SDGs 大学プロジェクト × Bunri University of Hospitality.

西武文理大学の紹介

西武文理大学は、1999年(平成11年)に開学した、埼玉県狭山市にキャンパスを有する私立大学です。

本学は、「学識と技術の練磨」「報恩の精神」「不撓不屈の精神」を建学の精神に掲げ、「知・情・意」という人間の心の働きが調和した全人教育(※1)を実践し、社会の役に立つ知識と技術は、豊かな人間性のもとに成り立つものだと考え、「相手を思いやり、真心をこめてもてなす心」である「ホスピタリティ」の精神を学びの中心に置いた教育に取り組んでいます。

本学は、「サービス経営学部」と「看護学部」の2学部で構成されています。

サービス経営学部では、「豊かな人間性を持つ、実践的で柔軟な職業人」の育成を目的としており、経済社会の急速な変化に伴うサービス産業における顧客ニーズの多様化に対処し、素早くかつ的確に決断できる判断力と、計画遂行のための実行力を養い、社会の抱える問題点や課題を解決できる人材の育成を目指しています。

一方、看護学部では、ホスピタリティ教育を基盤に豊かな人間性を育み、専門的な知識と技術に裏付けられた的確な判断力と問題解決能力を身に付けた看護専門職を育成し、人々の健康生活の向上と看護学の発展に寄与することのできる看護者の育成を目的としています。

また、学生の皆さんのキャンパスライフを支えるため、クラブ・サークル活動はもちろんのこと、充実した学生生活を送ることができるようにサポートするための「学生相談室」や、「こころ」と「からだ」の両面から学生の健康を全力でサポートする「保健センター」を設置。

さらに、障害のある学生をサポートするための障害学生支援「学生サポートルーム」を設けて、学生生活の支援と「困りごと」の解決・解消のために対応を図っています。

本学では、教職員が「おもてなしの精神」で学生たちを教育しています。学生たちには、自分の中に眠っている能力や興味を持っているものに気付くとともに、自らすすんで学びながら自信を培ってもらい、自らの未来と社会の未来を切り拓いていってもらいたいです。

(※1)全人教育…知識・技能教育に偏することなく、感性・徳性なども重視して、人間性を調和的、全面的に発達させることを目的とする教育のこと。

藤野教授の研究分野

私の主要な研究分野は、中小企業論です。

以前は、中小企業を取引先とする金融機関で勤務を経験していました。その後、金融機関系のシンクタンクでの在籍期間中に、中小企業におけるCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の取り組みについて研究し、その成果も踏まえて、CSRの内容を含む全てのステークホルダーが目標とするSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の中小企業への普及に関する研究と活動などを現在行っています。

また、SDGsの普及活動の一環として、中小企業向けのSDGsシンポジウムの開催や、SDGsに関連する講演も行っており、中小企業へのSDGs普及と啓発が、重要であると考えています。

さらに、中小企業にSDGsを普及させるためには、SDGsへの取り組みに熱心な中小企業のサービスや製品を市民が優先して買うというようなカルチャーを根付かせる必要があると考え、一般市民を対象とした講演活動も積極的に展開しています。

一方で、中小企業がSDGsを企業経営に組み込む際、持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)の側面において、「SDGsに熱心な企業の製品やサービスを支持しましょう」といった記述や「SDGsが経営において重要である」といった認識が不足しているように感じています。

SDGsを意識されたきっかけ

SDGsを簡潔に述べれば、全てのステークホルダーが環境と社会に対する負荷を軽減し、経済の発展と調和を追求する取り組みであると言えます。私は、2004年からの2年間、東京商工会議所に出向し、中小企業におけるCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の普及に関する業務を担当しました。それ以来、CSRに関する研究を継続しています。

CSRとSDGsの内容は類似しており、特にCSRの国際規格であるISO26000と比べると、SDGsと共通の要素が多数存在します。SDGsは企業だけでなく、市民、消費者、政府、その他の全てのステークホルダー(利害関係者)が持続可能な開発に取り組む重要性を認識し、SDGsの達成に貢献していくべき目標だと世界的には考えられています。

SDGs以前に、2001年に国連総会で採択されたミレニアム開発目標(MDGs)が国際社会の共通目標として存在しました。しかし、MDGsは主に開発途上国の貧困や飢餓などに焦点を当てたものであり、地球規模での環境・社会問題は先進国にとっても無縁ではなく、その解決のために先進国を含めて全世界的に取り組む目標であるSDGsが提唱され、世界の持続可能な開発目標として採用されました。

CSRの研究に携わってきた私は、CSRをアップデートし、企業のみならず、全てのステークホルダーを対象とするSDGsが掲げられたことから、これまでの取り組みを継続する中で、SDGsを意識した研究や普及活動を行っています。

地域活性化に資する地域と学生の取り組み

近年、少子高齢社会の進行に伴う人口減少が国内の重要な社会問題となっており、西武文理大学周辺の住宅地でも同様の課題が見受けられます。高齢化の進行や他の要因により、本来住宅地として活用されるべき土地が空き地のままになっていたり、大規模なショッピングモールの進出により、住宅地にあったスーパーマーケットが撤退した結果、車の運転が難しい高齢者の生活に支障をきたす状況が発生しています。

地方だけでなく首都圏や他の大都市圏でも同様の懸念が生じており、日本全体にとって大きな関心事となっています。このような課題は、SDGsの「住み続けられるまちづくり」の目標達成に向け、日本が克服しなければならない重要な課題の一つです。

狭山市では、関東三大七夕祭りに数えられる「入間川七夕まつり」を市民と企業、教育機関等が協力して盛り上げ、地域の商店街と活性化に貢献しています。

西武文理大学では、複数のゼミが協力し、この七夕まつりに華を添える手作りの飾り(「やらい飾り」)の制作から飾り付けまで、学生たちがアイデアを出し合い、取り組んでいます。学生や若者が狭山市のイベントや活動に参加することは、彼らがこの地域に愛着を持ち、将来的に”市内で働くこと”や、”暮らすこと”を検討するきっかけとなります。

また、たとえ市外で生活基盤を築くことになったとしても、七夕まつりなどのイベントを訪れ、参加することで、狭山市との交流を絶やさず、愛着を持ってもらいたい思いがあり、地元の大学である西武文理大学が長期的に携わるべき役割だと考えています。

中小企業がSDGsに取り組む意義

近年、多くの学生が就職先を選ぶ際に、SDGsに積極的に取り組んでいる企業で働きたいという志向が強まっていると感じます。

一方、私がインタビュー調査した企業はSDGsに熱心に取り組んでおり、経営者が従業員に向けて、SDGsの大切さを伝える際、優れた企業ほど、無理強いするのではなく、従業員がSDGsの重要性について腹落ちする(※2)ように地道な説明を行っています。その結果、従業員の意識が高まり、SDGsを基盤としたビジネスのアイデアが生まれ、広がっています。

従業員の提案により、SDGsを取り入れた製品開発の例として、株式会社大川印刷(神奈川県)では、「SDGsを忘れないメモ帳」や「FLIP BOOK MEMO『PEACE(ロシア語ウクライナ語版)』」等のメモ帳を製品化しています。前者は学校教育でも使われており、後者については売上の一部がNPOに寄付されています。

また、同社では、小学生の課外授業の一環で工場見学をしてもらい、工場で製造されているアイスクリームの製品パッケージ用の紙が、「FSC ®森林認証紙(※3)」という環境に配慮した製品であることを教えています。工場見学をした子ども達が家庭内で話題にすることで家族の間でもSDGsの認識が広まり、以後アイスクリームを買う際に、FSC ®森林認証紙を使ったパッケージのアイスを選ぶ、というように、消費者にもSDGsの意識を持ってもらいたいという思いが企業側にもあるのではないかと私は拝察しています。

企業がSDGsに取り組むことで、従業員のモチベーションが向上するというのが非常に重要です。従業員のモチベーションの向上が、企業のレピュテーション(※4)の向上にも繋がり、SDGsに関心のある世界的な企業と新しい契約が成立する例も存在します。さらに、さまざまなステークホルダーと協力し、意見交換を行うことで、イノベーティブ(革新的)な製品やサービスのヒントを得られることにも繋がるものと思われます。

SDGsの目標17は「パートナーシップで目標を達成しよう」とあり、これはステークホルダーとの協力を意味します。一企業の中だけでは考えが同質化してしまうので、異なる考えを取り入れるためにも様々なステークホルダーとの連携は重要だと考えています。

販売先や外部からの視線に対するリスク管理として、サプライヤー(※5)の立場からSDGsへの取り組みを行っていなければ、発注元である大企業等から取引契約を解消されたりする場合もあります。

欧米諸国ではサプライチェーン全体に求める要求が強くなっています。一例として、欧州のある大手スポーツ用品メーカーでは、4次や5次のサプライヤーが発展途上国の場合が多く、それらのサプライヤーが強制労働者や児童労働などの人権問題を起こしていないかを調査するなど、人権デュー・ディリジェンス(※6)に取り組んでいます。

この欧米諸国の流れは、いずれ日本にも入ってくると思われます。特に日本においては、海外から技能実習生を受け入れる中で、一部の企業では、仕事に遅刻したら罰金を科したり、失踪を防ぐためにパスポートを取り上げたりするような事例があり、人権侵害として社会問題化しています。

このような状況から、日本の技能実習生の制度は海外から非常に厳しい視線を向けられています。

特に、中小企業では多くの技能実習生を受け入れている現状から、海外の動きや視線を注視したSDGsへの取り組みが求められるようになる可能性が高いと考えています。

(※2)腹落ちする…言われた内容について、心から納得している状態のこと。

(※3)FSC ®森林認証紙…違法伐採などがされていない、適切な森林管理が行われている木材チップを原材料にした用紙。「FSC® 森林認証紙」を使用することは、地球環境や森林資源を大切にすることに繋がる。

(※4)企業のレピュテーション…企業やブランドに対する評判や企業のステークホルダーにどのように認知され、顧客や世間にイメージが形成されているかを指す。 企業の評判は、あらゆる意思決定に影響を与えるため、人が何かを購入するシーンだけでなく、就職活動などを行う際にも非常に大きな意味を持つ。

(※5)サプライヤー…主に製品を製造する企業に対して、素材や部品等を提供する企業のことで、下請け企業と言われたりもする。

(※6)人権デュー・ディリジェンス…企業がサプライチェーンを含めた事業活動における人権リスク(強制労働や児童労働など)を特定するとともに、防止・軽減策を講じてその実効性や対処方法について説明し、情報開示するという一連の取り組みのこと。

▼SDGsに関するメモ帳を作っている株式会社大川印刷のHPはこちら
株式会社大川印刷

中小企業ができるSDGsの取り組み

SDGsに取り組む上で、コストばかりが増加しメリットのない状況は好ましくないことから、それぞれの企業が自身の可能な範囲から始め、徐々に取り組む範囲を広げていくことが重要です。

中小企業が実施できる基本的なSDGsへの取り組みには、資源と電力の節約、リサイクルなどの環境に関する取り組みや、地域との交流、従業員への周知とスキルアップなどの社会的な側面があります。しかし、中小企業の中には、できることなのに面倒に感じてやらない場合もあります。ほんの少しの手間で大きな効果を生むことができるため、まだ取り組んでいない企業には、基本的な資源の削減や電力の節約、リサイクルなどにすぐに着手してほしいと考えます。

また、企業が存続するためには利益の追求が必要であり、利益を出すためのコスト削減に取り組みたい思いは多くの企業が持っています。実際にコスト削減に取り組んでいる企業も多いですが、取り組み内容の棚卸ができておらず、CSRやSDGsに紐付けられていないことから、「自分の会社はCSRやSDGsの取り組みを行っていない」という誤った認識にある企業も見受けられます。

その他、SDGsの「住み続けられるまちづくりを」という目標に対して、地域で開催される祭りなどに多くの企業が寄付を行っており、これは企業が地域社会へ貢献している典型的な例です。
ただ、このことがSDGsやCSRに関わるものだと意識していない場合が多いので、企業で行っている様々な取り組みを棚卸して、SDGsなどと紐付けできるものを整理して必要に応じて発信できるようにしておくことが大切だと考えます。

その上で、新たなSDGsへの取り組みやビジネスモデルを、従業員の自発的なアイデアに基づいて生み出すことができれば、より理想的であり、従業員のスキルアップはSDGsの取り組みの中で非常に重要だと考えています。

さらに、高度な取り組みとして、循環型経済のビジネスモデルの構築が考えられます。

一つ例を挙げると、食品リサイクル事業を営む、株式会社日本フードエコロジーセンター(神奈川県)では、賞味期限の切れた弁当やおにぎりをスーパーマーケット等の食品関連事業者から引き取り、通常だと廃棄処理される食品について、発酵技術を使いリキッド発酵飼料を製造し、それを養豚農家へ安価な飼料として提供しています。

このリキッド発酵飼料を与えることで、粉塵が生じる乾燥飼料と違い疾病問題も解消され、より健康な豚を飼育することが可能となって、安全・安心なブランド肉を消費者に提供できるという「食品リサイクル・ループ」が構築されています。また、この飼料は、従来の高温で製造される乾燥飼料と異なり、必要なエネルギーやコストを大幅に抑え、安価な製造を実現しています。

さらに、同社は食品廃棄物由来のメタン発酵バイオガスを燃料とした発電プラント運営事業を手掛ける特別目的会社で中心的な役割を担っており、2024年秋からプラントの稼働開始を予定しています。

これらの点は、SDGsの取り組みにマッチしており、非常に素晴らしい取り組みとして評価できるものだと思います。

この企業のように大規模な取り組みは簡単にはできないとしても、企業・従業員が一体となって知恵を出し合って、SDGsを新しいビジネスに繋げ、その新しいビジネスをベースとしてSDGsの実現を目指すという視点が中小企業にも求められるのではないかと思います。SDGsに関連したビジネスの構築において、一企業だけでは限界があるため、商工会議所などの経済団体や業界団体と連携し、知恵を出し合って新しいビジネスを生み出すことが地域振興にも寄与するものと考えます。

▼食品リサイクル・ループでSDGsに貢献している株式会社日本フードエコロジーのHPはこちら
株式会社日本フードエコロジーセンター

これから具体的な取り組みとして考えられているものは

私の今後の活動としては、狭山市(市役所)とも連携を図りながら、狭山市内の中小企業にSDGsに関するアンケート調査を実施し、その結果を基にした新たなシンポジウムの開催を考えています。

狭山市では、近隣5市で構成される「埼玉県西部地域まちづくり協議会(ダイアプラン)」において、「ゼロカーボンシティ共同宣言」を表明するなど、CO2削減という「脱炭素」の取り組みに特に力を注いでいることから、SDGsの17の目標の1つである「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や「気候変動に具体的な対策を」などの項目を取り入れた内容も検討していこうと思っています。また、引き続き中小企業へのCSR・SDGsに関わる教育も行っていく所存です。