
栗山直子助教が明かす、プログラミング教育の現場の実態と企業の求めること
目次
栗山 直子 助教のご経歴
栗山 直子 助教は、現在日本の大学で教育・研究に携わる研究者です。特に認知心理学と教育心理学、教育工学などに興味を持ち、研究を進めています。
栗山助教は、学生たちに対して優れた指導力を持ち、教育現場で高い評価を得ています。また、研究においても、積極的かつ緻密なアプローチを取り、独創的なアイデアを生み出しています。
国内外の学会での発表や、論文の発表・執筆など、幅広い活動を展開しており、注目を集めています。
研究をはじめられたきっかけ
LIVIKA(島崎):教育心理学、認知心理学を専門とされていると伺いましたが、最近は特に子供のプログラミング教育に注目して研究をしているとのことですね。どうしてその分野に興味を持ったのでしょうか?
栗山 助教:はい、そうですね。2011年に自分の娘と一緒に小学生向けの夏のプログラミングワークショップに参加したのがきっかけです。当時から教育心理学や認知心理学を研究しておりました。特に思考力や類推がメインにはなりますが、ワークショップで論理的思考を育てるプログラミング教育が、研究対象としても興味深いものだと感じました。
LIVIKA(島崎):なるほど、そのような経緯があったのですね。その後、どのような研究を行っているのでしょうか?
栗山 助教:その後、小学校でプログラミング教育を実践することになりました。当初は、娘の通っていた小学校で親として校長先生に話しかけられたというご縁でしたが、近隣の大学の助教ということもあり、協力することになりました。
小学校はプログラミング教育を実施できる場所であり、私たちは研究データが得られます。文部科学省が2020年から小学校でプログラミング教育を必修化したこともあり、最近では世田谷区や目黒区などの小学校からも「出前授業」の依頼をいただいて、プログラミング教育の研究と支援を行っています。もともと、小学校の教員になりたかったので、教員免許は保持していました。その影響も少なからずあると思います。
プログラミング教育の現場の実態
この章では、プログラミング教育を行っている学校や塾などの現場の実態について説明します。教育現場でのプログラミング教育の課題やニーズについても触れます。
プログラミング教育が盛り込まれた理由とは?
LIVIKA(島崎):なるほど、プログラミング教育の必修化に伴って、その重要性がますます注目されるようになったということですね。そもそもみたいな話にはなると思いますが、ゴールデンエイジともいえる年齢に、プログラミング教育が盛り込まれたのでしょうか。
栗山 助教:文科省の施策について詳しいわけではありませんが、IT人材の育成という側面は少なからずあると思います。早いうちにプログラミングの考え方や論理的な思考力、これを「プログラミング的思考」といいますが、「プログラミング的思考」を身につけるために導入されたものなんです。とはいえ、プログラミングは新しい教科として必修化されたわけではないんですよ。国語や算数、理科、社会、音楽、体育といった教科の中にプログラミングが含まれるようになりました。実際には、”プログラミング”という科目が増えたわけではないんです。
ICT先進国と比較して日本は進んでいますか?
LIVIKA(島崎):なるほど、プログラミングの考え方を身につけるために教育現場で導入されたのですね。海外ではプログラミング教育が進んでいる国が多いと聞きますが、日本と比較してどうでしょうか?
栗山 助教:そうですね、海外ではエストニア、イギリス、タイなどがプログラミング教育が進んでいる国です。特にエストニアはもう何年も前からプログラミングに力を入れている国の一つです。タイも 小学校の時から情報教育が教科として組み込まれています。また、イギリスでは公共放送のBBCが協力して、全国の小学生5年生〜6年生にmicro:bitというと呼ばれるプログラミング用のツールを配布するなどしています。
日本はプログラミング教育が遅れている要因は?
LIVIKA(島崎): なぜ、日本はプログラミング教育が遅れているのでしょうか?
栗山 助教:日本では 2000年頃から1人1台の取り組みが始まりましたが、なかなか実現しませんでした。それが、新型コロナウイルスの影響で一気に進展しました。現在、小学校や中学校の9割以上が1人1台を持っていますが、それまでは全く進んでいなかったと言えます。その背景には、インフラ整備に取り組む経産省や総務省などの力もありますが、IT人材不足が目に見えており、プログラミング教育に力を入れる必要があると考えられたからだと思います。
教育の現場の実態は?
LIVIKA(島崎):さきほどお話しいただいた、ICTの1人1台の導入についてお話しましょう。この導入は、現場の方々にとっては大変なことだったのではないでしょうか?
栗山 助教:はい、確かにその通りです。ICTの1人1台の導入は急に進んだため、教師も四苦八苦しています。プログラミングまで手が回っていない状況もあります。ですが、プログラミングを教えたことがない先生が教えなければならないというしかたがない側面はありますが、それでもやらなければならないということで、やり方を模索しながら小学校の先生方は頑張っています。
LIVIKA(島崎):確かに大変ですね。また、ICTに不慣れな教師にもこの導入は行われているということですが、その点についてどう思いますか?
栗山 助教:はい、そうですね。確かにICTに不慣れな教師もいますが、それでもやらなければならないということで、やり方を学ぶ必要があります。ただ、簡単ではありませんし、時間もかかります。でも、子どもの習い事などで今はプログラミング教育が注目されているようですし、それもいい刺激になっているかもしれません。
LIVIKA(島崎):なるほど。今後のICTの導入について、どのような視点で取り組むべきだと思いますか?
栗山 助教:今後のICTの導入については、児童・生徒たちがICTを使って何かを創造することを目指すことが大切だと思います。例えば、ゲームをやるだけでなく、自分たちでゲームを作ってみたり、プログラミングが得意な子は、新しいアプリケーションを開発してみたりすることなど、未知の課題の解決にチャレンジすることがより意義のあるICTの活用方法ではないでしょうか。
現場が企業に求めることとは?
LIVIKA(島崎):プログラミング教育に関する支援について教えてください。
栗山 助教:大手企業からは様々な支援があります。たとえば、一例ですが、株式会社アーテックがプログラミング教材テキストを無料で公開していたり、江崎グリコ株式会社が無料アプリ「GLICODE」を提供していたり、SoftBank Roboticsによる人型ロボット「Pepper」を活用したプログラミング教育もあります。
ただ、中小企業ではこれらの試みは難しいかもしれません。教育の専門性を持った教職員に加え、地域と連携しながら進める「チーム学校」というプロジェクト方式があります。地域の学校からの声を聞いて、企業が社会貢献などの一環として協力できる最適な方法を模索することが大切かもしれません。
LIVIKA(島崎):なぜ「チーム学校」での進め方が重要なのでしょうか?
栗山 助教:日本の将来を担う「人財」を育むプロジェクトになるためです。先入観を持つのではなく、地域の学校からの声を聞いて、一緒に探すことが大切です。
▼詳しくはこちら 記事:「子どもたちを育む教育の現場に、もっと東工大生を」