SDGs 大学プロジェクト × University of Nagasaki.

長崎県立大学の紹介

  • 社会の現場で体験する「実践的な学び」ができる地域に根差した大学。
  • 高い専門知識を身に付けると同時に、豊かな人間性を養う教育プログラムを展開している。
  • 長崎県立大学には、個性豊かな5学部9学科があり、佐世保市の佐世保校と長与町のシーボルト校の二つのキャンパスがある。
  • 佐世保校には「経営学部」「地域創造学部」、シーボルト校には「国際社会学部」「情報システム学部」「看護栄養学部」がある。

長崎県立大学の特徴

  1. 将来の夢やなりたい職業に直結する学び
    • 学部ごとに特色ある専門性の高いカリキュラムを提供し、社会の即戦力となる力を磨く。
  2. 地域に密着したカリキュラム
    • 「長崎のしまに学ぶ」は、全学必修科目で、県内離島でのフィールドワークを通じ、主体的・実践的な学習を行い、グローカルな課題解決能力を養うことを目的としている。また、企業でのインターンシップも積極的に行っている。
  3. 海外語学研修、海外ビジネス研修の再開
    • 国際経営学科、国際社会学科では海外の語学学校における海外語学研修が再開され、多様な文化の中でコミュニケーション能力の向上を目指した学びが展開されている。
    • 国際経営学科では、国際的経営感覚の涵養や企業課題へのグローバルな視点を養うための海外ビジネス研修も再開されている。
  4. 高い就職率
    • 令和4年度の就職率は99.5%。「実践的な学び」と一人一人に寄り添った手厚いサポートが高い就職率に表れている。

賈曦 教授の研究内容

私は長らく、メディアや国際コミュニケーションに関する研究に携わってまいりました。そして現在、SDGs(持続可能な開発目標)とローカルメディアに関する探求を行っております。現在、地域では様々な課題を抱えており、地域の活性化を実現するためにはローカルメディアの果たす役割が重要であると考えています。

こうした背景から、情報の発信を担うローカルメディアの存在と地域の活性化との密接な関わりに着目し、特に近年話題になっている持続可能な観光(サステナブルツーリズム)とSDGsの関連性も織り交ぜつつ、研究を進めています。

–地域の活性化に向けてローカルメディアが有益な役割を果たす一方、その延長線上で持続可能な観光にも焦点を当てて研究されているのですね。ローカルメディアにもさまざまな切り口がある中で観光に着目したのはなぜでしょうか。

長崎の産業構造は、全体的に第2次産業の割合が低く、大きな工業とか実業が少ないので、それゆえに観光が重要な一翼を担っていると考えます。

さらに、新型コロナウイルスの影響により、観光客数は以前に比べて大幅に減少しております。現在、徐々にその状況は回復しつつありますが、現在の観光客と過去の観光客との間には求めるものに違いが見受けられます。

多くの研究結果が示すように、今の観光客は従来の自然観光や美味しい食べ物以外にも、もっと日本ならではの、 他ではできない体験などを大きな目的として求めている傾向があります。

このような状況の中で、長崎には魅力的な観光資源が存在し、訪問者に提供できる多くの活動があります。これらを外国の方々に伝える貴重な役割を果たすのが、ローカルメディアであると私は考えます。

また、最近では日本の観光局が、サステナブル・ツーリズムの観点から訪日旅行の魅力を伝えるデジタルパンフレットを提供しております。私も同様に、地元のメディアや企業、自治体と協力し、長崎独自のデジタルパンフレットを制作することを目指しております。

この取り組みを通じて、地域の魅力を広く発信し、より多くの人々にその価値を伝える一助となることを願っております。

研究を始めたきっかけ

私の研究を始めるに至った動機は、主に2つの要因があります。

まず、1つ目は2019年にローマ教皇が長崎を訪れたことです。その際、全国的なメディアと長崎のローカルメディアが報道する視点に違いがあることに気づきました。全国的なメディアでは捉えきれない、地域の住人にのみ知られている情報や視点を、ローカルメディアが報道していることに興味を抱きました。このようにローカルメディアが果たす役割や他のメディアとの異なる側面に対する興味が、私の研究の動機となりました。

さらに、ローマ教皇の訪問が環境への意識を高める契機となりました。全国的なメディアではそこまで取り上げられることがなかったので、全国的なメディアとローカルメディアの間にあるSDGs(持続可能な開発目標)に関する違いに着目し、研究を展開することとなりました。

2つ目は、外国人の観光客との出会いです。以前私が福岡にいた時に、偶然出会った外国人の観光客と仲良くなる機会がありました。いろいろな話をする中で、長崎にも行きたいけど日本語が全くわからないから福岡から長崎への行き方を調べることができない、調べるところがないと言われました。そこで、確かに外国人向けに有名な観光地の発信をしている場所はたくさんあるけれど、地方の観光情報は十分に提供されていないという問題に気付きました。

こうした背景から、地方の観光情報発信の在り方について、ローカルメディアが果たすべき役割を検討する必要性を感じ、研究の方向性を模索することとなりました。

SDGsの認知率

–SDGsは日本でも広く知られるようになってきましたが、まだまだ進展の余地があるという印象を受けます。賈曦 教授はいかがお考えでしょうか。

現在の状況を考えると、日本においてSDGsについての認知度は着実に向上していると言えます。電通が実施した調査によると、2018年におけるSDGsへの認知率は約14.8%程度でしたが、2019年には約49%まで上昇しました。2023年5月のデータでは、認知率が90%を超える結果となっております。

調査の対象は10代〜70代なので幅広い世代でSDGsの関心が高まっているのは嬉しいことですが、しかしながら、SDGsを知識として受け取ることと、その背後にある理念や具体的な取り組みを理解することの間には、まだギャップが存在していると指摘できます。

長崎県立大学では1日大学生というイベントやオープンキャンパスで模擬授業を行っています。しかしながら、参加した学生からは、SDGsについては一般的な知識として耳にはしているものの、具体的に何を実行すべきなのかについては不明瞭であるとのコメントが寄せられています。このような声は、SDGsの理解と実践を結びつける際の課題を浮き彫りにしています。

–理解することと実際に行動できることは違うと思うのですが、実際に行動に移す際のヒントや情報収集のポイントはありますか。

学生たちと日々SDGsについて話しておりますが、行動に移す際には具体的なステップが求められます。
多くの学生は、SDGsに取り組む方法を見つけて実践したいという意欲を持っています。しかし、行動を起こす際に、具体的なアプローチがわからないという課題や、周囲の人々が同じように動いていないことから、自分だけ動くのは恥ずかしいと感じることがあります。

SDGsの中身を正しく理解して初めて自分にできることは何か考えることができますので、1つ目のブレーキである「やり方がわからない」という状況を変えるために、私としてはまず最初の第1歩として、自分のこととしてきちんと認識することが大切だと思っています。

次のステップは、SDGsの各目標について詳細な情報収集を行うことです。目標ごとに関連する用語や背景を調査し、充実した知識を獲得してください。情報を正確に収集できたら、次のステップとして、自身が実行できる具体的なアクションを考えていくことが重要です。

SDGsに関する取り組みは多岐にわたります。エシカルな商品を選ぶ、フェアトレード製品を支援するなど、様々な行動が考えられます。ただし、各人の背景や状況は異なるため、個々の行動も異なるものとなります。
お金をかけずに始められる取り組みもたくさんあるので、自身に適したSDGsのアプローチを考え、継続的に実行していくことが大切です。そしてその過程で、同じ価値観を共有する仲間と出会い、共に活動し、その輪を広げていくことが重要だと思います。

一方で、「周りが動いていないから自分だけ動くのは恥ずかしい」というブレーキに関して、確かに恥ずかしいと感じることもあるでしょう。しかし、最近の10代の高校生は、自身の考えを率直に行動に移す傾向が増しているように思います。

こうした若者たちが仲間を巻き込み、共に取り組む姿勢を示すことで、大きな変化を引き起こす可能性があります。その連鎖が広がることで、周りの人にも見ているだけではなく、自分自身で何かを始めようという意欲が生まれるかもしれません。このような良い連鎖が続くことで、恥ずかしさを克服することが可能となると考えています。

ゼミで学生と関わる上で意識していること

ゼミでは将来の卒業論文に繋がるテーマを決めて授業を進行しており、なるべく学生の意思を尊重しながら、一定の指導を行う立場に立つことを意識しています。現在、2年生と3年生の学生は、長崎県内の企業やNPOがSDGsに取り組んでいる事例の調査に取り組んでいます。

学生たちは、まず自身の興味のある分野を選び、それに関連する事業を展開している企業について調査を行います。ただし、単にホームページでの調査にとどまらず、企業の取り組みと自身のテーマとの関連性を考えることを求めています。

その後、実際に企業の担当者に連絡をし、インタビューを実施しています。ただし、インタビューだけでなく、その後も企業との連携を重ね、考え方の変化やインタビューの振り返りを行い、次のステップにつなげるプロセスを繰り返しています。

幸いなことに、これらのインタビューを通じて、学生たちはプロジェクトに参加する機会を得ていて、農家の方と野菜を使って新しい商品開発をしたり、フードバンク活動を行う企業と連携して活動するなど、観光に限らず様々なプロジェクトに関わることができています。

同時に、持続可能性の確保も重要視しています。学生たちは単独での活動ではなく、授業の一環として企業と連携しながら取り組むことができており、そのため長期的な活動を継続できる環境が整っていると考えています。

–学生さんの意思を尊重しているということは、ゼミでの活動も学生主体でやられているのでしょうか。

そうです。テーマの提案から連絡、報告まで、全ての段階で学生が主体的に取り組んでいます。事前の準備段階では私も手助けを行いますが、その後は学生が完全に主導し、私はサポート役として、学生が困難にぶつかった際にアドバイスを提供する立場です。

学生たちは最初から主体的に活動することに慣れていたわけではありませんが、徐々に自信をつけながら、取り組むうちに主体性が育まれ、どのように進めるかが明確になり、着実に前進していけるようになっています。

ローカルメディアのこれから

私は、地元のローカルメディアについて、アメリカのニューヨークタイムズのように、さまざまな取り組みが必要だと考えています。

ニューヨークタイムズの編集局長によれば、同メディアは昨年の2月から多様な発信手段を駆使し、デジタル購読者数を前倒しで増加させてきたそうです。これにより、地元のローカルメディアも同様に、多様な発信方法を駆使して情報発信することが重要だと思っています。ローカルメディアがさまざまな手段で情報発信を行う際に重要な要素は、「信頼性」「独自性」「マルチメディア型」「他メディアとの連携性」です。

信頼性と独自性は最近、Googleのアルゴリズムにも組み込まれるほど注目されており、これらは読者や視聴者から信頼されるメディアであることだけでなく、独自な報道内容を提供し続けることが重要です。
情報発信の方法に関しては、例えば新聞記事をPodcastのような音声で提供したり、ラジオで提供したりと多様なマルチメディア型のアプローチが求められます。また、単にローカルメディア内だけでなく、他のメディアや地域の自治体、教育機関と連携する体制を整えることも大切だと考えています。

また最近の調査では、長い報道をあまり見ない傾向があることがわかっています。そのため、短くてコンパクトな形式でまず興味を引き、その後で詳細な情報を提供するという、導線や表現のアプローチを変えていくことも重要です。

今後の研究の展望

現在、私は国際的な成功事例を調査することを検討しています。
特に持続的な観光(サステナブルツーリズム)に関しては、スロベニア、フィンランドやアイスランドなど、世界中に多くの事例が存在します。これらの事例は、取り組みの発信方法や内容が異なるため、これらを包括的に考察することが必要だと考えています。

また、海外の自治体や実際のメディアのインタビューを分析することを通じて、日本で適用できる可能性のあるパターンやモデルを提案していきたいと考えています。国内外の事例を比較し、持続的な観光における成功の要因やアプローチを洗練させて、日本に適用するための展望を提示したいと思っています。