
SDGs 大学プロジェクト × Toyama University of International Studies.
目次
富山国際大学の紹介


富山国際大学は1990年の開学以来、国際社会や地域社会の発展に貢献できる人材の育成をめざしてまいりました。現在、現代社会学部(東黒牧キャンパス)と子ども育成学部(呉羽キャンパス)の2つの学部を擁しています。
現代社会学部では、観光、環境デザイン、経営情報、英語国際キャリアの4つの専攻を通して、これからの世界、これからの社会が求める実践力と人間力を養います。2022年度には、本学の教育プログラムが文部科学省による「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」に認定されました。IT関連の教育課程を強化した新カリキュラムを導入し、ITに精通した幅広い視野を持つ人材の育成に努めております。また本学の教育目標である「共存・共生の精神」に基づきSDGsに取り組むとともに、国際的な視野で考えることができる教育に尽力しています。
子ども育成学部では、子どもの内面に働きかけて学び・発達を促す「教育」及び環境を整えて子育ち・子育てを支える「福祉」の協働・融合による「子ども育成」を理念として掲げています。カリキュラムも「教育」と「福祉」の両方を学べるように編成しています。教育・保育・福祉の実践力を備え、家庭・地域との連携・協力を深め、これからの時代が求める子どもを育むスペシャリストの養成をめざしています。
「SDGs推進サークル」とは
富山国際大学では2023年5月にSDGs宣言を策定しましたが、それに先んじて2021年度に学内で発足したのが「SDGs推進サークル」です。
現代社会学部の環境デザイン専攻の学生たちが中心となって立ち上げ、SDGsの観点から学内外の課題を解決しようとさまざまな活動を進めています。
子ども育成学部においても子ども食堂を学生が運営し、地域の子どもたちに食の安心をお届けするなど、SDGs活動を推進する学生団体がいくつかあります。
今回は現代社会学部のSDGs推進サークルに焦点をあて、顧問の上坂博亨教授にお話を伺いました。
学内外の課題をSDGsで解決
-SDGs推進サークルが立ち上がったきっかけや目的、活動内容について教えてください。
初代サークル長を務めた学生(現4年生)から、「何か自主的な活動がしたい」と相談されたことが発端です。この時、学生自身にはまだ具体策はありませんでした。
そこで「SDGsという視点で学内外を見て、自ら改善策などを考えて活動したらどうか」とアドバイスしました。世界の目標や課題を考えるのに、SDGsは良い指標になります。そのアドバイスをもとに、学生たちが主体となってサークルを立ち上げたという経緯です。
サークルでは、どのように行動すればSDGsに貢献できるかを学生たちが議論し、活動につなげています。普段の何気ない会話やコミュニケーションの中で生まれたアイデアがきっかけになることも多く、SDGsに貢献することはもちろんですが、そのために何をすべきかを考える課題発見力の醸成にも役立ちます。
-学生から出たアイデアの中で、何かユニークな発想や驚かされた発想はありましたか?
地域のゴミ拾い活動を通して、どういった場所にどのようなゴミがポイ捨てされる傾向があるのか調査していたのが印象的でした。
例えば、バス停の付近にはタバコの吸いがらが多い、駐車場の隅の方にはコンビニの袋に入った空き缶が捨てられているなど、場所によってゴミの種類にも違いがあります。その理由や背景を分析して、ポイ捨ての削減につなげようという取り組みです。この取り組みは非常に面白いと感じました。
環境問題にこだわらず幅広く活動
-サークルに所属するのはどのような学生が多いのでしょうか?
環境デザイン専攻に所属する学生が多いですが、最近はまだ専攻が決まっていない1年生の参加も増えています。サークルを立ち上げた学生たちが卒業した後も活動が続いていくように、下級生たちにも声をかけてメンバーを増やしてきました。
また、本学では1年次に、地域の課題を見つけて解決策を考えるグループ実習の授業を設けています。その目標の一つに、地域の市町村が推進するSDGs活動をサポートすることも含まれています。その実習を通し、SDGsに関心を持つ1年生も増えているようです。
活動内容についても、環境にこだわらずにさまざまな切り口で考えています。本学の現代社会学部には他にも経営情報専攻や観光専攻などがありますが、SDGsはどの分野とも深いつながりがあります。2年生になると自分が進む専攻を決めることになりますが、サークル活動を通して自分の関心のある分野を見つけるのもいいのではないでしょうか。
-環境に関することだけでなく、幅広いテーマで活動されているんですね。
SDGsでは網羅的で包摂的な17の目標を掲げているため、学生が学んでいるほとんどの専門分野は視点を変えればSDGs活動につながると言えます。SDGsの枠組みを意識しながら学ぶことで、他の科目との関連や17の目標の中でどのように位置づけられるのか考えることが大切だと考えています。
ヤギによる学内の除草効果を検証


-続いて、サークルの具体的な活動内容についてお聞きします。印象的な活動の一つがヤギによるキャンパスの除草作業なのですが、これはどのようなきっかけで始まった企画ですか?
キャンパス内に生い茂る雑草を、ヤギに餌として食べてもらうことできれいにしようという取り組みです。これにより、ガソリンエンジンを使った草刈り機の使用を減らし、雑草の資源利用と物質循環の両立を目指しています。ヤギは市内の農家からお借りし、サークルの学生や環境デザイン専攻の学生たちが世話をしています。
本学は富山市内でも山側に位置し、キャンパス内には草地が多くあります。しかし、従来の草刈り機による除草はエンジン音や排気ガスの問題がありました。そこで、ヤギに雑草を食べさせるアイデアを教員から助言し、2022年度からサークル活動の一環として取り組むことになりました。
1年目は1頭をつなぎ飼いし、1か月間で半径およそ4.5メートルの円6個分の面積を除草できることが分かりました。2023年度には飼育期間を5か月に増やし、規模も拡大。全長100メートルにおよぶ柵をキャンパス内に張り、その中で2頭を放し飼いしました。
広大な柵の中の雑草はヤギの放牧開始から2~3か月ほどで明らかに背丈が低くなりました。昨年までのような伸び放題の草地の印象がなくなり、サルやクマなどの害獣よけにも効果をもたらしている様に思います。
園児と楽しみながら柿の実を有効活用

-保育園の園児たちと一緒に干し柿を作るプロジェクトも実施しているとのことですが、こちらはどのような取り組みですか?
これは学生が主体となって始まった取り組みで、有害鳥獣対策の一環として、「柿の木を残しつつ、楽しみながらできるイベント」として実施されました。
本学のキャンパス内には柿の木が自生していますが、たわわに実る柿は渋柿のためそのままでは利用できず、毎年腐らせてしまっていました。一方、当学園法人には本学の他に短大や高校、さらには幼稚園や保育園も運営しており、本学のキャンパスを園児の野外保育に活用しています。そこでこの二つを結び付け、子どもたちに楽しんでもらいながら柿の実を有効活用しようという試みでこの取り組みがスタートしました。
学内の柿の実を食べるには干し柿にする必要があります。柿の収穫を園児たちに手伝ってもらうため、まず学生と教員が一緒になって昔ながらの柿取り竿を製作しました。ホームセンターで竹竿を調達し、竹を割ったりヒモでしばったりと、道具を作る知恵の学びにもつながったと思います。
この取り組みは2020年から継続して行われていますが、今後も「楽しく環境や景観の保全、生物との共存につながる独自の実践」が継続していくことを期待しています。
社会とつながるきっかけ作り
-こうした活動のアイデアは普段の何気ないコミュニケーションの中から生まれることが多いとのことでしたが、アイデアをきちんと実現できる雰囲気ができていて素晴らしい環境だと感じます。
2023年度に入学した1年生は、コロナ禍突入と同時に高校生になり、学校のクラスメイトや友人たちとのコミュニケーションが制限されていた世代です。そういう生活に慣れてしまっているため、人と話すことに抵抗感がある学生も少なくないと感じます。
しかしそんな状況を過ごした高校生でも、大学生になると地域や社会と密接に関わりながら勉強していかなければなりません。そういう学生たちにとっては、社会とつながっていくこと自体が初めての体験ですから、ハードルは高いと思います。
社会と関係性を築きながら、社会の人たちはこういう風に考え、こういう風に行動するということを覚えていく。昔は子どものころから大人と一緒に社会で学んだのだと思いますが、現在はこのプロセスを大学の4年間であわてて教えなければならない時代になっていると感じますね。せめて高校生くらいから少しずつ社会とつながる機会を作って行ければと思うのですが。
ただ、学生たちはきっかけさえあれば自分なりにやるべきことを考えて進めていけると思います。本学では産学連携によるSDGs活動として、トヨタカローラ富山株式会社 様と共同で商品開発などにも取り組んでいます。今はこうした機会を、大学や教員が与えて後押ししている段階ですが、いずれは自分自身できっかけを見つけられるようになると期待しています。
活動を通してさまざまな成長も
-サークル活動を通し、学生たちにはどのような変化や成長がありましたか?
私は、自分の将来を考える場合、その目標や希望は、実際に自分で見聞きし肌で感じた「体験」から想い起こされると考えています。つまり、想像できない分野に将来の夢は生まれません。SDGsの枠組みで思考することで学生自身がやってみたいと思う事柄が増え、また実際に体験することを通し、将来に向けた好みや希望が具体化されていくと思います。
サークル活動をしている学生を見ると、何かに挑戦することへのハードル感が低くなっているのではないかと感じています。次に何をやるべきかという物事のステップをしっかり考えられるようになった点や、周囲とのチームワークを考えて行動できるようになった点など、さまざまな成長が感じられますね。
-就職活動に苦手意識がある学生も少なくないと思いますが、サークル活動を通して成長した学生との違いを挙げるとしたら、どんなところだと思いますか?
ひとことで言うと、ありきたりですがコミュニケーション力がついた点でしょうか。相手の気持ちをくみ取って状況を理解し、自分はどのような言動で応えるかを総合的に判断できなければ、コミュニケーションは成立しません。学生たちはサークル内外の人々とやり取りをする中で、試行錯誤を繰り返しながら、その手法を身につけているのだと感じます。こうした成長は就職活動にも生かされていると思います。
-最後に、今後の展望をお聞かせください。
SDGsへの取り組みを全学に広げていきたいと考えています。本学では2023年5月にSDGs宣言を策定しました。学生によるサークルもありますし、SDGs活動に意欲的な教員も少なからずいます。また、本学のもう一つの学部である子ども育成学部でも授業の中でSDGsを取り上げ、学生と一緒に実践してするカリキュラムもありますし、SDGsそのものと言える活動をしているサークルもあります。ただ、大学全体での取り組みとしてにじみ出すような状況にはまだ達していません。
これまでとやることは同じでもいいのですが、それがSDGsの枠組みの中でどのような位置づけなのかを意識しているかどうかで価値が大きく変わります。それを教職員および学生みんなが理解し、大学としてSDGsへの貢献を進める雰囲気を醸成していきたいと思っています。
また、国連総会は「誰一人取り残さない」を理念としてSDGsを掲げていますが、学生たちには社会的包摂性を意識できる人になってほしいと願っています。大学全体でのSDGs推進という大きな目標に向けて、SDGs推進サークルが核となって、どのようにみんなを巻き込んでいくかが今後の大きな課題でもあり、挑戦だと思っています。