
SDGs大学プロジェクト × Tsukuba University of Technology.
目次
筑波技術大学の紹介

筑波技術大学は、日本で唯一の聴覚・視覚障がい者のための大学で、社会に広く、多くの人材を輩出しています。例えば、パラスポーツで活躍している卒業生も多く、国際大会のメダリストもたくさんいます。また、聴覚や視覚障がい者とともに共生する社会を醸成するための多くの研究が行われているほか、科学技術の分野でも数々の実績を上げています。将来、障がい者のバリアフリーや科学技術に興味がある高校生の方は、是非一度訪れてみてはいかがでしょうか。
東西医学統合医療センターの紹介

東西医学統合医療センターは、視覚障がいを有する学生が学ぶ春日キャンパスにあり、東洋医学(鍼灸・漢方)と西洋医学を統合した医療を提供するとともに、それらの研究や専門家を育成する教育を実践しています。
日本では最近増えてきましたが、統合医療を提供する施設はまだまだ少ないのが現状です。この医療センターは、長年の経験と積み重ねた実績をベースにして、診療やリハビリテーションともに鍼灸あん摩マッサージを組み合わせた、西洋と東洋の医学を統合した、質の高い医療を提供することで、地域医療に貢献することを目指してきました。診療科目は、内科・漢方内科、循環器内科、脳神経内科、脳神経外科、整形外科があり、MRI検査や動脈硬化検査、脳波検査をはじめとする様々な診療設備を備えています。また、リハビリ施設も充実しており、腰や膝などの運動器疾患だけでなく、心臓疾患のリハビリも行っています。最も大きな特長は、鍼灸あん摩マッサージ指圧施術を提供し、西洋医学と連携したシステムを構築していることです。
この医療センターでは、鍼灸学・理学療法学専攻の学生教育だけでなく、国内外の医師・鍼灸あん摩マッサージ指圧師、理学療法士の研修も行われています。
障がい者のための大学”筑波技術大学”
LIVIKA(島崎):この大学は、障がい者のための大学として長い歴史を持っていますね。SDGsという名目の下で、社会的な視点も取り入れられているということですが、具体的にはどのような取り組みがされているのでしょうか?
櫻庭陽 准教授:はい、本学は障がい者のための大学として開設され、長年にわたり障がい者教育を実践しています。最近では、SDGsという国際的な目標が設定され、障がい者やマイノリティの人々に対する社会的な課題にも注目が集まっています。本学も、この社会の流れを追い風にして、障がい者と共生する社会環境づくりの取り組みをさらに加速していきたいと思っています。
私たちの具体的な取り組みとしては、ITを取り入れた障がい補償とそれらを教育に還元することを精力的に進めています。例えば、医療センターでは、カルテを電子化して、それらを読み上げるソフトを使うことで視覚障がい補償を行い、障がい者が活躍しやすい環境整備を進めています。障がいの種類に応じた支援やアクセシビリティの向上によって、障がい者が自由に、ストレス無く、自分らしく学べることで、主体的かつ自律的に行動できる人材を育成できると考えています。
また、卒業後の就労へ向けたキャリア支援や地域との連携などを通じて、視覚障がい者が社会で活躍しながら、他者の理解と受け入れを促す共生へ向けた取り組みをしています。
SDGsに関する取り組み

LIVIKA(島崎):SDGsに関する取り組みが、医療センターにどのように影響しているのでしょうか?
櫻庭陽 准教授:SDGsの目標にコンシャスした活動を展開していきます。現在は、西洋と東洋の医学を統合した医療を提供しているわけですが、このベースをさらに発展させて、健康の増進や維持、病気の予防などを目指した「健康生成」という視点に立った医療を地域の皆さんに提供していこうと考えています。これは、SDGsの3番目の目標である「すべての人に健康と福祉を」に合致します。
また、医療センターでは、リカレント教育にも取り組んでいます。視覚障がいを有する鍼灸あん摩マッサージ指圧師の方々が、医師や理学療法士がいる医療現場で学ぶことはほとんど無く、臨床で協働することも少ないです。ですので、これまでの視覚障がい者の臨床教育の経験生かし、卒業後の方々にも対象を拡大して、生涯学習の機会を提供しています。これは4番目の目標である「質の高い教育をみんなに」に合致します。
さらに、SDGsの11番目の目標である「住み続けられるまちづくりを」にも積極的に関わっていこうと思います。例えば、医療センターには施術者である視覚障がい者と、車いすや杖を使う高齢の患者が同じ空間で過ごします。両者が共生できるバリアフリー環境の整備や事例を社会へ発信することで、SDGsの実現に貢献したいと思います。
統合医療センターが目指す「健康生成」という考え方

LIVIKA(島崎):ありがとうございます。「健康生成」というのは、従来の医療とどのように違うのでしょうか。その点に関しては、少し詳しく教えて下さい。
鮎澤聡 センター長:従来の医学や先進医学とよばれる分野は、いわゆる科学に基づいています。科学的な医学は、病気を見つけることを得意とします。一方で「健康になる」という方法論を意外に持っていないのです。
LIVIKA(島崎):そうした限界を超えるために、どのような新しい方法が必要だと考えているのでしょうか?
鮎澤聡 センター長:私たちは、鍼灸治療やあん摩マッサージ指圧といった、人と人が直接に触れ合うところに健康生成の過程をみています。これは、客観的なデータが重んじられる従来の科学において切り捨てられてきたことです。もちろん科学をおろそかにするわけではありません。多くの治療が科学技術の恩恵を受けています。障がい保障においてもしかりです。したがって、その両方を包含できる考え方を医療を介して構築していくことが、統合医療センターの「統合」の意味するところであり、また私達の役目と思っています。この健康生成という考え方は、SDGsの根幹を担うと考えています。さらに、この考え方は、鍼治療や手技治療を生業とする視覚障がい者の活躍に根拠を与えるものです。私達は、視覚障がい者の活躍をと共生社会の実現を通した地域の健康生成にSDGsの展開をみています。
LIVIKA(島崎):なるほど、わかりました。先ほど、SDGsの11番目の目標である「住み続けられるまちづくりを」に言及されておりますので、質問です。高齢者が増えていることから、バリアフリー化がますます重要になっていると思います。行政がまちづくりに関して専門家の意見を取り入れ、視野を広げる必要があると感じていますが、櫻庭先生は勉強会や情報交換会に参加されているのでしょうか?
櫻庭陽 准教授:まだ参加はしていませんが、今後、行政とのつながりを深めていきたいと思っています。以前、多職種連携の事例検討会に参加しましたが、そこでは、医療や福祉、行政から様々な専門職の方々が参加して、意見を交換されていました。対象は身体制限のある高齢者が中心で、独居だったり複雑な家庭環境だったりと、その背景は様々でした。各々の事例の課題を解決する方法を見出すのは簡単ではありませんが、多くの専門職が、自身の持っている知識や技術を出し合い、課題解決のためのディスカッションをする事こそが共生社会を実現するために必要な作業だと感じました。聴覚・視覚障がい者が社会で活躍するためのバリアフリー環境を整備する上で、本学のノウハウは必須だと考えています。医療センターでも、視覚障がい者と高齢者が共生できる環境整備を進めながら、ノウハウを蓄積して、発信したいと思います。
今後の取り組み
LIVIKA(島崎):様々な取り組みについて説明いただきありがとうございます。その他、今後の取り組みとして何か考えていますか?
櫻庭陽 准教授:つくば市にはたくさんの研究機関があり、スーパーサイエンスシティ構想もあります。医療センターとしては、統合医療に関する研究のほか、視覚障がい者が社会で活躍するためのハイテクな技術を取り入れた障がい補償機器などを他の研究機関と開発できると良いですね。これらの技術は、障がい者だけではなく、視力が低下した高齢者や社会で安全・便利に暮らすための技術に応用できると考えています。障がい者との共生社会を実現することは、多くの人々に福音をもたらすと思っています。
読者へメッセージ
LIVIKA(島崎):最後に、読者へメッセージをお願いします。
櫻庭陽 准教授:私たちはSDGsの目標のうち、健康と福祉、教育、まちづくりに着目した取り組みを進めていきます。医療センターとしてそれらの基盤となるのは、「視覚障がい」です。経験がある方もいらっしゃると思いますが、視覚障がい者が困っているのを見かけたとき、どのような支援をしたら良いのか迷って、結局、何もできなかったということはないですか?晴眼者は周りの標識をみて、自分で解決できますが、視覚がなければできないです。じゃぁ、周りの人に聞いたら良いのですが、彼らも周りに声をかけることができる人と、そうでない人がいます。晴眼者も同じですよね。困ったときに声をかけられたら、うれしいですよね。結局、コミュニケーションが大切だと思います。障がい者でも、様々な障がい補償を駆使して、独力で活躍できる社会をつくろうと考えますが、それ以前に大切なのは、他者とのコミュニケーションではないかと思います。本当の意味でのバリアフリーは、何の気遣いや恥ずかしさも無く、気軽に声を掛け合ってコミュニケーションを取れる環境を醸成することなのかもしれないですね。