SDGs 大学プロジェクト × Hiroshima Univ.

広島大学の紹介

広島大学キャンパス(広島大学広報室 提供)

広島大学は、豊かな自然環境に囲まれた広島県東広島市鏡山に本部を構える国立総合研究大学で、学部・大学院を通じて幅広い学問領域で教育と研究を行っています。2024年に創立75周年を迎えますが、最も古い前身校が設立された1874年から数えると2024年がちょうど150周年にあたります。

また、広島大学は、変化する社会に対応できる柔軟な思考力と専門知識を持った人材の育成に力を入れており、国際交流プログラムや産学連携プロジェクトを通じて異文化体験や実践的なスキルを身につける機会も積極的に提供しています。

広島大学での学びは、将来の夢や目標に一歩近づくものとなるでしょう。ぜひ、広島大学の魅力を体験し、自身の可能性を広げてください。

SDGsに取り組まれたきっかけ

広島大学は、被爆地広島に、原爆の惨禍から立ち上がり、復興と再生のシンボルとして、師範学校をはじめとするさまざまな学校を統合して1つの総合大学を作ったという経緯があります。

このような、戦後の復興とともに国立の総合研究大学として発展してきた経緯があるので、平和は、大学の非常に重要な精神的な支柱であり続けています。

そのような中、SDGsが始まり、本学にとって精神的な支柱である平和というものを、もう少し具体的な活動の目標としてとらえて共有すべきではないかということになりました。そして、これがちょうど大学がSDGsの取り組みに対してどう貢献するかというタイミングと一致していたんですね。

SDGsは、より良い社会にしていくために、あらゆる側面の目標をどう達成していくかということだと思うのですが、SDGsの実現には平和は不可欠ですし、平和でなければSDGsの実現はできません。そうした観点から、広島大学では新しい平和科学の理念として「持続可能な発展を導く科学」を目指し、全ての分野で自分のものとして考え、教育研究の先に平和の実現を見据えて、関連づけてやっていくということでSDGsの取り組みを始めました。

FE・SDGsネットワーク拠点(NERPS)について

「2023年NERPS国際学術会議(The NERPS Conference 2023)」
アジア工科大学院(Asian Institute of Technology (AIT))とタイで共同開催

またそれは、広島大学が地球環境研究に対して何か貢献しようとしていた時で、今後大学の中で組織をどう作っていこうかと考えた時に、「持続可能な地球社会の実現を目指す国際協働研究プラットフォーム(Future Earth)」の日本委員会の一員として、またSDGsに関する学内外のコミュニケーションの窓口として、FE・SDGsネットワーク拠点(NERPS)を立ち上げました。

SDGsのゴールには平和の実現がありますが、我々の中では、もっと広い目で見たときに、平和はまだ十分にSDGsの中には組み込まれてないという認識です。

したがって、我々としては、SDGsの2030年までのゴールの先にある、ポストSDGsと言われるところまで考えたいという思いが初めからあり、2030年を超えて長期に取り組む意思があることを明確に示すために、「Peace&Sustainability」という言葉を掲げました。

社会システムにおける1つの理想的な姿である「Peace」と自然や地球のあり方、人間の関わるところも含めた持続可能な地球環境である「Sustainability」を両立していかなくてはならないことを中心に据えたものがNERPSの精神になっています。

▼NERPS について
広島大学FE・SDGsネットワーク拠点(NERPS)

ポジティブピースを通して大学の存在感を高める

NERPSウェビナーシリーズ平和と持続可能性について考えるウェビナー第19回目のテーマはポジティブピースと環境持続可能性

  • SDGsの達成の先に平和の実現があるというような位置付けでしょうか?

平和の実現のためにはSDGsは達成しておかなければならないし、 SDGsを達成するためには平和でなければならない。この2つは相互作用しているのですが、平和でなければならないというところへのアプローチに関しては、自分の問題としてとらえて取り組んでいる研究分野や専門家は多くありません。

だからこそ、平和を非常に広く捉え、「ポジティブピース(創る平和)」をミッションとして掲げ、従来の広島という言葉やイメージの枠を超えて、多くの専門分野を巻き込んで、もっと積極的に平和を実現していくような取り組みを推進することで、広島大学の存在感を高めたいと考えています。

  • 積極的に創る平和という部分で、具体的な施策の内容を教えてください。

積極的な平和を創っていく問題の本質は「利害の対立」です。それぞれの国や組織が持っている関心や興味の中には必ず対立や競争があります。この利害の対立は、非常にポジティブな使い方から非常にネガティブな結果になってしまったものまでさまざまなレベルのものがあり、うまく社会のシステムに組み込んで、平和な社会を築くために制御することが必要です。
例えば、この数年間取り上げてきたのは保護林についてです。
自然を守るために熱帯林を保護したとしましょう。保護した熱帯の中では、そこの住民がサービスを使用したり、そこの生物や動物に依存して生活しているわけです。そういう人たちの文化や生活を守りながらも、ルールとしては乱開発が起きないようにプロテクトエリアを世界中で作っているのですが、そこの利害の対立をどう管理するかであったり、プロテクトエリアの指定がどう機能しているかであったりを世界中からケースを集めてきています。

また、近年では気候変動の影響で漁業資源に対するあり方や、水没や海面上昇が原因でさまざまな形でテリトリー自体の領域や境界線が変わってしまったりしています。 こうした気候変動の影響を受けて、平和に向けて「利害の対立」を上手に制御する仕組みに変えなければなりません。今後新しい時代で、気候変動と平和の相互作用にどう取り組んでいくかといったことにも向き合っています。新しい技術により効率化されていく社会の中で、利害の対立をどのように制御していくのか、そのような研究中心のプロジェクトを、これまでいくつかやってきました。

大学全体では、この4月から、新しい平和科学の理念=「持続可能な発展を導く科学」を実践する世界トップクラスの教育研究拠点の構築を通じた、「広島大学のあるべき姿」の実現に向けて、重点的に取り組む5つの事項を定めた「学長イニシアティブ」という具体的な活動を開始しました。今後さらに「創る平和」に広島大学として明確に貢献していこうという風になってきています。

  • 今までは専門分野を攻めていたところを、全体として取り組む規模を広げて取り組んでいるんですね。

そうですね。研究者が研究の延長でやっていたことを、大学が組織として、大学全体でいろいろな人が関われるよう、大学周辺のステークホルダーと連携しながら「創る平和」を5つの領域で積極的に示していこうと思っています。

広島大学のチャレンジ

  • 今年度から学生さん向けにカーボンニュートラルの授業が始まるということを拝見したんですが、それもSDGsの取り組みの一環でしょうか。

それは少し別の話になります。
地方の大学では、少子高齢化や経済の疲弊というような地方創生の問題を一番重要な地域課題として抱えています。こういう郊外の方が、基本的には成長する町ができやすく、アメリカやヨーロッパではそういうところにどんどん優秀な人が集まって、新しいことが始まり、大きくなるとまた次のところへ、という感じで地方創生が行われています。

広島大学は自然豊かな郊外に、大規模で研究力のある総合研究大学があり、本来ならばその周辺に新しい町ができていくべきですが、そういう取り組みは日本であまり行われていません。そこで、本学が率先して始めたのが、カーボンニュートラル宣言やスマートシティプロジェクト、Town&Gown構想というもので、自治体ともっと密接に連携し、一番重要な地域課題に取り組もうとしています。

世界中から優秀な人を集めるためには、スマートシティやカーボンニュートラルである必要があると思っています。CO2を大量に出し、新しいデジタルテクノロジーも全然入っていないような町に人は集まってきにくいと思います。

その取り組みの一環として、大学自身がまずは国の目標よりも20年早くカーボンニュートラルを達成してみせる、たとえ失敗しても社会にとっては学びになるので、 まずは学生達と一緒にやってみて、うまくいく部分といかない部分を社会に示していく。そうすることで、社会全体で経験をうまく活用し、国の目標に向かえばいいのではと考え、先陣を切る役割を大学が担って、カーボンニュートラルの授業を始めました。

  • カーボンニュートラルの意識を大学の若い時代からつけていくことは、結局はSDGsの達成や平和実現の意識を持つ人材の育成に繋がるのではないでしょうか。

そうです。自らやって見せて、早くから学生達に参加して体験する機会を提供したいという思いから、大学はまず自ら動こうということです
でもこれは意外に難しく、どの大学も付加的なことをやれる余力はなかなかないので、実行が難しいんです。しかしながら、難しいからできませんという状態が続いていては、いつまでたっても達成できません。だからこそ、少しの余力の中でも最大限の努力をして、まずはチャレンジして動き出すことが大切だと思います。

学生とSDGsの繋がり

SDGsをテーマとした広島大学公開講座(2022年5月開催)

  • 学生さんとSDGsの繋がりについて、学生さんが今できること、今していることを教えてください。

学生主導でやっていることとしては、アプリを使ったフードロスをなくすための取り組みや放置自転車を直してレンタル自転車にする取り組み等があります。
さらに、災害があれば助けに行ったり、子供たちに向けて何かするというようなボランティアはSDGsの前からずっと行われていましたが、 そういう学生達が自分たちの取り組みとSDGsを紐付けて活動するようになり、発信できるようになってきました。

NERPSでは、SDGsに関する活動を発信する役割を持っているので、大学でそのような活動を集め、社会に向けて発信しています。
それから、SDGsについては必修科目になっていますので、学生のSDGsに対する認知度は最初の3年ぐらいで急速に上がりました。
かなり早い段階で認知度をあげることはクリアしたと思いますが、その先の自分の問題としてどうするかというアクションは、まだバラバラな感じがしています。

  • 今後、アクションに関しても上げていきたいと思った場合、大学全体の取り組みとしてなにをしていきたいですか。

SDGsは、ひとつひとつのゴールに向けた個別の取り組みをしても構いませんが、それだと複数のゴールを同時達成するような未来社会はなかなか見えにくいです。
日本政府は望ましい未来社会を少しでも先取りするために、経済的な発展もしながら、それを活用した上で環境問題や社会問題を解決して持続的にやる姿をビジョンとして掲げています。
この課題の解決に向かうために、さまざまな研究成果を実際に自分が取り込んで研究として取り組むのもいいし、日常的な生活の中で取り組むのもいいし、その「体験」をできるだけするような形で取り組んでほしいと思っています。

大学としては、生活の中で効率的にSociety5.0のイメージに近いようなことができるように、アプリの開発や太陽光パネルの設置を進めています。開発の過程で、できるだけ多くの人に参加してもらいアイデアを出し合ったり、積極的に使ってみてもっとこうしたらいいんじゃないかとか、もっと新しい仕組みがあるんじゃないかと一緒に考えて行動してもらう、今後はそういうことを全学でいろいろな分野の学生に参加してもらえるような仕組みにしていきたいと考えています。
まずはこのキャンパスが新しい社会に変わっていき、それを体験して、卒業後は世界中のいろいろなところでその経験をさらに発展させるような形で続けていってもらえたら嬉しいです。
そして、失敗を恐れずにそのようなことができる環境を作ってあげたいです。新しいことをやる時に、失敗を恐れていたら何もできなくなってしまいます。

  • 社会に出ると、生活がかかってるので失敗するわけにいかないですよね。

だから、大学みたいなところは積極的にそういう機会を提供するのが僕は重要だと思います。失敗を恐れず、チャレンジする機会を与えることも、大学の役割の1つじゃないかなと。

今後の展望

広島大学スマートシティ共創コンソーシアム設立セレモニー(2023年2月15日)

  • 今後の取り組みの展望を教えてください。

今後はいろいろな横展開を考えていきます。メインキャンパスがある東広島市には、他にもキャンパスがある大学があり、新しいTown&Gownの取り組みを始めていきます。
例を挙げると、近畿大学の工学部が東広島市にあり、一昨年Town&Gownオフィスの準備室を設置し、ちょうど今年4月からTown&Gownオフィスが正式に立ち上がりました。 ここではEスポーツなど、我々とはまた違うことをやっています。
そして、東広島市にはもう1つ、広島国際大学があります。広島国際大学は医療系がある大学ですが、今年Town&Gownオフィスの準備室を立ち上げ、来年から正式にTown&Gownオフィスを立ち上げる計画が進んでいます。

大学もその他の自治体にキャンパスがあるところがあるので、そこの横展開を狙っていきたいですし、この取り組み自体を周辺の他の大学がそれぞれのパートナーの自治体と始めていくようなことが少しずつ検討されていて、全国に広げていきたいですね。
それから、NERPSの取り組みは研究中心で、もちろん実際の取り組みに繋げるべく行っていますが、大学全体で、先に述べた、新しい平和科学の理念=「持続可能な発展を導く科学の実践、安全・安心を実現する「創る平和」の実現に向けての「学長イニシアティブ」を以下の5つの領域で実践していきます。

1つ目は、イノベーションと経済安全保障に貢献するための半導体エコシステムを形成し、高度人材育成、研究開発等に貢献することです。

2つ目は、地球規模の健康安全保障に貢献することです。日本はワクチンをコロナの時に作れなかったのですが、この薬を大学が作れるようにするための工場を、全国の大学で初めて広島大学が作る予定です。
今後はワクチン製造を大学として研究、実験、テストしたりする能力を持つことができます。

3つ目は、平和のための総合的な放射線災害管理です。原発の災害や核兵器の問題も含めて放射線災害にきちんと備えましょうというものです。広島大学は放射線被ばくが人体にもたらす影響に関して研究の蓄積があるので、事前の対応も事後的な対応も、総合的に包括的に準備を進めていきます。

4つ目は、海事・海洋のガバナンスと持続可能性のためのアジアの拠点形成です。

5つ目は、途上国の栄養改善に資する畜産産業改革による食料安全保障の取り組みです。食料安全保障のうち、宗教的な禁忌が少ない卵や乳製品、このあたりの取り組みは特に途上国や熱帯で十分ではなく、技術的にも難しいんです。

この5つの領域で、研究と実際の貢献をセットにしたようなことを今やろうとしており、今後の展望としては、この5つの領域で、全学を上げてより多くの人が関われる形でやっていきたいと考えています。