
SDGs 大学プロジェクト × Yamagata Univ. -Part 2-
目次
山形大学の紹介

山形大学は、明治11年(1878年)の山形県師範学校の開校に始まり、昭和24年(1949年)に5つの教育機関(山形高等学校・山形師範学校・山形青年師範学校・米沢工業専門学校・山形県立農林専門学校)を母体に、新制国立大学として設置されました。
2024年、創立75周年を迎え、歴史と伝統を受け継ぎつつ、山形の豊かな自然や地域の人々と接しながら地域のリアルな課題に向き合い、世界の動向を捉え、最先端の技術や知識を学修できる環境づくりに力を入れています。
人文社会科学部・地域教育文化学部・理学部・医学部・工学部・農学部の6学部と6つの大学院研究科を備え、約9,000人の学生が勉学に励む、東日本でも有数規模の総合国立大学です。
今回は、やまがた社会共創プラットフォーム(事務局:山形大学)が開講したやまがた共創塾、『地域産業コア人材育成プログラム』及び『「やまがたモデル」を活用した「カーボンニュートラル人材育成プログラム」』についてお伺いしました。
お話いただいたのは、やまがた共創塾を運営する山形大学において、社会共創を担当されている大森副学長、地域におけるカーボンニュートラルを実現する「やまがたモデル」の構築を主導された林田教授です。
「やまがた社会共創プラットフォーム」を主導し、産学官金医で地域課題の解決を目指す

ーまずは、山形大学が「地域との共創」に力を入れるようになった背景を教えてください。
大森副学長:これまでも日本の大学は、教育・研究に加えて、社会貢献も様々な形で行ってきましたが、文科省は、令和4年度から始まった第4期中期目標期間において、国立大学に対し、社会との共創を一層明確に求めるようになりました。
山形大学は、山形市にある小白川キャンパス(人文社会科学部・地域教育文化学部・理学部)、飯田キャンパス(医学部)に加え、米沢キャンパス(工学部)や鶴岡キャンパス(農学部)を有しており、山形県全域に広がっています。分散キャンパスはデメリットと捉えられることもありますが、「社会共創」という観点からは地域と共に活動しやすいというメリットもあります。
このように地域と歩んできた山形大学だからこそ、自治体や企業、大学が個別に取り組んでも解決できない地域課題に対して、「タッグを組んで取り組むこと」の旗振り役になりました。2020年に就任した玉手英利学長が、将来ビジョン「つなぐちから。山形大学」を公表し、本学は、社会と「共に育ち、共に創り、共に生きる」を実践し、一人ひとりが幸せを手にする世界を目指すことを宣言しました。
全学をあげて社会共創を推進するにあたり、運営体制としては、令和5年に社会共創推進事務室が立ち上がりました。社会共創推進事務室の主な活動には、令和4年10月に構築された「やまがた社会共創プラットフォーム(以下、やまぷら)」の運営もあります。
ーやまぷらとは、どのようなプラットフォームなのでしょうか?
大森副学長:業界の垣根を超えた「オールやまがた」で地域課題解決に取り組むための恒常的な議論の場です。このプラットフォームには、山形県および県内全市町村に加え、産業界、金融界、医療界、並びに県内の全高等教育機関、県教育委員会、高等学校校長会等の教育界の団体が加盟しています。
地域連携プラットフォームは他の都道府県にも存在しますが、「県内全ての市町村が加盟していること」と「医療関連の団体も加盟していること」は、やまぷらならではの特徴と言えるでしょう。
ーやまぷらに、山形県内の全市町村と、産業界、金融界、教育界に加えて、医療界まで参加された理由をお伺いできますか?
林田教授:山形大学は、地域密着型の総合大学です。地域が抱える「人口減少」「産業振興」「災害対策」といった課題に、さまざまな専門分野を活かした対策を立てられる点が、多くの自治体から賛同を得たのではないかと感じます。
大森副学長:山形大学医学部には、県内に留まらず、広く東北の方々のためのがん治療センター「東日本重粒子センター」も設置されています。産学官金に加えて「医療界」も参画してくれたのは、山形大学の医学に対する期待の表れかもしれません。
このやまぷらの活動内容には、「人材育成」「地域産業振興」「健康長寿支援」「地域活性化支援」「環境保全」の5つをテーマに掲げています。その中でも特に重要視されているのは「人材育成」です。2023年・2024年と2年続けて文部科学省の委託を受けて実施している「リカレント教育(社会人の学び直し)」も、やまぷらの人材育成事業の一環です。
そして、やまぷらのリカレント教育事業の目玉として2024年にスタートしたのが、「地域産業コア人材育成プログラム」と「『やまがたモデル』を活用したカーボンニュートラル人材育成プログラム」です。
やまがたを元気にするリカレント教育プログラム「やまがた共創塾」

ーやまぷらのリカレント教育事業として実施されているプログラムが「やまがた共創塾」なんですよね。
大森副学長:「やまがた共創塾」は、やまぷらのリカレント教育部門で運営するプログラムの冠として創り出した総称(ブランド名)です。実際の窓口は「山形大学 社会共創推進事務室」が担当しています。
2023年に文部科学省の委託を受けた際の使命は、「どのようなリカレント教育が地元の企業に求められているかを調べる」、すなわちニーズ調査でした。そしてその結果をもとに、「地域産業コア人材育成プログラム」を開発し、2024年にスタートさせました。
ー「地域産業コア人材育成プログラム」について教えてください。
大森副学長:2023年のニーズ調査により、地元の多くの企業が「地域産業や地元企業を牽引していく人材」「近い将来、その会社の経営の担い手になる人材」を求めていることがわかりました。そこで、「地域産業のコア人材」を育成するためのプログラムとして、全14回の講座を企画しました。
地域産業コア人材育成プログラムは、本来であれば受講料として20万円かかるところ、厚生労働省の補助を活用することで、10万円弱の負担で受講していただけるようになっています。今年は県内の17企業から合計19名に参加して頂いており、業種も営業、事務、会計事務所の方など多岐にわたります。
講座は座学に加え、ディスカッションや経営シミュレーションなど、実践的な内容も含まれています。現在、第3回までのプログラムが終了しており、10月末に修了式を行う予定です。
地域の温室効果ガスの排出量を可視化する「やまがたモデル」を構築

ー続いて、「『やまがたモデル』を活用したカーボンニュートラル人材育成プログラム」についてお伺いしていきたいと思います。まずは、「やまがたモデル」の概要を教えてください。
林田教授:「やまがたモデル」は、「自分たちが持っているデータを使って、自分たちの手で、温室効果ガスの排出量と吸収量を可視化する手法」です。
玉手学長が2020年に「山形大学もSDGsに取り組む」という宣言をした時から、当時、国際交流担当の副学長であった私のミッションにSDGs推進も加わりました。特に「カーボンニュートラルに向けて、大学がどのようなアクションを取るべきか」は大きな問題でした。そこで目をつけたのが、自治体のカーボンニュートラル宣言です。
山形県では、「カーボンニュートラル宣言」を行う市町村が増加しています。しかし、実際に自治体の担当者に話を聞いてみると、少なくない自治体が「宣言はしたものの、具体的に何をしたらいいのかがわからない」という悩みを抱えていたのです。
そのため、まずは「何が原因で、どれくらいの温室効果ガスを排出しているのか」を各自治体が把握することが必要だと考えました。山形県の多くの自治体は広大な森林を所有しているため、森林によるCO2の吸収量も併せて調査する方法を確立すれば、より正確な排出量を把握できるだろうと考えました。このような経緯で構築したのが「やまがたモデル」です。
ーやまがたモデルを使って、「何が原因で、どれくらいの温室効果ガスを出しているのか」を各自治体が把握できれば、具体的な対策を考えられるようになるわけですね。
林田教授:その通りです。さらに「やまがたモデル」は、実施した対策の効果を検証することも可能です。
実は、自治体別の温室効果ガス排出量は環境省が公開しています。しかしそのデータは、日本全国の温室効果ガスの排出量を、各自治体の人口や活動量でただ案分しただけなのです。
そのため、例えばある町で「全ての自動車を電気自動車にする」という対策を実施した場合に、それによってどれほどの温室効果ガスが削減されたかを考えてみましょう。「やまがたモデル」では、各自治体が調べる「車の台数」や「燃料費」といった具体的なデータを基に温室効果ガスの排出量を算出するため、対策実施前後の排出量の差を可視化することが可能です。
ー「やまがたモデル」の構築は林田教授が主導されたと伺いました。どのような流れで構築をされたのでしょうか?
林田教授:「やまがたモデル」構築に協力してくれる「自治体探し」からスタートしました。山形大学は以前より山形県飯豊町と連携協定を結んでいたのですが、その飯豊町にSDGsとゼロカーボン推進を任務とする地域おこし協力隊として後藤武蔵さんと小野優太朗さんを迎え入れたという新聞記事を偶然目にして、直ちに飯豊町と連絡を取りました。そして、後藤さんと小野さんを含む協力隊員や町の関係者に「やまがたモデル」の構想を説明したところ、快く協力していただけることになりました。
その後は、飯豊町の温室効果ガスの排出量を把握するため、町が所有するいろいろなデータを協力隊員のお二人が集めました。手元にないデータについては、飯豊町の全家庭にアンケートも配りました。飯豊町は人口6,000名なので、調査もしやすい規模だったと思います。その後、山形大学のそれぞれの専門の先生方の助言を受けながら、集めたデータをもとに排出量と吸収量の算出と見える化を進めていきました。
ちなみに、一緒にやまがたモデルを構築した飯豊町の地域おこし協力隊の後藤さんと小野さんに、「カーボンニュートラル人材育成プログラム」の講師を務めていただいています。私はアドバイザーとして参加をしています。
「やまがたモデル」を活用したカーボンニュートラル人材育成プログラム

ーそのような経緯で「やまがたモデル」が完成したのですね。続いて「やまがたモデル」を活用したカーボンニュートラル人材育成プログラムの内容を教えてください。
林田教授:「やまがたモデル」を使って、地域の温室効果ガス排出量を可視化する意義や計算方法をお伝えしています。無料で4回の講座を受けることができ、今年の受講者は自治体や自治体関係者の25名に参加していただいています。
先日、「やまがたモデル」の概要や可視化するメリットについて講義する1回目のプログラムが終了したところです。2回目の講座では、飯豊町が「やまがたモデル」を活用して、温室効果ガス排出量を可視化し、具体的な対策をスタートした事例も紹介します。
ー飯豊町では、「やまがたモデル」を活用して、どのようなカーボンニュートラルの対策をとっておられるのでしょうか?
林田教授:飯豊町は畜産業が盛んです。しかし、家畜のげっぷや糞尿からはメタンガスが発生し、その効果はCO2の20倍以上です。このため、飯豊町では家畜の糞尿から有機肥料を生成するプラントを設置し、メタンガスをバイオマスの活用につなげることを進めています。また、飯豊町は農業も盛んで数多くの水田があります。実は、これらの水田からもメタンガスが排出されていますが、山形大学ではメタンガスを減少させる米作りのノウハウがあり、協力して対策を進めています。
その結果、飯豊町の水田におけるメタンガス削減がアピールされ、お米の付加価値向上につながる動きも生まれています。これは、町の「マイナス面」を、カーボンニュートラルの対策を通して「プラス面」に転換する施策だと言えるのではないでしょうか。
ーこのプログラムは、「やまがたモデル」の理論や計算方法を教えて終わりではなく、その後の対策についても一緒に考えてもらえるのですね。
林田教授:山形大学は総合大学ですから、様々な分野の専門家がいます。温室効果ガスの発生源さえわかっていれば、「このような対策があります」とアドバイスができるのです。
もちろん対策によってかかるコストも負担も違いますから、アドバイスを受けて、実際にどのような対策をとるかの選択は地域の方がします。飯豊町の事例のように、「やまがたモデル」は、今までマイナスだった町の特徴をプラスに変える対策を、「自分たちで選べる」のがポイントだと思います。
大森副学長:私も「カーボンニュートラル人材育成プログラム」の1回目の講義を受講し、カーボンニュートラルに対する「何かを我慢しなければならない」というイメージが変わりました。
例えば、飯豊町で温室効果ガスの排出量として一番高い割合を占めるのは、輸送なんですよね。ならば、「輸送の対策をしよう」と考えるのが普通かもしれません。ところが、飯豊町は車が生活に必要不可欠な面を考慮して、2番目に排出量が多い農業に注目したのだそうです。
林田教授:山形市のような市街地ならともかく、山形の農山村地域は交通手段が限られます。少し買い物に行くにも車がいるような環境で、車の利用を制限すると住民の負担が大きいですよね。だからと言って、すぐにすべて電気自動車にするといった対策は必ずしも現実的ではありません。
自分たちの今の生活を維持しながら、自分たちの特徴を活かしたカーボンニュートラルの活動を、自分たちで選ぶ。さらに、選択した対策の効果も見える化できるのが、「やまがたモデル」の特徴ですし、それを伝えるために「カーボンニュートラル人材育成プログラム」を実施しています。
やまぷらやこのプログラムを通して、他の自治体にも「やまがたモデル」の有用性を理解してもらい、横展開ができればと考えています。
今後の展望
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ーここまで、やまがた共創塾の2つのプログラムを中心にお伺いしてきました。プログラム実施までにご苦労されたことがあれば教えてください。
大森副学長:プログラムを知って受講してもらうための広報活動や、学内外組織との調整には、時間や労力を要しました。特に「地域産業コア人材育成プログラム」は、企業から人材を派遣して頂く必要がありました。
そのため、新たに採用した地域コーディネーターの方に尽力頂き、一社一社に足を運び、その会社の若手や今後のコア人材となる人に受講してもらえるよう声かけを地道に続けました。テレビ出演などそれ以外の広報活動も積極的に実施しました。来年度以降も受講者を継続的に確保できるよう、引き続き広報に努めていきます。
ーやまがた共創塾の今後の展望について教えてください。
大森副学長:今年度の最優先目標は、現在開講中の2つのリカレント教育プログラム、「地域産業コア人材育成プログラム」と「『やまがたモデル』を活用したカーボンニュートラル人材育成プログラム」を成功裏に終了することです。
さらに、先ほどもお話したとおり、来年度以降もリカレント教育の受講者を継続的に確保する必要があります。そのために、今回のプログラム受講者の評価や受講後の変化等を分析し、教育効果を見える化するために、「やまぷらスケール(仮称)」を開発することや、経営者向けのセミナーやシンポジウムの開催を計画しています。
経営者向けのセミナーやシンポジウムを実施する目的は、経営者に「社員をリカレント教育に送り出す意義」を理解していただくことです。経営者の方々からは、「社員を教育に参加させる余裕がない」「教育を施すと離職してしまうのではないか」といった懸念が聞かれますので、まずはそうした不安を解消することが重要と思います。
今後は、大学のキャンパスが所在する市町村に限らず、より多くの地域でセミナーやシンポジウムを実施していきたいと考えています。そして、「頼れる知のパートナー」として山形を元気にする事業を様々展開していければと思います。