
SDGs 大学プロジェクト × Kyoto Tachibana Univ.
目次
京都橘大学の紹介

京都橘大学は、1967年に文学部単科の女子大学として京都山科に開学しました。2005年の男女共学化、大学名の改称、京都の私立大学として初の看護学部設置を端緒として医療系学部を拡充し、近畿地区最大級規模の医療系分野を擁する総合大学となりました。2021年には、AI時代の社会の要請に応えるため、経済学部・経営学部・工学部を同時に開設。2023年には現代社会で不可欠となるデータサイエンスの基礎を全員が学ぶ総合心理学部が誕生するなど、文理横断の新たな学びの環境を充実させて「総合知」を涵養しています。
学部の垣根を越えて学びあうクロスオーバー教育、3DプリンタやAI・IT技術に触れることのできる最先端の設備を備えたラボなど、予測困難な時代に生きる学生たちが多様な仲間とともに、自由でクリエイティブな挑戦ができるよう、教育環境を整えています。
また、最新鋭のテクノロジーを駆使した次世代型スポーツ施設を新設し、スポーツ振興だけではなく、地域交流拠点としても活用しています。2023年12月には障害の有無に関わらず、誰もが参加できる「SDGsフットボールフェスタ」を開催しました。
現在、新たな社会価値の創造をめざして、情報系分野の拡充などさらなる改革を進めています。今後も大学と地域社会が一体となるような産官学連携の教育研究や心身の健康と人とのつながりを生みだす交流を通じて、地域全体のWell-Being実現へ貢献してまいります。
「学まち連携大学」促進事業について
–京都橘大学様が参画されている「学まち連携大学」促進事業の概要を教えてください。
岡田知弘 地域連携センター長(以下、岡田氏):「学まち連携大学」促進事業は、京都に立地する大学の連合体である(公財)大学コンソーシアム京都と京都市が共同で推進しているプロジェクトです。この事業では、大学と地域(企業、商店街など)間の連携を強化し、学生に向けた実践的な教育プログラムを開発・実施しています。
2016年に始まった第1期に本学が採択され、当時は学部単位で授業や地域活動、ボランティアを実施するかたちで取り組んでいました。2020年に始まった第2期では、京都市の支援を受けながら、学部や学年を超えたチームを作り、地域との連携プロジェクトを展開しています。
–第2期は、コロナ禍と重なりさまざまな苦労があったとうかがっています。具体的にどのような活動を進められたのでしょうか?
岡田氏:コロナ禍によって対面活動が制限されるなか、地域とのつながりを継続するため新たな取り組みを推進しました。例として、京都橘大学と京都薬科大学が共同で「京のやくたちばなし」という医学や薬学、看護学に関する公開講座を実施し、市民向けに学ぶ機会を提供しています。また、両大学の学生が設立した「ME-ME (ミーム)」という共同学生団体では、近隣の公園で景観喫茶を開き、高齢者と若者の交流の場を提供することで、異世代間のコミュニケーションを促進しています。
さらに、学生による公募型地域連携活動というかたちで「学まちチャレンジ!プロジェクト」を実施しています。ここでは学生たちがさまざまなテーマでチームを組み、自主的に地域活性化のためのプロジェクトを進めています。
公募開始前はコロナの影響で参加学生が少ないのではないか、という懸念がありましたが、予想を上回る数の学生が手を挙げてくれました。その熱意を受け、予算の運用を工夫し、全員の意向を尊重できるかたちで取り組みを進めています。
「学まちチャレンジ!プロジェクト」で活動する「えしかるず橘」について
–では「学まちチャレンジ!プロジェクト」の中でも、江田さんがリーダーを務められている「えしかるず橘」について詳しくご紹介いただけますか?


えしかるず橘リーダー 江田 篤生(現代ビジネス学部経営学科4回生(*)現代ビジネス学部は経済学部・経営学部・工学部の開設に伴い、2021年4月より学生募集を停止しました。)(以下、江田氏):私がリーダーを務めている「えしかるず橘」は、エシカル消費に関心をもつメンバーが集まり、山科地域の子どもや高齢者の方に楽しみながらエシカル消費について学んでもらうためのイベントの企画を行っています。
最初は、椥辻駅近くの珈琲店が中心となって開催されている「エシカルマルシェ」に参加させていただいていました。このマルシェには山科の飲食店が集まり、エシカル消費を意識した商品やサービスが提供されています。
2年目からは、子どもたちと一緒にオリジナルのエコバッグを作るイベントを開始し、山科地域でのレジ袋の使用を減少させる取り組みを推進しています。さらに、山科のオリジナルキャラクターをデザインした缶バッジも制作しました。この缶バッジをエコバッグに取り付け、エシカル消費と山科の魅力を同時に伝える活動を進めています。


–さまざまなテーマがある中で「エシカル消費」を選んだ経緯や理由を教えていただけますか?
江田氏:大きく2つの理由があります。まず、2回生の時に、環境のことや地域でどのような行動をしていくべきかについて考える機会があり、その頃からエシカル消費について興味を持っていました。
2つ目の理由は、エシカル消費を推進する団体の方々との交流を通じて、このテーマに深く共感しました。自らアポをとり、一緒に活動する経験をさせていただいたことが最も大きなきっかけです。
–コロナ禍でチームメンバーを集めるのは、とても大変だったのではないでしょうか?
江田氏:「学まちチャレンジ!プロジェクト」に参加したい学生はたくさんいましたが、その中には具体的なテーマが決まっていない学生もいたので、その人たちに「エシカル消費をテーマに一緒にやってみませんか」と投げかけたところ、興味を持った人たちが集まってくれました。
岡田氏:このプロジェクトでは京都市の補助金を使用しているため、コンテストのような形式をとり、学生たちには企画書や予算書を作ってもらっています。そのため、具体的なテーマが決まっていない何人もの学生が、事務室に相談に来ていたのです。そこで職員の方やまちづくり政策を専門とする担当教員が面談を通じてマッチングを行い、学生を集めてくれました。
–コロナ禍でも多くの参加者を集めるために、どのような工夫や苦労があったのでしょうか?
岡田氏:職員や担当教員のさまざまな工夫により、多くの人を巻き込むことができました。例えば学生団体「まちづくり研究会」では、毎年30人から40人の学生が参加し、地域や商店街と協力してイベントを開催しています。この研究会のメンバーのなかでも、プロジェクトに興味を持ちそうな学生には声をかけてみました。
さらに、第1期の地域連携活動の中には、現在も活動を継続している団体がいくつか存在します。例えば、書道部の有志で結成された「OSJ橘」では、地域の子どもたちに書道教室を開き、字を書く楽しさを伝えています。ほかにも、図書館情報学を学ぶグループが山科の図書館で催しを開いたり、作業療法士や理学療法士を目指す学生たちは、高齢者が多い地域で、習得した知識を実践しています。
これらの学科ごとの継続的な取り組みと、学部や学年を超えて結成された団体の活動が融合し、多くの人々が参加しやすい環境を築いています。
「えしかるず橘」の活動を通じて得られた経験、学び
–えしかるず橘では、どのような目標を設定し、どこからモチベーションを得られていますか?
江田氏:私たちは、企画ごとに大きく3つの目標を設定しています。まず、個人の成長を重視し、それぞれのメンバーがスキルや知識を向上させること。次に、環境だけでなく、山科の歴史や文化に関する理解を深めることも大切にしています。そして、どの企画においても重視しているのは、参加者が楽しむことです。
モチベーションには個人差がありますが、大きく2つの要素が挙げられます。1つ目は圧倒的な「やりがい」です。企画を一から考案して実現させる過程で、参加者からの感謝やフィードバックを受け取ることは、私たちの大きな喜びだと感じています。特に子どもたちの正直な反応や感想は、大きな励みになりますね。
もう1つのモチベーションは「自己成長」です。学内だけの学びとは異なる、実際の地域活動を通じて得られる経験や知識は、私たちの成長に直結していて、就職活動など将来のステップにも非常に役立つと感じています。
–リーダーとして考えなければならなかったことが多かったと思うのですが、取り組みを進める中で、メンバーの変化を感じられることはありましたか?
江田氏:リーダーとして、自分の成長だけでなく、メンバーや参加者のモチベーションを考慮しながら、多くのことを考える必要がありました。その中で、私自身やメンバーの変化を感じた瞬間がいくつかあります。
まず、私たちの視野や考え方が大きく広がったと感じています。最初は頭が硬く凝り固まった考え方が多かったのですが、先生方の指導や自分たちでの反省・振り返りを重ね、より良いアイデアを生み出す柔軟な思考力が身につきました。
また、コミュニケーション能力にも大きな変化が見られました。最初は内向的なメンバーが多かったのですが、今では子どもから大人まで幅広い世代とのコミュニケーションスキルが向上し、さまざまなアプローチを図ることができるようになっています。
–乗り越えるのが大変だった壁はありましたか?
江田氏:たくさんありますが、中でも特にコロナ禍でのコミュニケーションは非常に難しかったです。感染症対策に細心の注意を払いつつ、参加者とのコミュニケーションを取ることはもちろん、コロナ禍だからこそどのような楽しみ方ができるのか、新たな視点で企画を考えることはとても大変でした。
また、このプロジェクトは初対面のメンバー同士が集まったため、初めはコミュニケーションが難しい部分もありました。些細なことかもしれませんが、お菓子を差し入れたりするなど、友人同士ではないからこそ気遣いながら、どうすればもっと話しやすい雰囲気になるかという視点をもって、コミュニケーションを深めていきました。
–このプロジェクトを通して江田さんが最も得てよかったもの、嬉しかったことを教えていただけますか。

江田氏:何よりも「地域との繋がり」です。普通に生活していたら絶対に出会えなかった人たちと関わり、多くの貴重な経験と感謝の言葉をいただきました。人との繋がりが新たな企画につながることを実際に体感し、繋がりの大切さを実感することは、私にとって最も貴重な学びになったと思っています。
京都橘大学と企業・行政間の地域連携について
–ではここからは、京都橘大学様と企業との地域連携についてお伺いさせてください。
岡田氏:「学まち連携大学」促進事業は、直接的に企業との連携を目的としているわけではありませんが、大学としては様々な取り組みや活動を通じて企業との関わりを築いています。例えば、2021年に新設された経済学部、経営学部、工学部では、様々な企業や団体からの課題に対し、学生たちがチームを組んで解決策を提案するPBL(課題解決型学習)や、クロスオーバー型課題解決プロジェクトが行われています。
また、地域連携センターでは、地域の企業育成やベンチャー型の企業育成を重視している地域金融機関や経済団体と連携し、学生の起業意識を高める活動もしています。山科区内の福祉事業所や商店街との連携も深め、昨年度は京都市の錦市場商店街と協力して観光マップの作成などのプロジェクトも実施しました。
最近では清水焼の普及を目指すプロジェクトにも取り組みました。清水焼の素材や絵付けを体験できるイベントを企画し、ホテルや嵐山駅での体験イベントを実施しています。
これらの活動を通じて、本学は地域や企業、協同組合との連携を強化し、地域に貢献する多彩なプロジェクトを推進しています。
–京都市や山科区とも連携されていると伺っています。行政との連携についてもお聞かせいただけますか?
岡田氏:山科区には1960年代に形成された住宅団地が多く存在しており、京都市内の11区の中で高齢化率が2番目に高い地域です。この地域では人口減少も見られ、高齢者の生活や健康問題が大きな課題となっています。本学は医療関連の学部を充実させていることから、山科区役所独自の「山科“きずな”支援事業」に参加し、山科団地で地域貢献活動を展開しています。
また、伏見区の市営醍醐中山団地では京都市の住宅管理課と連携し、看護学部の学生たちが大型ゴミの搬出支援や部屋の模様替えなど、住民の要望に応じたサポートを行う授業を展開しています。また、団地内に複数の学生が居住し、団地自治会のメンバーとして地域の祭りやイベントの運営、清掃活動などに参加することで、地域と深い関わりを築いています。このような活動を通じて、学生たちは実際の現場でのコミュニケーションスキルを向上させ、それぞれの成長に繋げています。
また、滋賀県や和歌山県那智勝浦町、京都府与謝野町など、大学の所在地以外の地域とも連携協定を締結しています。今年は、与謝野町で学生たちが合宿し調査活動を行っています。これらの取り組みを通じて、本学は地域の自治体や団地自治会との連携を強化し、多岐にわたる活動を展開しています。
これからの学生に期待すること、今後の展望
–最後に、これからの学生に期待する役割や今後の展望についてお話いただけますか?
岡田氏:本学の教学理念に基づき、学生たちには地域に出て学ぶことを大切にしてほしいと思っています。特に、自主的に自分たちの頭で考えて動く「自立・共生」」の精神を持って取り組んでほしいです。
私たち地域連携センターは、学生たちが地域の現場から学び、自身の成長の糧とするためのサポートを行い、学生たちの人生や学びにプラスとなる場を提供することをめざしています。
実際に多くの卒業生が、地域や企業との連携を通じて成長を実感してくれています。彼らの話を聞いていると、自己成長に向けて積極的に努力する学生たちの成長や広がりを感じられるのです。学生時代の経験が社会人としてのキャリアにも大いに役立ち、ロールモデルとなっていくだろうと考えています。
センター長である私の展望としては、これまでの成果をもとに、今後もさらに多くの学生や教員を巻き込み、積極的に地域に出て学ぶことのできる学生を増やしていきたいと思っています。