に活動に参加している学生は、すでに「地域に貢献したい」という意欲をもっている方が多いと思います。その中で、大学の授業や地域健康づくり研究・教育センターが彼らのギアをもう一段階上げる役割になるのではないかと感じていますが、実際に活動した学生の変化や様子を教えていただけますか?

看護大学に入学する学生たちにも、コミュニケーションが苦手な人はいます。しかし、実際に地域の方々と交流すると、人々が親しみやすく、会話を楽しめることに気が付きます。こうした体験によって、コミュニケーションの敷居が低くなることそのものが大切ではないかと思っています。

学生たちには、「看護学生として、大学生として、自分たちに何ができるのか」について、授業の最終レポートを書いてもらうようにしています。地域の住民たちが看護学生にどのような期待を寄せているかを直接聞く機会も設け、活動の意義や目的を再確認してもらっています。

学生の中には、まだ自分のことを子どものように感じている人もいて、自身に期待されていることがわかっていない場合もあります。しかし、地域で何が求められているのか、どのような役割を果たすことができるのかを真剣に考える機会を通じて、成長していく様子を見ることができます。学生たちはこれらの経験から、看護学生として地域に貢献する意識を一層高め、自身の成長に繋げているように感じます。

— 自分ごと化して地域の問題や課題にしっかり向き合っていけるようになるんですね。

さまざまな経験を通じて大人になるにつれて、地域での役割がわかっていくのではないでしょうか。周囲との関係を大切にしていきたい、そしてそれを仕事にも役立てていきたいという姿勢を培っていってほしいと思っています。

今後の展望について

— 最後に、今後の展望や方針について教えていただけますか?

まずは、現在の活動を継続していきたいです。個人的なお話にもなりますが、私は、地域健康づくり研究・教育センターを設立する前に、定年退職後も地域に貢献していける保健師のグループを作っていきたいという思いで、「住民とともに活動する保健師の会」を立ち上げました。

さらに、本学とセンターが連携することで、学生たちに地域貢献の重要性をきちんと理解してもらえる機会をたくさん提供していきたいと思っています。また、学生だけでなく大学も、今よりも一層多様な社会貢献ができるよう、窓口を広げていきたいと思っています。

▼Part1 朝澤先生への取材はこちら
社会貢献活動 × Tokyo Healthcare Univ.