
SDGs 大学プロジェクト × Ishinomaki Senshu Univ.
目次
石巻専修大学の紹介

石巻専修大学は、宮城県石巻市に位置する理工学部、経営学部、人間学部の3学部構成の文理融合の総合大学で、地域の人的・物的資源を活用した実践的な演習・実習・実験を取り入れたカリキュラムを各学部で編成しています。
教育目標として「社会の諸問題に、自分の役割を自覚して取り組むために、生涯にわたって学び続けることができる人材を、”実践的な教育”によって育成すること」を掲げており、学びはキャンパス内だけに留まらず、石巻湾や牡鹿半島等の豊富な自然をフル活用した実習、地元企業や高校生と連携した地域活性化を目指すプロジェクト活動、地域の幼稚園や小学校と連携し教育の現場を学ぶ実習等、石巻圏域全てを学びの場としており、これらのフィールドを活用した文理横断的なプロジェクトなども展開しています。
また地域に密着した大学として、地元のイベントや祭りに積極的に参加しており、学生を中心にイベント企画・運営を行っています。
SDGsに取り組まれたきっかけ
LIVIKA(島﨑): 石巻専修大学で教鞭を執るようになったのは、3年前のことだそうですね。教育の現場でどのような活動をされていますか?
梅山 教授: はい、そうです。現在は理工学部で講義や研究指導をしています。私自身、環境に対する取り組みや街とクルマの社会的責任についての経験を生かして、学生たちと一緒にSDGsに関する取り組みをしています。
LIVIKA(島﨑): SDGsに取り組むきっかけは何だったのでしょうか?
梅山 教授: 前職で自動車開発の経験をしたことがきっかけです。当時、欧州で広がった二酸化炭素(CO2)に対する規制への取り組みがありました。トヨタの生産台数が増えるにつれて、社会的責任が大きくなり、CO2排出量削減のシナリオを考える必要性に迫られました。その経験から、環境に関する取り組みを社会的な責務と考え、SDGsに取り組むようになりました。
LIVIKA(島﨑): その時の環境技術の成果について教えてください。
梅山 教授: 自動車のCO2排出規制により140g/kmに収める必要がありましたが、現在、おそらくはトヨタだけが満たしていた状況と思います。30年を掛けて20~30%の燃費改善にも取り組みました。その当時の環境戦略は、ハイブリッドの全面展開になりました。台数や排出量の計算をし、自動車工業会に報告等することで、日本のCO2戦略にも組み込まれていきました。
民間企業とSDGs
LIVIKA(島﨑): トヨタが環境に配慮したビジネス展開を進めるきっかけについて教えていただけますか?
梅山 教授:はい、豊田章一郎さんをはじめ経営トップがそのような号令を出されたことが大きなきっかけでした。また、渡辺捷昭さんや豊田章男さんのように歴代の社長さんたちも、この方向性に向けた努力を重ねてきました。
LIVIKA(島﨑): トヨタが環境に対して行った取り組みについて、具体的に教えていただけますか?
梅山 教授:トヨタの自動車運輸部門では、日本だけではなく各国でも環境対策を進める必要を強く感じ、クリーンなエネルギーの使用を目指す方向を決めました。多様なクリーンエネルギー利用を目指す全方位戦略です。
LIVIKA(島﨑): その中でも、水素エンジン開発に取り組むトヨタの話があると聞きましたが、本当でしょうか?
梅山 教授: 実際には、私たちはその地域で利用できるクリーンな燃料を使おうということです。バイオ燃料を利用することも考えていましたが、世界の食料需給に与える影響を鑑みたとき、弾みがつかなかったということもありましたが、現在は食料とバッティングしないバイオ燃料も出てきており、バイオ燃料を利用したハイブリッドシステム搭載車の実現が近いと感じます。
LIVIKA(島﨑): 以前、大勢のトヨタの社員が本社に通うために渋滞が起きたという話がありましたが、それは本当でしょうか?
梅山 教授: はい、それは本当です。当時の社長から「1万人も技術部に通って渋滞が起きている。解決策を考えろ」とのお達しがありました。そのときに半径1kmを地下に潜らせる話が出てきましたが、その話からトヨタの未来都市づくりが始まりました。その流れで、「人にやさしい街」を研究していました。
LIVIKA(島﨑): その後、豊田中央研究所に移籍していますが、研究所ではどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?
梅山 教授: 豊田中央研究所では、AIを活用した排ガスシステムやエンジンの開発、人工光合成など、様々な先端技術開発に取り組むことができました。私は「未来を描き、そのビジョンを達成するために必要な技術を取り入れていくことが大切」と考えています。そのために、大学からのお誘いを受け、奮闘している最中です。
SDGsの具体的な取り組み
LIVIKA(島﨑): SDGsについて、詳しい話を聞かせていただけますか?
梅山 教授: 実は、国連で合意されたことをきっかけにSDGsについて知りました。個人的には当たり前のことだと感じました。そのため、これに取り組むことこそ大学の役割だろうと思い学長へ伝えました。
LIVIKA(島﨑): 民間企業とSDGsについて、どのようにお考えですか?
梅山 教授:トヨタなどは世のため人のために取り組んでいます。結果としての企業業績は後からついてくるっていう話です。そういった考え方を持っている企業は古くからあると思いますが、今の時代でも大事なことだと思います。
LIVIKA(島﨑): SDGsがなぜ重要なのか、お考えをお聞かせください。
梅山 教授: 地球環境や資源問題の解決、人々の幸福な暮らしなしには地球は長くは持たないという発想の元に、私たちは何に取り組むべきか考える必要があります。そこで、SDGsがわかりやすく端的に整理してくれていると思います。私が石巻に来て思うのは、14万人ほどの人口がある石巻ですが、地域コミュニティがかろうじて維持されていて、話し合えば意見がまとまるかもしれないということです。私なりに社会問題を整理した「社会問題マップ」を使って、経済、地球環境、生物多様性、文化、教育、都市の衰退などの課題を見えるようにしました。更に具体的に石巻にフォーカスして見直そうと考えています。
LIVIKA(島﨑): なるほど、広い範囲の問題が含まれているんですね。その中で、特に注目している問題はありますか?
梅山 教授:石巻市に当てはめてみたところ、全ての問題が当てはまっていたんです。そのため、具体的な取り組みを打ち出していくべきだなと感じています。
LIVIKA(島﨑): なるほど、具体的な取り組みということですが、どのようなことを考えているのでしょうか?
梅山 教授: 手をひとつずつ進めていくのは大変な作業ですが、少しずつ具体的な取り組みを進めているところです。石巻市の場合、地震と津波の被害があったため、それに関する取り組みを優先的に進めることが重要です。また、観光振興なども含め、都市の魅力を高めることで地域経済の活性化の上で大切です。
初めのプロジェクトとその進行状況
LIVIKA(島﨑): 最初にできたプロジェクトは何でしたか?
梅山 教授: 最初に私たちが取り組んだプロジェクトは、牡鹿半島の高台に移転して住んでいる人が高齢化のために移動困難になるのではないかという問題でした。今は、自動車の運転免許を持っていて、お互いに車に乗せてあげて移動していても、何年か経つと運転できなくなるため、自分で運転しなくてもすむ移動手段が必要であると考えました。そういった自動運転車の研究を進めています。
LIVIKA(島﨑): どのように進めていますか?
梅山 教授: 学生たちと一緒に試験的に研究を進め、問題がなければ、実用化することを目指しています。雪が降ってもわかるように道路に目印を設置し、自動運転車が運転可能な環境を整えることが必要です。今後、行政との話し合いも必要になります。
興味深いプロジェクト
LIVIKA(島﨑): 他にも興味深いプロジェクトはありますか?
梅山 教授: 最近は、CO2の排出量削減が大きな問題になっています。トヨタは、工場からのCO2排出量の削減を進めています。しかし、今後とも大量に廃車になるクルマのユニットを再利用する方が直接的にCO2削減につながります。プリウスのモーターユニット関係に携わっていたからこそ言えますが、モーターは壊れにくいので少し整備することでモーターを再利用することができます。そのように使える部品を集めることで、環境にやさしく、かつコストを抑えた電気自動車をつくり上げ、自動運転機能をつけて安く湾岸部での運用を目指しています。このようなハイレベルなリサイクルが今後ますます重要になってくると思います。余談ですが、震災時に使用していた緊急電源用の廃棄部品を利用して、プラグインハイブリッドの充電も行ってみたところ、毎日20kmの電気自動車走行ができています。
LIVIKA(島﨑): 見識者は、その取り組みについて「なんか古そうだし、発電効率が悪いんじゃないか」といった意見を持っているようですが、それについてどう思いますか?
梅山 教授: 効率性はそこまで重要ではありません。私たちが大切にしているのは、発電の絶対量を取ることです。足りなければ並べればいい。それによって、一部の地区では電力も自給自足できるようになるかもしれません。私たちの取り組みは、一見地味なものかもしれませんが、地域のコミュニティにとって重要なものだと考えています。
地域コミュニティへの貢献
LIVIKA(島﨑): なるほど。具体的にどのような形で、地域のコミュニティに貢献しようとしているのでしょうか?
梅山 教授: 充電スタンドや中古部品を使った電気自動車をシェアリングすることで、コミュニティに必要となる足を提供できればと考えています。また、石巻が発祥の地である日本カーシェアリング協会では、寄付してもらった中古車をボランティアドライバーによって買い物や病院への送迎などを行っています。そのような団体に地元の企業で仕立てた電気自動車を提供できるといいと思っています。未来都市の取り組みということで、市役所や東日本自動車株式会社さんと話を進めておりますが、今年は地元のバッテリーメーカーも含めて実験を予定しております。これらの取り組みを通じて、地域の人々がより快適な生活を送れ、かつ地元の企業も栄えるように支援しています。
防災先進都市としての最終的なゴール
LIVIKA(島﨑): ありがとうございます。他にも、施策があれば教えていただけますでしょうか。
梅山 教授: 石巻市では、様々な災害に対しての検討が進んでいます。
梅山 教授:最近の情報で、浸水被害がもう少し広くなるかもしれないという危惧があります。住居となるエリアが沈む可能性は否定できません。しかし、そこまで考慮するとなると、最終的な結論としては日本の島ですから山のてっぺんに行くしかなくなってしまいます。そこで、IT技術を持ち込んで、なんとかできないかを考えています。最近では、NTTが車両に搭載したドライブレコーダーでリアルタイム性の高い情報を集約するシステムの実証実験を行っており、この技術は交通流や邪魔物の被害などが分かるため、災害時には非常に有用です。こういった企業と一緒に取り組むことが必要と感じています。これにより、石巻市が災害に強い都市を目指すことを考えています。「防災先進都市」を目指すということです。
LIVIKA(島﨑): なるほど、防災先進都市としてのアピールが大事ということですね。最終的なゴールは何ですか?
梅山 教授:まずは、石巻市の緊急避難誘導システムを構築することに取り組んで、防災先進都市にふさわしい機能を備えることです。更に、洗い出した地域問題に先端技術を取り入れて一つずつ解決していき、住みやすい都市の実現していく。最終的には、石巻と同じように100年前には漁業の町だったアメリカのボストン市が、大学誘致やベンチャー企業の育成を地道に行ったことで今のような都市になったように、石巻市も100年をかければボストン市以上の未来都市にすることができると考えています。
▼取材にご協力いただいた大学開放センターはこちら 開放センター|石巻専修大学