SDGs 大学プロジェクト × Tokyo Fuji Univ.

さまざまな大学のSDGsや地域貢献に関する取り組みを伺う「SDGs 大学プロジェクト」。今回は「Shinjuku Re “和” style project」を企画された東京富士大学の藤森 大祐 教授と志塚 昌紀 先生にプロジェクトについてお話を伺いました。

東京富士大学の紹介

東京富士大学は1943年創立、歴史と伝統ある大学です。簿記・会計教育に強く、500名を超える税理士を輩出。経営に特化した大学として、実践的な学習プログラムを展開してきました。高田馬場駅から3分の至近距離。都心の立地を活かしつつ、「社会で輝く力」の教育〈実務IQ教育〉に力を入れています。

「Shinjuku Re “和” style project」について

– 「Shinjuku Re “和” style project」(略称:リワスタ)について、プロジェクトの概要を教えてください。

藤森 大祐 教授(以下、藤森教授):このプロジェクトは、新宿区の産業振興課から商店街振興の連携プロジェクトにお誘いいただいたことがきっかけで、その活動の流れから、大学と地域がより緊密に連携し、地域社会に貢献できるプロジェクトを模索する中で生まれました。

当初、私たちは地域の資源や歴史を知る必要性を感じ、地元の文化や産業に焦点を当てて調査を進めました。その結果、大学が所在する新宿区の神田川・妙正寺川沿いでは染色業が非常に盛んであるということを知り、染色業に焦点を当てたプロジェクトを考えることにしました。

最盛期には多くの染色工房や関連業者が存在していたこの地域も、現在ではその数が激減しており、染色が盛んだったことを知る者も少なくなりました。大学の教職員や学生もこの地域で染色業が盛んであることを知っている者がほとんどいないのが現状です。現代の生活において着物を身に着ける機会が減少しているため、単に染色業の魅力を発信するだけでは地域の活性化は難しいと考えました。

そのため、「Re “和” style」と名付けたこのプロジェクトでは、染色技術や文化を再評価し(Re)、現代の生活にマッチするような新たな和のライフスタイル(“和”style)を提案していきたいと考えました。染色に焦点を当てながらも、地域の魅力を引き出し、新しい価値を生み出すことを目指しています。

志塚 昌紀 先生(以下、志塚先生):情報の発信だけではなく、染色を取り入れたライフスタイル自体を提案することで、参加者にとって自分ごととして捉えていただき、新しい「和」への向き合い方を模索し、向き合っていくきっかけとなることを期待しています。

学生との関わり

– このプロジェクトに学生はどのように関わっていますか?

①大学内での蓼藍づくり、反物染め体験

藤森教授:はじめは「知ること」、「体験すること」が重要であると考え、私たちはゼミの学生を巻き込む形で、年度の最初に染色工房に行って染物体験に参加することから始めました。そこから染物体験で学んだ染色の歴史や文化を参考にして新たな商品の提案を考えるようになりました。

また、大学内でプランターを使って蓼藍を育て、その蓼藍を用いて染物体験会をするという活動を2年ほど続けてきました。3年目となる今年は、学生たちが大学内に畳2畳分ほどの畑を耕し、地植えで育てることを試みました。この活動を通じて、学生たちは化学染料ではなく、自ら育てた蓼藍の葉から染色ができることを知り、サステナブルな染物への意識が格段に高まりました。

なお、今年の夏休みに行った体験会では、13メートルの反物を刷毛で染めていく引き染めの工程を体験しました。大変貴重な体験をすることができました。この時は学生だけでなく外国人の英語講師も一緒に体験しました。染めあがった爽やかな青色の市松模様を見て、学生たちにとって感慨深い経験となったようです。

②「エコプロ2022」や学園祭での展示

藤森教授:昨年から私のゼミでは、玉ねぎの皮や飲み終わったコーヒーの粉を用いた染色に着目し、様々な取り組みを行ってきました。2022年12月には、この活動結果を「エコプロ展」に展示しました。「エコプロ展」は環境に配慮した製品・サービスの展示が行われる環境関連のイベントで、企業だけでなく大学なども参加できます。

志塚先生:学内行事が重なっていることもあり、今年のエコプロへの参加は難しい状況でしたが、昨年参加した学生たちの成果を見て、大きな会場での展示が非常に良い経験になったのではないかと思います。一般来場者だけでなく、企業関係者や他大学の方々との交流の場となり、新たなコミュニケーションや意見交換のきっかけとなる素晴らしい時間になりました。

藤森教授:私たちの活動は、本来捨てられるであろう玉ねぎの皮やコーヒーの粉を再利用し、古着を染色することで、衣類に愛着を持ち、長く利用することができるライフスタイルを提案しています。同時に、この染色プロセスによって、食品と衣類の廃棄物を同時に減少させることを目指しています。

今年はゼミの活動として、学園祭において古着を染めるというアイデアが浮かび、古着回収ボックスを大学内に設置し、学生から提供された古着に玉ねぎの皮とコーヒーのかすを用いて染色を施し、それらを学園祭で販売する企画を展開しました。

同時に、玉ねぎの皮染め体験会も学生主導で開催し、参加者からは「玉ねぎの皮でこんなに綺麗に染まるんだね」という好評の声が寄せられました。これにより、多くの方々に玉ねぎの皮による染色の楽しさを知っていただけたのではないでしょうか。

③イベント「染の小道」

藤森教授:新宿区の落合・中井界隈は古くから染色文化が息づいており、それにちなんで毎年2月末には「染の小道」というイベントが開催されています。染の技術や文化を日本のみならず世界へPRすることを目的に実施しています。このイベントに本学の学生達もボランティアとして参加しており、川の清掃やパンフレットの配布、PR動画作成など事前準備から携わらせていただいています。

2024年の「染の小道」は本学としては3度目の参加になります。毎年一定数の学生が参加してくれますが、特に最初に関わった2022年の時は、コロナ禍が少し和らいできた時期ということもあり、社会的な繋がりを求める学生達が30名ほど参加してくれました。

志塚先生:ボランティアの他にもインターンシップの形で活動に参加するなど染色工房様や商店街の人々と様々な形で交流が生まれるようになりました。今後も「染の小道」を通して地域の方と積極的に触れ合い、豊かな関係性を構築していきたいと考えています。

染め物 × アート

–染め物とアートのコラボレーションはどういった経緯で実現したのでしょうか?

藤森教授:最初は商店街の活性化プロジェクト中で、街に彩りをもたらすことを狙ってアートとのコラボを始めました。染め物とアートを絡めたのは、アートという視点からアプローチすることで、染め物のこれまでにない可能性を見出すことができるのではないかと考えたからです。主に東京藝術大学の若手アーティストと連携し、いくつかのアートイベントを行いました。「染の小道」でも施設を借りてアート展を開催しましたし、新宿丸井でアート作品と染め物の展示を行ったこともあります。

冒頭で述べた通り、着物などに関連する「染め」がなかなか定着しづらいという社会的な背景を受け、現代作家を巻き込んだ展示は、アートを通じて新たな和のスタイルを確立しようとする試みでした。この展示では、20代の若手アーティストたちに染物の制作現場を体験してもらい、その世界にインスパイアされたアーティストたちがどのような作品を生み出すのかといった実験的な試みとして展開しました。今後も、「染(そめ)」の新たな魅力や特徴を多様な視点から再発見し、新しいライフスタイルの提案に繋げていきたいと考えています。

志塚先生:動画「千姿万態ーsenshibantaiー」は、染物に対する理解と興味を促進することを目的として作成しました。様々な展示の際にこの動画を上映してきました。これはYouTubeでも公開しています。

映像制作には、CMなどを手がける経験豊かな映像作家に依頼し、工房での取材と撮影を通じて、独自の視点から染物の魅力を伝えています。動画では、染め物職人の方の作業風景と合わせて、彼らの染色に対する熱い想いや哲学をインタビュー形式で収めています。これにより染色の技術やプロセスだけでなく、職人の方の心情にも触れることができます。今後も染色に関する理解を深めるためにも国内外問わずたくさんの方にご覧いただけたらと思っています。

▼動画「千姿万態ーsenshibantaiー」はこちら
[千姿万態ーsenshibantaiー](布をとりまく物語)

「Shinjuku Re “和” style project」の現在地とこれから

– プロジェクトの今後の展望などがあれば教えてください。

藤森教授:着物をはじめとする和の文化はSDGsというものが語られる以前に、とてもサステナブルなものです。例えば、着物は何度も色を抜いては染め直して着ていました。それでも着られなくなると掛け物などに仕立て直し、それでも使えなくなると雑巾代わりにしたりと、徹底的に大事にものを扱ってきたのです。

しかし、そもそも着物や染色自体がわたし達の日常の生活の中では馴染みがなくなってきているので、これまでの伝統的な和のコーディネートではない新しい和との付き合い方、染色との付き合い方を提案していく必要があると考えています。学生とともにそうした活動をしていますが、それを通じて学生が自分ごととして向き合っていくような形になるのが理想的だと思います。

これからの方向性としては、染の技術や発想、文化といったものから着想を得て、学生たちが日常生活で気軽に取り入れられるアイテムやサービスを、染色工房様と協力して開発できたらと考えています。

「染の小道」の活動でも、これからは学生に自分で考えることを求めていきたいと考えています。例えばボランティアにおいても、これまでの取り組みでは地元の方々のお手伝いに留まっていましたが、現在は学生たちが新しい試みを提案し、主体的に関わることを目指しています。ボランティアには、本学の学生だけでなく、他大学の学生も参加しています。他大学の学生が集まって学生企画を考えて行うというのは今年からの新しい内容になります。とても貴重な体験になると思います。

志塚先生:大学時代の活動の中で、学生たちが高田馬場という場所で地域のことを学び、そして卒業して社会で活躍するようになっても、「染め」を通してこの地域に関わり続けてもらいたいと考えています。

また、大学内においては、工房の専門家に協力いただき、染色体験や歴史・文化に触れる講義なども展開できればと考えています。地域の伝統産業の素晴らしさをしっかりと伝え、現代に息づかせていくことができればと思います。このような取り組みを通じて、大学が果たせる役割や情報発信の方法を模索し、素晴らしい伝統をより広く共有していくための努力を今後も継続していく予定です。