SDGs 大学プロジェクト × Otemae Univ.

大手前大学の紹介

大手前大学(以下「本学」)は、文系4学部、理系2学部の中規模総合大学で、文系は兵庫県西宮市の夙川に、理系は大阪市にそれぞれキャンパスを構えています。大阪キャンパスは中央区の大手前にあり、これが本学の名前の由来です。

本学の使命は、建学の精神であるSTUDY FOR LIFE(生涯にわたる、人生のための学び)を提供すこと、社会の困難な問題を他者と協働して解決する人材を育成すること、地域と連携し地域発展と国際社会に貢献すること、です。カトレアの花をモチーフにデザインされた校章ですが、5枚の花びらには好奇心、知性、情熱、健康、真善美に対する憧れの意味がそれぞれ込められています。

私たちは大きな変革期に差し掛かっており、一人ひとりがこれから輝いていけるよう、人生のウェルビーイングの実現にフォーカスして、新たなビジョンの策定が進められています。

SDGsに取り組まれたきっかけ

もともと本学の建学の精神やミッション、ビジョンそのものがSDGsに通じる志向を持っています。従って、SDGsが注目を浴びるようになってから特別に新たな取り組みを始めたわけではなく、自然な流れとしてSDGsの理念に基づいて活動してきました。

世の中全体で機運が高まったこともあり、ちょうど私が着任した3年ほど前に、経済だけでなく教育機関を含む関西地域の様々な主体が協力して進める『関西SDGsプラットフォーム』に参加したことが、SDGsの取り組みが増えてきた転機と言えると思います。

ご存知のとおり、SDGsには17の目標がありますが、それらの基礎にある理念、人類全体や地球全体の未来において、生物多様性を尊重し、誰もが取り残されない社会を築くという基本的な考え方が重要だと考えています。これに貢献できる人材を育成することが、本学のSDGsへの取り組みの方針です。

SDGs施策の内容

この章では、人材育成のキーコンセプトとして「クロスオーバーの教育」と「クロスバウンダリーの教育」について紹介していきます。

人材育成のキーコンセプトとは?

現在、本学ではいくつかのタスクフォースを組成し、新たな教学の在り方を考えている最中です。その中で鍵となるコンセプトとして、クロスオーバーの教育とクロスバウンダリーの教育を前面に進めています。

「クロスオーバー」とは、異なる科目や領域をまたいで学びを深めることを指します。直面する社会の変化が深く大きい現代、幸福とは何か、生きる意味とは何か、など根本に遡って考えることが求められます。私たちの大学はリベラルアーツ教育に強みを持っています。SDGsを意識し、社会とのつながりを持ちながら自分の学問を展開する際に、その視点からのクロスオーバーが大切だと考えています。

一方、「クロスバウンダリー」とは、学校や教室の枠にとらわれず、異なる領域や組織との境界を越えて学びや活動を行う概念です。フィールドワークがその一例であり、例えば活気ある新興企業との共同プロジェクトなども、典型的な組織を超えたクロスバウンダリーの取り組みと言えます。このような取り組みには、相手との協力が不可欠です。私たちは『関西SDGsプラットフォーム』に参加し、そのリソースを活用させてもらいながら活動しています。

具体的な活動として、現在私が関わっている2つの事例を紹介します。

関西SDGsプラットフォームでの活動

最初は、「関西SDGsプラットフォーム」という活動です。このグループは、JICA関西さんと関西広域連合さん、そして私の前の職場である経済産業省近畿経済産業局の3つの組織が共同で事務を担当しています。

このグループ内にはいくつかの分科会が存在し、そのうちの一つが大学分科会です。私たちの大学もそのメンバーとして参加しています。ここでは情報交換が行われたり、参加企業のサポートを受けながら学生が主役になるシンポジウムが開催されたりしています。

また、関西では2025年に大阪・関西万博が開催される予定で、このイベントを通じて世界に向けて何かソフトレガシーを残せないかという考えもあり、そうした議論も行われています。

食品ロス削減プロジェクトの活動

現在、地元関西を地盤にするエイチ・ツー・オー リテイリング社をはじめ、地域の方々と共に、環境省からの支援を受けて、食品ロスを減少させるプロジェクトに取り組んでいます。

食品ロスという社会課題について、事業者に対しては国で規制をかけていますが、個々の家庭がどのように対策すべきかは自治体によるので、国は直接的には介入しません。ただ環境省では、地域ごとに「この地域ではみんなで協力して食品ロスをゼロにする」というモデル事業を創出し、それを他の地域にも広げることを考えています。

昨年と今年の2年間、こうした考えに基づく環境省の公募事業を活用し、エイチ・ツー・オー リテイリング社と共に事業企画を練り次のような事業を行っています。

このプロジェクトの最も基盤となる部分は、お店や家庭から出る野菜くずなどの生ゴミを使って、それをコンポストという方法で再利用することです。22年度には、この方法で堆肥をつくり、公園の花壇を整備しました。今年は、市民の方が野菜などを育てるための菜園づくりも新たに進んでいます。こうしてできた菜園で収穫した作物が、再びお店に並び、皆さんが購入することで、循環を完成させることが目標です。

22年度には、地域の企業のご協力で手作業でこの循環を試行し、様々な知見が得られました。23年度は、ヤンマーグループの企業もこのプロジェクトに参加してくれることになり、コンポストの機械を活用して規模を広げ、効率的な循環を実現できるかどうかを実証していきます。

しかしこのプロジェクトは企業が一方的に地域で活動するものではありません。「3つのゼロの実現」という考え方を掲げています。ひとつはエイチ・ツー・オー社系列のお店から出る食品ロスの削減ですが、それ以外にも地域にあるバーベキューテラスなどのみんなのスペースを活用したイベントからでる食品ロスの削減、さらには地域のご家庭から出る食品ロスの削減をターゲットにしています。

ご家庭のゼロは、参加を希望して下さるご家庭に手軽に運べるコンポストバッグを購入して頂き、各世帯が出すゴミをそのバッグで堆肥化して、持ち寄ります。今はこれを花壇や菜園で再利用するとともに、実証事業のエリアには保育所が数多く存在するため、子どもたちにも参加してもらって、花壇に建てる看板を一緒に作ったりもしました。参加者からは、食品ロスを減らすことが良いことだという以上に、こうした活動それ自体を楽しんで、充実感を感じられたといった声が聞かれています。

リベラルアーツ系のPRの難しさ

–なぜSDGsと結びつけることを選んだのですか?

本学はいわゆるリベラルアーツ系を中心に持つ大学です。SDGsというと環境問題がクローズアップされ、それに対してテクノロジーで貢献するというのが、頭に浮かべる典型的な例ではないかと思います。これに対して、「そもそもなぜそれが必要だったのか」「それは人々の幸福につながるのか」といった議論は、今こそ求められているのではないかと考えます。そうであれば私たちのような大学がSDGsと結びつけて活動することは有意義なのではないでしょうか。

–多くの大学はSDGsへの取り組みが必要だと考えている一方で、危機感が薄いと感じます。

先ほど申し上げたように、理工系の分野を強化して存在感を示そうとしている場合、例えば新しい断熱素材を開発するなど、SDGsに貢献する方法が明確で、PRしやすいと思います。一方、人文社会系は学問が直接的に人々を助けるわけではないため、SDGsという切り口でPRが難しいと感じることが多いのかもしれません。

–確かに、わかりにくい側面もあるかもしれません。理系や医学・歯学系の大学では、学問が人々をサポートすることに直接繋がる部分があるため、SDGsに高い意識を持っているように感じます。一方、文学系は学問がすぐに人々を支援するわけではないため、アピールが難しいと思います。だからこそ、私たちは、環境に優しいキャンパスや研究に関連する取り組み、SDGsのサークルなど、別のアプローチでPRすることが多いです。これに関しては、改善策を考える必要があると思います。

なるほど、我々の学校のPRを考えると、先ほどのクロスバウンダリーの取り組みが該当するかもしれません。異なる分野の境界を超えて活動する場面では、共同で取り組むことが求められます。そのため、SDGsの考え方が共通の目的として自然に組み込まれますし、そうしたパーパスの部分にフォーカスしたPRに今後はなっていく可能性がありますね。

プラットフォームの活用状況

–関西SDGsプラットフォームや大学の分科会など、熱心な皆さんが集まっていると思いますが、具体的にどのようにそれらを活用しているのですか?

仰るとおり、熱心な皆さんが集まっていらっしゃると思います。そのため、比較的簡単に異なる分野間の連携ができる状況です。例えば、私の所属する学科では、プラットフォームの会合を通じて知り合いになった複数の企業から講師をお招きし、企業によるSDGsを考慮したビジネス戦略について話を伺ったりしています。

また、まだ立ち上げ途上のプロジェクトについても、今後の展開を考える際に、適切なタイミングで連携の機会を探ることを常に意識しています。さまざまなバックグラウンドと、特長を持つ企業や機関組織が関わっており、また参加されている方お一人おひとりが魅力的な方ばかりです。

そうした皆さんの真摯な情熱とエネルギーに触れることそれ自体が、学生にとっては非常に良い教育機会になっていると感じています。

今後の計画

大学にできるのは、専門的な知識の提供です。本学には健康栄養学部もあります。今後活動が拡大すれば、たとえば育てた作物の栄養的な付加価値などを評価することも可能かもしれません。専門的な知識を活かして、大学と地域とが共により良い地域づくりに協力することができれば理想的だと思っています。

本学は学生たちがSDGs(持続可能な開発目標)について学ぶ場としての役割を果たします。また、関西SDGsプラットフォームをはじめ、地域の関係者の皆さんと協力し、SDGsを実践するために一緒に考えてみる機会を増やしていきたいです。そうして、より良い地域社会をつくるための担い手づくりに貢献していきます。SDGsがゴールではなくて、若者たちが自分たちの理想とする社会像を検討し、その方向を目指して共に生きていけることが大切だと思っています。

プロジェクトについては、循環型社会の構築を目指して、実証やデータ収集を行い、市民の皆さんと一緒になって進展させることが重要だと思っています。エイチ・ツー・オー社も、スーパーマーケットだけでなくさまざまなビジネスを展開しており、循環型の取り組みはますます広がると思います。そうした中で、今後進むべき方向性の打ち出しなど、パートナーとして伴走できればと考えています。