SDGs 大学プロジェクト × Chuo Univ.

中央大学の紹介

中央大学は、1885年の創立以来、139年にわたって社会を支え、未来を拓く人材を育成してきた伝統ある総合大学です。世界が直面する自然災害、パンデミック、紛争などの脅威に対し、人類はその知性と行動力でこれらを乗り越えてきました。中央大学では、このような時代の変化に適応し、社会に貢献できる人材育成を重視しています。

建学の精神「實地應用ノ素ヲ養フ」に基づき、実践的な教育と多様な学問研究を通じて社会に応用できる力を培うほか、持続可能な社会基盤の構築に向け、学際的研究教育の拡充や文理融合型の研究教育を推進しています。近年では「ダイバーシティ宣言」と「SDGs宣言」を発出し、スポーツ憲章の制定、CHUOスポーツセンターの設置、ビジネススクールの国際認証取得など、社会からの期待に応えるための様々な取り組みを進めています。

また、中央大学は、Society5.0の時代に活躍できる人材の育成を視野に入れ、教育DXを推進し、遠隔教育と対面教育の組み合わせによる学生参加型教育プログラムの開発にも注力しています。そこで学生は世界と共に学び、知性を社会に応用する力を養うことができます。豊富な人的・物的リソースを地域や様々なコミュニティに開放し、社会との交流を積極的に図ることで、「さらに開かれた中央大学」を目指しているのです。

産学連携と地域資源を活かした新商品開発

― 今年1月に発売された「檜木ノ珈琲」は、どのような経緯で開発されたのでしょうか?

檜木ノ珈琲」の開発は、中央大学、東京きらぼしフィナンシャルグループ、きらぼし銀行が連携した「ソーシャル・アントレナーシップ・プログラム(SEP)」という授業から始まりました。この授業では、産学連携を促進し、教育や研究を通じて社会の発展に貢献することを目的としています。

私は大学2年生の頃にSEPを履修し、2年間このプロジェクトに携わりました。最初の約半年は檜原村の調査とビジネスの基礎知識の習得を行い、2年生の後期からは具体的なプロジェクトに分かれて各地域の課題解決に取り組みました。

SEPでは、檜原村を含む奥多摩三村(檜原村、山梨県の丹波山村、小菅村)とタイアップし、村ごとに授業を展開しています。私は檜原村を選択し、約1年半をかけて地域活性化とヒノキを活用したコーヒーの商品企画や開発に携わりました。

― 檜原村のプロジェクトにおいて、なぜコーヒーが開発商品として選ばれたのでしょうか?

檜原村は、東京都本土にある唯一の村です。現地にはコーヒーにこだわって経営されているカフェが複数あり、雑誌などでも取り上げられるほど注目を集めていました。市場動向や消費者のニーズなどを徹底的に調査した結果、コーヒーが檜原村の特徴を活かせる最適な開発商品ではないかという結論に至ったのです。

さらに、檜原村はヒノキの特産地でありながら林業での活用が進んでおらず、多くが産業廃棄物として処分されてしまっている状況でした。一方、檜原村にはコーヒーを目的に訪れる観光客が多いことから、この課題と観光需要を結びつけ、「檜木ノ珈琲」の開発に至ったのです。

学生が手探りで挑んだ『檜木ノ珈琲』開発

― 檜原村でのプロジェクトにおける学生の方々の体制や役割はどのようなものでしたか?

檜原村のプロジェクトには約30人の学生が参加し、そのうち5人のチームで「檜木ノ珈琲」の開発に取り組みました。このメンバーで商品企画や材料の発注、製造、営業、販売に至るまで、プロジェクトのほぼ全工程を担当しています。

コーヒーとヒノキを組み合わせた商品開発のアイデアは、私たちの先輩方が考案し、初期の開発を進められていました。当初は昨年度中の完成を目指していましたが、外注企業に作っていただいた最初の試作品に納得できず、細部にわたるこだわりや調整に時間を費やした結果、今年1月にようやく商品を販売することができました。

商品開発に関する知識は持っていたものの、実際に取り組むのは初めてでした。そのため、教員と相談を重ねながら試行錯誤を繰り返し、手探りで進めることは多かったですね。

― 特に時間がかかった工程や困難だった点について教えてください。

特に大変だったのは、試作段階でした。当初、加工企業に依頼して作成したヒノキの粉末を混ぜたサンプルでは、コーヒー本来の味や香りを十分に引き出せておらず、課題を感じました。

檜原村のカフェで意見を伺ったところ、「コーヒーは焙煎時間や産地によって味が異なるため、ヒノキと相性の良いコーヒー豆を見つけることが重要ではないか」とアドバイスを受けました。そこで約10種類のコーヒー豆を購入し、ヒノキの配合量や殺菌時間などを比較しながら試飲を重ね、最適な配合比率を模索しました。

さらに、檜原村のヒノキを使用していても、製造を外部企業に依頼すると、製品の産地表示は企業所在地である他都道府県になってしまう問題が浮上しました。事前の消費者調査でお土産品を選ぶ際に産地が重要視されていることがわかっていたため、産地表示が商品価値に影響を与える懸念があったのです。

教員や村の関係者の方々の「檜原村で最終加工を行えば、産地を檜原村として表示できるのではないか」という提案を受け、消費者庁へ確認を行ったところ、最終的な加工やパッケージを行う場所が檜原村であれば、産地表示を檜原村と記載できると確認できました。

これらの情報に基づき、檜原村内での最終加工場所の選定、必要な機材の購入、保健所への営業届出、食品衛生管理者の資格取得など、新たな課題に直面しました。一つずつクリアしていくことで、最終的には満足のいく製品を完成させることができたと思っています。

― 手探りのなか、限られた時間でプロジェクトを進める上で、解決するためにどのようなことを心がけていましたか?

開発過程には、学生だけでは解決できない問題や判断に迷う場面も多々ありました。そのような時は、教員や檜原村の担当コーディネーターの方に迅速に相談し、専門的なアドバイスを求めることを徹底していました。

ビジネスの視点からのアドバイスに基づき、自分たちで解決していくなか、学外の企業や小売店の方にアポイントをとり、直接相談に乗っていただくこともありましたね。

― 最初の試作品をさらに改善することを決断される過程で、葛藤やトラブルはありませんでしたか?

檜木ノ珈琲の開発チームのメンバー全員が試作品を改善したいと感じていたため、開発を方向転換することに対するトラブルや障壁はありませんでした。

その一方で、私たちの取り組みは年度末に終了し、後輩に引き継ぐことは決定していたため、全員が期限内に製品を完成させて販売したいという思いも持っていたのです。

講義は週1回だったこともあり、スケジュール管理が大きな課題となりましたが、他の講義や課題活動に追われる中でも役割分担と密なコミュニケーションを徹底したことで、効率的にプロジェクトを進めることができたんだと思います。

檜木ノ珈琲開発における対話やコミュニケーションの重要性

― 学外の方々との連携を深める中で、特に心掛けたことはありますか?

外部の方々との連携では、まずは迅速かつ正確なコミュニケーションを最優先にしました。独断での連絡は避け、教員に予め確認することで齟齬や失念の防止に努めていました。

また、オンラインツールを活用し、檜原村にあるカフェや檜原村に興味を持つ他地域のカフェオーナーの方々からアドバイスを受けるなど、積極的に外部の知見を取り入れました。

さらに、私たちのチームは現地を訪れて直接対話を重ねることを意識していました。顔を合わせて深い対話ができたことで、より核心的な話し合いになったと感じています。最初は緊張することもありましたが、経験を重ねることで、さまざまな状況下での対話スキルが向上したと感じています。

― 「檜木ノ珈琲」の販売開始から約1ヶ月が経過しましたが、周囲からの反響はいかがですか?

例えばこの取材のご依頼を受けた際には大変驚きましたが、他にもいくつかお問い合わせをいただいており、非常にありがたく思っています。

また、学生だけでなく多くの方々から、檜原村の廃棄物削減や知名度向上に貢献する地域活性化の取り組みとして、非常に前向きな反応もいただいています。

現在、檜木ノ珈琲の販売は檜原村内に限られていますが、学内や東京都心部、オンラインでの販売を望む声もいただきました。販路拡大は今後の課題として捉えているため、次年度に活動を引き継ぐ後輩たちに期待しています。

地域活性化から学ぶ、SDGsの実践

― 今回のプロジェクトはSDGsにも関連していると伺っています。プロジェクトを通じて、SDGsに関する知識や意識に変化はありましたか?

プロジェクトでは檜原村の活性化や村内での事業展開を目的としていますが、その中で、「事業の持続可能性や一過性に終わらず、継続的に発展できる取り組みにしてほしい」と指導されていました。

大学入学前や本講義を履修する前は、メディアやSNSを通じてSDGsの重要性を何となく理解していました。そして、実際に檜原村で事業を展開しようとした時、現地では費用をかけて木材が廃棄されている現状を知りました。これはもったいないだけでなく、環境にも良くないと感じ、木材を活用してなんらかの成果に繋げたいと思い、檜木ノ珈琲の開発に至ったのです。

さらに「SDGsを謳うのであれば、商品コンセプトやパッケージもそれに沿っていなければ消費者に不一致感を与えてしまうのではないか」と教員から指摘を受けました。そこで、プラスチックの使用を控えるなど、再生可能な資源を活用することを意識した商品開発を行いました。

例えば、パッケージは「木」を一つのコンセプトとし、エコで木材を活用した商品であることをアピールするデザインにしました。3個入りセットの箱は木製で、中にはおがくずで作った消臭剤もおまけとして入っています。下駄箱などに置いてもらうことで、日常的に木材に触れるきっかけになれば幸いです。

― おまけ商品も、学生の方々が発案されたアイデアなのですか?

そのとおりです。プロジェクトの初期段階において、コーヒーだけでは十分な量のヒノキを活用できず、販売個数を大幅に増やす必要があったため、施策を検討していました。そこで、緩衝材などにもヒノキを活用すれば、より多くの木材を使用できることに気がついたのです。

その後は、コーヒーの開発と並行してヒノキの緩衝材の開発にも取り組みました。最終的には手間やコストを抑えた緩衝材にもなる消臭剤として、消費者の方々に喜んでいただける商品になったのではないかと思っています。

プロジェクトで育んだ経験、スキル、人脈

― このプロジェクトを通して、特にどのようなスキルを身につけることができたと感じられていますか?

プロジェクト当初は食品販売に関連する法令や衛生管理の知識がなく、届出義務や営業許可の取得などを一から学ぶ必要があったため、限られた予算と時間の中で効率的に知識を習得し、スムーズに販売まで進められるよう工夫しました。HACCP*に基づく衛生管理基準や、製品の保存・管理方法に関する知識も身についたと感じています。

さらに、プロジェクトを進めるためには、檜原村からヒノキを提供頂く場所の選定やその殺菌加工、パッケージ製造、印刷、納品など、非常に多くの関係先との連携が必要でした。これらのプロセスを管理しながら、檜原村で作業を進めるためのスケジュール調整や場所の確保、納品手配を行うなど、多方面との調整能力を養うことができました。

また、私たちが檜原村で梱包や密封作業を行っており、実作業にも多くの時間と労力を費やしました。メンバー各自の負担は大きかったものの、これらの経験からチームワークの重要性を実感し、プロジェクト管理のスキルも大きく向上したと感じています。

HACCP(ハサップ)*:食品の安全を確保するための衛生管理手法のこと

― プロジェクトを通じて、現地の方々やグループメンバーなど周囲との関係性に変化はありましたか?

プロジェクトを通じて、人脈が大きく広がりました。経験豊富な方々との対話を通じて新たな刺激と学びを得ることができ、自分の知識や考え方が大きく刺激されたと感じています。

このような人脈を活かしながら、今後は檜原村のカフェ内でコーヒーを提供するなど、新たな試みにも取り組んでいきたいと考えています。あらためてご挨拶も兼ねて直接訪問するなど、やるべきことはまだたくさんあると思っています。

― 今回の経験は、今後はどのように活かされそうだと感じていますか?

このプロジェクトを通して、新規事業を成功させるための市場調査や商品開発など、多岐にわたる経験を積むことができました。

商品名1つとっても、木のイメージを打ち出すために「檜木ノ珈琲」という名称を採用したり、商品名に沿ったロゴを策定するなど、商品価値やコンセプトを丁寧に考え、ターゲット層に訴求できるものを追求しました。消費者をはじめ、外部の方々への効果的なメッセージを発信するノウハウが身についたと感じています。

また、何かを成し遂げたいと思った時には自ら調査を行い、問題解決に向けて試行錯誤を重ねる自主性や、有事の際には迅速に対応する行動力も培うことができました。これらのスキルを、社会人としてのキャリアではもちろん、プライベートでも活かしていきたいです。

今後の展望

― このプロジェクトは後輩の方々に引き継がれるとうかがっています。今後の活動に期待していることや、新たな取り組みがあれば教えてください。

目下の課題は、コスト削減です。現在は最終的な製造工程を自分たちで手掛けており、少量発注を行っているため、人件費を除いてもコストが高くなってしまっています。使用しているコーヒー豆も市販品と比べると若干高価なので、コーヒー豆の再選定やパッケージの発注量などの見直しを行うなど、事業として成立させるためにコスト削減を追求してほしいです。

また、販売チャネルの拡大にも期待しています。現在は檜原村内の2店舗のみに卸していますが、今後は他のカフェや大学近くの駅ビルのお店などに販売先を増やし、消費者との接点をさらに広げていくことをお願いしたいとも思っています。

さらに、本プロジェクトを引き継ぐ後輩たちは檜木ノ珈琲だけでなく、ヒノキを使ったクッキーやバームクーヘンなど、新たな商品開発の構想も考えているようです。今後はそれらの開発に注力するとともに、複数の商品で販売やブランディングを進めることで、檜原村のさらなる活性化や事業の安定化などに挑戦してほしいと思っています。