
社会貢献活動 × Otani Univ. -Part 1-
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大谷大学の紹介


大谷大学は、1665(寛文5)年、京都・東六条に開創された東本願寺の学寮をその前身としており、その後、幾たびかの変遷を経て、1901(明治34)年、学制に根本的改革を加えた近代的な大学として東京・巣鴨の地に開学しました。
その後、1913(大正2)年に京都の上賀茂小山の現在地に移転開設。親鸞の仏教精神に基づき、“人材”ではなく“人物”の育成を目標とする学び「人間学」を教育・研究の根幹とし、小規模ながらも広く一般社会へ開かれた大学として確かな歩みを続けています。
「まちの居場所づくりプロジェクト」の概要


― 「まちの居場所づくりプロジェクト」が始まった経緯を教えてください。
私は福祉を専門にしており、以前から学生たちの実習やインターンシップなどで関わっていた福祉施設の方々との繋がりが「まちの居場所づくりプロジェクト」を始めるきっかけを作ってくれました。
具体的なきっかけは、地域の福祉サービスを提供されている事業所の方から「何か新しいことをやりたいと思っているのですが、大学も一緒に何かできませんか」とご相談いただいたことです。
本学の教育カリキュラムの柱の一つである「プロジェクト型の学び」に基づいて検討や準備を進めた結果、授業の一環として「まちの居場所づくりプロジェクト」がスタートしました。
プロジェクトのうち、原谷の子どもカフェをはじめとする取り組みは、私一人だけでなく近隣の大学とも連携しています。教員間の繋がりや福祉施設の方々との良好な関係性が、このプロジェクトを実現する基盤となりました。
― この取り組みで活用されている「学長裁量経費」はどのような制度なのでしょうか?
本学における「学長裁量経費」は、教育力の向上を促進するために設けられている予算制度です。この制度を活用すれば、教員は先駆的で挑戦的な教育のアイデアや学びの機会を創出し、教育環境の向上に貢献することができます。
具体的には、大学から公募が行われるタイミングで教員がプロジェクト提案を申請し、採択いただく必要があります。私の場合は「農福連携を通して考えるまちの居場所づくり」というプロジェクトとして採択いただきました。
プロジェクトにおける学生の役割

― 大谷大学の学生の方々はどのような役割で「まちの居場所づくりプロジェクト」に関わっていらっしゃるのでしょうか?
現在はプロジェクト全体のスケジュールや予算の設計、連携先施設との調整などは私が行い、イベントの企画や日々の運営は学生たちが主体となって携わっています。
半年ほど経験を積むにつれて、自分たち発案のイベントを企画したり、今後やってみたい取り組みを提案してくれるようになってきました。
― 他大学の方も参画しているプロジェクトもあるようですが、関係者が増えるほど目的や視点を合わせるのが大変だったなど、そのような課題はありませんでしたか?
プロジェクトに参画している方々はそれぞれ楽しみながら関わっていて、そのような問題や苦労は特になかったと思っています。
地域のさまざまな方々と交流する機会をいただいていますが、学生たちの努力している姿勢を見て「ここで多くのことを学んでほしい」という温かい気持ちで接してくれていますし、施設の方々も、学生たちがこの経験を卒業研究などに活かすことを期待してくださっています。
全員が共通して持っているのは、このプロジェクトを通じて学生たちが多くを学び、成長してほしいという願いです。学生たちの成長を期待して支えてくださる地域の大人たちと、その期待に応えようと頑張る学生たちの間には、良い関係が築かれていると感じています。
プロジェクトがもたらす地域社会への影響


― 地域全体で取り組まれている「まちの居場所づくりプロジェクト」が、地域社会にどのような影響を与えていると考えていらっしゃいますか?
前提として、昨今は多様なコンセプトで居場所作りが展開されていますよね。取り組みの数だけ目指す目標があると思いますが、私は、さまざまな異なる居場所が存在することが望ましいのではないかと考えています。
「ここにしか居場所がない」ではなく、「ここにいると落ち着く」と感じられる場所が、誰にとってもどこかにあるべきだと思います。現在、私たちが作っている居場所も、地域の方が肩肘張らず集える場の一つになりつつあるのではないでしょうか。
― 「なりつつある」ということは、まだ足りないものがあるということでしょうか? 何が足りていないという、具体的な要素はありますか?
「足りない」というよりは、このプロジェクトには完全なゴールが恐らく存在しないと考えています。今後の利用者のニーズや状況、学生たちは変化していきますし、それに伴って私たちの取り組みも常に変化し続ける必要があります。具体的なゴールを設定し、そこに向かって進んでも、今後の環境の変化によって目標自体が変わっていくこともあるでしょう。
私たちも常に柔軟に対応し、目線を更新していく必要もあることから、現状で何が足りていないかを言語化するのは難しいですね。
プロジェクトにおいて大切にしていること

― さまざまな人が集まる居場所づくりにおいて、大原先生ご自身が大切にしている価値観や、学生に教えている教訓はありますか?
「『こうあるべき』を押し付けない」ことです。例えば性別に関する議論でよく見られるのは、「女性はこうあるべき」「男性はこうあるべき」といった押し付けです。これらの規範が強調されることも、異なる考えやアイデンティティをもつ人々が生きづらさを感じてしまう原因になっていると思います。
私がテーマにしている家族ケアの場面では、「家族だからケアしなければならない」というように、「〇〇だから〇〇しなければならない」といった規範に縛られすぎることが、生きづらさやしんどさを生み出している場合があると考えています。
私は学生たちに、規範に縛られすぎず、自由に考えることの大切さを伝えたいと思っていますが、これは容易なことではありません。学生たちに気づいてもらうために、まずは「自分はこうあるべきだ」と無意識に思い込んでいる部分に疑問を持つこと、そして規範から一歩離れてみることを奨励しています。
― 多くの方々に居心地の良い場所を届けるための工夫や、大切にされている考え方はありますか?
居場所において無意味なルールを作らないことを重視しています。この視点については、学生たちとも深く議論しました。
さまざまな人々が集まる場では、ルールを作りたいという意見が挙がることもあります。私たちのプロジェクトでも「ルールや規範を設けたほうが良いのではないか」という意見と「ルールを設けると場の魅力が薄れてしまうのではないか」という意見がありました。学生たちはさまざまな意見をもって議論を交わしていますが、全員が大切にしているのは「規範に縛られすぎない」という考え方です。
私は年齢や障害の有無に関わらず、誰もが自由に関係を構築できる柔軟な環境が大切だと考えています。そのためには、学生や施設運営者、子どもたちなど参加者全員が互いに何かを与え、与えられることが理想的です。
そのため、ルールに関する議論では、「ルールを作る目的」に焦点を当てるよう学生に促しています。人間関係や環境を守るためにルールが必要な場合もありますが、コミュニティの雰囲気や関係性を阻害するルールは不要です。
学生たちはこれまでに多くのルールに従って教育を受けてきたため、ルールがないことに違和感をもつ傾向もあります。しかし、ルールに従うことで思考が停止し、対話が遮られ、理解が深まらないことは避けなければいけません。
ルールの制定が対話の妨げになる可能性を学生たちに伝え、ルール違反が起きた場合は反発する理由やその背後にある意図、考えを理解するための対話が重要であることを強調するようにしています。
― 先生が目指されている居場所は、どのような場所なのでしょうか?
「誰もが自由に対話できる場所」ではないかと思います。「対話」には単なる言葉のやり取りだけでなく、お互いの意思や感情を共有し合うプロセスも含まれていると感じています。私たちは、言葉や行動を通じて感情や考えを伝え合うことでコミュニケーションを築いています。
この居場所づくりでは、お互いの意見や感情をオープンに受け止め、理解し合うことが重要です。人と人とのコミュニケーションを通じて深い相互理解を育むことを目指しています。
広報活動を通じたプロジェクトの成長について
― 大学内外を問わず、この取り組みに対する理解者やファンを増やすためにはどのような施策をされていますか?
広報活動が重要ではないかと思っています。特に子ども食堂のプロジェクトには行政も関心をもって支援してくださっていて、京都市の公式サイトでも紹介されています。その結果、情報を見た企業が「子ども食堂に食事を提供したい」と手を挙げてくださるなど、さまざまな広報媒体を通じて支援が広がっています。当初は意図して行った広報ではありませんでしたが、情報発信がプロジェクトの成長に繋がることを実感しました。
学生へのアプローチとしては、特定の学部や学科に限らず、多くの学生が参加できるようにしています。授業でプロジェクトを紹介したり、学生同士のネットワークを通じて関心をもった学生が直接参加することもあります。また、他学部や他学科の教員が学生を紹介してくれるなど、さまざまな方法で広がりを見せてくれています。
本学全体の規模はそれほど大きくないからか、学部や学科を横断した新しい取り組みが展開されやすい文化が根付いているように思います。例えば、子どもカフェのプロジェクトに仏教学科の先生が興味をもって参加してくださることもありました。また、学長裁量経費に採択されたことも、他学科の先生に知っていただくきっかけになりました。
さらに、本学には地域連携室(コミュ・ラボ)という組織があり、そこが中心となって社会活動や地域との連携を促進しています。この組織を通じて多様な専門分野の教員や学生が集まり、共通の関心ごとに取り組むことができる点も、本学の特徴の一つだと言えるでしょう。
今後の展望

― 今後の展望についてお話いただけますか?
今後は、学生たちが主体となり、地域との連携をさらに進めていってくれるといいなと思っています。
プロジェクトが始まったばかりの頃は、私と連携先の間で準備を進めており、学生はイベント当日のサポート役でした。しかし、やがて学生たちからもっと積極的に関わりたいという声があがり、プロジェクトの推進方法や居場所の意義について自ら考え、目標を設定するようになりました。この自主性が今後さらに発展し、育っていくことを大いに期待しています。
また、運営としては、各学生が「こういう居場所が良いな」「居場所に必要な要素はこんなことではないか」といった意見を持ち寄り、それぞれの思いを尊重しながら参加してもらいたいと思っています。
コロナウイルスの影響によって、活動の縮小を余儀なくされた部分もあります。まだ考慮すべき課題もありますが、今後は単にコロナ前の体制に戻すのではなく、この経験を活かして新しい居場所のかたちを模索していきたいです。