
SDGs 大学プロジェクト × Seisen Univ.
目次
清泉女子大学の紹介

清泉女子大学は、キリスト教ヒューマニズムの精神に則り、ひとりひとりを大事にする少人数教育による人格的ふれあいを通して自立した女性を育成することを目的に1950年に創設されました。同大学では、グローバルな視野をもって地球社会のために行動できる「地球市民(グローバル・シティズン)」の育成を目指し、2001年に日本で唯一の「地球市民学科」を創設しました。
地球市民学とは、貧困、紛争、難民、環境、エネルギー、ジェンダー、少子高齢化、地域の活性化などグローバル社会や地域社会が抱える諸問題を学際的に研究する学問です。2021年にはカリキュラムを一新し、先行き不透明で正解のない時代を切り拓くために汎用的な思考と実践の型を学ぶ「101のコンセプト」、2年次必修の「夏期英語集中講座」、プロジェクト中心の学習など最先端の学びのプログラムを整えました。
社会が抱える課題を、自分自身に関係がある身近な問題として理解し、他者と協働しながら具体的な解決策を提示し、実践できるチェンジ・メーカーを育成している地球市民学科では、フィールドワークやプロジェクト、ゼミナールなどを通して、机上だけでなく教室を飛び出し、国内外の「現場」での学びを重視しています。
安齋徹 教授のこれまでの経緯とSDGsについての見解
私は元々サラリーマンとして28年間民間企業に勤めており、営業・事務・企画・海外・秘書・人事・研修など様々な業務を経験してきました。そのうちの6年間はニューヨークで働きました。もっと学びたいという思いが沸き起こり、40歳代半ばから働きながら大学院にも通い「企業人のボランティア」について研究しました。
こうした経験から「社会や企業を変える人材を育てたい」という意識が芽生え、大学教員の道を志すことになりました。ご縁もあり、ビジネスの世界から大学教授としての新たなステップを踏むことになりました。所属している地球市民学科では社会の課題を解決するチェンジメーカーを育成するというビジョンがあり、自分がやりたいことと大学が目指すものが一致して、現在はこちらで教鞭をとっています。
先行き不透明で正解のない時代にあって、SDGsを含めた社会の諸問題を未来志向で解決していける人材を育てることは大学の現代的な使命であり、閉塞感漂う社会や企業に少しでも風穴を開けられるような元気と勇気を持った人材を育成することが自分の役割であると自覚しています。
ジェンダーバイアスのプロジェクトについて
今回の取材では、安齋教授に「SDGs探究AWARDS2022」の審査員特別賞を受賞したジェンダーバイアスと未来の結婚式を考えるプロジェクト」についてお話を伺いました。
結婚式というテーマでジェンダーバイアスに注目したきっかけ
清泉女子大学の安齋ゼミでは、「ビジネス」と「女性」と「地域」という3つのキーワードを中心に活動しています。学生たちには社会や企業を変える人になって欲しいので、ゼミでは多種多様な経験を積ませたいと考えています。
さまざまなプロジェクトに関わってもらいながら、輪番でリーダーを経験し、グループのメンバーも入れ替え、多彩な役割を同時にこなす取り組みを行っています。複数の企業や地域と連携しており、結婚式の案件はその中のひとつです。
現在の結婚式にはジェンダー視点で考えると様々な課題があることから、学生たちに新たな視点でテーマを検討させることで、興味深いアイデアが浮かぶのではと考え、株式会社ウエディングパークや株式会社八芳園に連携を提案し応諾いただきました。
プロジェクトの難しさや苦戦した部分
学生自身が結婚式に参加した経験がないこととジェンダーというテーマが扱いづらいという2点です。結婚もしていなければ、結婚式に出たこともないという学生がほとんどです。そのため、ジェンダー視点の結婚式を考える前に結婚式自体のイメージがついていないという難しさがありました。
さらにジェンダーバイアスを具体的な提案に落としこんでいく部分に苦戦していました。概念としてジェンダーバイアスを理解していても、伝統的な儀式として行われている結婚式にどこまでジェンダーの観点を落とし込んでいいのか判断が難しいと学生たちは悩んでいました。伝統と革新のバランスは非常に難しい部分だと思います。
–困難に直面した学生さんに対してのアプローチで意識されていることはありますか?
基本的に学生自身に乗り越えてもらおうと考えています。もちろん案件の段取りや失敗しても大丈夫なような環境設計はしていますが、困難に直面したとしても手取り足取り教えることはせずに、自分たちで乗り越えることで責任感や課題への解決方法を学んでもらっています。
人材育成は負荷(ストレッチ)をかけることだと考えていて、背伸びをすれば届きそうな案件を同時並行でたくさんこなしていく中で「一皮むける」ことができます。
取り組む案件にはあらかじめ決められた正解はないので、正解がない問いに対して考えて行動できる力を育みながら「社会や企業を変える人」になってもらえると嬉しいです。
ジェンダーに対する学生の変化や気づき

はじめは結婚式自体に興味がないと言っていた学生がいましたが、実際に式場を見学した後、その考えに変化が生じました。また、世の中で当たり前だったことが実は当たり前ではないのかもしれないと気付いてくれました。
例えば、ファーストバイトについては従来のように女性が男性に食べさせてあげるのではなく、ジェンダーレスにお互い一緒に食べさせ合ってはどうだろうかという意見が出ました。またチャペルや教会の入り口から祭壇に向かって延びる「ヴァージンロード」についても、その名前について疑問視し、「ウェディングロード」という表現に変える提案が出されました。
学生に言われて初めて気付く学びがたくさんあったので、そういった当たり前を疑う力を身につけてくれていると思います。そういった意味では、結婚式に今まであまり参加していないことで先入観が無く、かえっていい影響を与えたのかもしれません。連携いただいた企業からも、学生の提案が新鮮であるという評価をいただきました。
新しいことを考え続ける秘訣
安齋ゼミでは、1年間で1,000個のアイデアを考案する「企画1000本ノック」という取り組みを行っています。この試みは、常に新たなアイデアを生み出し続ける習慣を養うために行っており、日常的にアイデア出しの鍛錬を行うことで、プロジェクトにおいて優れた提案が生まれる一因になると考えています。
アイデアのアウトプット用に渡したノートにアイデアを書いてもらったり、毎月学生が考えたアイデアの中から投票して決めたベストアイデアをゼミのInstagramで発表する場を設けたりもしています。
産学連携プロジェクトを行う意義

繰り返しにはなりますが、「社会や企業を変える人材」を育てていきたいと考えています。この目標を実現するために、大学としては学生に対してどのような支援を行えるかを考えた結果、リアルな案件に取り組むのが最善であるという考えに至りました。
少子高齢化の解決策を話し合いましょうという抽象的なテーマの話をしても、現実感がなく盛り上がりません。机上の課題ではなく、企業や地域と連携したプロジェクトの中で課題を解決する経験は、学生の成長に大いに寄与しますし、企業や地域にとっても学生の視点が取り入れられて、双方に利益をもたらすwin-winの関係になりうると考えています。
副次的に企業や地域との連携を通じて「いい大人」と出会うことができます。それは学生にとって素晴らしい経験になります。期待感をもって社会に旅立つことへのきっかけになります。ビジネスの世界に28年いた私の経験もうまく伝えていければと思います。
プロジェクトの状況や今後の展望

本プロジェクトは、幸い「SDGs探究AWARDS2022」(主催:一般社団法人未来教育推進機構、後援:国連広報センター、文部科学省、外務省、ESD活動支援センター、JICA関西など)で審査員特別賞を受賞しました。
また株式会社ウエディングパーク主催のイベント「Parkになろう −結婚式は未来の新しいパブリックに−」展の「Z世代エリア」で安齋ゼミ生が提案した結婚式のアイデアをイラストレーターのヨシフクホノカ氏が作品化したパネルが展示されました。
現在の段階では正式な商品化には至っていませんが、連携いただいた2社を通じて結婚式場を訪れた実際のカップルに対し、ジェンダーフリーのウェディングをひとつの案としてご提案いただくことができました。10年後、20年後に業界の慣習が変容しており、そのきっかけが当プロジェクトだと嬉しいですね。
さらに現在、博報堂キャリジョ研の協力のもと、アンコンシャスバイアスに気付いてもらえるメディア企画を考えるというプロジェクトが進行しています。アンコンシャスバイアスというのは、例えば「女性は感情的である」など無意識のうちに抱いている偏見のことです。このバイアスに気付くことができるメディア企画を考えて、10月に彼等に向けて発表することになっています。
こうした取り組みに関わる学生たちが、大学卒業後「社会や企業を変える未来の人材」として育っていくことを願っています。