
社会貢献活動 × Bunsei University of Art.
目次
文星芸術大学の紹介

文星芸術大学は北関東で唯一の芸術系大学として、また、地の利を活かしながら、日光・足利・益子など の歴史や文化について学ぶとともに、地域連携の社会的な実践の学びを行い地域貢献に務めています。
少人数のキャンパスなので研究・教育に係る指導がいき渡りやすく、アットホームな雰囲気です。立地も、宇都宮ののどかな場所にあり、日光街道、大谷石採石場など自然と触れ合う機会も多い場所です。街中から少し外れた穏やかな時間と空間は、創作活動をするにはうってつけの場所になります。
文星・芸術文化地域連携センター設立のきっかけ
–地域連携がまだ広く認知されていなかった時に地域連携を取り入れようと思ったきっかけを教えてください。
私が文星芸術大学(以下、文星芸大)を訪れたのは2008年の5月でした。それまで私は栃木県庁で職員として働いており、端から見ると文星芸大は絵を描くことや鑑賞することを学ぶ場所という程度の認識しかありませんでした。
しかし、実際に大学を訪れると、アート、マンガ、デザインなど多岐にわたる専門分野が存在し、そのポテンシャルの高さに驚かされました。
同時に、文星芸大を初めて訪れた際、偶然にも前任の学長が使用していた「地域連携」という冊子を書棚で見つけたことが、私にとって一つの転機でした。その冊子には、東京芸術大学(以下、東京芸大)が台東区の住民と地域連携を築いている取り組みが記されており、当時、地域連携という概念がまだ広く知られていなかったため、興味深く読み進めました。しかし、冊子を読みながら徐々に、「文星芸大も東京芸大と同じように、地域との連携が可能なポテンシャルを秘めているのではないか」と考えるようになりました。
学内での教育と研究だけでは「非常にもったいない」と感じ、今後は地域連携を通じて学外にアピールしていくべきとの考えが芽生えました。早速、行動に移し、その年の9月に開催された教授会で地域連携のセンターを設立したい旨をお話ししました。
思いがけず、教授陣からは「実は私たちもそのような取り組みを考えていました」という好意的な反応をいただきました。教授陣が同様の取り組みを進めるにはノウハウが不足していたようで、私は前職で自治体や企業との交流を通じて培った経験を活かし、センター設立に向けて組織規程を作成し提案を行いました。
当初は、多忙で難色を示す方も一部いらっしゃいましたが、今後は学内で行っている活動をプロモーションとして学外に発信することが求められる時代であり、この大学にはそれを実現できるポテンシャルがあるため、組織を構築する意義があるとお話しし、皆の合意を得ることができました。
このようにして、研究室でホコリをかぶっていた冊子がきっかけとなり、現在では私たちが主導する地域連携活動が年に40〜50件ほど行われ、盛んに取り組まれています。
地域連携の運営に必要な力と基本的な精神

ここでは、長島先生に地域連携の運営を行う上で必要な力と考え方について伺いました。
企画力に加えて人脈が問われる
–当初連携事例年6件程度から始まった文星・芸術文化地域連携センターですが、今では週に1回のペースで事例を増やし600件を超える事例が存在するまでになりました。ここまで来るにあたって、土台には長島先生ご自身の県庁時代のご経験や人脈が大きく寄与していると考えますがいかがでしょうか?
連携を進める上での鍵となる能力は、まず第一に企画力です。しかしそれに加えて、発信していくためには人脈が不可欠です。
他の大学でも連携や発信に悩んでいる課題の一つは、現場の関係者との円滑な連絡手段の確立です。このような事情から、人との繋がり、すなわち人脈が及ぼす影響は非常に大きいと考えます。
私は県庁での経験から、地方自治体の首長や経営者の方々と多くの交流があり良好な関係を築いてまいりました。その結果、連携事業を実施するに当たり、その企画内容を検討する際の話し合いなどがスムーズに進めることが出来ました。また、ひとたび地域連携の取り組みが新聞などに掲載されると、関係者から依頼の電話をいただくことがありました。
このように、私自身の経験を通して、学生たちの教育や地域連携の運営においても、人との繋がりを重要視すべきだと確信しています。そして、将来社会人として活躍する際にも同様に、人脈の大切さを学生に伝え続けています。
一期一会の精神で誠意をもって接すること
–ちなみに、人と人との繋がりという部分で、県庁職員の時代から人と接する上で大事にされてきたことはありますか?
今、この瞬間に誠意をもって対応することです。
故事に「一期一会」という言葉が在ります。この言葉は、再びお目にかかるかどうかは分からないからこそ、「今」お会いしている「人」との出会いを大切にしようという心構えを表しています。この言葉は私の生活信条である「誠(まこと)」にも通じており、誠実に、かつ一期一会の精神で接することを意識しています。
心からのお付き合いをするという心構えで情報交換すると、次に会う機会も自然と繋がっていきます。
さらに必要なのはコーディネート力
–地域連携を進めるに当たって必要な能力は企画力と人脈ということでしたが、他にもありますか?
企画力や人脈構築の他にも、もう1つ欠かせない要素が存在します。それは、コーディネート力、いわゆる調整力です。
全体をバランスよく調整する力は、極めて重要です。私は常日頃、先生方とこまめな連絡を取り合っており、新しい案件が発生した際にはすぐに適切な先生に情報を伝えることができます。
この連携によって、地域全体の連携がよりスムーズに進むと確信しております。ですから、日頃から積極的に情報交換を行い、全体の調整を円滑に進めるためにどのように努めるかが大切だと考えます。
–その能力というのは、元々備わっていた能力でしょうか。それとも、県庁時代に磨かれたスキルでしょうか?
備わっている場合もありますが、備わっていてもいなくても、私は努力が大切だと考えます。
良いリーダーとは先見力ある人だと言われていますが、良いリーダーであっても、先見性があるか否かは生まれつきだそうです。とはいえ、努力を怠ると宝の持ち腐れで終わってしまいます。
どの様な能力でも同じことが言えると思いますが、たとえば、野球の長嶋監督やイチロー、王監督をイメージしてもらうとわかりやすいと思いますが、彼らは皆並外れた努力をしていたはずです。生まれつきの優れた運動能力に加えて、人の見えない所でバットをスイングしたり、上手な人の技術を真似たりとものすごい努力をしていたからこそ、優れた能力を発揮することができているのだと思います。
私は幸いにも先見性や調整力のDNAを親からもらったのでしょう。その能力を腐らせることなく、多様なセクションと幅広いお付き合いをする中で努力して育んだ結果、今の地域連携センターでの調整役という重要な役割に繋がっているのではないかと感じています。
–努力を続けるモチベーションはどこにあったのでしょうか?
モチベーションの源泉は、やはり調整が円滑に進んだときに感じる達成感や仕事に携わることの喜びに他なりません。
私は県庁職員時代から様々な分野の仕事に携わり、数々の経験を積んでまいりましたが、当時は、苦労や難しさを感じることもありました。しかし、振り返れば楽しい瞬間だけが鮮明に記憶に残っており、何よりも物事を成し遂げた際の感動は言葉に尽くしがたいものがあります。
私が担当させていただいた仕事の一例として、「日光の社寺」のユネスコ世界遺産への登録があります。宗教の違いなどから登録までのプロセスは容易ではありませんでしたが、日光東照宮、日光山輪王寺、日光二荒山神社などの関係機関との調整を適切に行い、無事に登録を達成することができました。
世界遺産の登録に伴う規制があり、反対意見や賛成意見が入り混じる中での調整は簡単な任務ではありませんでしたが、その困難にしっかりと・真剣に立ち向かい、成し遂げた瞬間の達成感は非常に大きなものでした。
人との対話においても、仕事においても「真剣に取り組むこと」が重要です。より付加価値の高い仕事を追求し、真剣に向き合うことで仕事のクオリティが向上し、真摯な取り組みが公に評価される瞬間は何よりも喜ばしいものです。
これらの経験が私のモチベーションの源となっており、今後も真剣勝負を通じて成し遂げる喜びを追求してまいります。
学生と地域を繋いで社会に貢献する

ここでは、長島先生に学生と地域をつなぐ上で意識されていることを伺いました。
学生と地域と関係者を繋ぐキーステーション
–これまで人と人との繋がりという部分をお聞きしましたが、一方でセンター長という立場で学生と地域と大学関係者を繋ぐ、要のところにおられると思います。そこで様々なステークホルダーとの関係性を維持していくにあたり、意識されているのはどんなことでしょうか?
文星芸大において、私の役割はキーステーションとして機能することです。
芸術家を志す先生方の中には外部との連携に不慣れな方も多く、そのため地域との連携は一般的に難しいものとされ、これは十分考慮されるべき課題であると考えています。
したがって、私はキーステーションとして、各自治体の首長や企業の社長、一般の方からの地域連携に関する問い合わせを受け、それを適切にまとめ、どの専攻のどの先生と協力してプロジェクトを進めるかを検討する役割を担っています。
例えば、マンガ冊子の制作依頼があった場合、マンガ専攻のA先生と連絡を取り、「こういった話、ご興味ありますか?」と提案します。A先生が難しい場合は、デザインに詳しい先生と協力し、最終的にB先生が担当するといった具体的な進行があります。
効率的に進めるためには、常日頃から先生方との信頼関係が不可欠です。定期的な情報交換を通じて、信頼関係を築くことが私の着任以来意識している重要なことでした。
信頼関係がなければ、提案した案件も「忙しくて対応できません」と断られる可能性があります。逆に信頼があると、積極的に協力してもらえるだけでなく、「私は対応できませんが、C先生にお願いしましょうか?」といった形で柔軟に対応できます。
このようにして、一体となって連携が可能な環境を構築するためには、大学全体が共通の目標に向かって進むことが最も重要であると考えています。
–学生と地域を繋ぐうえで、意識していることはありますか?
学生には、学外の社会人などとの交流を通じて、「人間関係の築き方」や「人への思いやりの大切さ」、そして更には「地域貢献を目指すという理念」を養うよう心がけております。現在、この取り組みにより、その成果が実りつつあると感じています。
卒業アンケートを実施した結果、「地域連携を通じて学外のプロジェクトに参加できたことが良かった」という意見が多く寄せられました。他の大学では経験できなかったことかもしれない、と感じてくれています。
さらに、学生たちは地域連携を通して報道関係の取材を受けたり、経営者やクライアントとコミュニケーションを図る機会が増えています。初めは適切な言葉や対応が分からないと戸惑うこともあるかもしれませんが、経験を積むことで徐々に上達し、報道関係者や経営者、クライアントとの円滑なコミュニケーションが自然と可能になっています。
これは学問だけでなく、人間形成においても有益な学びとなっているのではないかと考えております。
それぞれの大学の教育資源で地域作り


–これまでのお話をお聞きすると、文星芸術大学が持っている「芸術・文化」といった部分を、教育資源として活用し地域の課題解決に結びつけたということだと拝察します。そこで芸術や文化といった切り口に注目した理由は、なんだったのでしょうか?
これまでの大学は、主に教育と研究に焦点を当ててきました。例えば、先生方は「私が指導した結果、学生がこのように成長した」といった視点で自己評価を行う構図が、良い教育であるとされてきました。
しかしながら、今後は学生本位の教育が重要視されるべきだと考えます。単に先生から教わった知識や技能だけでなく、学生自身が大学で「何を学び、身に付けることができたか」を感じ取ることが重要だと思います。
また、その経験を適切に言語化し、自己表現できる能力も育む必要があります。つまり、学生本位の教育が理想的な教育の在り方であり、大学は単なる専門学校とは異なり、研究を通じた役割も果たすべきです。
加えて、将来の大学には地域貢献が求められるでしょう。単に教育や研究だけでなく、各大学が有する教育資源を活かし、地域社会の発展や地域への貢献を促進することが期待されています。
理工系、法学部、経済学部など、各分野ごとに異なる教育資源を有する中、私は文星芸大での教育・研究が芸術と文化に焦点を当て、この教育資源を活かして地域社会の形成や活性化に寄与したいと考えています。
足跡本『地方創生と大学の役割』を羅針盤に!
–長島センター長は600件を超える地域連携の経験をまとめた足跡本『地方創生と大学の役割』を出版されましたが、読んだ方々に何を届けたいとお考えですか?
この書籍は、冒頭では過去に実施された615件の地域連携の実例を紹介し、後半では将来の地域連携の在り方に焦点を当てました。これにより、過去の連携事例を足跡として振り返るとともに、これからの地域づくりに従事する人々の羅針盤となる書籍を目指しています。
本書では、将来の地域連携の一環として、デジタル時代における地域連携についても触れています。
例えば最近、メタバースにおいて仮想美術館を構築し、ブースを設けて飾りたい作品を展示することなどを検討しています。文星芸大に隣接して宇都宮美術館があるので、今後、館長さんや学芸員さんと協議しながら、メタバースでの美術企画展を企画したいと思っています。
これが実現すれば、来館せずとも、異なる場所からでも話題になっている作品を鑑賞することが可能となります。さらに、利用者はアバターとして仮想空間内で解説者と対話することができるようになっています。
このメタバース内での美術企画展プロジェクトは、帝京大学宇都宮キャンパスとの連携を通じて教育資源を活用しています。帝京大学が理工系の教育資源を提供し、デジタル機材を使用したメタバース空間の構築を担当し、文星芸大が芸術の教育資源を用いてアバターの制作を手がけました。
帝京大学宇都宮キャンパスの学生たちは、キャラクターの作成に喜びを感じています。「これ、素晴らしいですね。自分の顔が再現されている!」という感想があり、理工系と芸術系の枠を超えた協力がスムーズに進んでいます。
他にも、地域の問題解決に焦点を当て、近隣自治体と連携して仮想空間上に3Dモデルの街を構築したり、文星芸大が開発した「モーションコミック」(動くマンガ)と呼ばれる技術を用いて、人口減少や空き家問題などの地域課題を視覚的に表現し、発信しています。これらの取り組みは、DX時代に相応しいまちづくりの一環となっています。
本書がこれらの面白いまちづくりに言及していることから、興味をお持ちの方はぜひ手に取り、新たな地域づくりにおける喜びやワクワクを感じていただければ幸いです。
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