社会貢献活動 × Otani Univ. -Part 2-

大谷大学の紹介

大谷大学は、1665(寛文5)年、京都・東六条に開創された東本願寺の学寮をその前身としており、その後、幾たびかの変遷を経て、1901(明治34)年、学制に根本的改革を加えた近代的な大学として東京・巣鴨の地に開学しました。

その後、1913(大正2)年に京都の上賀茂小山の現在地に移転開設。親鸞の仏教精神に基づき、“人材”ではなく“人物”の育成を目標とする学び「人間学」を教育・研究の根幹とし、小規模ながらも広く一般社会へ開かれた大学として確かな歩みを続けています。

「中川学区の暮らし再発見プロジェクト」の背景と目的

過疎高齢化が進む京都近郊地域における持続可能なまちづくりと福祉の実現について、私自身が地域福祉を専門としていることもあり、このプロジェクトを発案し、スタートさせました。

過疎が進む地域が持っている力について、地域の方々と学生が会話をする中で、導き出したり、再発見ができればという思いと期待感がありました。

その中で浮き上がってくる様々な課題の幾つかについて、地域の方々と学生で一緒に解決できるような道筋の構築について考えました。

このプロジェクトを実施するに当たり、京都市北区の山間地域の中川学区を活動場所とした理由ですが、2015年に北区地域福祉推進委員会さん主催の地域福祉にかかわるシンポジウムに私がコーディネーターとして参加させていただきましたが、シンポジウムの終了後に中川学区の方にお声掛けいただいたことがきっかけになります。

特に印象に残ったエピソードとは

印象に残ったものとして、人口140万人を超える大都市である京都市の1つの地域であるにもかかわらず、介護が必要になった際、在宅で利用できる介護サービスがほとんどない地域が中川地区の現状です。それに伴い介護サービスを受けられない高齢者が多くいらっしゃいました。

また、運転免許証を返納すると、近くに買い物をする店舗も無く、最寄りの病院まで行くのに距離があることなどから、この地域に住めないという話を多く聞いており、自家用車無しで生活していくのが困難な状況にあると感じました。

さらに、この地域は雪も多く、大雪で道路が通行止めになると、孤立してしまい買い物にも行けなくなり、一人暮らしの高齢者などが音信不通となり、安否が気遣われることが懸念されています。

以前、台風が通過した後、中川地区の電気と水道が長期間止まったままの状態だったのを目の当たりにしましたが、同じ京都市内でも地域によってこれほど生活環境が大きく異なることに驚きました。

反面、中川地域の住民同士の繋がりが密接で、災害で道路が寸断されてもお互いに助け合って生活していらっしゃる様子に驚かされました。

このようなエピソードを見聞きすると、不便な地域であるものの、決して住みにくい地域ではないということを実感しております。

「京都・中川まんまビーア!」プロジェクトとは

鎌倉時代に高山寺(現在の京都市右京区)を設立した明恵上人は、茶祖と呼ばれる栄西禅師が中国から持ち帰った茶種を譲り受け、高山寺の周辺の畑(栂尾:とがのお)にまいて栽培を始めたことにより、この地に日本最古の茶園が誕生しました。

この高山寺の茶園の近くに林業地域として知られる中川地区があります。この中川地区は近世(江戸)時代に高山寺の領地だった時期もありました。そのような経緯からか、中川地区の山林の中にはチャノキ(※1)が自生しています。

チャノキがあること自体は中川地区の住民も昔から知っていましたが、そのチャノキが高山寺のものに類似するものかどうかについては分からなかったことから、お茶のDNA鑑定をしたところ、中国から高山寺に持ち込まれたものに近いことが判明しました。

中国から伝播した当時のお茶に近いものなので、「あるがまま」とか「自然のまま」という意味を込めた「まんま茶」と名付け、復活させるため、地域住民の有志によって「お茶復活プロジェクト」が立ち上がり、そのプロジェクトに本学の学生も参加させていただく中で、2016年から地域住民と学生の協働で「まんま茶®」の収穫・製造に至りました。

ただ、お茶としての生産量が少ないことと、お茶を使って何かを生産するというのが難しいことから、試行錯誤をしていたところ、自閉症の方々の就労支援として、クラフトビールの開発・醸造・販売を手掛けられ、本学の卒業生が理事長を務めるNPO法人「HEROES」(当時)(現在は「社会福祉法人菊鉾会ヒーローズ」)さんにおいて、中川地区での「お茶復活プロジェクト」に共感をいただくとともに、お茶を使ったビールの開発等についての相談を持ちかけたところ、賛同が得られました。これにより、農福連携(※2)によるクラフトビール「京都・中川まんまビーア!」の商品化が実現することになりました。

商品開発等に当たり、ラベル作りや売り上げの一部を中川地区での活動に還元するアイデアを学生達が提案したり、大学名や中川地区の名前を使った広報戦略を練ったり、市内の居酒屋への営業活動を行うなど、学生達も楽しみながら取り組めているものだと感じております。お茶摘みを行い、茶葉をクラフトビールの製造工場に持ち込み、製造をヒーローズさんにお願いするところまで学生達が行っています。

また、このプロジェクトの実施に当たって、備品や交通費などの必要な経費を行政の補助金で賄うために、補助金申請から事業実施後の報告書の作成・提出まで、複雑な手続きも学生自らが行っております。
幅広い情報やマーケッティングの知識等に関しては、本学で設置している「地域連携室(コミュ・ラボ)から情報をもらったり、助言を得ながら取り組んでいます。

(※1)チャノキ…ツバキ科ツバキ属の常緑樹。野生では高木になるが、栽培樹は低木に仕立てられる。加工した葉や茎から湯・水で抽出した茶が飲用として利用される。

(※2)農福連携…障がい者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組みのこと。

プロジェクトを進める上で苦労したことを教えてください

最近、最も苦労したのはコロナ禍での影響についてです。高齢化率が60%を超えている中川学区に、域外からの学生が多く訪れることはコロナの感染リスクを増大させるので、集落から離れた場所で、かつ少人数で行うことになりました。これによって、プロジェクト実施における学生個々の負担が急激に増してしまいました。

また、これまでは、集落を訪れることで地域の方々と学生達との交流が深まり、モチベーションも高まっていましたが、直接的な交流が図れなくなり、学生達のモチベーションの維持にも影響がありました。
さらに、コロナ禍で酒類の売り上げが低下してしまい、大変な影響を余儀なくされました。

困難な状況にあっても継続することができた理由とは

コロナ禍にあってもプロジェクトを継続できた理由としては、中川地区の皆さんに大変熱心に取り組んでいただき、大人数は無理でも2,3人の少人数に分けての交流なら構わないということで、地域と学生達の交流を維持できたことが大きかったものと考えています。

また、コロナ禍で「まんまビーア!」の需要の減少を余儀なくされる中でも、製造量を調整することで対処するなど、事業の維持・継続を図ることについて、ヒーローズさんのご協力も得ながら大きな難局を乗り切ることができました。

学生が参画する上でのモチベーションとは

コロナ禍の影響により、正直、学生達のモチベーションは低下したと思います。
ただ、そのような状況にあっても、中川地区の皆さんやヒーローズさんのご協力の下で、仕組みを必要最小限にまで抑えて、ある程度ルーティン化するなど、工夫することにより継続可能な形に整えられたことが良かったのではないかと思います。

学生達の成長や今後への影響とは

学生達にとって一番良かったのは、今後、就職活動を行うに当たり、このプロジェクトに一生懸命に打ち込んだ経験を語れることだと思います。

今回のプロジェクトに限らず、様々な場面で学生達が積極的に取り組むことにより、結果として高い就職率を打ち出し、就職先としても、金融機関や公務員として就職する卒業生を輩出したり、起業する人もいるなど、本学での学びが社会人になるに当たり、非常に役立っているのではないかと存じます。就職活動においては、学生時代に特出した経験をし、それを語れることに大きなアドバンテージがあるのではないでしょうか。

また、学生達にとっては、このプロジェクトに携わったことで、社会課題の解決に役立つ取り組みを行うことができ、それが大きな自信になっているように感じます。

▼「京都・中川 まんまビーア!」ができるまで
あるがまんま、昔のまんま。京都・中川 まんまビーア!

今後の展望

このプロジェクトがスタートして8年が経過していますが、この間、中川地区の皆さんの中には、お亡くなりになられた方や施設に入所された方もいらっしゃいますし、年齢を重ねる中で動けないようになってしまった方もおられます。そのような中で、本学の学生との繋がりを継いでいただける方々が現れてくれればと思います。

過疎と呼ばれる地域にとって大切なのは、地域外との関係人口を増やしていくことだと考えています。地域のことを一緒に考えることができる人をどう増やしていけるかが課題であるとともに、そのような意味合いにおいて、プロジェクトを継続していくことは非常に意義があることだと思います。

このプロジェクトを、8年という長期間継続することができた理由として、背景としてある地域で暮らす方々の生活の一部に学生達が入り込み、日々の暮らしの中で影響を与えていることから、ある程度の長期スパンで物事を考える必要性を感じています。

ただし、継続性を絶対視することも間違っており、状況に応じた撤退や縮小もあり得るものと考えます。何よりも一緒に取り組む方々の関係性を重視すべきで、自分自身がやりたいプロジェクトを何としても推し進めるという発想では、一応の結果が出せても成功とは言えないものと考えます。

また、個々のプロジェクトには様々な形があるとも考えていますので、例えば、短期間でのゴールを設定して、月単位、もしくは年度ごとに実施したり、途中で軌道修正を図りながら、大きな目標に向かってどうアプローチしていくのかについて、多方面から分析したり、方向性も定めたりすることも必要であると考えます。

プロジェクトの取り組み方は多種多様にあることから、それぞれの状況を正確に把握しながら、決して独りよがりに行うのではなく、様々な人に相談や助言をもらいながら、取り組む必要があると思います。また、決して気負うことなく、周囲とのんびりとした気持ちを分かち合うことも大切です。

いずれにしても今回のプロジェクトの未来について、その行く末を見てみたいという強い思いがあるとともにその未来について学生達とともに関与させていただきながら継続していきたいと存じます。