SDGs 大学プロジェクト × Nigata University of Pharmacy and Medical and Applied Life Sciences.

新潟薬科大学の紹介

新潟薬科大学は、1977年に新潟県内最初の私立大学として、薬学部のみの単科大学で設立されました。2002年に応用生命科学部が開設され、2015年に文系学科である生命産業創造学科が応用生命科学部内に設置されました。(2023年から生命産業ビジネス学科に改称)
2023年には、看護学部と臨床検査技師を養成する医療技術学部も開設され、医療健康系大学として、発展しています。

松本均教授の自己紹介

私は大学院の修士課程を修了後、明治製菓株式会社(現㈱明治)に入社しました。入社当初は、主に食品の機能性に関する研究を担当し、具体的には、お腹の中で善玉菌を増加させる効果を持つオリゴ糖や、善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌、さらには動脈硬化や生活習慣病の予防に関連するポリフェノール、アントシアニンなどについての研究を行っていました。約20年間にわたって、生物科学研究所に所属し研究に従事した後、本社に異動し、機能性食品や菓子の商品開発にも関与してきました。

その後、大学から食品機能の研究を担当するポジションの公募に応募し、ご縁が重なって大学に移りました。

研究室における商品開発のテーマ取り組みのきっかけ

応用生命科学部の学生の進路は多岐にわたり、研究職を志すだけでなく、新たな商品を創造することに興味を抱く学生もいます。商品開発は最近ではメディアでも頻繁に取り上げられ、学生たちの意欲と社会的な注目が相互にリンクしている印象があります。そのため、この分野に着目し、研究室のテーマの一分野として卒業研究に商品開発テーマを取り入れています。

「国民の健康に貢献する商品の開発」と「SDGs」の双方に関連するテーマに取り組むように心がけています。

Akihaもち麦プロジェクトとは

Akihaもち麦プロジェクトは新潟市秋葉区産「秋葉の里 白雪もち麦」の地域ブランド確立を目指して、産・福・学・官など6つの団体が連携し、農業・福祉・健康づくりの各分野での課題解決と魅力向上を目指すプロジェクトです。

プロジェクトを始めた経緯について

地元で栽培している農産物を原料にした商品開発を行おうと思っていた際に、ちょうど産官学での連携プロジェクトが開始されるタイミングであり、そのプロジェクトに参加させていただくことにしました。

―プロジェクトを開始するにあたり、地元の農産物に注目された背景には何か理由があるのでしょうか?

新潟薬科大学は、地域活性化や地域連携を重要視しており、そのコンセプトに基づいて行動しています。学生のうち約7~8割が地元新潟県出身であり、進路のうち約7割が地元企業への就職となっています。

あとは、地産地消の考え方です。例えば、新潟のお米は需要に比べて余剰となっており、その対策の一環としてもち麦の生産が試みられています。しかし、新潟のもち麦は美味しく、品質は高いものの、外国産のもち麦と比較すると価格が高くなるという課題があります。

個人的な見解として、食品分野のSDGsの基本は「地産地消」が重要と考えており、外国産の製品を輸入するためのエネルギーを節約し、地域内での持続可能な消費を促進することが重要だと捉えています。さらに、地域が活性化すれば新たな店舗や住民が増える可能性があり、このプロジェクトを通じて学生が関わることで地域の活性化を促進できればとの思いもあります。新潟県では人口減少や過疎化が課題となっており、若い世代が増えることで地元の人たちにとって大きなパワーになればいいなと考えています。

―プロジェクト内の6つの団体の中で、大学の役割はどのようなものと考えていますか?

このプロジェクトは地元の農業法人と食品関連企業が主体となるものです。私たちは大学の教員として、専門的な知識をもとに助言を行う役割を果たし、また学生たちは若者の視点から商品やプロジェクトに関する感想や提案を提供する役割を担っています。

学生たちの発想は自由であり、通常の業務では考えつかない斬新なアイディアが生まれることがあります。そのため、学生たちの参加を通じて新たな視点やアプローチが導入されることで、プロジェクトがより魅力的に進展していくと期待しています。

Akihaもち麦プロジェクトの具体的な取り組み

もち麦はもち性の大麦です。通常、大麦はその殻の部分の匂いや味が良くないため、殻を取り除く工程が行われますが、もち麦は脱穀が難しいため、そのまま3割程度を削っています。新潟県内ではこの削る割合が4割に上るため、100キロのもち麦から40キロが廃棄されてしまうという状況です。

そこで、廃棄部分を有効利用し、もち麦の粉を用いて、クッキー(写真)、うどんやパン、ホットケーキミックスに混ぜるなどの取り組みを行っています。また、地元の鶏農家にも配布し、これを鶏の餌として活用しています。もち麦の外皮にはビタミンEが多く含まれており、これを餌にすることで鶏が産む卵の中のビタミンE含有量が増加する効果があります。こうした循環型農業やSDGsを意識した取り組みを行うことで、環境に配慮した活動を推進しています。

―学生さんがプロジェクトに取り組む中で、いくつかの困難に直面することもあるかと思いますが、そのような困難をどのように乗り越えているのでしょうか?

実際に、地元の民間企業から、若者向けの商品開発を依頼されることがあります。もし、本採用されると日本全国で販売される可能性もあり、その責任は非常に大きなものとなります。

こうした案件に取り組む際には、企業の方から多くのダメ出しや意見が寄せられることもあり、学生たちの中には挫折感を味わう人もいます。その際に、私は学生たちに「通常プロが1年に1~2つしか新製品を開発できないのに、学生が週に数回程度の頻度で開発を行うことは簡単なことではない。」という話をしています。

このアドバイスを受けた学生たちは、自分たちの取り組みを理解し、前向きな姿勢で挑戦するようになります。また、グループや友達同士でプロジェクトに参加することを許可しており、協力しながら楽しみながら取り組むことが多いです。こうした社会経験は、就活の際にもアピールポイントとして活用できると考えています。

―プロジェクトへの取り組みを経て地元の企業に就職する方は増えましたか?

もともと学生たちは地元志向が強い傾向にあり、地元企業への就職率に大きな変化はありませんが、食品メーカーや製造業などへの専門職への就職率は増加していると感じています。以前はスーパーやドラッグストアなどの小売業も多かったのですが、現在は製造業や食品メーカーなどの分野にも興味を示す学生が増えてきています。私自身の職務経験と同じ職業に、学生たちが就くことは、私としても非常に嬉しいことです。

今後の展望

―プロジェクトを通して今後の展望を教えてください。

まず、プライオリティとしては、教育の重要性が依然として際立っております。学生が十分に学び、将来の職に適切に就くための土台を築くことは何よりも優先されるべき課題です。

一方で、我々の取り組むテーマであるSDGsは複雑な側面を持つ課題です。持続可能な取り組みを推進しようとする意欲はあるにも関わらず、実際には効果を得られないケースも多々あります。たとえば、10トンの大麦を生産し、商品として提供していたとします。しかしながら、その中から不要な部分を4トンも捨ててしまうというのはもったいないので廃棄されている分を有効活用する方法を考えました。そうすることで、大麦の生産量を10トンから8トンへと減らすことができるかもしれませんが、その分の休耕田が増えてしまうという新たな課題が浮上します。環境に配慮していても様々な条件が嚙み合わないと持続的とはいえないのです。

地産地消の推進は、確かに良いアプローチですが、これを長期的に維持するためには、それを産業として成立させることが必要です。現在では、小売業界などでもSDGsが注目され、地域の商品への関心も高まってきています。しかしこの取り組みを一時的な流行で終わらせるのではなく、真の意味で持続的に実現するためには、様々な困難があると認識しております。

このような状況下で、学生の教育や地域の活性化、持続可能な産業の発展とのバランスを適切に取ることが、重要な課題であると考えます。また、商品開発の取り組みが、持続可能性への意識を高めるきっかけの一つとなることを期待しております。

▼取材にご協力いただいた松本均 教授の研究室はこちら
食品機能学研究室 | 新潟薬科大学