SDGs 大学プロジェクト × Kochi Univ.

高知大学の紹介

高知大学は、地域協働型教育を通じて学生たちの成長と社会の期待に応えることを目指しています。学長の櫻井克年氏は、高知大学を「Super Regional University」として位置づけ、学生たちに自分で考え創造を主導する能力を持つ社会人としての成長を促しています。

高知県は山頂から海底までの豊富な自然環境を持ち、人間の暮らす社会としてさまざまな社会的背景をもっています。この土佐の国に根ざした高知大学での経験は、未来の日本のビジョンを描く上で非常に価値があると考え、地方の国立大学として地方文化や産業の進展に貢献し、質の高い教育活動と高度な学術研究を推進しています。

SDGsに向けた取り組みについて

–SDGsに向けた取り組みの概要をご紹介いただけますか?

研究推進課 SDGs担当職員:まず、令和2年から世の中のSDGsへの関心の高まりを受け、本学もSDGsに向けた取り組みを始めたことがきっかけです。この取り組みの一環として「Kochi University SDGs Action」を立ち上げました。このホームページでは、大学が取り組んでいるさまざまな研究シーズ集やSDGsに関する分析のほか、SDGsに関連したイベント情報も積極的に発信し、社会への啓発活動にも注力しております。

当初、シーズ集の掲載開始時には101件の事例がありましたが、現在では160件に増加しております。この事実から、本学のSDGsの取り組みが多岐にわたるものであることも伝えられるのではないかと思っています。

–先生方は、どのタイミングで研究をシーズ集に掲載されるのでしょうか?

研究推進課 SDGs担当職員:現在、本学では年に一度、学内に大々的な公募をかけ、応募いただいた研究成果を掲載しております。また、各事例に関連付けているSDGsのラベルは、基本的には先生方の申告に基づくものです。ちなみにイベントの情報は、随時情報をいただき追加しています。

–ここまでしっかりと研究成果がまとめられていると、他大学や企業からお声掛けがあるのではないかと思ったのですが、実際にそのような事例はありますか?

研究推進課 SDGs担当職員:本学は、「Kochi University SDGs Action」から「高知大学 研究者総覧」という、研究者紹介のページに遷移できるようにしています。研究成果と研究者総覧を閲覧された方から「特定の研究者を紹介してほしい」とお声掛けをいただくことはありますね。

「SDGs」という共通のものさしを活用することによる副次効果として、研究の内容がよりわかりやすくなったのではないかと思っています。学外からも多くの関心を寄せていただけるようになりました。

–「Kochi University SDGs Action」の今後の方針についておうかがいできますか?

研究推進課 SDGs担当職員:本学のホームページでは、「各教職員の取り組み」に加え、他大学と異なる視点として「本学におけるSDGsへの取り組みの全体像」を発信していきたいと考えています。そのため、今後も引き続き、本学がSDGsの主にどのゴールに取り組み、研究成果を上げているのかを可視化してまいります。さらに、本学で関与する教員数は少ないのですが、グリーントランスフォーメーション(GX)研究との関連性についても紹介していきたいと思います。

本学はSRU(Super Regional University)というコンセプトを掲げ、「その地域で学び、地域のあらゆる人々に学びの場を提供するとともに世界標準の研究力によって地域と世界をつなぎ、地域と世界を変えることのできる」大学を目標に掲げています。

SDGsの取り組みは、SRUの目標の実現と密接に関わっていると思っています。したがってSRU実現のためにも、引き続きSDGsの取り組みを進めていきたいです。

高知大学が取り組む「IoP」のプロジェクトについて

–「Kochi University SDGs Action」の中でも、特に注目されているとお聞きした「IoP」のプロジェクトについてご紹介いただけますか?

「IoP」は「インターネット オブ プランツ(Internet of Plants)」の略語です。施設園芸において日本一を誇る高知県は、生産現場で栽培中の作物の情報を農家の現場で使えるようにする施策を進めています。

これは、農業の未来を変革する内閣府の社会実装プロジェクトです。生産現場の情報に基づいて農家を支援し、その情報を共有することで産地全体の技術向上を図ることを目指しています。プロジェクトが走り出して、すでに6年が経過しました。

作物に関するさまざまな情報が、高知県の営農支援サービス「SAWACHI(サワチ)」というクラウドプラットフォームを介し、農家の方に提供され、広がっています。農家の方々は、生産現場の環境情報から得られる作物の生理的なデータ、出荷量、出荷予測、さらには市場価格や需要の情報まで得ることができるんです。

この技術を活用し、私たちはSDGsに貢献しようと努めています。1994年に国際連合大学が提唱した「ゼロ・エミッション」では、「2030年までにCO2およびその他の温室効果ガスの排出量を50%近く削減する必要がある」という目標が掲げられています。農業は他産業に比べて温室効果ガスの排出が少ないのですが、それでも2030年までに半減、2050年までにはゼロにする努力が求められます。

この目標達成に向けた課題の一つ目は、温室効果ガスの削減です。高知県は暖冬で日射量が多いため冬に多くの野菜を生産しますが、暖房が必要になることから、CO2を排出しています。また、高知県の農地は狭いため、収量を向上させるために通常は400ppm程度のCO2濃度を800ppmから1,000ppmに高めることで、非常に高い生産性を実現しているんです。

二つ目の課題は、生産物を東京や大阪などへトラックで運搬する際のガソリン消費です。高知県は、県内全域の農家から野菜を集めて東京に出荷する系統出荷を行っているのですが、「IoP」の技術を活用すれば出荷量も予測できることから、データに基づいてトラックの配車を最適化する計画も進められています。こうした取り組みにより、SDGsのゴールの一つである「気候変動に具体的な対策を」に貢献することを目指しています。

さらに、農業も植物の光合成を活用して作物を育てる「ものづくり産業」だと捉え、製造工程や植物の成長状況、花のつき具合など、これまでまったく見えていなかった要素を視覚化できるようになりました。これらの情報を基に、農家が経営者として、自身の裁量と創意工夫で経営を改善できるようになってきています。すでに他の産業は経営者が自身の工夫をもとに経営を行っていますが、農業はその点が不足していました。

この農業を「稼げる農業」に変えるためのアプローチは、SDGsのゴールの一つである「貧困をなくそう」に貢献すると考えています。農業は従来非常に厳しい産業だったと思いますが、「IoP」を通じて地域の情報インフラを構築することで農業を変え、少しずつ稼げる産業にしていくことができるのではないかと感じています。

新たな学問の確立とDX人材の育成について

–農業の移り変わりについて、非常に勉強になります。IoP共創センターで取り組んでいる、農工情報共創学やDX人材の育成に関するお話もお聞かせいただけますか?

近年、AIや生成系AIなどの技術が急速に進化していますが、これらの技術を理解して使いこなせる人材が、地方にはなかなかいないんです。偶然にも以前の職場で共同研究をした富士通の研究者と技術者が、私たちのIoP共創センターに参画してくれました。彼らはデータサイエンスやAIを使いこなすことはできますが、作物に関する知識は持っていません。一方、私たちは農業の環境や作物に関する専門知識を有していますが、データサイエンスなどに関する知識はありません。そのため、お互いの引き出しを持ち寄り、上手く融合させる必要がありました。これを「農工情報共創学」と名付け、新しい学問として展開することになったんです。

農業はこれまで他の分野に比べて後れを取っていたこともあるため、農業の情報の扱いは難しい課題です。各農家の環境は多様であることから、さまざまな条件下で集められた多くの情報から有益な情報を取り出し、営農に活用しなければなりません。

ここで重要なのは、AIやデータサイエンスの研究者と農業や作物に詳しい人物が共同で解決に取り組むことです。この協力においては、互いが自己否定し、相手の専門知識を尊重して融合させる必要があります。しかし、今までの自分の経験を崩したくない気持ちもあるため自己否定はなかなか難しく、今も一生懸命もがいています。

時には白熱した議論や対立が生じることもあり、時間はかかるでしょうが、この融合が実現しなければ農業のDXは難しいだろうと考えています。このような困難を乗り越えながら、新しい学問を築き、教育にも取り組んでいます。学部生や修士の学生たちもカリキュラムとして参加できるほか、さらには社会人博士課程の学生を数名受け入れ、DX人材として育成し、学位取得を目指すことに注力しているところです。

–研究者の方だけではなく、多くの農家の方々からDX化のためのご理解を得るのも、ハードルが高かったのではないでしょうか?ご理解やご協力をいただくために重要視したポイントがあれば教えていただきたいです。

高知県の営農支援サービス「SAWACHI」は、昨年9月に本格運用が始まり、現在は約1,000戸の農家が利用しています。この領域は高知県庁が中心となって進めていて、「あなたの情報は高知県の施設園芸のためだけに使います」「あなたの情報だとわからないようにして使います」という協定を県知事と農家の方々が一対一で結んでいます。

「自分の技術を他には出したくない」という声もあるかもしれませんが、高知県は施設園芸で一番の優位性を築いているからか、多くの方が「施設園芸をみんなで進歩させよう」という意識をもっています。そのため、自身の情報を提供して高知県の施設園芸の発展に貢献することを拒む方はあまりいないのだと思います。

それに加えて、農家の方が施設園芸に取り組む際の初期投資には県からの補助金が活用されていることもあって、県庁の方針に対する理解が得られているんだと思います。県の支援が経営基盤にも組み込まれているから協力しよう、と思っていらっしゃるのではないでしょうか。

また、高知大学も研究を進める上で、いきなり高知県全域の農家を対象にすることは難しいため、例えばナスの農家から10戸、別の農家から10戸といったように一部の農家をピックアップし、県知事と農家の間で結ばれたものと同じ内容で協定を結んで彼らの情報を活用させていただいていますが、こちらも非常に協力的に応じてくださっています。

–農家の方が大学と連携することをどのように受け止められているのか、温度感についておうかがいできますか?

熱心な方からなんとなくという方まで、温度感はさまざまです。ただ、協力の意志が広がっていると感じます。このような温度感の違いに対して私たちも、農家の方々に連携の成果を伝えるための説明会を開いています。

また、「IoP農業研究会」という組織を設立しました。ここではIoPで生成された情報がどのように役に立つか、どのように現場へ提供し、その情報をどう活用して改善につなげるかについて、農家の方々と議論しています。コミュニケーションをとりながら現場のニーズを把握し、研究の出口を見出そうとしているんです。

特に高知県農業技術センターという農業試験場で各作物を担当している若手研究者と農家の方との間では、コミュニケーションツールを活用して毎日のようにデータや意見を共有し、議論されています。この活動を通じて、農家のDX人材と高知県農業技術センターのDX人材を育てることも目指しています。このようなアプローチは高知県特有の取り組みであり、簡単には真似できないのではないでしょうか。

–ほぼ毎日のように議論されていらっしゃるとのことですが、初期の段階ではなかなか同じものさしで話すことができなかっただろうと思います。最初は一つひとつの物事を伝えることに苦労されたのではないかと思いますが、伝えるための努力を継続できたモチベーションはありましたか?

確かに、最初は同じ視点でのコミュニケーションが難しかったと思います。しかし高知県は、IT企業で働いた方が退職後に新規就農される例が多いため、データの扱いに慣れている農家の方がリーダーシップを発揮し、引っ張ってくれているんです。もちろん農家だけではなく高知県農業技術センターの若手研究者も一翼を担ってくれていることが、モチベーションの源泉の一つになっています。

別の源泉として、若手研究者が「データサイエンスやAIの進展によって自分たちの仕事も変わっていくだろう」と捉えていることが挙げられます。今までの高知県農業技術センターでは、センター内で小規模な実験を行い、その成果を普及させようとしていましたが、実際の農業現場と試験区の環境は異なるため、成果を広めるのが難しい状況でした。

しかし、IoPによって現場の生のデータを集められるようになりました。先ほどもお話ししたとおり、農家から届く情報は多様で、一貫性を持たせるのは難しいという課題があります。光合成や水の吸収量、花の成長など多岐にわたる膨大なデータから説明性の高い有益な情報を引き出すには、AIやデータサイエンスが欠かせない状況になりました。

ここが今の若手研究者たちの正念場です。元富士通の研究者が分析ツールなどを独自に開発し、若手研究者に提供することで研究が進められています。このような協力がなければ、DXを進めたところで現場に浸透させることまでは難しいだろうと思っています。

–ここまでのお話はまさしく「今まで考えてこられなかった他の業界との横断」なのではないかと思いますが、技術的あるいは意識的な異分野間の横断をどのように行われていらっしゃるのですか?

そこが最も難しいと思っています。自己否定と自己肯定を両立させながら他の分野との融合を図ることは、心の柔軟さとコミュニケーション能力を必要とするからです。私も元富士通のメンバーと2年ほど連携していますが、やはりそれぞれのバックグラウンドに基づいて行動しようとしてしまうこともあります。

私は、AIのアルゴリズムの仕組みは理解できるものの、実際のハンドリングはできません。それは若手研究者たちが培っていくべきスキルです。ただし、どのような状況でAIを活用すべきか、どのような問題が解決できるのかといった視点は、経験を積んできたからこそ持っているものだと思います。

私がもっている洞察力と、研究者がもっているAIやデータサイエンスの知識を結びつけなければなりません。彼らがもつ知識を活かし、農家の現場で役立つものを考えることが私の役割ですが、非常に難しいと思っています。

–北野先生から若手に期待したいことについて、お話いただいてもよろしいでしょうか?

今の若手の方々は本当に優秀で、与えられた課題に対して正確な回答を導くことができています。常に他人の評価軸で80点以上クリアする訓練はできている方が多いようです。ただ、自主的に考えて新たなアプローチを試すことは、なかなかしませんね。若手世代は常に定量的な評価をされてきているので、仕方ないのかもしれません。

「『IoP』で農業を変えよう」ということに、正解はないんですよね。自身で目指すものを描き、それを達成するための戦略やアプローチをどのように選択するかが重要です。ただ、若者は他者や世間一般の評価軸に合わせてきたため、自分の評価軸を準備しきれず、苦しんでしまう。自分で設定した目標に到達する過程で、自分や仲間との評価軸で評価しながら進めていくことは、なかなか訓練されていないような気がします。

私自身は、外部から与えられる評価軸に対しては60点で良いと感じています。一方で自分の評価軸に対しては80点以上を求め、仲間と共有する評価軸に対しては80点を狙うように努力します。しかしながら、今の若手層には優等生が多い傾向が見られるため、そのような評価基準をもつことは難しいのかもしれませんね。

新たな目標や技術を模索する過程では、従来の評価軸だけに縛られず、失敗を恐れず60点でもトライする意欲が重要です。優秀な方が多いので、ぜひ、自らを評価し、目標を定め、新たな姿勢で挑戦し、進化し続ける能力を養っていってほしいと思います。

–先生のお話の中に「仲間」というキーワードが出てきました。新しいプロジェクトを進める上では、さまざまな関係者を巻き込む力が重要だと思います。周囲を巻き込むことに対して意識されていること、大切にしている考えがあれば教えていただけますか?

私より優秀な方ばかりなので、「助けてほしい」というサインを出しつつも、進むべき方向性については明確な合意形成をすることが大切ですね。方向性を示すことは、「個々の力を結集し、共同して取り組もう」という意志を伝えることでもあります。

みんなそれぞれ性格も得意分野も違うので、各自の得意な分野を活かし、気持ちよくプロジェクトを進められる環境作りも重要です。目標の共有と合意形成が大切であり、そこで自身の得意なところを発揮できる雰囲気を築くことが必要だと思います。

SDGsの施策と学生教育とのつながりについて

–ちなみに、IoPをはじめとする取り組みが学生教育に与える影響や特徴はありますか?

IoP関連の内容は、農林海洋科学部のカリキュラムにも組み込まれています。「『IoP』について学びたい」という思いをもって入学する学生も増えていることから、認知度も徐々に高まってきているように思います。

また、IoPプロジェクトの「人材育成部会」ではさまざまな教育プログラムを実施しています。一般社会人や学生、農家の方など幅広い層を対象に、IoPについて学ぶ機会も増加していますね。参加者の年齢層も幅広く、なかには北海道から参加してくださっている70代前後の方もいらっしゃいます。

卒業後に改めて学びを追求する動きは、以前には見られなかった傾向かもしれません。しかし最近はこの傾向が徐々に広がり、多様で新しい学びが生まれつつあると感じています。

–ほかにも教育関連の取り組みがあれば、ぜひご紹介をお願いします。

学部および大学院の学生を対象とした「学士プログラム」と「修士プログラム」、そして社会人向けの「IoP塾」など、主にこの3つのプログラムを展開しています。

「学士プログラム」のうち、昨年度の「高知の最先端農業IoP入門セミナー」では、合計15講座をオンラインで実施しました。このセミナーでは高知大学の教員だけでなく、高知県内や全国の研究機関、企業、そしてIoPを活用して成果を上げている農家の方々にも、講師として授業を行っていただきました。

高知の最先端農業IoP入門セミナーの様子

また、農林海洋科学部では令和5年度から学部改組を行い、その中の目玉の一つに「次世代農業教育プログラム」があります。このプログラムには、IoP共創センターが提供している教育プログラムの一部が組み込まれており、学生たちはデータサイエンスに関する教育を受けることができます。さらに、高知県内のIoPを活用した農家や農業関連企業でのインターンシップを通じて、現場で必要な技能・技術の修得や実地での経験の取得が可能なプログラムとなっています。

先ほど、社会人向けと紹介した「IoP塾」は、コロナ禍でオンライン講座をメインとしたことで、農業高校をはじめとする高校生の方も受講する機会が増えました。ここでIoPに興味を持った学生が高知大学に進学する、良い流れが生まれています。

こうしたつながりを一層充実させるために、農林海洋科学部では、令和5年度入学生から高知県内の高校生のための入学枠(地域枠)を15名分設けました。高校在学中から「IoP」について学んだ学生が、もっとIoPについて学びたいという意欲をもって入学してきます。

このように、学部改組をきっかけに、高知大学ではIoP共創センターの取り組みを活用した新たな学びの形成が進められたのではないでしょうか。

今後の展望について

–さまざまなお話をお聞かせいただきありがとうございます。最後の質問となりますが、今後の展望をお話いただけますでしょうか?

IoPプロジェクトは6年目に突入し、5年目が終わった段階で新しいフェーズになっています。実は、5年間のプロジェクトの成果が高く評価され、2年もしくは4年の延長が決定したほか、新たな展開も予定されています。

一つは、これまではIoPを高知県内の施設園芸のために活用してきましたが、他の地域へも展開することです。例えば北海道のワイナリーのブドウ園をIoP化したり、暖房なしで野菜を生産できる環境を構築するなど、IoPを新たな領域に導入する計画が進んでいます。

実際に九州では、トマトやイチゴへのIoP導入の研究が進められています。また、北海道大学や九州大学内に研究室を設けてIoP共創センターの北海道拠点や九州拠点を形成し、県外でも展開を図ろうとしています。

もう一つは、これまで高知県の作物に限定していたIoPの対象を広げることです。先ほども挙げたとおり、ブドウやイチゴなど新たな作物への展開も模索しています。さらに、「作物の情報を見える化するエンジン」だけではなく、「光合成などのプロセスも含めた情報を見える化するエンジン」「それらの情報を活用して営農の支援に活用するエンジン」を作ることに成功しています。

収益改善エンジンの開発も大切で、農家が収益を上げることが重要だとも考えています。特にゼロ・エミッションの件でもお話ししましたが、暖房の使用によるCO2排出だけでなく、それに伴うコスト増加や、生産現場のCO2濃度を高めることによるコスト増が懸念されます。そのため、「コストを削減して収益を増やすエンジン」も開発の項目に入ってきたように、ゴールの一つに「収益改善」が加わる段階にまできています。

今日お話ししたことが農業で成功すれば、高知大学としては、他の産業、例えば水産業や林業にも積極的に展開していく意向ももっています。水産業においては「採りに行く漁業」から「栽培する漁業」、いわゆる養殖への転換が進んでいるため、IoPのような仕組みが導入される可能性があると目論んでいます。
今後も成果を広げ、さまざまな分野に手を伸ばし、どんどん成長していけるのではないかと思っています。