
SDGs 大学プロジェクト × Daiichi Institute of Technology.
今回お話を伺ったのは第一工科大学のSDGs研究会。顧問の村尾 智教授と主将の久 宝真さん、副主将の徳永 晃輝さん、研究会メンバーの高峯 祥子さんの4名に活動の内容や印象に残っているエピソードをお話しいただきました。
目次
第一工科大学の紹介

第一工科大学(所在地:鹿児島県霧島市、学長:都築 明寿香)は、鹿児島県内唯一の私立工学系大学。
航空工学部の下に航空工学科を、工学部の下に、情報・AI・データサイエンス学科、機械システム工学科、環境エンジニアリング学科、建築デザイン学科の4学科を有する。在校生1,236人(上野キャンパスを含む)。
2021年度4月、校名を第一工業大学から第一工科大学へ名称変更。
SDGsを意識し始めたきっかけ
–村尾教授は、どのような経緯でSDGsを意識されるようになったのでしょうか?
村尾 智教授(以下、村尾教授):SDGsへの関心を深めたきっかけは、ローマ教皇の著書「回勅 真の開発とは」と、国連開発計画(UNDP)による「人間開発指数(HDI)」の2点です。
「回勅 真の開発とは」が出版された1987年、日本は深刻な鉱害問題に直面していたのですが、私はこの本を読み、一条の光が差し込んだような気がしました。日本語版が出された1988年には「人間不在の開発から人間尊重の発展へ」という副題が付けられており、これは1980年代後半に世界の価値観が人間中心に変わり始めたことを示していると思います。当時、私は新社会人として多くのことに悩んでいたのですが、この本に大変感銘を受けました。
「人間開発指数」とは、GDP(国内総生産)とは異なる、識字率や平均寿命などを考慮して国の発展度を測る新たな指標です。例えば、中国はGDPでは世界第2位ですが、HDIでは第79位となります。つまり、人間関連の指標を加えることで国の発展度はずいぶん異なって見えるということですね。この指標を作った人に直接確認したところ、ローマ法王の「回勅」に影響を受けたものであることがわかっています。
さらに2005年には「人間の安全保障」の概念が国際文書に盛り込まれるようになり、これは日本外交の重要な柱の一つにもなりました。この出来事によって、世界には人間中心の考え方がさらに広まったと思っています。
これらの経験から、私はSDGsの提唱を自然な流れとして受け入れました。初めて「SDGs」を耳にした時、世界がこれまで築き上げてきた成果が整然としたかたちにまとまった印象をもったことは、今でも覚えています。
SDGs研究会を立ち上げた経緯
–村尾教授が第一工科大学でSDGs研究会を立ち上げられた背景や経緯について教えてください。
村尾教授:私がSDGs研究会を立ち上げた大きな理由は、学生たちの社会問題への理解を深め、彼らの視野を広げたいという思いでした。
5年前に本学の工学部に着任した時、多くの学生がエンジニアリングに非常に長けているものの、社会問題に対する理解が浅いと感じました。そこで、多様な社会課題を包括する「SDGs」が、学生たちの視野を広げる良い教材になると考えたのです。
また、本学は国際化に注力していますが、地方に位置するため、都心部に比べて国際関係の経験機会が限られています。学生たちに国際的な視野を身につける機会を提供することも目的の一つとして、この研究会を立ち上げました。
学生がSDGs研究会に参加したきっかけ
–学生のみなさんがSDGs研究会に参加されることになったきっかけを教えてください。
久 宝真さん(以下、久さん):私は鹿児島県の喜界島出身です。メディアや観光客の方からは海が綺麗だと頻繁に紹介されているのですが、地元民としては、海岸に散らばるごみを見て、「本当に美しいのだろうか?」と違和感をもっていました。このような経験からも、環境問題やSDGsに興味を持ち始めていたところ、研究会が発足したので、参加を決めました。
徳永 晃輝さん(以下、徳永さん):私の父は浄化槽の仕事をしており、SDGsの目標6の「安全な水とトイレを世界中に」に深く関わっています。高校を卒業する頃には、周囲にもSDGsの考え方が広がり始めており、私自身も興味を持っていました。大学に入学したタイミングで村尾教授から研究会に誘っていただき、参加することにしました。
高峯 祥子さん(以下、高峯さん):私はもともと村尾教授の講義の中でSDGs研究会に興味を持っていました。同時に学園祭のオンライン発表への参加なども経験し、この研究会への参加を決めました。
SDGs研究会の活動について


– SDGs研究会ではどのような活動を行っているのか、村尾教授からご説明いただけますか?
村尾教授:SDGsには17の目標がありますが、私たちは特定の目標に限定せず、複数のプロジェクトに取り組んでいます。
最初に始めたプロジェクトは、鹿児島県の金山(きんざん)の伝統を守ろう、という取り組みです。鹿児島には多くの金山跡があり、それらがあった集落に住んでいる高齢者の方々から地域の歴史や文化について話を聞き、記録しています。この活動はSDGsの目標の11である「住み続けられるまちづくりを」に関連し、活動内容を学術誌にレポートとして発表しています。これまでに2本のレポートを発表しており、今年の冬にはさらにもう1本発表する予定です。
2つ目のプロジェクトは、放置自転車問題の解決です。本学のある霧島市には年度末に自転車を放棄してしまう若者が多く、市の処分費用の増加という問題を生んでいます。本学としても問題解決に協力しており、自転車の持ち主に責任をもってもらうため、例えば防犯登録の重要性を伝えるポスターを作成し、配布や告知を行っています。
さらに、情報電子システム工学科の学生もプロジェクトに参加し、不要な自転車を交換できるプラットフォームの設計を進めています。この取り組みはSDGsの目標の12である「つくる責任、つかう責任」に沿っていますね。
3つ目のプロジェクトは、保護猫の取り組みです。霧島市では「猫に餌をあげないで」という看板があったり、そもそも「地域猫」という概念の認知が低かったりと、保護猫の取り組みに対する理解があまりありませんでした。そこで「鹿児島県霧島市動物愛護推進連絡協議会」が結成され、地域猫のTNR活動を推進するグループがいくつか立ち上がったのです。しかし、どのグループも若い人との接点がなかったため、本学に相談があり、我々が協力することになりました。
本学には県外や海外から来る学生も比較的多く、彼らは地域のボランティア活動に積極的なのですが、地元の方々にはあまり知られていませんでした。保護猫グループとの協力により、学生たちの活動が地元の方々にも認知されるようになり、双方にとって良い関係を築くことができています。
そのほかにも、私が部長を務める国際部で外務省や国際機関の方にオンラインで講演していただく際、研究会のメンバーがサポートしてくれています。また、最近では本学の系列校である第一幼児教育短期大学にもSDGsサークルが設立され、今年の12月から共同で活動することになりました。
SDGs研究会における学生の役割
–学生さんたちは、どのようなかたちで活動に参加しているのでしょうか?
村尾教授:基本的には、課題ごとに一人の学生を担当者として指名しています。これは、プロジェクトの担当者として、初めから終わりまでの過程に責任をもつ経験と学びを得てもらうことを目的としています。もちろん担当者ひとりでプロジェクトを進めるわけではなく、周囲の学生が担当者をサポートするかたちですね。
–今回インタビューに参加している久さんと徳永さんは研究会の主将と副主将とのことですが、どのように活動に関わっていらっしゃるのでしょうか?
徳永さん:久さんと私は、主に研究会の活動全体を監督しています。私自身は金山の取り組みに関心を持っているため、その分野に少し重点を置いて活動していますね。
村尾教授:主将と副主将には、研究会全体を見る役割をお願いしています。徳永くんは金山に関する卒業論文に取り組んでいるため、金山に関連するプロジェクトに深く関わっていますね。
一方、久くんは地域振興に興味を持っており、自分たちの住む町をより良くして地域に誇りを持つこと、つまり「シビックプライド」に関連した研究を進めています。彼は、まだ周囲が気がついていない地域の価値に注目しているため、今後は地域振興の分野に進んでいくのではないかと思っています。
高峯さんは放置自転車の活動や金山の活動を初め、第一幼児教育短期大学にあるSDGsサークルとの協力などさまざまな活動に参加しています。
印象に残っているSDGs研究会の活動


– SDGs研究会での活動を進める中で、特に印象に残っている活動は何ですか?
村尾教授:私にとって特に印象深い活動は、保護猫の活動です。このテーマは学生たちにとっても重要だと思っていますし、関わる人々の情熱が強く感じられます。市議会議員の方々もこの活動に関わっており、大きなうねりを生む可能性も感じています。保護猫の活動は、今後の主要な活動の一つになりそうな予感を持っていますね。
徳永さん:私はやはり、金山の活動が最も印象に残っています。私の地元には高齢者の方が大勢住んでいたからか、鹿児島の方言を理解し、高齢者の方々と交流することが得意で、楽しみながら取り組むことができています。金山の昔話を聞き取り、それをなるべく生きた言葉で標準語に翻訳したことは、私にとって特に思い出深い経験です。
久さん:私にとって印象的だったのは、霧島市議会との交流会です。この会では市内の交通がテーマとなり、私たちは学生の立場から、バスの運行や遅延に関する問題を提起しました。その結果、スマートフォンでバスの運行状況を確認できるシステムが整備されたのです。学生の意見が実際に反映されたことは、非常に印象深い経験でした。
高峯さん:私が印象に残っている活動は国分駅と隼人駅付近の放置自転車対策のために市役所へ訪問し、実際に放置されている学生が置いていったと思われる自転車を見に行ったことです。実際の現場を自身の目で見ることで地域の課題についての理解をより一層深めることができました。
活動を通じて生まれた、SDGs研究会および学生の変化

–村尾教授から見ていて、SDGs研究会に参加する学生さんたちに変化はありますか?
村尾教授:はい、学生たちには確かに変化が見られます。研究会では外部の人々との接触が非常に多いため、学生たちはさまざまなスキルを習得しています。時間厳守や約束の遵守、忘れ物をしないことなど、当たり前ではありますが、このような基礎的で重要なスキルが身についてきたことは確かです。
さらに、計画的に物事を進める力や、短時間で手際よく説明するスキルも向上していると感じます。特に市議会議員の方々との交流では、最初は苦労や緊張がありましたが、プレゼンテーション技術が格段に向上しました。
学生たちは社会人としても成長しており、日常の会話ではウクライナやハマスなどの時事問題について話すことも増え、視野が広がっているとも感じますね。
–久さんと徳永さんは、実際に研究会への参加を通じて、何か自分自身の変化を感じられていますか?
徳永さん:大学は多様な出会いと経験の場ですが、私が入学した頃にちょうどコロナ禍が始まり、周囲との交流の機会が限られていました。しかし、SDGs研究会に参加してからは、ボランティアやイベント主催などの活動に積極的に関わる機会が格段に増えたことは、私にとって大きな変化だったと感じています。
久さん:個人的には、日常生活での変化を感じています。例えば、ゴミの分別や節水に自然と気を配るようになりました。また、インターンシップを通じて、企業が環境に対してどのように配慮しているのか、関心をもつようになりました。
–研究会が始まった当初と現在を比較すると、どのような変化がありますか?
村尾教授:最初の年は無理やり人を集めた経緯もあったため、学生側も「何をすればいいですか?」と受け身の姿勢でした。しかし、2年目からは徐々に学生たちの中で自分たちのやりたいことが見えてきたようで、今では、学生自らが企画を提案するようになりました。これはとても大きな変化だと思っています。
さらに、現在活動の中心となっているのは、自発的に研究会に参加してくれた学生ばかりです。これも、発足当初とは大きく異なる点ですね。
今後の展望
–村尾教授の今後の展望について教えてください。
村尾教授:今後もさまざまな活動に取り組みたいと思っています。特に、学生たちには地域住民や議員の方々をはじめ、さまざまな方との交流を通じて、自分たちが解決に貢献できる社会課題を見つけ、取り組んでいってほしいです。また、実際のプロジェクトが決まったら、自身が最後まで責任をもって取り組む経験や資質を身に付けてほしいですね。
この研究会は発足して間もないため、今後のことはまだ未知数ですが、基本的なことから始めていきたいと考えています。将来的には、海外にある協定校の学生との交流も検討したいです。すでにJICAの研修生とは交流会を行っているため、こちらも発展させていきたいですね。ほかにも外務省や国際機関、海外の大学などとの繋がりを活かし、学生たちに国際的な視点を身に付けてもらいたいと考えています。
また、徳永くんと久くんは大学院に進学する予定です。彼らとはもちろん、OBとの交流も今後はもっと深めていきたいと思っています。
–学生のみなさんの将来の展望や個人的な目標について教えてください。
徳永さん:私は、目指している職業がSDGsと密接に関連していることもあって、研究会での経験は今後も役立つと考えています。大学院生や社会人になっても、これまでの経験を活かし、活動を継続していきたいです。現在のように直接的な活動は難しくなるかもしれませんが、後輩たちをサポートするかたちで関わり続けたいと思っています。
また、金山についてはまだ明らかになっていないことも多々あるため、大学院に行ったあとも地域の方々との交流を続けながら、現在の研究を深めていきたいです。
久さん:私は現在、大学院のある地域で開催されるイベントにも携わっており、シビックプライドに関する研究を進めています。大学院でも地域活動に積極的に参加し、このテーマをさらに掘り下げ、研究を続けていきたいです。
高峯さん:私は放置自転車問題に取り組むなかで、大学生が中高生に向けて啓発活動を行うことの重要性を感じています。今後も積極的に情報を発信し、問題解決に対する意識を地域に広げていきたいです。さらに、市議会議員の方をはじめ、この研究会で築いたネットワークをさまざまな問題解決に繋げていきたいと思っています。