
SDGs 大学プロジェクト × Shizuoka University of Welfare.
目次
静岡福祉大学の紹介

静岡福祉大学は、2004(平成16)年に設立された、静岡県焼津市にキャンパスを構える私立大学です。本学のキャンパスは海岸線から約3㎞、海抜約9mの立地にあり、災害時の地域の避難地に指定されています。
また、学生たちの日々の生活に欠かせないコンビニエンスストアが入居している6階建ての「福祉創造館」は人気の施設であり、この建物の上層階からは、焼津市と駿河湾を一望することができ、また、晴れた日には富士山も眺めることができるビュースポットとして、学生たちの「憩いの場」として愛されています。
本学の設立母体である「学校法人静岡精華学園静岡精華女学校」が創設された1903(明治36)年から100周年を契機に、新たな教育理念として「愛・自立・共生」を掲げ、さらに2011(平成23)年に発表した「静岡精華学園みらい躍進計画」の中で大学独自の教育理念として「福祉力を鍛える」を掲げました。
本学は、いのちのあり方を考える「子ども学」と、くらしの営みを考える「福祉学」を2本の柱として、学際的(※1)視点から、生命の深遠さ、人権の尊さ、きずなの大切さを追究していくことを使命としています。
本学で学ぶ学生たちには、自らの特性を考えながら「自分のやりたいこと」を探求し、福祉の実践力を身に付け、福祉を支える人材として、人々の幸せな暮らしを見つめ、その人らしい生き方に寄り添う支援者になって欲しいと願っています。
本学で過ごす4年間の「学び」が将来の選択肢につながるよう、学生たちには仲間とともに考え、学び楽しいキャンパスライフを送って欲しいのです。
(※1)学際的…学問や研究が、複数の異なる領野にまたがっていること
静岡福祉大学は地域への社会貢献活動を重視
増田学長:本学は、今年度より「共に生きる」という教育理念を掲げており、〈いのち〉に寄り添うという使命は、地域社会という場所でその力を発揮することになります。現在、地域社会が抱える生活課題は従来にも増して深刻化し、重層化しています。
それゆえに、福祉・教育の専門職を育成し、個々のニーズを抱えた福祉・教育サービスの利用者を支援するとともに、多職種との連携・協働により地域住民と密接にかかわりつつ、社会的支援を必要としている様々な生活課題を解決に導くことが求められています。
本学の存在価値は、社会の要請に応えることができる高度な専門性を身に付けた人材の養成にあります。そして、福祉に関する高い知識と優れた技能を併せ備えた有能で実践力のある福祉・教育専門職の活躍を通じて「福祉社会を実現する」ことこそが本学の目指す方向性だと考えます。
また、本学は社会貢献活動の一環として、ボランティア活動に関心を持ち、実際にボランティア活動に参加している学生が多いのが特徴です。障がいのある方や高齢者、子どもたちなどと交流するボランティア活動は、将来福祉の分野に進む学生にとって貴重な経験となります。
ボランティア活動をするに当たり、学生たちは自分たちで企画を立ち上げ、自分自身が楽しみながら活動しています。また、ボランティア活動を通して、行政・社会福祉協議会、福祉施設などの職員の方々との出会いも多く、人間関係の幅が広がるのも魅力の一つです。
このように、本学では積極的に社会貢献活動に携わる学生が多く、大学としても「地域連携推進センター」を設置して、地域のボランティア情報などを学生に伝え、コーディネートを行うことで実践教育の場を提供しつつ、地域社会の推進に貢献する取り組みを行っています。
増田学長が福祉臨床の哲学を研究テーマとする理由
増田学長:私の学生時代(高校から大学へ行くまでの間)、生きることに悩む時期がありました。いわゆる、「希死念慮(※3)」とか「自殺念慮(※4)」のある状態に陥ってしまったのです。そのことについて、高校の先生に相談したところ、先生は近隣にある知的障害児施設に私を連れて行ってくださいました。
そこで、4~5歳ぐらいの重い障害をもつ女の子と出会ったとき、「この子たちと一緒ならば生きていけるかもしれない」という思いになり、これが原体験(※5)の一つになりました。その体験の後、東京山谷のスラム街を訪れ、一晩過ごしたことも私に衝撃を与えてくれました。
これらの体験は若い時期とも重なって、私の中で消化しきれないものとして心の中に蓄積されていきました。
英国の詩人、ジョン・キーツが提唱した「答えの出ない事態に耐える能力」という意味の「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を覚えたのもこの時期です。
私にとって、この頃の経験や思いが、社会福祉学の分野で、福祉臨床の哲学などを学ぶようになったきっかけの一つになったといえます。
(※3)希死念慮…死を願う気持ちのことで、自殺までは考えていない場合を指す
(※4)自殺念慮…自殺という能動的な行為で人生を終わらせようという考え方
(※5)原体験…人の生き方や考え方に大きな影響を与える幼少期の体験
増田学長がこれまで携わってきた地域福祉とSDGsのつながり
増田学長:私の専門は、社会福祉学や臨床哲学ですが、この分野は社会との連携なしには研究が行えません。研究室に閉じこもるのではなく、病や老い、障がい、貧困など、多岐にわたる課題に直面している地域に足を運び、生きづらさや暮らしにくさを実際に感じている方々、いわゆる社会的弱者に寄り添わなければ、臨床的な世界の研究は成り立たないものと考えています。
このような考え方は、国連でSDGsが採択され、話題になるずっと前から存在しており、SDGsが取り上げているような課題についても、社会的弱者に寄り添うこと無しには世界観を共有することはできないものです。
私は、重症心身障害児(者)(※6)の地域支援に長年携わり、ライフワークになっています。特に、医療と福祉のはざまに落ちた重症心身障害児(者)が、病院や施設から出て、地域において在宅で暮らすためにはどうすべきかについて長年考えてきました。
この問題の解決には、医療や教育、福祉などさまざまな領域の専門職が協力し、いわゆるヴァルネラブル(被傷的)な立場の人を社会の一員として迎え入れ、共に支え合うこと、つまり「だれ一人取り残さない社会」の実現を目指す実践が不可欠であり、そういう意味で、SDGsの目指す方向性と合致しているのではないでしょうか。
(※6)重症心身障害児(者)…重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態を重症心身障害といい、その状態にある子どもを重症心身障害児、さらに成人した人を含めて「重症心身障害児(者)」という。また、重症児(者)とは、重症心身障害児(者)の略称である。
大学で取り組んでいるSDGs施策


新井教授:焼津市の「放課後こども教室」の委託を受け、2004年から毎年開催している地域の小学生を対象にした「わんぱく寺子屋」という事業は、SDGsの17の目標の4番目である「質の高い教育をみんなに」に該当するものと考えます。
この「わんぱく寺子屋」は、学生の入学時に事業内容を周知し、学科の枠を越えて参加者を募るよう心掛けています。企画から運営、そして振り返りまでの全てを学生が担当しています。
年間 8回開催されるこの「わんぱく寺子屋」は、本学のキャンパス内で学生と子どもたちが様々な遊びを通じてふれあうことで、地域の子育て支援につながっています。
具体的には、参加する子どもたちは小学校低学年であり、ただ遊びに来るだけでなく学びの場としての役割を果たしています。各回の企画内容は異なり、例えば日本地図を使ったゲームをしたり、紙を使って野菜を作り、買い物ゲームなどが行われています。学生たちは年間の企画内容と目的について話し合い、実施しています。
それから、SDGsの17の目標の10番目「人や国の不平等をなくそう」に該当する取り組みとして、ハンセン病に罹患された方々の思いや歴史について学び、ハンセン病に対する理解を深めるとともに、福祉や介護を学ぶ上で最も大切な、人間の尊厳について深く考えることを目的に、ハンセン病に関する企画展と絵画展を開催しました。
この取り組みのきっかけは、焼津市の隣の藤枝市出身のハンセン病の元患者が出演するドキュメンタリー映画を観賞し、コロナ禍で帰郷できない元患者の方がリモートでトークセッションに参加されたイベントから着想を得たものです。学長に相談し、大学内で検討の結果、実施する運びとなりました。
具体的には、一昨年3月21日から1週間、焼津駅前にある本学のサテライトキャンパスで、「みんなで知ろう!ハンセン病」と題した企画展を開催し、SDGsの「誰一人取り残さない」という基本理念の下、ハンセン病問題の歴史と社会差別の実態を知り、共生・共助のまちづくりについて考える機会を提供しました。
この企画展を経て、実は焼津市出身で、すでに亡くなられている元患者の方が長らく絵画を制作されていた事実を知り、その作品群を遺族が処分することがとても忍びない思いだということを伺いました。このような背景から、地元の大学である本学がこれらの作品を活かす取り組みを行うこととなり、これを通じてハンセン病に関する知識を後世に語り継ぐ一端を担わさせていただくこととなりました。


同作品の展示イベント「最初で最後の望月章絵画展」は、同年9月20日から6日間、サテライトキャンパスで開催され、ご遺族の方々にも喜んでいただくと同時に、作品を本学に寄贈したい旨のお申し出がありました。このため、ハンセン病元患者の想いを共に受け入れ、絵画展の開催に併せて寄贈式を執り行いました。受け取った作品については、現在本学の附属図書館にて展示しております。
その後、焼津市内での絵画展の成功を受けまして、10月2日から21日までの期間、東京都東村山市の国立ハンセン病資料館でも同様の展示を実施しました。この展示には多くの来場者があり、都外に住まわれるハンセン病の回復者の方々も訪れ、また、新聞等のメディアでも大きく取り上げられました。
増田学長:地域の様々なニーズに対応し、大学が地域社会と緊密に連携し、それに応じたサポートやプログラムを提供することが、大学のあるべき姿であると考えます。この考え方は、教職員と学生の双方が共有すべきだと思っています。
私たちの大学は、学生を単に知識を得る者としてではなく、地域社会と共に成長し、貢献していく存在として位置づけています。そのためには、大学が学生を育てるだけでなく、地域社会との連携や交流を通じて、地域が学生を育てるという新たな認識が求められます。
地域内での学びの機会を増やし、学生や教職員が積極的に地域との関わりを深めることが必要です。また、地域のニーズや課題に敏感に対応するために、教職員もまた地域との連携を通じて刺激を受け、専門的な知識やスキルを向上させていくことが求められます。これらの結び付きがあることによって、大学は地域社会に真に貢献し、評価される存在となります。地域社会との協力がなければ、大学が持続的な発展を遂げることは難しいでしょう。
私たちは、地域社会との連携を深め、共に発展していくことで、より意義ある教育環境を構築し、地域社会において不可欠な存在となるべきだと信じています。
開かれた大学であるために必要な地域連携・地域貢献とは
増田学長:昨今の大学運営において、地域連携・地域貢献は、開かれた大学であることと、大学の存在感を示す大きな役割を担っていると考えます。
また、アメリカで発祥し、日本でも少しずつ広まってきた「塀のない大学」という目に見える障壁を取り払おうとする考え方がありますが、物理的な塀だけでなく、目に見えない障壁も取り払い、地域に開かれた大学を築くことが重要だと考えています。今後も様々な機会を通じて、地域連携の推進やSDGsにも関連した取り組みを進めてまいりたいと思います。
また、最近の大学・学生の傾向として、近隣の様々な大学同士で連携が生まれ、活動を展開している感じがしています。例えば、本学の学生と他大学の学生が連携してコンサートを開催したり、地域に飛び出して大学の名前や看板などの垣根を取り払って活動している事例も見聞きしています。
このような連携は素晴らしいことだと思っており、本学も現在、近隣の地方自治体等と包括協定を結び、連携を強化する方針です。昨年度には、富士市と包括連携協定を締結し、富士市が抱える福祉・保健、子育て支援などの課題に対して、連携を図りながら解決に向けて取り組んできました。
富士市との連携において、本学の学生が富士市周辺から通っていることもあり、その学生たちが地元で活動するための拠点づくりを富士市にお願いしたところ、市をあげて取り組んでいただいたり、本学の教員が専門的な提言を行う場面でもこれを受け入れて協働してくださるということで、積極的な連携が図られています。また、地元焼津市、藤枝市、島田市とも包括連携協定を結んでおり、今後も提携自治体を増やしていく予定です。
さらに、この3月には掛川市との包括協定の話も進んでいます。私の思いとしては、近隣の自治体と包括協定を締結することで、学生や教職員が積極的に地域とのかかわり合いを持つことを期待しています。学業の面では他大学との単位互換の協定を結ぶことで、学生たちが自分の大学以外の他大学の授業も受けることができるような仕組み作りも進めていきたいと思います。これにより、どの大学に所属しているかが相対化される時代が訪れるかもしれません。
大学としてSDGsをどう位置付けていくのか
増田学長:SDGsが世の中に広まろうとする当初の段階では、特に国立大学では SDGsがスローガンとして掲げられ、大学のインセンティブとして扱われる傾向が見受けられました。
しかし、SDGsの登場から数年が経過し、現在では「SDGsを理解しましょう」という時期が過ぎ去ったように思います。言い換えれば、SDGsの啓発・啓蒙の段階が過ぎ去り、個々の生き方や暮らしにSDGsが具体的に浸透していく時期に差し掛かっていると考えます。
本学は「福祉と教育」「福祉と子ども」というテーマを掲げた大学であり、すでに本来のカリキュラムとSDGsが何らかの接点を有していることから、大学から学生に向けて積極的に「SDGsを実践しなさい」とあえて強調する必要もないのではと思っています。むしろ、本学の在り方そのものが、ある意味でSDGsそのものを抱え込んでいるものになっているのではないでしょうか。
実践教育にコロナがもたらした影響とは
新井教授:私は介護福祉士養成課程の教員を務めていますが、介護現場である高齢者施設や障害者施設において学生が実習に訪れる際、コロナの影響を懸念しておりました。
ところが、全国的な行動制限が課せられる中、本学が受け入れを希望している施設側から断られることなく、実習させてくださいました。この受け入れの状態を維持できたのは、本学が徹底的なコロナ感染対策を行っていたことと、それを理解していただいた施設側、さらには受け入れる施設が厳格な対策を講じ、学生を安全に受け入れてくださったためと考えております。これは相互の努力と協力により実現ができたのではないかと考えています。
学生たちもコロナ禍での厳しい状況にありながらも、施設側が受け入れてくださったことに深く感謝し、真摯に学びに励んでいたようです。このような地域の温かい受け入れが学生の自信にもつながったように感じ、さらなる学びにつながっているように思いました。
一方、「わんぱく寺子屋」の開催については、委託元である焼津市からコロナ期間中の中止要請を受け、実施を見合わせることとなりました。その期間では、事業の企画・運営に携わっていた経験豊富な先輩たちが卒業し、後輩たちは企画や運営に悩む姿勢がうかがえました。
ただ、後輩たちは先輩たちの取り組みをしっかりと見つめ、自ら考え、自主的に企画・運営に取り組むことで困難を乗り越えたように思います。これは彼らにとって非常に重要な経験となったのではないかと思います。
今後の展望
増田学長:大学におけるSDGsは、単に教職員が取り組むだけでは十分ではなく、むしろ学生を積極的に巻き込み、地域の方々にも波及していくような問題意識の共有が最も重要なものだと思います。
私たちの大学での取り組みをSDGsにどう結びつけ、その取り組みを継続していくかについては、教職員と学生がしっかりと対話する必要があります。
私自身は学長に就任して以来、学生主体の学友会と積極的に接点を持ちし、大学祭やその他の行事の企画・運営に取り組む学生たちとの対話の機会を重視しています。
現在、学友会との対話では年4回の「学長との定例会」を開催しており、対話の場で学生たちはさまざまな意見や要望を述べています。これらの意見を真摯に受け止め、実現に向けて積極的に行動する大学の姿勢が重要であると考えます。