SDGs 大学プロジェクト × Okinawa Christian Univ.

沖縄キリスト教学院大学の紹介

沖縄キリスト教学院大学は、沖縄県の西原町にキャンパスがある私立大学です。沖縄を国際的な平和の島にしていく人材の育成を目指し、当時の沖縄キリスト教団の指導者達が1957年に学院を創立しました。

本学ではグローバル社会で必要となる英語コミュニケーション能力の養成に力を入れています。充実した海外研修・留学プログラムはもちろんのこと、1~2年次には週の16時間を英語学習の科目に充てることで、国内留学しているような感覚で英語を学ぶことができます。

また、教員全体の25%を外国人教員が占めており、その比率は県内一。英語のレベルごとにクラスを分け、授業を少人数制とすることで、学生一人ひとりに対してきめ細やかな指導をしています。

他にも、キャンパス内のカフェで外国人教員と食事を楽しみながら英語でコミュニケーションできる場を設けたり、英語によるスピーチコンテストを毎年開催したりするなど、英語に触れるさまざまな機会があるのも特徴です。

「Ladybird(レディバード)」とは

本学の人文学部英語コミュニケーション学科の学生たちにより、2021年に結成された学生グループ「Ladybird」は、女性が経済的な理由から生理用品を購入する際に直面する「生理の貧困」に焦点を当て、その解決に向けて様々な活動を展開しております。

今回、Ladybirdの顧問である仲里和花 准教授にお話を伺いました。

「生理の貧困」への理解を広げるために

-Ladybirdが結成された背景やきっかけについて教えていただけますか?

日本で生理の貧困の問題が注目を浴びるようになったのは、2020年以降のことです。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、小売業や飲食業、旅行業が経営難に陥ったことは記憶に新しいと思いますが、これらは特に女性従業員の比率が多い業種です。その煽りを受けて多くの女性が失業し、貧困に追い込まれ、その結果として生理用品の購入に苦労するという問題が浮き彫りになりました。

2021年ごろ、本学の英語コミュニケーション学科で教鞭を執っていた玉城直美先生が、講義でこの生理の貧困について取り上げました。そして、この問題に関心を抱いた5名の4年生が、生理の貧困に関するアンケート調査を講義の一環で実施しました。

調査では、沖縄県内の大学生、短大生、専門学生、主婦・社会人や県外の学生など236名から回答を得ました。その結果、「トイレットペーパーやティッシュペーパーのような生理用品以外のもので代用したことがある」という回答は2人に1人に当たる47.5%、「生理用品を買うのに苦労した経験がある」という回答は5人に1人に当たる20%を占めていました。この結果に基づき、深刻な状況を認識した学生たちが立ち上げたのが「Ladybird(レディバード)」です。

生理の貧困には経済的な貧困だけでなく、知識的貧困や教育的貧困も結びついています。そのため、Ladybirdではこれまでタブー視されてきた生理とその貧困に関する問題への理解を深めるため、さまざまな活動を展開してまいりました。

具体的には、性別に関係なく生理を「自分ごと」として捉えることを促す趣旨から、5月28日を「生理をジェンダーレスで考える日」と制定しました。その他にも、学内で生理ナプキンを無料で提供する取り組みや、地域の中学校で出前授業を実施するなど、さまざまな施策を展開しています。

記念日の制定や生理用品の無償設置、出前授業も

-Ladybirdの具体的な取り組みや成果を詳しくお聞かせいただけますか? また、活動に対してどのような反応や感想があったかも教えてください。

まず、初代メンバーの発案により、5月28日を「生理をジェンダーレスで考える日」として制定しました。この選定の理由は、生理が平均28日周期で約5日間続くとされているためです。

記念日の制定には、日本記念日協会への登録申請と記念日登録審査会の審査が必要でした。活動資金にはクラウドファンディングで募ったものを利用し、2021年11月4日に登録が許可されました。

また、学内のトイレに生理用ナプキンを無償で設置する取り組みも進めており、「生理の貧困を考える会おきなわ」というボランティア団体を通じて、本学が所在する西原町の社会福祉協議会に相談し、コロナ禍時に貧困家庭に無料配布された生理用ナプキン4000個を寄贈していただきました。

これに加え、学校や企業のトイレに生理用品を設置する活動を支援している「フェムテック・ジャパン」の協力を得て、ノンポリマーナプキンを半額で購入し、学内に設置しています。この購入費用には、本学の後援会からの支援金を活用しています。

さらに、地域の中学校で出前授業を行い、子どもたちが生理に関する知識を深め、生理の貧困に対する理解を広げる機会を提供しています。この授業は男子も含めて共通で行い、理論だけでなく実際に生理用ナプキンに触れ、吸収性を確認する実習も行います。初めは抵抗感を示す生徒もいますが、授業を通じて段々と慣れていく様子が見受けられます。

受講生たちからは、「生理について話すことは、恥ずかしいことじゃない」「生理は健康の証、出産のために大切なこと」などの感想が寄せられ、出前授業を通じて中学生たちの生理に対する前向きな変化が見られました。

その他、本学の学園祭や5月28日前後には普及啓発イベントの開催を予定しています。2022年の普及開発イベントでは、生理用ナプキンの無償配布やパネル展示、書籍の展示などを行いました。パネル展示では、生理用品の基本的な情報の他に、海外の生理事情やアンケート調査の結果報告も掲載しました。

学生たちは展示を通じて、「世界の生理事情を知ることができた」「性別に関係なく生理に優しい社会になってほしい」などのコメントを寄せ、大きな反響を得ました。これらのイベントを通して、学生たちが生理について考え、前向きな態度を持つきっかけを提供できたと考えています。

-生理の貧困のような社会課題の解決のためには、情報発信が不可欠だと思います。大学内外で情報発信をする上で工夫している点やこだわっている点をお伺いできますか?

イベント告知や活動報告などは、Instagramや本学のホームページを通じて学外に情報を発信しております。中学校での出前授業実施時には、必ず本学の企画推進課からプレスリリースを発表し、地元メディアに情報提供を行っております。この結果、地元の新聞やテレビで出前授業の様子が取り上げられ、広く認知されることとなりました。

情報発信において最も重要視しているのは、Ladybirdの活動目的が明確に伝わるような発信を心掛けることです。Ladybirdの目的は、生理のタブー視を解消し、生理についてジェンダーレスな視点で考える機会を提供することです。

あくまで私たちの目標はLadybirdの認知度向上ではなく、生理の貧困に関する理解とその認知度の向上を通じて問題解決に貢献することです。それを取り違えず、初心を忘れないような情報発信を心がけています。

忍耐強く取り組みを定着

-中学校での出前授業など、Ladybirdの活動は学外にも広がりつつあります。今後も学外での活動を広げていく中で、どのような目標や期待を持っていますか?

やはり1番重点を置いている活動は、小中学校での出前授業です。今後もこの取り組みを拡充し、より多くの学校に届けることを計画しております。

ただし、学校へのアプローチは簡単ではありません。いきなり「出前授業を実施させてください」と申し出ても実現することは難しく、まずは地域の教育委員会や学校の校長・教頭先生に働きかけ、了承を得る必要があります。

現状、出前授業を開催する学年の教員陣からの”納得”が高いハードルとなっています。特に、まだ生理が始まっていない子どもたちに対する心理的な懸念が存在しています。一部の学校では、生理用ナプキンをトイレに設置していることが逆に問題となり、いたずらの機会を増やす可能性も指摘されています。

このため、教員向けの模擬授業を実施し、生理に対する理解を深めてもらうとともに、前向きな捉え方を育む取り組みを進めています。活動を確実に根付かせるためには、段階を踏みながら忍耐強く継続する必要があります。

これまでの出前授業は主に中学生が対象でしたが、2024年2月には初めて小学校での実施も行いました。内容には、小学生に分かりやすくアプローチできるような工夫を凝らしています。今後は、西原町や南城市などにも展開し、より多くの地域に浸透させたいと考えております。

また、生理への理解を深めるイベントも積極的に開催していく予定です。2024年5月26日には、思春期保健相談士による講演会や生理に関するワークショップ、悩み相談コーナーなどを企画しております。また、資金調達の一環としてLadybirdのオリジナルグッズを販売する計画も進行中です。

さらに、学内のトイレに無償で生理用ナプキンを設置する取り組みも継続していきたいと考えています。現在は西原町の社会福祉協議会から提供された生理用品を使用していますが、今後は地元の企業などからも生理用品を寄贈していただけるようにPRしていきたいと思っています。

性別を問わず、生理を「自分ごと」にする大切さ

-Ladybirdの活動を通してどのように社会に貢献していきたいか、その想いをお聞かせいただけますか?

「生理の貧困」はSDGsの目標のうち、特に「3.全ての人に健康と福祉を」と「5.ジェンダー平等を実現しよう」に関連しています。

目標3では、全ての人が性や出産に関する保健サービスや教育を受け、情報を得られるようにするという具体的な目標があります。目標5は男女平等を実現し、全ての女性の能力を伸ばして可能性を広げることを目指すものです。

具体的には、世界中の誰もが同じように、性や子どもを産むことに関する健康と権利が守られるようにするという目標を掲げています。

生理は、性や子どもを産むことと深い関係にあることは言うまでもありません。生理は出産に向けて体が準備を始めた証であり、健康な大人の女性になるために必要なステップです。それを、女性だけでなく男性もしっかり理解することが大切なのです。

子どもを産んで育てることは、女性だけの問題ではありません。性別を問わず生理について考えることで、ともに家族を作るパートナー同士が一緒になって考えていく問題だという認識を深めることが重要だと思います。

Ladybirdの活動は、生理の問題について、男女の壁を乗り越えてジェンダーレスに考えることを促すものです。男女共同参画社会を築くためには、男性も女性も一緒になり、子どもを産み育てることを支えていく必要があります。その実現に向け、とても重要な貢献をしているのではないでしょうか。

活動を通し、男性の理解も少しずつ広がってきていると感じます。特に若い世代では生理をタブー視する感覚は減っているように思います。Ladybirdのメンバーと交際している男子学生が、生理用ナプキンを毎月プレゼントとして買ってきてくれることもあるそうです。

Ladybirdの取り組みはまだまだ小さな活動です。しかし、この小さな積み重ねが子どもたちや学生たち、そして大人たちの意識を少しずつ変革させ、社会を変える力につながっていくことを期待しています。

社会を動かす学生たちの可能性

-仲里准教授から見て、Ladybirdの学生たちにはどのような成長がありましたか? また、学生たちに今後期待することを教えてください。

Ladybirdのメンバーは初めは5人から始まり、現在では20人まで増加しました。
初代メンバーの熱意や影響力、そしてそれを引き継いだ後輩たちの精力的な努力により、組織は成長を遂げました。私は顧問として、先輩たちの意志や熱意を引き継いだ後輩たちがどのように成長しているかを近くで見守っています。

例えば、初めのうちは出前授業を進める学生たちも先輩の手本を見ながらのものが多かったです。しかし、授業の回数を重ねるうちに、生理の貧困に関する知識や経験を獲得し、自らの言葉で子どもたちに分かりやすく伝えるようになりました。彼らの成長ぶりは非常に頼もしく、成長を感じますね。

自らが生理について悩んだ経験から、女性が生きやすい社会を築くために生理に関する理解を深めたいと考えるメンバーも多くいます。そうした学生たちにとって、出前授業を受けた子どもたちが生理に対して前向きな態度を持つ姿勢は、大きなモチベーションとなっているでしょう。学生たちの発想やアイデアには驚かされることがしばしばあります。彼らにはこんな能力や可能性があるのだと感心しますし、私自身も新たな気づきを得ています。

学生たちは自身の活動を通じて、社会や人々の意識を良い方向に変えていく力を持っていることを実感しているでしょう。たとえ小さな一歩であっても、自分の可能性を信じ、社会に貢献できるという自覚を持ち続けてほしいです。

また、新たな挑戦を通して達成感を味わうことで、社会に貢献することの喜びや楽しさをますます知ってほしいです。本学を卒業してもLadybirdでの活動経験を生かし、自身の力や可能性を拡げ、社会に貢献できる人材となってほしいと期待しています。