社会貢献活動 ✕ Tohoku Bunkyo Univ.

東北文教大学の紹介

東北文教大学・東北文教大学短期大学部は1966年に山形女子短期大学として誕生し、山形短期大学を経て2010年に開学しました。

2026年に創立100周年を迎える学校法人富澤学園の創設者たちの願いである「敬・愛・信」を建学の精神とし、夢や志を実現させようと真摯に学びを深める学生への支援と指導を惜しまない教育姿勢を大切にし、短期大学として開学以来18,000名を超える卒業生を輩出してきました。その多くは教育、保育、福祉の分野における教員や職員として、あるいは企業の社員や自治体の職員として、地域の子どもたちの成長や人々の豊かな人生を支え、社会で活躍しています。

「地域連携・ボランティアセンター」の役割と活動 

–「地域連携・ボランティアセンター」のおもな役割や、これまでの活動についてお伺いしてよろしいでしょうか?

地域連携・ボランティアセンターは、これまで大学と地域社会との架け橋としての役割を果たしてまいりました。その中で、大学と地域の双方にとって、有益な相互交流を促進するための窓口となっております。

初期の活動は、年に一度の大学祭において地域の方々の書道、絵画、手芸などの作品を学内で展示し、学生の文化的な発表とともにご覧いただく機会を提供するといったものでした。しかしこれに留まらず、今後の展望を考慮し、より一層地域との連携を深めるための方法を模索しておりました。その結果として「東北文教大学・南山形地区創生プロジェクト委員会」が立ち上がりました。

「東北文教大学・南山形地区創生プロジェクト委員会」の立ち上げ

この章では、菊地センター長に「東北文教大学・南山形地区創生プロジェクト委員会」の立ち上げの経緯について伺いました。

立ち上げの経緯

– 地域との連携を強化したいという意図があったようですが、その際、なぜこの「地区創生プロジェクト」という部分に焦点を当てるようになったのでしょうか?

このプロジェクトには、大学が地域へ貢献できる方法を模索する「大学の地域貢献」という側面と、大学が有する研究者や学生といった人的資源や、研究の成果を地域側が如何に活用できるかを考えていただく「地域の大学活用」という2つの側面が存在します。

プロジェクトが立ち上げられたきっかけは、山形県が実施していた事業に応募したことにあります。話は2015年(平成27)までさかのぼります。当時の山形県では、地域の自然・歴史・文化などを含むあらゆる文化財に基づいて作成された振興プランや活性化プランに助成金を提供する「未来に伝える山形の宝」事業が始まっていました。

ここで言及されている文化財には、樹木や天然記念物などの生態系に関する文化財、歴史的な由緒ある神社や建造物に関する文化財、更には石像物や重要な遺跡などが含まれます。このように、県は文化財を中心に据えた優れた地域活性化プランを求めていることを踏まえて、私は”大学と地域が協力して双方がプラスになるような取り組み”ができないかを模索しました。そして、大学内におけるその取り組みの推進母体は、既存の「地域連携・ボランティアセンター」とすることを考えました。

このような経緯から、大学がある南山形地区に存在する多様な文化的資源を有機的に結びつけた5つの「実践プラン」ができ上がり、2016年の1月に山形県「未来に伝える山形の宝」事業として「東北文教大学・南山形地区創生プロジェクト」が採択されました。このプロジェクトを展開する大学と地域の共同組織として「プロジェクト委員会」が設立されました。委員は大学教職員と地域在住者合わせて約40名からなっております。

プラン作成の苦労と再発見

–「南山形地域」の全体を面で見て行くようなプランの作成にあたり、苦労されたことはありますか?

私が苦労したと感じることは、自身の専門外の分野も考えなければならなかったことです。私は民俗学を専門としており、5つの「実践プラン」を立案するにあたり、専門外である古墳や樹木など歴史考古学や生態系等の知識や現状を学ぶ必要がありました。

私はプロジェクトが始まる以前から「地域社会史」の授業を担当していた経験から、古墳や縄文時代、弥生時代の遺跡や文化財に触れる機会はありましたが、それでも新たな知識を身につける必要があったため、プロジェクトの立ち上げに際しては南山形という地域の学び直しを行いました。

一方で、大変だったと感じるものの、ひとつひとつの事実を掬い上げ、それらがどのような文化的価値を有しているのかを明らかにする過程で、これまで浅い認識や誤って認識していたことにも気づかされました。このようなプロセスにおいて私自身が地域の魅力を再発見し、個人としても大変有益な学びとなったと考えています。

「東北文教大学・南山形地区創生プロジェクト」における5つの実践プラン

– では魅力を再発見しながら作った5つの実践プランについてお伺いしたいと思います。それぞれのプランについてと、学生さんはプロジェクトの中でどのように関わっているかを教えていただけますか?

「2万年の歩みを刻む南山形を知る・楽しむ活動」

約40名のプロジェクト委員は、以下に示す5つの「実践プラン」のどれかに所属して活動しています。

実践プランの1つ目は、「2万年の歩みを刻む南山形を知る・楽しむ」活動です。これは大学のバスを利用して地域の文化財を実地見聞する「南山形の自然・歴史野外ミュージアム巡り」で、いわゆるバスツアーです。

この活動では、学生は地域社会に関わりながら文化財の解説を地域の方々とともに行っています。この活動により、学生は地域の方々とのコミュニケーションが深まり、地域への理解が広がっています。

それに関連して、周遊コースの策定や下草刈り、案内看板の設置なども行なっています。そのことにより、地域の方々や学生がともに利用できる学びの場が整備されています。このように、大学のバスによる周遊や学生のガイドスタッフによる解説などによって地域との交流が促進されています。

バスツアーの周遊コースには、1万7千年前の氷河期に出来たと推定されている埋没林の保護・普及活動や、絶滅危惧種「オキナグサ(翁草)」の栽培・普及活動も組み込まれています。これらの活動を通じて、地域の自然保護や生態系の普及も進められています。

「南山形地区ガイドマップ」作成・出版事業

実践プランの2つ目は、上記のバスツアーで活用されるガイドマップの作成です。

バスツアーで地域を巡る際には、さらなる理解を深めるための適切なガイドマップが必要と考えました。参加者が地図を手に取りながら、「現在位置はこの辺りで、この地域にはこんな文化財が存在しています」といった情報を手軽に確認できるよう、文化財の名前と写真が掲載されたガイドマップを新たに作成しました。これを「まるぐマップ」と名付けました。

この新しいガイドマップの作成では、既刊の『南山形ふるさとの歴史』や『風土豊かな恵みの里』などの成果を踏まえ、これらを要約するにとどまらず、新しくできたレストランやお菓子屋さんなどの情報も盛り込み、写真やイラストを交えわかりやすく手に取りやすいハンドマップを目指しました。

「DVD 南山形地区物語 」作成・上映活動

実践プランの3つ目は、南山形地区の魅力を広く伝えるためのDVD制作です。

約20分に編集された映像で、南山形地区の自然、歴史、文化の3つの文化的資源を丁寧かつ分かりやすく紹介することを目指しました。この取り組みは、1年に1本のDVD制作を目指し、現在では既に3本が完成しております。さらに令和3・4年度は、特別編として「南山形に埋もれる氷河期の森 氷河期の埋没林」を作成しました。学生たちはこの取り組みではDVDのナレーションを担当しています。

「南山形地区再発見の講座」開設事業

実践プランの4つ目は南山形地区を知ってもらい、再発見する講座の開設です。この活動は年に3回にわたり主に地域の方々を対象にして参加者を募り、南山形コミュニティーセンターという公共施設を会場にしております。南山形地区に関係する歴史と文化に関する学習の場であり、毎回大学の教員や外部の講師を招いて講演・講話を行っていただき、その後は活発な意見交換会も行っています。

「谷柏田植踊の復活・継承」事業

実践プランの5つ目は、「谷柏田植踊(やがしわたうえおどり)の復活・継承」事業です。

南山形地区の谷柏において、約20年前までは「田植踊」と呼ばれる伝統芸能が行われていました。しかし、この芸能は高齢化の影響による 踊り手の不足から約20年間途絶えていました。このプランは、大学が地域の方々と協力して田植踊を再び蘇らせ、ずっと継承していこうとするものです。

復活の手がかりとしては、手元に残っていたVHSのビデオ1本だけという状態でした。私たちはこのVHSを頼りにして踊りや歌を復元しましたが、地域の方々が歌唱を担い、学生が踊るといった形で日々その継承に努めています。

菊地和博 センター長独自のアプローチ

私は「谷柏田植踊の復活・継承」事業において、学生サークルを組織する試みを実施いたしました。

具体的には、2年目から民俗芸能サークル「舞」という組織を創設し、その顧問を務めさせていただいております。私個人の呼びかけだけでは短期間の取り組みとなりかねないため、学生が4年生まで関与できるようにサークルを組織し「舞」という名の団体を設立しました。これにより、継続性も確保されますし、学生は地域の方々との多様な交流の機会が得られると考えております。

例えば、「田植踊」の活動では外部での公演が多いこともあり、地域の方々と一緒に食事を共にしたり懇親会を開催することもあります。私も同様に学生たちと共に食事を摂り、懇親会に参加しておりますが、参加している学生の姿を見ているとサークル活動をとても楽しんでくれているのではないかと思います。

今後の展望として、地域との関係性を一層深めていくことを目指しております。現在は学生たちも積極的に参加しており、今後もその参加意欲を高め、地域の方々との連携を強化していくことが目標です。

学生にとっての異世代交流の意義と地域活性化

– 学生と地域の交流に関して、 若い学生にとって自分が知らない時代を生きてきた方々と関わることで生じるメリットや影響にはどのようなものが考えられるでしょうか?

一言で表現すれば、「社会性を身につけられる」ことが挙げられるかと思います。学生は地域に飛び込み、普段は関わることのないような人々と直接会話を交わしたり一緒になってプロジェクトに取り組むという経験を積みます。やはりこうした異世代の方々との交流は大学生同士では得難い体験が得られるのではないかと思っております。

– 一方で地域側の方にはどんな影響があったでしょうか。写真などを拝見すると、活発に楽しく活動されている印象があります。

地域の方々にとってもきっと楽しい経験となっているのではないでしょうか。若い人と一緒に取り組めるということ自体が楽しいし、同じ空間と時間を共有できることで非常に「元気をもらえる」という側面もあります。

異世代間の交流は、大学生にとっても地域の方にとっても、同世代の交流では得られない新しい価値観やものの考え方に触れる機会となります。その結果は、双方にとって貴重な体験となっているのではないかと考えております。

最近の活動について

– コロナでは十分に活動ができなかったと思いますが、今年は3年ぶりに対面形式でプロジェクトが動いたと伺っております。今年の活動はどんな様子でしたか?  

今年は10月にバスツアーを実施できました。コロナの影響を受け、3年ぶりの開催となり参加者が集まるかどうか心配しておりましたが、20名ほどのご参加がありバス1台にゆったりと乗車していただき、皆さまからおおむね好評をいただきました。

講座についても1回の開催が実現し、現在2回目の開催に向けて準備を進めております。DVDについても、自然、歴史、文化編の3部作に加え、新たに埋没林に関するDVDを制作したものを第一回目講座で全員鑑賞することができました。

また、田植踊は幸運なことにコロナで活動が途切れることなく、年間を通して4〜5回の公演を継続しております。学生は学内でパート練習を重ね、公演が近づくと地域の方々が編成している「歌チーム」との合同練習を行っております。歌・太鼓・鉦・笛の囃し手と踊り手の双方がリズムや間合いが合うように訓練を積んでいます。

以上のように、大学生と地域が協力しながら継承している田植踊りですが、現在はコロナ禍がやや下火となったこともあり、今年は今までよりも公演依頼はやや多めといえます。

地域と学生とをつなぐセンター長として意識していること

– 大学と地域をつなぐパイプ役を務める上で、センター長が意識されていることはありますか?

私が近ごろ重要視していることは「発信すること」です。地域の活性化を図るには、継続的に私たちの取り組みをご理解いただくことが重要だと考えています。そのため、当センターでは、大学のホームページへの情報発信と広報誌の発行を通して、私たちの活動を積極的に発信しています。

大学のホームページでは、先ほど述べた田植踊や講座の開催様子、DVDを鑑賞しての意見交換会など、様々な活動の様子を写真とともに紹介し、地域の皆様が理解しやすい形で情報提供しています。

また、広報誌については、南山形地域特有の「美しい」という意味を持つ方言「うづぐすぇ」を冠したタイトルで定期的に発行しています。創刊から13号目を数える「うづぐすぇ」では、各実践プランで行った活動の報告を詳細に記載し、これが南山形地域の多くの皆さま方の目に触れるよう、配布の仕方に工夫をこらしております。

プロジェクトの今後の展望

– 今後の展望について教えてください。

このプロジェクトは今年で8年目を迎え、これからは南山形地区にとどまらず、山形市内の皆様にも南山形地区の魅力を知っていただき訪問していただければと考えております。

このプロジェクトは、そもそも「文化財による地域活性化」を目指した取り組みですが、地域外の皆様に広く南山形地区の魅力を知って直接に足を運んでもらうことで「経済面の活性化」にも貢献できればと念願しております。「山形の宝」事業における活動に一層の付加価値がもたらされるよう知恵を絞っていきたいと考えております。

現在は経済的にも厳しい状況下にありますが、これまで述べたように大学として実りある時間や機会を地域の皆さま方に提供することを通して喜びや学びを共有し、「地域貢献」という大切な役割をはたしていきたいと考えております。