SDGs 大学プロジェクト × Osaka Univ.

大阪大学の紹介

大阪大学は、江戸時代に創設された大坂町人の学問所である「懐徳堂」と緒方洪庵が開設した蘭学塾の「適塾」を源流に持ち、1931年に医学部と理学部からなる大阪帝国大学として創設されました。その後、基礎工学部や人間科学部、微生物病研究所など他大学にない先進的な学部や全国共同利用の研究所等を設置し、2007年には大阪外国語大学との統合を経て国立の総合大学では唯一の外国語学部を有し、現在、11学部15研究科の規模を誇る大学に発展しています。

大阪大学は、吹田市・豊中市・箕面市にキャンパスを展開し、そこでは約2万3千名の学部生と大学院生が学んでおり、学部生数は全国の国立大学で一番となっています。本学でのカリキュラムでは専門知識を深めると同時に他分野の内容も学ぶことが出来、また、国際性涵養科目を初年次から配当し、多様な交換留学プログラムを用意してグローバルな感性の育成に努めています。

そして大阪大学は、キャンパス内のダイバーシティ&インクルージョンを積極的に進め、多様な背景を持つ学生同士が切磋琢磨し自己実現を図ることが出来る環境を整えています。是非、大阪大学であなたの可能性を存分に発揮してください。

SDGs国際学生交流プログラムの概要と成果

–大阪大学グローバルイニシアティブ機構では、2021年から毎年「SDGs国際学生交流プログラム」を開催されているとお聞きしました。このプログラムについて、まずはその概要やテーマについてお教えいただけますか?

張先生:はい。当プログラムは2021年度から開始されたもので、その背景には2020年から拡大し始めた新型コロナウイルス感染症による影響があります。授業や留学説明会などが全てオンラインに転換されていた状況の中で、「SDGs(持続可能な開発目標)」という重要なテーマに焦点を当て、オンラインの環境下で我々がどのような貢献を果たせるかを考える契機として、当プログラムが始まりました。

最初の取り組みとして、3分間の動画コンテストを立ち上げました。大阪大学と海外の協定校の学生たちが、地域や世界の課題について学びながら、自身のアプローチや解決策を練り、それを3分の動画を通じて発表する場を提供することを目指しました。このアイデアにより、海外からは合計69本の動画が寄せられ、2021年12月の国際学生SDGsフォーラムと合わせて行われた受賞式では活気に満ちた雰囲気となりました。受賞した動画を見た多くの参加者が、「たった3分の動画でここまで深い内容を伝えることが可能だとは」と感嘆しました。

次の2022年には、より多くの内容を組み入れて「動画コンテスト」「学生フォーラム」「シンポジウム」及び「夏季集中講義」の4部構成とし、多彩なコンテンツを提供しました。動画制作に留まらず、SDGsの基本概念や日本、世界における取り組みについての知識を修得し、それを土台にして制作に臨むことの重要性を強調しました。このために、SDGsの夏季集中講義を導入しました。今年はシンポジウムに代わり、プロから学ぶ動画制作のワークショップを開催し、4部構成を継続しています。

–ありがとうございます。では、プログラムの目標についてお教えいただけますか?

張先生:もちろんです。当プログラムの目標は2つございます。
まず1つ目の目標は、「SDGsに関わる地球規模の問題や課題に対する学習の関心を高め、さらに、自身の立場から解決策を模索する力を養うこと」です。すぐに実現可能な解決策を見つけることは難しいかもしれませんが、最初に構想する力を培うことが、将来的な対策の萌芽を育む基盤となると信じています。

そして2つ目の目標は、「異なる文化的背景を持つ学生たちが共に学び、ディスカッションやコミュニケーションを通じて国際性を培うこと」です。グローバルな視点を持つ人材を育成するには、多様な社会的背景を持つ人々との対話が欠かせません。このプログラムには世界中の学生が参加しており、異なる文化や価値観と触れ合うことで、国際的な洞察力を養う貴重な機会となることでしょう。

また、これからの展開としては、オンラインとオンサイト(現地での実施)の双方の利点を最大限に活かしながらプログラムを進めることも目標の一つです。コロナ禍を経て、国際学生交流活動をどのように推進していくかが、今後の課題でもあり、目指すべき方向でもあります。

–ということは、例えばSDGsの目標のうち1番や17番など、具体的な番号の目標を指標として活動するのではなく、むしろSDGsの基盤や理解度を向上させることが目標なのですね。

張先生:その通りです。集中講義の中では、特定のテーマに基づいていくつかのSDGsの目標を取り上げることもありますが、動画コンテストや学生フォーラムでは17の目標を包括的に取り上げています。学生に地域の問題を個別に分析し、提案する機会を設けることで、広範な視点でSDGsを探求しています。全てのSDGsの目標に焦点を当てつつ、異なる背景を持つ学生たちが集う国際交流の場でも、多面的な課題の発見を促進しています。

— 方法としては、オンライン形式を用いているのですね。

張先生:その通りです。感染症の影響が収束しても、当プログラムでは引き続きオンライン形式を採用しています。この方法により、異なる海外大学の協定校の学生と協力して問題を認識し、解決策を模索する意識を育むことができます。また、大学としても、オンライン手法を活用した学生交流活動を推進したいとの考えです。協定校だけでなく、世界中の学生、研究者、ベンチャー企業、SDGsに興味を抱く組織との連携を広げていきたいと考えています。また、これによって留学生の受け入れなどにも新たな展望が開けることでしょう。

— では、このプログラムによって目に見える成果や効果はありましたでしょうか?

張先生:はい。具体的な成果に関しては、数字で示せる点から述べますと、2年間連続して行われた動画コンテストには、世界17以上の地域や国から300名以上の学生が応募し、総計160本以上の動画作品が集まりました。その中には、非常に印象深い作品が多く含まれていました。また、最近行われた大阪大学共創DAYでは、その中から選りすぐった10本を選び、日本語字幕を追加して展示ブースで上映しました。

さらに、夏季集中講義においても、昨年と今年の2回で200名以上の受講者が集まりました。また、昨年は一般向けに公開されたSDGsシンポジウムも実施し、大学の同窓生やベンチャー企業の方々をお招きして、企業や組織の取り組みについて紹介しました。このシンポジウムには305名の方々が参加してくださいました。

こうした成果を踏まえて言えることは、当プログラムを通じて関わる海外協定校や関係組織とのつながりが増加しているという点です。このプログラムが引き続き、SDGsに関心を持つ方々のネットワークを拡大し、さらなる成果を生み出す場となることを願っております。

— すごい成果ですね。先ほど、17か国からの応募があったとお聞きしましたが、多様な国・地域が参加する中で、教育のアプローチや物事の捉え方などのバックグラウンドの違いがあることから、協力して進めるのは一筋縄ではいかないかと思います。そういった課題にどのように取り組まれているのでしょうか?

張先生:まず第一に、参加する学生たちは異なる地域や文化を背景に持っていますが、関心や問題意識においては共通点が多いと言えます。実際、違いこそがプログラムの豊かさにつながる要素です。興味を引くテーマや課題は人それぞれ異なりますから、こうした多様性こそが価値あるものと考えています。

例えば、東南アジアの学生たちは環境問題や食品ロス、気候変動などに特に興味を持つことが多いです。これらの問題は彼らの地域でより深刻な課題となっているため、自然な関心が生まれています。こうした個々の関心が他国の問題にも注目を向ける契機となり、有意義な対話が展開されています。異なる視点からの意見や情報交換が、より豊かな議論やアイデアの共有に繋がることを期待しています。

アリウナ先生:そのうちの1つのケースですが、ゴミの問題について学生が動画を作っていましたね。

張先生:そうですね。実際に、2021年度と2022年度のグランドアワードを受賞した2本の作品についてお話ししましょう。

まず、2021年度の最優秀賞は、インドネシアのガジャ・マダ大学の学生が制作したものです。彼らは現地のゴミ問題に焦点を当て、プラスチックのゴミの山で牛がゴミを食べているという動画を作成しました。この衝撃的な映像は、閲覧回数がわずか数ヶ月で6,000回以上に達し、多くの人々に訴えかけました。

さらに、この動画の影響を受けて現地の政府や団体が動き、1年後にはそのゴミの山がきれいに片付けられる成果が見られました。このような成果は、主催者としても大変嬉しいものであり、昨年の学生フォーラムではインドネシアの学生たちに登壇いただき、その体験を共有しました。

2022年度は世界情勢の変化が影響し、特別な年となりましたが、動画コンテストにもその変化が反映されました。最優秀賞はウクライナの学生が制作した作品でした。昨年12月に行われた授賞式では、彼らがシェルターから参加し、その中で動画制作に対する心得や感想を共有しました。これらの作品、特にインドネシアのゴミ問題やウクライナの戦争の現実を伝える作品は、日本の学生たちにとってはなかなか体験できないものであり、深い印象を与えたことと思います。

アリウナ先生:ゴミ問題やプラスチックの課題に関して、本学の学生たちの関心も高まってきています。実際に、ゴミ問題についての授業において、科学的な手段を用いた解決方法を考えました。

張先生:ゴミ問題を通じて得られたヒントをもとに、今年の夏季集中講義でバイオプラスチックの課題を取り上げました。プラスチックを利用しながらも、自然に戻す方法を模索するという課題です。プラスチックを全く使わないということではなく、便利に活用しながらもどうやって自然に返すか。そういう課題が今年の夏季集中講義に入っています。

海外と日本、異なる環境による危機感の違い

–お話を聞いていると、学生や学校、企業などがSDGsに向けた熱量や想いを強く抱いていることが分かります。私はSDGsと一括りにしても、個々の立場によってその熱量に違いがあると思っていました。そうした中で、なぜ今、このようにSDGsへの関心が高まっているのか、理由を教えていただけますか?

張先生:確かに、その熱量や関心の違いは個々の経験や立場に起因していると考えられます。世界各地での課題、気候変動、紛争など、個人の身近な体験として感じることが増えたからだと思います。これらの問題に対して何らかの行動を起こさなければ、将来的に深刻な影響が出るとの認識が高まり、SDGsに対する関心が高まっているのだと思います。SDGsの17の目標は、社会の課題を解決し改善していくための重要な枠組みと言えるでしょう。ただ、おっしゃる通り、熱量や関心の度合いには差異があることも事実です。

–海外の国々では、島々が海面上昇により消失する恐れや、エネルギーの価格上昇など、環境問題の影響を直接的に受ける場面が多いため、SDGsへの関心が高いのかもしれません。日本はその点、安定したセーフティーネットが整っていることから、環境問題が他人事のように感じられることもあるのかもしれません。そうした中で、日本国内でSDGsへの関心を高めるためにはどのような取り組みが有効だと考えられますか?

張先生:ご指摘の通り、日本は世界的に見ると人種差別や環境問題、気候変動、人口問題などに関しては比較的安定した状況にあると言えるでしょう。ただし、これには逆説的な側面も含まれています。少子高齢化など、目に見えない問題も存在します。こうした問題に関しては、注意深く分析しない限り気づかない部分も多くあります。

例えば、大阪城に見られる美しいお堀も、実はその中にはたくさんのゴミが溜まっています。一見して分からないかもしれませんが、堀の掃除をするとプラスチックゴミや自転車などが発見されます。こうした事実に目を向けることで、問題意識が高まることは間違いありません。

日本においても、インドネシアなど他国に比べて目に見える深刻な問題は少ないかもしれませんが、これに満足してはいけません。未来の社会問題に備え、見過ごされがちな側面を掘り起こし、問題への意識を高めていくことが重要です。

–なるほど。ありがとうございます。では、17か国からの学生が参加する当プログラムには、学生にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?

張先生:まず、最も大きなメリットは「世界との交流」です。大学の垣根を越えて、異なる国々の学生や団体、企業の方々と交流できる機会が提供されます。このようなグローバルなネットワークを形成することは極めて重要です。

さらに、「実践力の向上」も重要なメリットです。今日のグローバルな社会で求められる人材には、実践力が不可欠です。単に授業を受けるだけでなく、その知識を自分なりに活かし、創造的な成果を生み出す力を養うことができます。また、授業や学生フォーラム、動画コンテストなどでのグループワークを通じて、協力する術やコミュニケーション能力も養われます。これらのスキルは、将来の国際社会で必要不可欠なものと言えるでしょう。

これらは学生の立場から見た直接的なメリットですが、大学としてもこのようなイベントの開催にはメリットがあります。学校のブランディングが向上し、多くの関心を呼び起こすことができます。その結果、より多様なコンテンツを提供できるようになり、良い循環を生み出すことが可能です。

アリウナ先生:さらに、学生たちが「私にもできる」と自信を持つことも非常に重要ですね。自分自身で制作し、他の人々に見てもらい、その成果やリアクションを実感することで、学生の自己成長と自己評価が向上します。

張先生:その通りです。学生が主体的に取り組むことは、このプログラムの特徴でもあります。学生たちが自ら行動し、関わることで得る経験は、非常に貴重なものとなるでしょう。

–そうなんですか。正直、こういった学生交流プログラムは大学の顔でもあるので、学生主導を謳いながらも実際には学生主導にはなかなかできないというジレンマがあると思っていました。先生方はどういった立ち位置で関わっていらっしゃいますか?

張先生:はい、まずプログラムの提供側・企画側としての立場を持ちつつ、同時に学生のサポート役でもあると言えます。シンポジウムや学生フォーラムなどでは、時に主導的な役割を果たすことがありますが、動画コンテストにおいては学生たちが感情や思いを表現する場として、学生が主体となります。

また、授業では学生たちのディスカッションや意見表明の場を重視しています。学生たちの声を大切にし、それを授業内のグループディスカッション、レポート、ディスカッションボードなどで活用できるよう努めています。学生たちが積極的に発言し、インタラクティブなコミュニケーションを取れるようなポイントを授業に取り入れています。皆さんの声を反映させつつ、より意義深い学びができるように心がけています。

–なるほど。一方通行ではなく、双方向のコミュニケーションを大切にしていらっしゃるんですね。では、それにより学生の行動や意識に何か変化はありましたか?

張先生:はい、そうです。昨年、SDGs夏季集中講義で「自分の普段の生活に何個の地球が必要か」という質問を取り上げました。学生に自身の生活を維持するために必要な地球の数を計算してもらいました。その結果を元に、SDGsに関連する内容や世界の現状について説明し、学生たちに考えを振り返ってもらいました。

その結果、多くの学生が自身の生活が比較的シンプルなものだと思っていたにもかかわらず、計算結果は3.5個や4.9個の地球が必要という驚きの数字が出ました。この認識のギャップにより、「自分の生活や行動が実際に地球への負荷に影響を与えている」と再認識する機会となりました。

–つまり、自分自身が意識せずに環境に負担をかけている側面もあるということですね。

張先生:その通りです。自分の生活を、他の国々の事例と比較することで、環境への影響をより明確に理解できることがあります。このような再評価を通じて、日常の行動においても徐々に変化が生まれてきたと感じています。

–確かに。それでは、次の質問です。大阪万博が近づいており、このプログラムが大阪万博にどのように結びついていくか、また展望や目標があれば教えていただけますでしょうか?

張先生:このプログラムは、大阪大学の多くの関係者が協力して築き上げている素晴らしいプロジェクトだと思います。大阪・関西万博の開催期間中も、当プログラムは継続的に進行する予定です。現段階では一部のコンテンツは協定校の学生に限定して提供・参加いただいていますが、万博のテーマである「いのち輝く未来社会をデザインする」ことを体現していくため、今後はより広範な参加を促進したいと考えています。

また、大阪万博の開催年において、大阪大学は世界中から注目を集める存在となることが予想されます。そのため、ハイブリッド形式を活用した学生交流イベントやフォーラムを計画しています。万博の注目が集まるなか、どのようにプログラムを展開していくかは未知数ですが、大きな可能性を感じています。

高校生へのメッセージ

–それでは最後に、高校生の皆さんへメッセージをお願いします。

張先生:もし動画コンテストが将来的に全世界や全年齢層に広がる機会があるとしたら、その際には特に高校生の皆さんにもぜひ積極的な参加をお願いしたいと思います。

SDGsは多岐にわたる目標を含んでおり、単なる文字だけでは遠い存在に思えるかもしれませんが、実際には身近な問題であり、皆さんが関与しているテーマです。皆さんの行動がSDGsの目標達成にとって非常に重要です。

先日のららぽーとEXPOCITYで行われた大阪大学共創DAYでは、動画コンテストの受賞作品を上映する「動画で描く未来」というブースを出展しました。その中で、高校生や子供たちも大勢参加をしてくれました。皆さんは熱心に動画を見て、SDGsがどれだけ重要な課題であるかを理解してくれました。

ですから、高校生の皆さんにお伝えしたいのは、SDGsの達成にはあなたの一歩が大切であるということです。我々全員がその一歩を踏み出すことで、SDGsの目標を実現できるのです。些細な行動でも、身近なことでも構いません。どのような小さな行動でも、大きな影響をもたらす可能性があります。

アリウナ先生:そして、高校生や中学生の皆さんは、アプリなどで動画を制作する機会が多いかと思います。動画制作は、このプロジェクトにおいても非常に重要な要素です。ぜひSDGsのための動画を制作し、自分のアイデアを映像にしてみてはいかがでしょうか?

張先生:その通りです。現代の学生は、自分の研究成果や学び、エンターテイメントなどを、文字ではなく映像で表現する能力を持っています。これは今後ますます重要なスキルとなるでしょう。動画コンテストやプログラムを通じて、そのスキルを磨いてみることをお勧めします。