SDGs 大学プロジェクト × Sophia Univ.

上智大学の紹介

上智大学は東京都に本部を置く私立大学で、人文科学系と理工学系の9学部29学科があります。日本で初めてのカトリック大学として1913年に開学し、「他者のために、他者とともに(For Others, With Others)」を教育精神に掲げてきました。

上智大学では、大学生活を通して生涯学び続けるための基盤を養う「基盤教育」を重視。基盤教育では、専門知識を深める「学科科目」を軸として、それに「全学共通科目」と「語学科目」の2つが綿密に連携し合うように4年間のカリキュラムを構築しています。

また、全ての学生を対象としたグローバル教育に力を入れているのも特色です。海外での留学や研修のサポートはもちろん、グローバル社会に対応するために幅広い分野で100科目以上を開講しています。

「学生職員」とは

上智学院が運営する上智大学では、2021年7月にサステナビリティ推進本部を設立し、SDGsなどに対する取り組みを強化してまいりました。

その一つの「学生職員」は、教職員だけでなく学生もサステナビリティ推進本部の業務に携わることができる制度です。学生職員たちは学生ならではの目線からアイデアを出し、イベント運営や情報発信、学内の環境整備などの分野で活躍しています。

今回は、学生職員として活動中の竹内綾さん(総合人間科学部社会学科所属)にお話を伺いました。

学生の視点を生かし、3チームで活動

-学生職員の活動内容や、サステナビリティの推進に関してどのような貢献をされているかを教えてください。

学生職員は3つのチームに分かれて活動しています。
私が所属している「企画実施チーム」は、学内外に向けたイベントの企画と運営を担当しています。一方、「情報発信チーム」は、SNSやホームページの運用に加え、SDGsレポートの作成などを行なっています。そして、「キャンパス環境改善チーム」は、学内の緑地を増やすなど、キャンパス内の環境を向上させるための活動を進めています。

サステナビリティを推進するために力を入れているのが、学生や教職員、そして社会の人々の意識改革につながるようなアプローチです。その他にも、企業とコラボした産学連携プロジェクトも実施しています。

また、情報発信の際には、受け手の立場に立った発信を常に心掛けております。例えば、言葉の表現や文字の大きさ、色覚特性を持っている方も見やすいデザインなど、誰もが情報を理解しやすいように工夫を凝らしております。

-竹内さんは、学生職員に大切なことは何だと思いますか?

現在進行形で大学生活を送っている当事者として関わることが、この学生職員制度のキーポイントだと思っています。学生ならではの発想力や創造力を発揮し、プロジェクトに生かしていくことが重要だと考えております。

例えば、2023年12月に「学生向け イベント開催のためのサステナビリティガイドライン」を作成しましたが、その内容には学生団体として活動している身近な友人たちから聞き取ったことも反映させました。
職員目線と学生目線の両方を持ち、些細なことにもアンテナを張って気を配っていくことを心がけております。

コロナ禍の虚無感をバネに挑戦

-学生職員という制度について知ったとき、どのように感じましたか?

当時私は新しい挑戦の場を求め、模索していた時期だったので、「これだ!」と直感的に応募を決断しました。
入学当初からコロナ禍でオンライン中心の生活を過ごし、上智大学の一員であることを思うように実感できない日々を送っておりました。制限された生活が“当たり前”になる中、次第に新たな挑戦に踏み出す勇気を持つことが難しくなり、動き出せずにいる自分にもどかしさや将来への焦りを抱くようにもなりました。

そのような中で見つけたのが、学生職員の募集です。希望を叶えて入学した大学で、より誇りや愛着をもって、受け身ではない学生生活に挑戦していきたいと強く思っていました。また、私は大学で社会学を専攻し、サステナビリティに関連する分野も多く学んでおりました。そのため、自身の学びを実践的に活かせる機会としても学生職員の活動が重なり、応募の決断をする後押しとなりました。

この挑戦は、私にとって空白になってしまった過去の2年間を取り戻すための第2の大学生活のスタートにもつながったと思っています。

-学生にとって、大学の職員は距離のある存在だと思います。学生職員になって職員の仲間に加わったことで、どのような意識の変化がありましたか?

まず、学内でのイベント運営に積極的に関わることで、コロナ禍において得られなかった大学への愛着や誇りを一層強く感じるようになりました。

学生職員としての経験を積む中で、イベントを企画・運営している職員の皆様と協力する機会が増えました。その中で、これまで気づけなかった大学の取り組みやサステナビリティへの熱意を再発見することができ、改めてこの大学に入学して本当に良かったと思えました。

さらに、サステナビリティを発信する立場としての役割を担うことで、他者に寄り添う言動を見直すきっかけとなりました。それまではサステナビリティ関する情報をインプットすることにとどまっていたので、イベントを通じ、多くの人々にサステナビリティを伝える経験は、私にとって大きな学びとなりました。
今後はより一層知識を深め、日常生活でも他者に寄り添った行動を継続して心掛けていきたいと思っています。

サステナビリティの輪を広げるために

-大学全体でサステナビリティを推進する上で、最も重要な課題は何だと思いますか?

サステナビリティに対してあまり関心を持っていない層をどれだけ取り込んでいけるかが、今後重要になると考えています。

私自身、学生職員になってからの2年間、さまざまなイベントの企画を行ってまいりましたが、そのようなイベントに参加するのはもともと関心が持っている方が多いのが現状です。

高い意識を持ち、さまざまな面からサステナビリティの推進にアプローチしている方々は多くいらっしゃいますが、社会全体を変えていくには、現在サステナビリティに関心を向けていない層も巻き込みながら、活動の輪を広げていく必要があると考えています。

-これまでの活動の中で、サステナビリティへの関心が低い層に対して有効だったアプローチはありますか?

個人的には「楽しさ」が鍵になると思っています。
サステナビリティと聞くと学問的な要素が強く、意識の高い人が考えるものとイメージされがちです。だからこそ堅苦しいものにするのではなく、もっと身近なところから変えていけるという”気付き”を提供することが必要だと思います。

学生職員の初年度の先輩たちが企画したイベントでは、芸能人の小島よしおさんをゲストに招き、SDGsについて一緒に考える企画を行いました。小島さんと共に、楽しくSDGsを学ぶ機会を作ったことで、より多くの人にアプローチすることができ、課題を自分ごとに捉えてもらうきっかけにつながったと思っています。

SDGsコンテストや企業とのコラボも

-他にも、成功したと思うイベントやプロジェクトがあれば教えていただいてもよろしいでしょうか?

全てのイベントに学びや思い入れがありますが、敢えて一つ挙げるとすれば、2023年3月に開催されたSDGsアイデアコンテストがあります。

このコンテストは、上智学院の中高4校の生徒が対象となったものです。これまで、中高4校が一堂に会し、共同で何かに取り組む場は設計されていませんでした。このコンテストは、4校が初めて上智大学で協力し合う機会として企画され、参加した生徒や審査員から多くの好評をいただきました。

コンテストを企画する際に、最も重要視したのは、どうすれば中高生たちが主体的に参加できるかという点です。正直、現在の中高生たちがサステナビリティについてどれほど考えているかは未知数でした。どのようにしたら彼らが参加したいと感じるイベントになるかを軸に考え、参加者が楽しめるテーマ設定を意識して企画を進めました。

▼ SDGsアイデアコンテストの詳細についてはこちら
上智学院中高4校の生徒と上智大生が集う「SDGsアイデアコンテスト」を開催しました

-特に、”楽しんでもらえた”と思うポイントはありますか?

年齢や学校に関わらず、お互いを尊重しながら意見を出し合い、考えを深めていく”プロセス”を楽しんでもらえた印象があります。

このコンテストは3つのステップで進行しました。最初に、私たち自身がSDGsについてどれだけ知識を持っているかを確認し、グラフや付箋を使って可視化しました。次に、その知識をもとに、私たち自身がどのようにSDGsに貢献できるかを書き出しました。最後に、グループで協力し、多くの人をSDGs活動に参加させるための方法を考え、それを発表しました。

サステナビリティについて学ぶ機会はあっても、自分たちの意見を発表し合う場や議論する場は不足しているように感じます。そのため、中高生の皆さんには議論をするプロセス自体を楽しんでもらえたのではないかと思っております。

-中高生にとってはとても良い体験になりますね。中高生たちのサステナビリティに対する認知度や理解度については、どのように感じましたか?

私たち大学生も、各グループに1人ずつサポート役として参加しましたが、中高生たちは非常に意欲的に意見を出してくれました。私が中高生だった頃よりも、彼らの意識がずっと高いことを感じ、驚きました。

-続いて、他の企業や団体との共同企画について具体的な事例を教えていただけますか?

セブン&アイ・ホールディングスと共同で朝食のレシピを考案した企画があります。
「たいせつにつくる、たいせつに食べる」をコンセプトに掲げた「賢者のレシピ」というプロジェクトに、本学も参画させていただきました。

考案したレシピは「賢者のレシピ-叡智の朝ごはん編」として公開されております。

上智大学生がプロデュース!『賢者のレシピ』共同開発プロジェクト~食品ロス削減と手軽で美味しい健康な朝食とは~

本学とセブン&アイ・ホールディングスとの接点は以前から存在しておりましたが、上智学院サステナビリティ推進本部の発足と同時期に、同社との共同企画がスタートしました。

事前に学内で実施したアンケートにより、多くの学生が朝食を摂らないという課題が浮かび上がりました。また、学生と職員からはフードロスについての関心も多く寄せられました。そのため、これらの課題に対処するため、学内で呼びかけを行い、集まった30名の学生がグループに分かれてレシピを考案しました。

学生職員の経験が生んだ変化

-学生職員として活動する中で、大きな学びや成長を体感した瞬間はありますか?

2022年11月に、学内向けに開催された「マイクロアグレッション」に関する啓発イベントは、その後の私の日常生活に大きな影響を与えました。マイクロアグレッションとは、差別や傷つける意図がないにもかかわらず、相手の心に影を落としてしまう言動のことを指します。

例えば、「彼氏・彼女はいるか」といった会話は、日常的によく聞かれるものですがダイバーシティやジェンダーの観点から考えると、相手の性的指向を決めつける必要はないし、恋愛に興味がない人もいるかもしれません。

私はもともとマイクロアグレッションという概念を知りませんでしたが、イベントを企画するにあたり、発信側としての理解が必要だと感じ、さまざまな本やウェブサイトから情報を収集しながら、学びを深めていきました。その過程で、今まで気軽に使っていた言葉を見直し、相手の立場を考えて表現することをより一層心がけるようになりました。これは私にとって大きな変化だと思います。

-学生職員の活動で、大学での学びはどのように実践として生かされていますか?

私は社会学科に所属し、インタビューやフィールドワークを通してジェンダーや家族、地域、宗教などに関する社会学を学んできました。これらの経験を通じて培った社会課題へのアプローチの手法は、イベントの構想を練る過程においても生かされています。

社会学では、何か社会問題を考える際に、背景に潜む要因や、異なる視点からの考察が不可欠であり、一つのテーマに対して多角的なアプローチが求められます。こうした考え方が、一つの提案をブラッシュアップしてイベントを作り上げていくのに役立っていると感じます。

また、学生職員としての経験が、大学における学びにも多くの影響を与えています。イベントの企画を通じて、新たな知識の獲得や再学習の機会が増えました。大学での学びと学生職員の活動で得たものは、私にとって双方向で実りある経験となっています。

まずは小さな一歩から

-今後、学生職員の仲間になりたいと思う高校生や大学生に対し、何かメッセージがあればお願いします。

私は学生職員の活動を通じ、社会課題について考えるだけでなく、一歩を踏み出して行動に移すことの重要性を痛感しました。

大学の最初の2年間、チャンスを目にしながらも掴むことができずに過ごしていましたが、3年生になって、勇気を振り絞って学生職員に挑戦できたことは本当に良かったと思っています。行動を変える一歩から、新たなつながりは生まれ、挑戦の幅も徐々に広がっていくのだと思います。

また、環境やサステナビリティと聞くと非常に大きなテーマに感じ、何から手をつけていいか分からないことも多いと思います。私もそう感じていた一人ですが、最近は自分の周りにいる人がより良く過ごすにはどうしたらいいかを考えるところから始めようと思うようになりました。「目の前の人を幸せにするためにできること」だったら、より具体的に考えられると思います。

まずは、自分の身の周りの環境をより良くしようとアクションを起こすだけでも、社会にとってプラスにつながっていくはずです。皆さんのそれぞれの視点から、より良い社会を築くために、共に歩んでいければと願っています。