SDGs 大学プロジェクト × Himeji Univ.

姫路大学の紹介

姫路大学は、世界文化遺産でもある雄大な「白鷺城」こと姫路城が立地する歴史的なエリアに学び舎を構え、キャンパス周辺は歴史と自然が調和した魅力的な街並みが広がり、瀬戸内海を一望できる緑豊かなキャンパスです。

四季が織りなす景観をキャンパスで感じながら、高度な看護実践力をはじめ、4年制ならではのアカデミックな学びで保育士、幼稚園、小学校、養護教諭を目指します。少子高齢社会の現代に不可欠な、看護と教育のプロを育てる本学では、めざす将来に直結した2つの学科を設けています。

「看護学科」では、看護の基本的な知識・スキルはもちろん、グローバルヘルス看護や災害看護など、より高度な専門知識を身につけます。

「こども未来学科」では、教育に看護や養護まで取り入れた幅広い学びが特徴です。また、ボランティアやフィールドワークなど充実した体験型授業を通じて、幅広く対応できる教育者のスキルを磨きます。

20年間の教員経験が生んだ「教科等横断型地域学習」

― 本日は、阿曽先生が取り組まれているSDGs学習における「教科等横断型地域学習」について教えてください。どのような経緯から生まれた学習法なのでしょうか?

以前、私は小学校の現場で20年間勤務していました。当時はSDGsを意識して授業をデザインしていたわけではありませんでしたが、毎年4月に行っていた各教科の教材に基づいた年間指導計画の作成、いわゆるカリキュラムマネジメントを通じて、段階的に教科等横断型のSDGs学習が形成されていったと感じています。

例えば、特定の時期に国語科と社会科の教材と「平和」というテーマを組み合わせた単元を設け、子どもたちが国語科と社会科を同時に、かつ興味深く学ぶことができるような単元計画を練りました。これにより、学びの質を向上させると同時に、SDGsへの理解を深める一環となりました。

― 横断型学習を実行される上で、例えば他の教員との連携やカリキュラム調整など、課題はありませんでしたか?

学校の地域性や規模によって、直面する課題は大きく異なると考えています。私が勤めていた学校は、1学年1クラスであり、児童数も20名程度という小規模な環境でした。

このような背景から、学級担任は比較的大きな裁量を持ち、単元の計画や内容について様々な取り組みを試みることが可能でした。しかし、1学年に6クラスがあるような大規模な学校では、同様の柔軟性を発揮することが難しいかもしれません。

また、現代社会においては学校における働き方改革が進む中で、教員がSDGsに特化した学習をデザインしたり、子どもたちが楽しく主体的に学べる単元を作るための、時間的・心理的な余裕を確保したりすることが難しい状況が生じています。この課題は学校の規模に関わらず、全国的に共通していると感じています。

地域の特性や課題を活用した学習単元の創造と課題

― 横断型地域学習の単元を作る際、阿曽先生はどのようなことを意識して、地域の特性や課題を教材に組み込まれていましたか?

ESD(Education for sustainable development)やSDGsと聞くと最近の教育のように感じられますが、実際の学校現場ではSDGsが日本で広く話題になるよりも前から、防災、ジェンダー、平和学習、環境など、現代の課題に焦点を当てた学習が行われていました。

例えば、小学3年生や4年生の教材にSDGsをどのように組み込むかを考えてみましょう。環境に焦点を当てた場合、社会科や理科の学習内容を地域の環境活動に結びつけることで、興味深い学習単元が生まれるかもしれません。

私は、こうしたアイデアを展開していく過程が、実は最も好きな部分です。この視点をもとに、単元の構築に取り組んできました。さらに、地元の先輩教員が残した実践記録には、今の学校現場でも有益な実践が数多く含まれています。これらを今の視点でアップデートし、新たな単元計画のアイデアを取り入れることも、私の単元構築の重要な一環となっています。

― 小学校教員の方々は、時間に追われる中で、プラスアルファとなるカリキュラムを考える時間がなかなか捻出できないイメージがあります。実際はいかがでしたか?

確かに、年度の始まりである4月は、年間計画を作成するための非常に多忙な時期となります。
時間を確保することは容易ではありませんが、1年間の学級づくり、授業づくりがその場しのぎの対応ではないものにするためにも、むしろこの時期にしっかりと年間計画を考え、計画を練ることが後に大いに助けとなります。

最近の学校現場では、教職員の年齢構成が不均衡であり、若手教師が増加しています。そのため、経験豊富な先輩教員からの知識や年間計画の作成方法が十分に伝承されておらず、日々の業務に追われることがあります。この状況は教育業界に限らず、多くの職業で見受けられるかもしれません。現場のノウハウを若手に伝え、繋いでいくことが、今後の重要な課題と考えられます。

児童の興味を引き出し、SDGsの「自分ごと化」を推進

― SDGs学習を進める上で、生徒たちに興味を持って積極的に参加してもらうために、どのような取り組みを心がけていらっしゃいましたか?

児童たちの興味を引くために、授業で習得した内容をさらに発展させる単元を計画し、身近な気づきから学びを始められるように心がけていました。

最初に、児童たちが”自分ごと”として捉えられるような「入口」を丁寧に構築し、それを通じて児童たちが自発的に学習に参加するように促しています。同時に、「出口」の設計にも重点を置き、学んだことをどのようにアウトプットし、社会にどのように貢献していくかを考え、児童たちの意欲を引き出そうとしています。

例えば、平和学習では、「学んだことを誰に伝えたい?」といった問いを通じて、子どもたちとゴールを設定していました。このアプローチにより、子どもたちは自分なりに学習を整理し、目標に向かって積極的に取り組んでくれます。

また、最近ではコロナ禍でのオンラインやオンデマンドの普及により、異なる地域の児童同士が対話する機会を作ることは比較的簡単になってきました。このような技術を活用して、より多くの児童が互いに学び、刺激し合う環境を構築することも、児童たちのモチベーション向上には有効だと考えています。

― 自分ごとにすることは、大学生や大人にとっても難しいことです。小学生に自分ごと化してもらうために特に意識されていたことはありますか?

小学生の生活空間は比較的狭く、主に自宅や学校のある地域に限定されています。そのため、世界規模の課題を扱うSDGsは、彼らにとっては遠い話に感じられがちです。そこで私は、地域の課題に触れることを特に意識していました。地域の取り組みを知ることや、防災ハザードマップを活用して、子どもたちの日常生活とSDGsのつながりを見出そうと心がけていました。

例えば、「もし土砂災害が起こったら、あなたの家ではどう行動すべきでしょうか?」といった具体的な問いを通じて彼らの実生活にSDGsを落とし込むことが、自分ごとへの一歩となります。
私は今年度から大学の教員となり、防災に関する講義を行いましたが、大学生にとっても最初はSDGsが実感しづらいものだと感じました。

しかし、今年1月に能登で震災が起きた後、1年間の防災学習の集大成として防災食を配布した際には、学生たちは災害が他人ごとではないと実感したような反応を見せていました。このように、身近なテーマや具体的な体験を通じてSDGsを自分ごととして捉えることの重要さを感じています。

コロナ禍を経て、外へ出て学ぶ価値を伝えたい

― 最近の大学では、SDGsなど将来の社会貢献に繋がる活動に対する関心が減退しているようです。阿曽先生の経験から、SDGsへの参加や関心を高めるためのアドバイスはありますか?

SDGsに対する関心を高めるためには、学校での講義だけでなく、実際にフィールドワークなどを行ってみることも大切です。せっかく時間がたくさんある大学生であれば、尚更おすすめしたいですね。

私は教育現場にいた頃、夏休みを利用して若手教員の方々と広島に行っていました。現地での体験を通じて学んだことは、後に生徒たちに伝えることができるものです。当時から、自らが直接感じたことを伝えることが大事だと考えていました。

最近では、卒業後に学校現場に立とうとしている学生から、「大学生活の残りの期間で、何をすべきですか?」と尋ねられることがあります。私から彼らへのアドバイスは、今のうちにさまざまな場所を訪れ、実際に自分の目で見て、感じてきてほしいということです。

例えば、広島の平和記念公園を訪れて原爆の悲惨さや戦争の被害を学ぶことや、かつて地図から消された島と呼ばれた大久野島のように、過去に毒ガスが作られていた場所を訪れるなど、生の経験を積み重ねるほど、将来学校現場に立った際、子どもたちに伝えられる貴重な経験となります。

コロナ禍が明けた今、大学生には周囲の世界に対してアクティブに関心を持ち、五感を使って学ぶことをおすすめしたいです。これも、SDGsへの理解と関心を深めることに繋がるのではないでしょうか。

― コロナ禍を経て、フィールドワークなど外部との交流の文化が途切れたように感じられます。実際に行動を移すことへの難易度は、どのように感じられていますか?

現在の大学3年生や4年生は、高校生から大学生の期間はコロナ禍によって外部と交流する機会が限られていた世代です。その影響なのか、過去に大学院で接した学生たちと比較すると、現在の学生はアクティブに行動することに対して消極的な印象はあります。

しかしながら、最近私の研究室に訪れた学生の中には、「コロナ禍で旅行や外出が制限されていたからこそ、これからは積極的に外へ出て、さまざまなことを学びたいと思っています」と語ってくれる学生もいました。このような意欲を持つ学生がいることは、私たち教員にとっても、外部で学ぶことの重要性を伝え続ける大きな動機づけとなります。

また、旅行だけでなく、目的がなくとも人と集まって対話していた時間も、実は非常に大事なものだったと思います。コロナ前は当たり前だったこのような交流の機会が、最近失われがちになっていると感じていますね。

過疎地域におけるSDGs教育の可能性

― 過疎地域では、地域への興味づくりや魅力あふれる地域づくりについて考える際、SDGsを絡めることも多いようです。SDGs教育は持続可能な発展にどのような貢献ができると思われますか?

教育現場において、過疎地域の教育を「へき地教育」と呼ぶことがありますが、この表現にはどうしてもネガティブな印象があるように感じます。しかしながら、実際のへき地教育は、将来的にますます進むであろう日本の過疎化において、ある意味先駆的な取り組みだと言えます。

私はかつて小規模な学校で勤務していた経験から、地域に密着した多岐にわたる実践を試みることができました。今後、過疎地域での学校規模の縮小が予測される中で、こうしたアプローチはより重要になると考えられます。

過疎地域においてSDGsを意識した教育を提供することで、子どもたちは単に地域を理解するだけでなく、オンラインやオンデマンドを通じて、その地域の価値を世界に発信するスキルを身につけることが期待されます。これにより、技術を駆使することでグローバルな視野も開かれるでしょう。都市部の実践が先駆的であるという先入観を捨て、過疎地域がその真似をするのではなく、むしろ地域独自の特性を理解し、活かすことが極めて重要だと考えます。

学生の皆さんへメッセージ

― 先生のプロフィールを拝見した際、「楽しくするのは、自分!!」という座右の銘がありました。最後に、これから多くの困難に立ち向かうであろう高校生や大学生の皆さんへアドバイスをお願いします。

私の座右の銘は、20年前に教員としてのキャリアをスタートした際、今でも最も尊敬している先輩から学んだ言葉です。その先輩は、「楽しくするのは、己」とよく仰っていました。先輩は「己」という言葉が似合うほど格好良く使いこなしていましたが、当時の私には少しハードルが高く、「自分」という言葉に置き換え、座右の銘として20年間言い続けてきました。

確かに、私たちは社会の変化や人間関係の難しさに直面することを避けられません。しかし、物事が思うように進まない時、他人のせいにしたくなる気持ちを少し緩めて、自分にできることに目を向けてほしいのです。
私は、物事は常に自分と周囲との関係性の中で起こると考えています。自分の立ち位置を少し変えるだけでも見える世界は変わり、自分から行動を起こすことで周囲も動き出すことが必ず起こり得ます。

高校生や大学生は、社会や世間がより鮮明に見え始める大切な時期です。うまくいかないと感じることもあると思いますが、そんな時こそ、まずは自分にできることを見つけ、昨日よりも面白いと感じられるものを追求してほしいと思っています。まずは、自分から新たな一歩を踏み出してみると良いのではないでしょうか。