
SDGs 大学プロジェクト × University of Tsukuba. – Part 2 –
目次
筑波大学の紹介


筑波大学は、創立から151年の歴史を持つ日本でも最初の高等教育機関として誕生しました。
1973年に新構想大学として生まれ変わり、開かれた大学としての理念のもと、柔軟な教育研究組織として日本を代表する研究大学の一翼を担っています。
2020年には指定国立大学法人に指定され、世界最高水準の教育研究活動を展開する国立大学として認められています。高い国際性と学際性を持ち、未来社会をデザインする新たな知識を創出し、分野の壁を越えた研究と先駆的な教育モデルを提供しています。
また、筑波研究学園都市の立地を活かし、産学連携などにも力を入れています。未来社会の基盤として「GLOBAL TRUST」※という新しい価値の創造を目指しています。
(※GLOBAL TRUSTとは、個人と組織、国と国など、さまざまな信頼関係を包括する概念であり、地球規模の課題解決と未来の地球社会の構築に向けた知識創出、グローバル人材育成を使命としています。)
視点を一つに絞らず、「俯瞰する」ということ
――地球規模課題学位プログラムは地球規模課題全般を俯瞰する幅広い基礎知識を身に付けるプログラムだと伺っていますが、このプログラムにおける学生の姿勢や取組みはどのようなものでしょうか?
まずプログラムとしては「俯瞰する」という大きなものがあります。
やはりSDGsという地球規模課題の解決は一つの専門ではなかなか解決が難しいものです。様々な専門分野、それぞれの課題が起こっている場所の事情や、課題とその解決に関係するステークホルダーそれぞれの視点などいろんな見方がありますので、そこをちゃんとわかって解決方法を考えてもらうことを目指しており、学生たちにも基本一つの分野、一つの視点あるいはアプローチに偏らずに、いろいろなアプローチから物事を見る勉強をしてもらっています。
実際の学生の姿勢については、入試のときに地球規模課題に対して自分の興味のあること、それに対してどういうアプローチを取りたいか、そのためにどんなことを大学で学びたいか、卒業後どんなキャリアを目指したいかということを書類審査や口述試験で問うています。書類審査では自分の考える地球規模課題というものがあり、白書で言われているレベルから、我々も唸るような高いレベルのものまでアイデアが出てきます。
現在言われている課題だけではなく、地球規模課題としてSF的ながら将来的に起こりうる課題など、我々がびっくりするようなことについていろいろと論じてくれる受験生もいますし、現在よく言われている環境やエネルギー、あるいは社会の構成など、現在の地球規模課題に固定するのではなく、本当に地球規模課題としての将来的なものも含め、学生さんはすごいモチベーションを持ってこのプログラムに参加してくれています。
実際のプログラムの進め方
――実際に通われている学生さんは4年間を通してどのようにプログラムを進めていくのでしょうか?
我々のカリキュラムといたしましては、基本的に1年生の間に地球規模課題とは何か、あるいはそれの基本的な方法論やリテラシーを勉強してもらい、その中でメンターの先生といろいろ相談しながら、興味のある課題についての専門科目や関連科目を履修して幅広い知識を身に付けてもらいます。
その中で2年生以降はスタディプロジェクトというのをやってもらっています。
これは卒業研究のシミュレーションみたいなもので、自分が興味を持っている地球規模課題に対して、どういうような問いを立ててどうそれを明らかにするか。つまり研究プロジェクトを作ってもらう作業です。
自分の興味のある地球規模課題では今まで先行研究でどういうことがなされているのか、どういうことがまだわかっていないのか、あるいはどういうことが議論を呼んでいて未解決なのかという先行研究をサーベイしてもらい、どんどん自分の問いや、自分が明らかにしたいこと、自分が解決したいことを掘り下げて考えてもらいます。
その中で実際に予備的な調査や実験を2年生・3年生で2回サイクルを回し、実際に地球規模課題に取り組むにはどうすればいいのか勉強してもらい、4年生に卒業研究、あるいは企業や国際機関等へのインターンシップで卒論あるいはレポートをまとめてもらうような形を取っています。
――目標の一つは人間と環境に関する課題を解決するために分野を超えて必要な情報・技術を自ら意欲的に求めていくことですが、学生たちはどのようにして異なる分野の知識と技術を統合して問題解決に取り組んでいるのでしょうか?
実際にスタディプロジェクトを作るときには、学生さんにアドバイザーになっていただく先生を挙げてもらっています。いろいろ大学の先生のプロファイルやデータベースがありますので、それを見て自ら複数名のアドバイザーの候補を挙げてもらい、その中でいろいろ担任の先生や科目担当の先生と話をしながらマッチングを行い、その指導をお願いするようにしています。
これは本学位プログラムの構成員でない先生も指導アドバイザーになっていただけるので、教員側としては非常に大変ですが、学生と専門の先生とをマッチングしていろいろとアドバイスをいただくような形にしています。
例えばサイバーセキュリティの場合はコンピュータサイエンス、あるいはリスク管理など、そういった専門の先生を紹介して学生さんと先生でいろいろと対話をしてもらい、実際に第1期生は太陽光発電の蓄電の研究をしたくて材料科学の先生を紹介したこともあります。このように地球規模課題を起点にし、いろいろな分野の研究ができるようにプログラムを設計しております。
多角的な視野を持つために大切な全体の最適化
――多くの選択肢から最適な解決を意思決定できる人材を育成することを目指されていらっしゃいますが、学生たちが意思決定をする際に考慮すべき重要な要素はどういったものでしょうか?
意思決定をするときにまずいろんなものの見方があるのですが、本当に意思決定というのが全体として最適化されているのかが大切です。
例えば水資源の問題を解決するときにスプリンクラーを導入すればいいのかという問題があるのですが、例えばアメリカなどでは何とかなるかもしれないですが、乾燥地でスプリンクラーをやると非常に日照りが強いのですぐに蒸発してしまいます。蒸発する際に土の中に入っている塩分も一緒に毛細管現象で地表に引き上げられてしまい、蒸発しない塩分が地表に残って土壌が塩まみれになるような事例が起こってしまいます。
いろいろな解決法を実践する際にその土地の事情や文化的な背景を考え、この解決法は現地の文化的に許容できるのかどうか、本当にこれが問題の起こっている場所に使えるのか、あるいは全体として解決の方向に向かっているのか、部分的あるいは短期的に解決になるものの長期的にはそうならないこともありますので、そういったいろいろなことを総合的に判断し、いろんなものの見方を総動員して決めなければいけないと私たちは教えています。
時には学生に気づきを与えることも
――まさしく多角的な視野が求められるとは思うのですが、学生たちが専門でやってしまうとどうしても視野が狭まってしまいがちだと個人的には感じます。多角的に考察する上でどういったところを意識付けるといいのでしょうか?
例えば学生が提案をするときなどに、地元の住民はどう思うかなどの問いをこちらから投げかけます。他にも予算や人力の問題もありますので、それで本当にいいのか、あるいは他に解決方法はないのかというのをやはり問いかけることですね。
なかなか自分で気がつかないときもあるので、ではこの場合にはどうなるのか、あるいはこういうことが起こると予想されますが、そのときにどう対処しますか?というふうに例えばスタディプロジェクトの研究発表の中でそれを投げかけます。あるいは過去にそういうことをやって上手くいったのかいかなかったのか、そこをちゃんと調べた上で提案しているのかなど、そういった問いを投げかけることで学生たちに気づかせています。
アウェイな環境に身を置くことで見えてくるもの
――BPGIのプログラムは4年間の英語プログラムと伺っていますが、国際的な視点やコミュニケーション能力を養うためにどのような取り組みが行われていますか?
国際的な視野というよりもアウェイな環境で勉強してもらうという点が大きいかもしれません。我々のプログラムは秋学期からスタートするのですが、1年時の春学期に3ヶ月間国際基督教大学に行ってもらい、そこの授業を履修することを必須としております。
国際基督教大学はリベラルアーツや国際関係などの科目が非常に充実しておりますし、大学全体としての英語による教育の親和性は国際基督教大学の方が高く、授業のスタイルとしても少人数の中でディスカッションを中心としています。そういうスタイルが違う授業、あるいは内容の違う授業、違ったキャンパスでの環境の中で学ぶことで、ホームの中に閉じこもるのではなくアウェイな環境でのコミュニケーションや視点を養ってもらっています。
実際に今年は1年生が4人お世話になったのですが、先日成果報告会があり、全ての学生がやはり筑波大学とは違った環境や違った学び方に刺激を受け、国際基督教大学内での別プログラムの留学生、あるいは日本人学生を含むいろんな学生さんとキャンパスの中や寮の中で交流することができ、それがとても良かったという声が上がっていました。
――国内留学のはずなのに海外留学に近しい感覚で学べるのはいいですね。
そうですね。やはり英語での教育を充実させているということもありますし、リベラルアーツということで例えば宗教学とか哲学など、我々とは違った視点からのアプローチがあり、SDGsについても何かしら我々とは異なる多角的な問いやアプローチを投げかけてくれるので、学生たちにとってもいい刺激になっています。
SDGsを考える上で重要視すべき観点
――そんな環境の中で、学生たちが地球規模課題に取り組む際に重視すべきSDGsや持続可能性の指標や観点は何でしょうか?
SDGsの17の指標を設けたことによって、何をしなければいけないのか、どういうことにどういうゴールを設けなければいけないのかというのが非常に明白になった反面、それが切り分けされてしまったという部分があるように思えます。
ですから、SDGsの何番が特に重要であるといったような議論ではなく、これは全て水面下で繋がっていると思うので、私たちとしてもどれを重要視しなさいというようなことは特に言っていません。
ただしSDGsの何番と何番に関わることは常に意識しておいた方がいいよということで、例えばスタディプロジェクトの発表などでもSDGsとの関連性を考えてもらっていますが、ひとつに絞るようには指導していません。
持続可能性の観点というのは本当に持続可能であるかどうか、それは本当に1周回ってちゃんと元に戻ってくるのか、未来のために今を犠牲にしすぎていないか、そのような観点から本当に実現可能なものなのかどうか、実際にそれを適用して続けることできるのかどうかということが言えると考えています。
今の脱炭素や電気自動車の話についてもそうですが、トータルで無駄遣いをなくすのは大事ではあるものの、あまりにも一つのことに強調しすぎて知らないうちに他のところで無駄遣いをしている、あるいは効率や環境負荷など裏で犠牲になっているものはないかなどのリスク管理も含め、いろんなものを相対化した上で本当にトータルでいいのかどうかを考え、真剣に問いかけるというのがやはり持続可能性を考える上で重要な観点だと思います。
高校生へのメッセージ
――学術を学術で終わらせないためにも、先生はBPGIのプログラムに参加する学生たちには将来的にどのような役割や貢献を期待されていますか?彼らが地球規模の課題に向き合い解決に取り組むことで、どのような社会的な変革を実現できると考えているでしょうか?
例えば企業でもNGOやNPOでもいいのですが、大体何をやってもその出発点は地球規模課題に関わってくると思っています。そういう地球規模課題についていろいろとビジネスをされる、あるいは研究をされる中で、地球規模課題というものを意識し、自分たちがやっていることがその解決にどう寄与するかというのを常々頭に置いて、キャリアや仕事に臨んでほしいですね。
そういう意識でやっていけば突き詰めていった結果としていろいろと社会を変えることができると思いますし、答えはたくさんあるものの答えがない問いに対し多様な視点を持ちながら社会に関わっていくということが大事だと思います。
――最後に、高校生へのアドバイスをお願いします。
地球規模課題は全てのものの始まりであり、全ての道は地球規模課題に繋がっています。解決方法に繋がる山の登り方というのは一通りではありません。その答えを出すためにいろんなアプローチや視点、飛躍した発想、発想の豊かさなどを持つことが大事だと思っています。