SDGs 大学プロジェクト × Okinawa International Univ. -part 1-

近年、障害のある学生へのサポートが非常に手厚いと聞く沖縄国際大学に取材のご機会をいただきました。今回は、大学全体でのSDGsへの取り組みや学生支援室の活動などについて詳しくお伺いしました。

沖縄国際大学の紹介

沖縄国際大学は、本土復帰を迎える1972年、当時の沖縄大学の一部と国際大学が統合され設立されました。戦後沖縄が辿った歴史の道程を踏まえ、「真の自由と、自治の確立」を建学の精神として、戦後沖縄の成長と共に本学も歩んできました。

現在は、法学部、経済学部、産業情報学部、総合文化学部の4学部に加え、大学院には地域文化研究科、地域産業研究科、法学研究科の3研究科があり、約5,300名(大学院生含む)の学生が学んでいます。

全ての学生が自由に学ぶことができる共通科目は、本学の教育理念である「国際化」、「情報化」、「地域化」に対応する9つの科目群から構成されており、特に地域的特性を活かした沖縄科目群は、本学の特色でもあり、学内外で高い評価を得ています。

「地域に根ざし、世界に開かれた大学」をキャッチフレーズに掲げている本学は、多くの海外、国内の大学と交流協定を結んでいます。海外の大学に約1年間留学できる国外協定校留学制度は、休学することなく、留学中は現地の学生と同様のカリキュラムを履修することができます。また、海外だけではなく、単位互換協定を結んでいる国内の大学に半期または1年間留学ができる制度があります。海外・国内の協定校で履修した科目は本学の卒業単位として認定しています(県内私立大学等との単位互換も行っております)。国外・国内協定校派遣留学には給付型奨学金もあり学生の学びを支援しています。

本学では、返済の必要のない多種多様な給付型奨学金や本学独自のインターンシップなど、修学支援や卒業後を見据えたキャリア支援等に力を入れています。令和4年度においては696人の学生が給付型奨学金の支給を受けております。

本学は、これからも「学生を主役」に据え、これまでの教育と研究の成果をふまえ、地域社会とともに、複雑化していく時代を生き抜いていける主体的な人材を育成していきます。

沖縄国際大学が取り組むSDGs

-大学全体で進めているSDGsへの取り組みについて教えてください。

安里肇 副学長:本学の特徴の一つは、学生の9割以上が県内出身であるという点にあります。沖縄県は他の都道府県に比べて、生活状況が厳しい学生が多い傾向にあります。そのため、本学では、そのような学生を多種多様な給付型の奨学金などで支援しています。

また、近年は物価高騰などの影響が深刻で、2023年4月に実施した学生へのアンケートでも、生活が苦しいという声が多く寄せられました。このため、2023年度には、3000〜5000円相当のカップ麺などの食料品を350人の学生に配布しました。

※ 記事内の役職等は、取材時点のものです。

▼詳しくはこちら
【学生部】食料支援を実施(大学公式HP)

総合企画室職員・呉屋さん:本学は、沖縄が本土に復帰した1972年に、沖縄県の最高学府の一つとして設立されました。それ以降、個性に富む人材を育成し、地域の自立と国際社会の発展に貢献するという理念に基づき、多くの卒業生を輩出し、地域社会への貢献に努めてまいりました。

SDGsには17の幅広い目標が存在します。本学は高等教育機関として、そのうちの「4.質の高い教育をみんなに」という目標の一翼を担っていると自負しています。また、本学の教育に関する取り組みは、更にSDGsのいくつかの目標と関連しています。法人各部門ではSDGsの目標と事業計画の関連性を意識し、学内各部署と連携を取りながら大学運営を行っています。ここでは特に、教育、貧困、保健などの分野に焦点を当ててご説明いたします。

例えば、「1. 貧困をなくそう」に関連して、奨学金制度の拡充があります。
貧困によって学修を断念する学生を救済するため、沖縄県の離島・遠隔地から来る学生をサポートする奨学金や、家計が急変した学生向けの奨学金などを初めとした、様々な制度を導入しています。

「3. すべての人に健康と福祉を」を実現するために、障害のある学生への合理的配慮のサポートやボランティア活動の支援にあたる学生支援室や、キャンパス相談室、健康相談室などを設置しているほか、教職員向けのハラスメント研修会、障害者のためのバリアフリー環境整備などを進めています。

「4. 質の高い教育をみんなに」に向けた取り組みとして、ICTを活用した授業展開や、教員を支援するTA・SA制度の充実などを行っています。
また、本学の重要な役割の一つは、一般の方々に生涯学習の機会を提供することです。公開講座や研究所の研究会、ラジオ講座(ROK「万国津梁を目指して」)などを通じて、教育研究の成果を還元する社会貢献に努めています。

図書館では電子書籍の整備、有資格者の専門スタッフの配置、学外利用者の受け入れなどに取り組んでいます。
聴覚障害のある学生を支援する「ノートテイカー(代筆サポーター)」となる学生サポーターを育成する研修会を開催するなど障害のある学生の修学支援にも力を入れています。

多様な学生に学びのチャンスを

-さまざまな取り組みをされているのですね。特に、学生のボランティア支援などについて詳しくお聞きできますか?

安里副学長:学生支援室は窓口として、ボランティアの依頼を学生に案内しています。また、本学の人間福祉学科の社会福祉専攻では、さまざまなボランティア活動を授業の一環として組み込んでいます。

さらに、学生支援室では有償のボランティアを学生から募り、障害のある学生のサポートにつなげる仕組みを整えています。障害を理由に大学進学を諦めてしまう学生を減らすため、可能な限りサポートをしてきました。その結果、学科を問わず障害のある学生の入学が増えています。専門的な授業では同じ学科の学生がノートテイカーなどとして支援しています。

PCを使った大人数の授業などでは、教員だけでなく学生がヘルプデスクとしてサポートに入ることもあります。また、TAやSAの学生が下級生の面倒を見ることもあります。

障害のある学生の入学がここまで増えてきたのは最近のことですが、それに伴って彼らを支援する学生サポーターの数も増えてきました。これまで障害のある人と身近に接する機会がなかった学生も、一緒に同じ環境で学ぶ機会を得ることで、ダイバーシティの機運が学内全体に広がりつつあると感じます。

-大学としての今後の展望についてお聞かせください。

鵜池幸雄常務:学内施設では、よりバリアフリーな環境を整えるためのリニューアルが進行中です。2021年にオープンした学生会館では、車いすの利用者に配慮し、各階に多目的トイレを設置しました。さらに、福祉事業所との連携を図りながら、一人でのトイレ利用が困難な学生に対して介助を行っています。

安里副学長:大学は、本来、多様な学生や教員が切磋琢磨しながら、それぞれの夢の実現を目指して、ともに学ぶ場であり、偏見や差別がなく、全員が自由に学びを深めることができる環境であることが望ましいと考えています。

障害のある学生や経済的に困窮している学生など、さまざまな背景を持つ学生に対し、ハンディキャップなく学習できる環境を提供することに努めています。

ジェンダーに関する講演会やセミナーを通じて啓蒙活動を行うとともに、だれもが育児休業を積極的に取得しやすい環境を整えることにも力を注ぎたいと思っています。

また、新型コロナウイルスの影響でオンラインツールが大きく進化しました。これを利用してペーパーレス化や業務効率化など、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを今後の課題と位置付けています。教職員だけでなく、学生のDXスキル教育も含めて検討を進めていきたいと考えています。

多様な学びの場を支える学生支援室

安里肇 副学長や呉屋さんにも触れていただいた学生支援室の取り組みについても、お話をお伺いする機会をいただきました。

① 障害のある学生への細やかなサポート

-学生支援室で実施している、障害のある学生への支援について教えてください。

学生支援室職員 川瀬さん:何かしらの配慮を必要とする学生の相談を受け、必要に応じて「授業履修に伴う配慮のお願い(配慮願い)」を作成します。これは授業において配慮してほしい点をまとめた書類で、教員に提出して情報を共有しています。

また、本学の学生が授業の空き時間を利用し、配慮が必要な学生の手助けをする「学生サポーター制度」も整えています。主なサポート内容は、代筆サポートとノートテイク、文字起こしの3つです。

代筆サポートは身体的な障害のある学生の「手の代わり」となってノートを取ったり、教科書のページをめくるなどのサポートをします。

ノートテイクは聴覚に障害がある学生を対象とした文字通訳のサポートです。授業で話されている内容をその場でパソコンや手書きで文字に起こし、情報をリアルタイムで伝える役割があります。聞こえてきた言葉すべてをそのまま文字に起こしていると間に合わないため、内容を要約しながら瞬時に文字に起こしていく「要約筆記」という技術を身につけなくてはなりません。

そこで、プロの講師による「ノートテイカー養成講座」を年に2回開催しています。ノートテイカーを希望する学生は必ず講座を受講し、技術を身につけてから実際にサポートに入ります。
3つ目の文字起こしも聴覚障害のある学生向けの支援です。学生支援室が事前に預かった音声教材や映像教材をもとに、学生サポーターが文字に起こしていきます。

-最近になって障害のある学生の入学が特に増えてきているとのことですが、このようなサポートの取り組みも最近になって始まったのでしょうか?

川瀬さん:もともと障害のある学生の数が多かったため、サポート自体は以前から実施されていました。全学的にこの取り組みに力を入れることになり、それを機に学生支援室という名前が付けられ、障害のある学生への支援を改めて強化していくことになりました。

学生支援室長・荻野太司准教授:本学は他の大学と比較しても、障害のある学生へのサポート体制が格段に整っていると感じます。例えば、オープンキャンパスなどのイベントでも、学生支援室の職員が、どのような配慮が行われているかを丁寧に説明しています。入学から卒業まで、非常に綿密な障害学生支援が提供されているのが、本学の大きな特徴だと思います。

② 学生のボランティア活動を応援

-学生支援室ではボランティア活動の案内もしているとのことですが、学生が参加するボランティアにはどのようなものがあるのでしょうか?

川瀬さん:学外からの依頼を受け、学生にボランティアの情報を提供し、関心を持った学生を募る形式を基本としています。

また、学生から「こんな活動に参加したい」という相談も受けることがあり、その場合は最寄りの社会福祉協議会などにつなぐサポートも行っています。

具体的な活動内容としては、地域の除草活動やシニア向けのスマートフォン講座のスタッフ、小学生の宿泊体験のサポートなど、地域に根ざした様々な活動があります。さらに、子ども食堂のスタッフや小中学校での学習支援、不登校に悩む子どもたちへのサポートなども行っています。また、イベントの企画や会場設営、運営スタッフなどの依頼も多いです。

本学の学生たちは、ボランティアへの関心が高く、募集情報が共有されると、その日のうちに5〜6人の申し込みがあります。また、同じ学生が継続して参加することもよくあります。

一方で、ボランティア活動への参加にはハードルを感じる学生も一定数います。そのような学生たちでも気負わず参加できるよう、私たちも工夫しながら情報を発信していければと考えています。

-コロナ禍ではボランティア活動が難しい時期もあったと思いますが、その期間も活動されたのでしょうか?また、その際は何をモチベーションとして取り組まれたのでしょうか?

川瀬さん:2020年~2021年にかけて、活動の自粛や制限が行われた影響で、年間120件以上はあったボランティアの依頼は約30件程度までに減少しました。

しかしながら、このような状況でも、ボランティア活動に積極的に参加したいと考える学生は少なくありませんでした。そのため、限られた情報の中から希望する活動を見つけてもらったり、最寄りの社会福祉協議会をご案内したりすることに努めてまいりました。

ただ、ボランティアの依頼があっても、募集人数が限られていたり、大学全体で学外活動を制限している状況であったため、学生たちの意欲を損なわず、何かできることはないか模索する必要がありました。このような状況を受け、学生と協力して検討した結果、「フードドライブ」の実施を開始することとなりました。

これは、自宅に余っている食料品などを集め、それを大学で受け取り、フードバンクに寄贈する取り組みです。この活動は、コロナ禍が明けた現在でも続いています。

「学生」ならではの役割とは

-学生支援室という立場から思う学生の役割とは何でしょうか?

川瀬さん:個人でSDGsに取り組みつつ、学生同士で議論して新たな問題点を探り、改善に向けて発展させる可能性を持っていると考えています。

学生支援室では、ボランティアプロジェクトという取り組みを始めました。これは、学生たちが自分の好きなことや身近なこと、関心があることなどからテーマを持ち寄り、それに関連した社会課題をどうすれば解決につなげられるかを話し合うものです。

話し合うといっても討論のような堅いものではなく、楽しみながらおしゃべりをする中で答えを考え、実際の活動として具体化することを目指しています。

このように、学生たちが自ら身近にある課題を仲間同士で見つけ、解決につなげていくことが、学生ならではの「役割」なのではないでしょうか。これが大きな社会貢献につながっていくのではないかと、学生支援室でも常々話をしています。

誰もが快適な学生生活を送れるように

-これまでの活動の中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?

川瀬さん:本学では、SDGs活動の一環として、2023年度から女性用トイレに生理用品を設置しています。前任の学生支援室長が、学校などへの生理用品設置の取り組みをサポートしている企業とつながりを持っていて、それがきっかけとなりました。

急な生理で授業を抜け出したり、生理痛で体調が悪くて授業を休んでしまったりと、生理によって学業に支障をきたすこともあります。それを少しでも改善する取り組みの一つとして、質の良い生理用品を設置してみようと検討を始めたのが背景です。

学内の合意形成では、他大学でも同様の取り組みが進んでいることを具体例を出しながら丁寧に説明して理解を得ていきました。取り組みを始めるまでは、周辺にコンビニやスーパーも多いのにニーズはあるのかなど不安がありました。しかし、設置後の学生アンケートの結果をみると、回答したすべての学生が取り組みを「とても良い」と評価してくれました。

学生からは、急に生理が始まったことが原因で授業に遅刻するなど、学業に支障が出た経験があるという声もありました。生理用品の設置によってその心配がなくなったと喜ぶ声を聞き、私たちとしてもうれしい経験になりましたね。

また、これをきっかけに学生支援室の窓口に訪れる学生が増えるなど、多くの学生に私たちの取り組みを知ってもらう機会にもなったと感じています。設置の検討段階では生理用品を必要以上に持っていくことはないかなどの懸念があったようですが、現時点ではそのような大きな問題は起きていません。学生たちには今後も大切に使うようにお願いしつつ、取り組みを継続していきたいと考えています。

-最後に、新入生に向けて学生支援室からのメッセージをお願いします。

川瀬さん:学生支援室では、皆さまが快適な学生生活を送れるよう、学生支援員がお悩みやご相談に親身に対応し、学生生活を支援しています。

大学生活に慣れ、アルバイトやサークル以外にも新たなことに挑戦したいとお考えの方、どのような活動に参加すればよいかお悩みの方も、ぜひ学生支援室へ足をお運びください。皆さまのご来室を心よりお待ちしております。