
SDGs 大学プロジェクト × Tokushima Univ.
目次
徳島大学の紹介


徳島大学は、1949年に創立された国立大学であり、総合科学部、医学部、歯学部、薬学部、理工学部、生物資源産業学部の6つの学部と、世界最先端の医科学系の研究を行っている先端酵素学研究所、光でイノベーションを起こす研究を実施しているポストLEDフォトニクス研究所(pLED)、生物系新産業創出を目指すバイオイノベーション研究所(BIRC)等、多様な研究施設があり、地域から世界の課題(SDGs)を解決する大学として、教育・研究・社会貢献の活動に全学一体となって取り組んでいます。
世界はかつてない速度で変貌を続けており、超スマート社会Society5.0への期待が高まる一方で、少子高齢化の加速、自然環境の悪化や感染症の拡大等、多くの不安が未来に影を落としています。徳島大学では、このような複雑で高度な課題の解決に必要とされる人材を育成し、徳島県に位置する高等教育機関としてのあるべき姿を展望するため、2023年に「INDIGO宣言」を策定しました。
徳島大学が所在する徳島県は、古来より藍(INDIGO)の産地として全国に名を馳せました。「INDIGO宣言」には、Integrity(誠実さ)、Noble and Novel(高潔さと斬新さ)、Dynamism and Diversity(活力と多様性)、Inclusive(寛容)、Global(世界へ発信)、Open(開かれた徳島大学)のキーワードが含まれ、徳島大学が育成する人物像や目指す方向性を学内外に示しています。
「地球視点で考え、徳島発で行動する」大学として世界との交流を進め、教育研究に関する成果や課題を学内外と共有することで知の融合反応を促進し、「深く輝く、未来を紡ぐ大学」を目指します。
SDGsに取り組むことになったきっかけ
–SDGsに取り組まれたきっかけについて、お伺いできますか?
本学では、学内で個別に行われていたSDGsへの活動を集約し、大学として一丸となって推進していくことを目的に、2022年4月にSDGs推進委員会を設置しました。私は、当委員会の委員長を務めています。また同時期に、研究・産官学連携におけるSDGsの推進を図るため、研究支援・産官学連携センターにSDGs推進部門を設置しました。同年6月には「徳島大学SDGs基本理念」を制定し、SDGs達成に向けた取り組みを推進しています。
本学は、SDGs推進委員会の設置後からSDGsに取り組み始めたわけではありません。それ以前から行ってきた、本学の研究が産官学連携と結びつき、社会に貢献していくことでSDGsへとつながっていたことに始まります。学内ではこれまでも、SDGs達成に向けた研究をアピールするためにさまざまな取り組みが行われてきました。例えば、2020年11月14日には「SDGs達成に向けて」というテーマで本学の取り組みや研究事例を紹介した公開シンポジウムを開催しました。
–多くの大学がSDGsの必要性を感じつつも、初期の頃から実際に取り組むことは大変だったのではないかと思います。徳島大学がSDGsを推し進められた背景には、何か原動力となるものがあったのでしょうか?
本学では、これまでもSDGsを意識していたため、定期的に「エシカル消費」等のテーマを決めて、シンポジウムを行っていました。その中の一つが、先ほどもお話しした、2020年に開催したSDGsの公開シンポジウムになります。全学的な組織の立上げ前から始まった取り組みが、今も継続されており、現在では研究や産官学連携の支援、広報も行っています。


–SDGsに関する情報発信をしていく決断ができた要因はなんだったのですか?
本学はもともとスタートアップとの連携や起業等、大学の研究成果を社会に還元するための支援が盛んな大学です。ただ、以前は組織的な取り組みよりも個々の頑張りが強かったため、例えばある学生や研究者が頑張っている取り組みがあったとしても、気づくことができないこともありました。
また、本学では国立大学初の「フューチャーセンター」を設置していて、ここでは未来に向けたイノベーションや持続可能な取り組みを推進しています。フューチャーセンターでは、スペーステクノロジーを取り入れたオープンなスペースに、柔軟なレイアウト、構成、憩い、集い、遊び、食、DIY、伝統、文化の要素を取り入れ、自由な発想や対話を促す空間が作り出されています。ただ、こんなに良い場所が整備されていることを、そこを管理している地域連携の管理者や大学内部の組織はこの施設の存在を知っていましたが、研究者の中には知らない人もいました。それが非常に勿体ないと感じたことが、要因の一つだったと思います。
そのような状況の中、徳島県と連携し、内閣府所管の大きな外部資金に申請することになったタイミングで、「より効果的にこの場所を活用していこう」という動きが生まれ、地域のさまざまな関係者がワークショップを通じて将来のビジョンを作り上げる等、持続可能な取り組みを進められる土壌が形成されていきました。また、自治体と協力して事業を行うことも増えました。これまでの産官学連携のやり方は、研究成果と企業ニーズが偶然重なって連携が生まれるということが多かったのですが、昨今は、SDGsの達成に向けた効果的なマッチングが行えるよう、少しずつ変えていこうという意識が強まっています。
そして、本学が「大学の地域貢献度調査総合ランキング(2021年10月4日発行『日経グローカルNo.421』)」で大きく取り上げられたことも、SDGs達成のための取り組みをさらに推進するきっかけの一つとなりました。この特集によって本学の地域貢献が評価され、さらなる活動の拡充や注目が集まったと感じています。
このように、改めて何か新しいSDGsに向けた活動を始めたというよりも、それまでの個々の活動を取りまとめ、ひとつに団結したことで、効果的な情報発信ができるようになったのだと思います。
–「SDGs」を軸として組織連動がうまくいったケースはありましたか?
それをこれからたくさん作っていく、という段階です。
いまお話しできる事例として、例えば本学では、SDGsの課題に関する研究や、SDGsの推進に関連する場を形成する取り組みに対し助成金による支援を行っています。このような取り組みの中から、SDGs に関連する研究の社会実装の加速を図り、SDGs の達成に貢献することを目指しています。
また、研究者同士の交流から生まれるアイデアや発見が、新たなイノベーションにつながることを目指して、kundara innovation交流会というワークショップを開催しています。「kundara(くんだら)」とは、時間を忘れて楽しいおしゃべりが続いている状態を意味する阿波弁です。本学では、多様な研究分野の研究者を含む、異分野融合研究を推奨していますが、研究者同士の関係性が構築されていないと、共同研究につながりません。本ワークショップは、研究者同士の新たな関係性の構築を目的としています。今後も地域や企業、異分野との連携を促進することで、より多様なアイデアが生まれることを期待し、一つずつ取り組んでいきたいと考えています。
具体的なSDGsの取り組み
–具体的なSDGsの取り組みをご紹介いただけますか?
本学は、SDGsが掲げる17の目標のうち「3.すべての人に健康と福祉を」に他大学と比べて特色があります。本日は、先ほどお話ししました、SDGsの課題に関する研究や、SDGs推進に関連する場を形成する取り組みとして助成支援を行っている「とくしま健康寿命からだカレッジ」と「看護リカレント教育センター」の2つの取り組みをご紹介いたします。
とくしま健康寿命からだカレッジについて


都道府県別で見ると、徳島県の高齢化率は4位、介護認定率は10位(令和2年 ※1)、糖尿病死亡率はワーストワン(令和元年 ※2)、健康寿命は男性が39位、女性が36位(令和元年 ※3)等、健康面に大きな課題を抱えています。
このような社会的、地域的課題である「健康寿命の延伸」に役立てる取り組みとして、本学では2019年に「とくしま健康寿命からだカレッジ」という地域の方々に向けた学習プログラムを開設しました。
この「からだカレッジ」は、健康寿命に関連する総合的な学習・実践と人材育成を組み合わせたプログラムで、「基礎課程」と「専門課程」があり、育成した人材を活用して地域の健康力を向上できる仕組みとなっています。
まず、「基礎課程」では、健康寿命を延ばすための基礎資質向上と、健康寿命延伸に係るボランティアを行う「健康寿命パートナー」の育成を、さらにその後の「専門課程」では、健康の目的に応じた具体的な健康運動指導、生活支援ができるリーダー・指導者である「健康寿命マスター」の養成を目指しています。「専門課程」を修了し、「健康寿命マスター」という資格を取得した方には、からだカレッジを通じて、地域の方々の健康指導に携わっていただくことができます。
このように「からだカレッジ」では、人々と協力しながら地域の課題を自律的に解決していくことを目指しています。
▼徳島県の高齢化等の状況(令和2年) 徳島県ホームページ
▼糖尿病死亡率とは? 徳島県の糖尿病の現状と対策(徳島県ホームページ)
▼厚生労働省 健康寿命の令和元年値について 第16回健康21(第二次)推進専門委員会
看護リカレント教育センターの取り組みについて


本学では、地域の看護職の方々にもリカレント教育の機会を提供し、地域医療の高度化と看護の質向上を図るとともに、看護学における研究成果を地域社会に還元することを目的として、2020年4月、本学の大学院医歯薬学研究部に「看護リカレント教育センター」を設置しました。
看護リカレント教育センターでは、認定看護師の養成を行っており、在宅ケア分野と感染管理分野の教育課程があります。在宅ケア分野の認定看護師教育課程を修了した第1期生21名については、全員が公益財団法人日本看護協会の認定看護師認定審査に合格し、このうちの11名は徳島県内の訪問看護ステーション等で勤務しています。これにより、徳島県は在宅ケア分野の認定看護師在籍者数が12名となり、全国最多となりました。
また、SDGsの課題解決に資する取り組みに対する助成支援により、徳島県内の高齢者施設における感染対策支援のニーズ調査も行っており、どうすれば感染症対策が不十分な高齢者施設にサービスを提供できるか等の課題解決にも取り組んでいます。
本学は地域の大学として、リカレント教育だけでなく地域の課題に対しても発展的な取り組みを進めています。
SDGs施策と学生とのつながりについて
–学生のSDGsに対する関わり方を教えていただけますか?
大学として、SDGsの課題に関する研究や、SDGsの推進に関連する場を形成するサポートをしています。そこで実施される研究や、イベント・ワークショップに学生たちが参加することで、自らの意見やアイデアを持ち込んだり、研究を通してSDGsの達成に貢献したりすることができます。
将来的には、さらに多様な学生参加型のイベントやプロジェクトを通じて、学生たちがSDGsの課題に対して積極的に関わることのできる環境を提供していきたいと考えています。学生たちのSDGsに対する理解と意識を高めるとともに、社会や地域に積極的に貢献することができるような環境を育てていきたいですね。
–これまでに、学生主体となって取り組んだSDGsの取り組みはありましたか?
本学はスタートアップとの連携や起業等が盛んであり、学生に対しても、起業家育成といった面でお話できることがあります。
学生がSDGsに取り組む際、研究成果を知財として管理すること等、難しい面も多くあります。そこで、学生がもっているアイデアの実現や地域の課題解決に向けてスタートアップを立ち上げるサポートを行っています。
実際に本学の医学部の学生が、泣き声に悩む両親らのストレスを緩和し、育児疲れや産後うつ等の問題解決を目指して、赤ちゃんの泣き声を可視化する新しいコミュニケーションツールを開発し、広めるために活動しているケースがあります。
また、本学では、教養教育をはじめ、専門教育においても様々な分野がSDGsとつながっているので、授業の中でもSDGsとの関係について取り上げています。
例えば、本学の教養教育では、全ての授業の目的に持続可能な社会づくりのための教育(ESD)の観点を導入しています。ESDは、SDGsが掲げる17の目標のうち「4.質の高い教育をみんなに」のターゲットに位置付けられていますが、SDGsのすべての目標を達成するために不可欠であるものとされています。
最近はSDGsの概念の普及に伴い、高等学校までにSDGsに関する基礎的な知識を得ている学生がほとんどです。そのため、SDGsに関する課題解決を、研究を始めるきっかけとして、自分の興味や関心を持って取り組んでもらうことを促したいと考えています。自らの研究を社会に役立つものとし、SDGsに関する課題解決につなげていくことで、より良い社会を築く一つの軸として成長することを期待しています。
学生たちの思考は柔軟でアイデアが豊富であると感じているからこそ、彼らとSDGsとの結びつきをより深め、その力を最大限に活かしていけるように、今後もさまざまな取り組みを模索していきたいと思っています。
–今後の学生とのつながり方について、展望はありますか?
私たちとしては、学生が自分のアイデアを実現したいと思った時に、実現のサポートができる体制を整えていきたいです。
まず、アイデアの創出に関して、イノベーションワークショップの設計や、東京大学のi.schoolのような取り組みを参考にしながら、学生のアイデアを具現化する枠組みを構築していきたいと考えています。学生のアイデアによる新たなイノベーションを促進し、社会課題の解決に貢献する役割を果たせるような環境づくりを考えていきたいです。
そのためにもまずは「SDGs」というキーワードを通じて、学生と私たちが共通の方向に向かうことが大切だと思います。まだ新しい取り組みなので、制約等により難しい側面もありますが、業務の効率化や情報の円滑な流れを促進し、前進する姿勢を持つことが重要です。地域の特性や制約を考慮しながら、学生と共に「SDGs」を中心にした取り組みを進め、社会的な課題の解決に対して貢献することを目指したいと思っています。
SDGsを取り入れたことによって生まれた成果や変化について
–これまでにもさまざまなSDGsの取り組みをされている中で、学生の活動に何か変化はありましたか?
学生全体に対しての比率は数パーセント程度かもしれませんが、「起業」というかたちで社会に貢献する学生が増えてきている印象を受けています。
これは「SDGs」を掲げているからというだけではないと思いますが、大学全体として産官学連携を重要視し、それを繰り返し強調してきた本学としては、その効果が出ているのではないかと感じています。
–起業家気質をもっている学生が集まるような風土があるということでしょうか?
地方の大学として、地域への社会貢献という面には歴史的な土壌を醸成できていると思います。
医学研究には「トランスレーションリサーチ」と呼ばれる分野があります。本学では古くから、医学・薬学での基礎研究の優れた成果を、臨床現場における次世代の革新的な診断・治療法・医薬品の開発につなげてきました。大学で進められている基礎研究の成果を、社会貢献に繋げるという考えが、根付いているということです。
そのほか、理工学部においても、企業との共同研究や地域連携の側面が強く、大学も研究者もそれを受け入れています。銀行等と協力して県内企業を回り、企業の課題を解決できる本学の研究者をマッチングする取り組み等の活動をコツコツ積み上げてきた大学ではありますね。
また、国立大学の運営費交付金や研究費が減少している状況において、大学自身が資金を調達することが重要だと考え、本学独自でクラウドファンディングの仕組みを立ち上げました。クラウドファンディングによる研究費の調達は、他の大学の中では先駆的だったと思います。根底には、社会に対して大きなインパクトを与える優れた研究を支援したいという使命がありました。
–「起業」は単なるゴールとしてではなく、むしろより優れた研究をするための手段として、また地域に貢献するための手段として採用されているんですね。
実際には起業を目標とする学生ばかりではないかもしれませんが、少なくともアントレプレナーシップをもった教員のもとで学び、成長する環境が整っています。このような教員の姿を見た学生が刺激を受け、成長していくことを期待しています。
今後の展望について
–今後の展望についても教えてください。
研究者が新たな研究テーマを模索する際、SDGsを上手に活用すると、社会課題との結びつきが、研究者自身にも、またその研究成果を活用する企業や市民にもスムーズにイメージできると考えています。
そのため、まずは日常的にさまざまなステークホルダーと対話できる場を設け、学生や研究者が実現したいアイデアを具現化できる環境整備を進めていきたいと思っています。
また研究テーマが決まり、実施した研究が、企業との共同研究等の産官学連携や大学発スタートアップにまで進展させられるかということが次の展開であり、円滑に社会実装に関する連携が進められる支援環境を提供することが重要だと考えています。地に足をつけて取り組みつつ、既存の研究シーズ(種)をどう活かしていくか、ということを考える必要があります。
さらに学内においては、SDGsが掲げる目標のうち「17.パートナーシップで目標を達成しよう」が不足していると感じます。大学内部で活動するだけでなく、その活動が社会とつながっていることを示すためにも、「SDGs」をひとつのキーワードとして、学外の方々と一緒に進展していく取り組みを推進してきたいと考えています。
–今後の産官学連携の活動に、今よりも積極的に学生を巻き込んでいく予定はありますか?
これまでの大学院教育は、研究実践や教授からの指導がほとんどでしたが、最近ではワークショップ形式でアイデア出しを行うことで、柔軟な思考を養う取り組みを行っています。ここで生まれたアイデアを元に、学生と企業が協力して新たな研究を生み出す環境を作っていきたいと思っています。
また、これまでも積極的に産官学連携を推進してきた大学としては、学生が産官学連携に参加することにおける課題を見てしまいがちですが、企業からは、共同研究の中で学生の顔がきちんと見えることが求められています。学生のアイデアに興味を持ち、学生が活躍する場を提供したいと考えてくださっているんです。
実践的なスキルを身につけることができる機会なので、学生には積極的に企業との連携に参加してほしいと思っています。このように、学生のアイデアを活かし、学びを得る仕組みを作ることは、今後も続けていけるのではないかと思っています。
以上が、学生の関わり方として現在考えていることです。いきなりダイレクトに産官学連携に関わるというよりは、新しい研究の立ち上げ段階やアイデア形成に関わってもらうことが、彼らの将来につながるスタート地点を築けるのではないでしょうか。
–実際の研究に紐づくかたちで社会貢献の領域に関わることのできる、とても良い取り組みではないかと思います。
今後も社会貢献につながるようにこのような活動を継続していきたいと思いますが、一方で、これまでの考え方に固執せず柔軟に、企業や自治体等、周囲の関係者の方々と一緒に考え、取り組みをアップデートし続けていきたいと思っています。