
SDGs 大学プロジェクト × Bunka Fashion Graduate Univ.
目次
文化ファッション大学院大学の紹介


文化ファッション大学院大学は、2006(平成18)年、渋谷区代々木に開学した日本初のファッション分野の専門職大学院(※1)で、略称は「BFGU(Bunka Fashion Graduate Universityの頭文字をとったもの)」です。
本大学院は、1919(大正8)年の創設以来、100年にわたり日本のファッション教育をけん引してきた学校法人文化学園の実績と、そのノウハウを結集し設立した日本で唯一のファッション分野の専門職大学院であり、文化学園に附属する様々な施設が集約された「新都心キャンパス」の中にあります。
新都心キャンパスのある渋谷区は、表参道、青山、代官山等、日本のファッションを発信している地域であり、ファッションを学ぶ院生たちにとって、その発想力を育み、常に新しい刺激を与えてくれます。
「ファッション分野における知財創造ビジネスのビジネスモデルを確立し、国際的に通用するファッション価値を創造・具現化させ、グローバル視点に立つ独自のブランドを確立できる人材を育成する」を建学の精神に、ファッションビジネス研究科の下、ファッションクリエイション専攻(ファッションデザインコース、ファッションテクノロジーコース)とファッションマネジメント専攻(ファッション経営管理コース)を設置しています。
また、実社会で一人ひとりがその存在価値を発揮できるよう、アカデミックな教育だけでなく、実践的な独自のカリキュラムを体系化。これまでのファッション系の教育機関とは違った視点から、真のファッションビジネスリーダーを養成していきます。
(※1)専門職大学院…2003年度にスタートした特徴のある大学院のことで、今までの大学院は、研究者の養成に重点が置かれていたが、専門職大学院では、高度で専門的な職業能力を持った実務家の養成に特化した教育を行うため、現場の第一線で活躍するプロフェッショナルらによる授業を通して、最新の技術・知識を学ぶなど、よりハイレベルな専門教育と実務教育を実施するのが大きな特徴である
文化ファッション大学院大学で学ぶサステナブルファッション

本大学院では、変化の速いファッション産業界に対応するため、時代に即したカリキュラムの策定を行っております。
2015年にSDGs「持続可能な開発目標」が国連サミットで採択され、サステナブルという言葉も浸透してきました。そして、2020年からはコロナという非常事態に置かれ、我々も院生も「この先どのように生きていくのか」という自己を見つめ直すきっかけにより「サステナブルであること」へ拍車がかかったように思います。
また、ファッション業界においては、国連貿易開発会議(UNCTAD)による「ファッション業界は世界で第2位の汚染産業である」という非常に過激なフレーズが出ました。この言葉の真偽に関しては色々と言われていますが、結果的にファッション業界の抱える多くの問題が浮き彫りとなりました。今後、ファッション業界で生きていく院生にとってもこれらの問題について理解し、直面する課題に対し解決できる力が必要と考え、「サステナブルファッションⅠ」「サステナブルファッションⅡ」という科目を開講するに至りました。
「サステナブルファッションⅠ」では、サステナビリティに関する基本的な知識や考え方を提供し、議論の機会を設け、受講者が情報収集と分析を通じて、ファッションビジネスにおいて適切な意思決定ができるようになることを目指します。
「サステナブルファッションⅡ」では、「サステナブルファッションⅠ」で学んだことをベースに、より具体的にファッションという部分にフォーカスして、ファッション産業における現状の問題を整理し、サプライチェーン(※2)におけるそれぞれの段階で、より発展的に懸念される課題を発見し、その解決方法とこれからのモデルについて探っていきます。
具体的には、「1. 原材料の調達」→「2. 商品企画」→「3. 生産過程」→「4. 販売〜廃棄」と順に進み、現状を整理するとともに、実際に企業やブランドが直面する課題を想定し、実践的な問題解決力を養います。
また、各分野の実務家による特別講義を通じて、サステナブルファッションとブランドビジネスにおける現状を理解し、受講者は最終的にこれからの自分の仕事に適用できるマニフェストを制作し、学んだことを実践する方法をまとめます。
(※2)サプライチェーン…製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れを指す用語。 サプライチェーンの概念で特徴的な点として、自社だけでなく、他社(協力会社など)をまたいで、ものの流れを捉えることがあげられる
海外の現場を経験した久保寺助教の目から見た日本と海外のファッションとサステナビリティに対する意識の違い


私が経験した海外の現場は、インドになります。2年間、現地のアパレルメーカーで勤務し、主に日本向けの商品企画及び生産管理の経験を積ませていただきました。
ファッションとサステナビリティの観点で言えば、インドは世界の縫製工場としての役割を担ってきました。その背景で起こっている児童労働や労働賃金等の問題、また、原材料や生地の加工に関する不透明さなど、その生産過程において多くの問題を目の当たりにしました。インドは特殊な社会構造があるため中々難しいとは思いますが、企業における透明性やDEI(※3)が求められる現在、生産側も発注側もこれらに注視し是正していかねばならないと思います。
また、本大学院ではコロナ以前より欧州の学校とのコラボレーションやパリファッションウィークなどを見学する海外研修を実施していますが、その関わりの中でサステナビリティにおいて先進的である印象を受けました。
例えば、現在パリファッションウィークでは、「舞台セットはリサイクル可能か」「ショーで使用される電力は再生エネルギーか」「出演するモデルの人権は確保されているか」など、様々な側面において配慮されています。
また、欧州系のファッションブランドは、B corp認証(※4)を取得しているブランドが多く見られ、サプライチェーンにおけるトレーサビリティ(※5)が開示されているなど、企業としての透明性の高さが確保されています。更に、ロンドンでは若者たちがファッションのシステムに対してデモを行ったり、LCF(ロンドン芸術大学 ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション)などでは、早くからファッションとサステナビリティに関する科目が設置されていた印象があります。
(※3)DEI…「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」「Equity(エクイティ、公平性)」「Inclusion(インクルージョン、包括性)」の頭文字からなる略称
(※4)B corp認証…米国の非営利団体B Labによる国際認証制度。厳格な評価の下、環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる
(※5)トレーサビリティ…その製品が「いつ、どこで、誰によって作られたのか」を明らかにすべく、原材料の調達から生産、そして消費または廃棄まで追跡可能な状態にすること
企業との連携:「ON:U(ABAB/STARBASE)」×「SREU」×「BFGU」アップサイクルプロジェクト


私が所属するファッションデザインコースの必修科目である「修了研究・創作」において、サステナブルに関する企業との連携プロジェクトが行われました。
株式会社アブアブ赤札堂の常務取締役小泉氏より、上野のABABという商業ビルで展開している衣料品の余剰在庫があるという話を聞いていました。小泉氏はすでに株式会社STARBASEと「ON:U」という事業を行っており、Z世代の子たちが余剰在庫を使用して衣服を作ったり、それらを発信しているということでした。そこで、デザインを学んでいる本大学院の院生のアイデアでもっと面白いものが作れないかということからこのプロジェクトはスタートしました。
SREUは、本大学院の2期生である米田氏と植木氏が展開しているファッションブランドです。コレクションブランドでありながらも、全ての商品に古着を使用している稀有なブランドです。余剰在庫や古着を使用し商品を作るプロの彼らにチューターをしてもらうことで、ただのリメイクにならない市場性のある価値あるモノづくりをしてもらいたいと思い、今回共同プロジェクトに参画頂きました。
このプロジェクトにおいては、将来的にファッションデザイナーとして活躍するために必要な力を培う一環として、「アップサイクル」(※6)をテーマに掲げ、デザインの力を駆使してサステナブルな課題に取り組んでもらいました。
実施においてはグループワークで行われ、院生は8グループに分かれ、市場調査・ターゲット設定・コンセプト・デザイン・余剰在庫衣服・古着の使用方法などについて話し合いました。グループ毎にセレクトした余剰在庫衣服と古着を活用してリデザインし、最終的に1つの作品を作り上げていきます。
(※6)アップサイクル…本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生することで、「創造的再利用」とも呼ばれている
▼詳しくはこちら 「ON:U(ABAB/STARBASE)」×「SREU」×「BFGU」アップサイクルプロジェクトを実施
アップサイクルプロジェクト実施による院生の変化


実際にデザイナーとして活躍中の先輩方から得られたアドバイスは、院生にとって多くの学びを提供し、大変貴重な機会となりました。
このプロジェクトにおいて印象的だったのは、売れ残った「余剰在庫」という題材は院生の魅力からやや離れており、難しい側面もあったものの、デザインの力を活かして作品を制作し、自身が求めるデザインを実現できたことです。これにより、院生はデザインの力を通じて新しい価値を生み出すことが可能であるとの発見があり、未来のファッションデザイナーを目指す彼らにとって非常に良い経験となりました。
一方で、今回の課題では複数の余剰在庫から1つのアイテムを生み出すというアプローチを取りました。完成した作品は素晴らしかった一方で、制作過程で使用した余剰在庫の余り布が予想以上に多く、総体的に在庫を確認しながら制作を進めることの重要さに気づいた院生もおりました。
ファッション業界のサステナブル化に向けて一般の人ができること
科目内のアンケートよりおよそ3割の院生が商品を購入する際に価格ではなく、その商品の裏側にある背景を知りたいという考えを持っていることが分かりました。
商品を購入する前に、「どのような素材が使用されているのか」「その素材はどこで製造されたのか」といった点を考慮することは、非常に重要な視点だと考えます。ただし、消費者にとって、エシカルな消費は透明性の不足などから難しいと感じることがあります。
例えば、「誰が製造しているのか」「生産者の人権は守られているのか」といった情報は商品に記載されておらず、これらの情報を収集することは難しいため、生産者や販売者が可能な限りこれらの情報を開示することが重要です。また、その開示方法も商品情報のQRコードを読み込んで詳細を確認するなど、消費者が情報を獲得しやすい手段を入れることでサステナブルな消費行動に繋がります。
消費者行動だけでなく、一般的な物事の選択と決定においても、きちんと考えと意思を持って行動することは、ファッション業界だけでなくあらゆる分野で重要だと思います。
今後の展望
前述の「サステナブルファッションⅡ」が2年目を終えようとしていますが、1年目と2年目を比較すると、院生の反応や知識の幅に変化がでていると感じています。おそらく、入学前に既にサステナビリティに関する学習をしていたり、日常生活においてもサステナブルに関する情報をキャッチしていて、意識も高くなってきていると思います。
サステナビリティに関する考え方も日々変化しており、学び続けることが大切ですが、将来ファッション業界で活躍するにあたり、今後どの役職においてもサステナビリティを視野に入れるということは不可欠であると考えます。また、今後は自分自身で判断できる課題を見つけ、サステナブルな意思決定ができるような人材の輩出ができるよう、授業内容を更に充実させ、院生が実際にサステナブルな課題に取り組む機会を提供したいと考えています。