SDGs 大学プロジェクト × Osaka University of Economics.

大阪経済大学の紹介

大阪経済大学は、大阪の中心に位置する都市型複合大学で、経済学部、経営学部、情報社会学部、人間科学部、国際共創学部の5学部で構成されています。建学の精神「自由と融和」を基盤に、学生が自ら考え行動する力を育む教育を実践し、多様な学びの場を提供してきました。

現在は、2032年の創立100周年に向けて新たなビジョンを掲げ、「生き続ける学びが創発する場」を目指しています。専門性の高い授業を少人数・双方向で行うゼミナール、企業や自治体と連携したプログラムやプロジェクトを通じて、学生が主体的に学び、実社会での課題解決に取り組む力を養成しています。

学生と福祉事業所が連携して取り組んだ「くすのきブレンド」の開発

― 本日は、大阪経済大学 情報社会学部の浅田ゼミの発案がきっかけとなって開発された「くすのきブレンド」を起点として、浅田教授にお話をうかがいます。まずは、「くすのきブレンド」開発のきっかけや目的について教えてください。

「くすのきブレンド」の開発は、学生が主体となって取り組んだプロジェクトです。私のゼミでは、以前から「くすのきエール・マルシェ(以下、マルシェ)」というプロジェクトを立ち上げ、福祉事業所の商品の販売を行っていました。

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くすのきエール・マルシェ(公式HP)

その中には、珈琲を作って販売している「就労継続支援B型 ここある」という事業所にもご参加いただいており、当初の売れ行きは好調でした。しかし、出店回数を重ねるごとに、徐々に売り上げが落ちてきていました。

一方で、私のゼミでは「管理会計」を専門とし、マルシェの運営を通じて事業所ごとの客数、客単価などの分析にも取り組んでいます。数値を見ていても、このままではいけないと感じ、何か新しい取り組みが必要だという課題を感じていました。

そこで、学内イベントでよく顔を合わせていた学生サークル「珈琲倶楽部」と「ここある」をマッチングすることで、マルシェでの売上低迷を打開する商品を作れないだろうか、という話に繋がり、実現したのが「くすのきブレンド」です。

― 「くすのきブレンド」を開発することになった当初、具体的にはどのような商品を作ろうと考えられていましたか?

マルシェを運営していると、時折売れ行きが伸び悩む商品が出てくることもあります。その要因の一つには、潜在的なお客様に対して十分に商品を訴求できていなかった点が挙げられました。

具体的には、マルシェの商品は大学近郊で販売しているため、大学構内はもちろん、職員やOBの方々にも購入していただけるよう、丁寧に訴求する必要があったのです。そこで、そういった方々にも喜んで購入してもらえるような本学のオリジナル商品を作ろうと考えました。

― 会計数値を分析し、商品やマルシェをどのように伸ばしていくかまでを考えられる点は、お取り組みの大きな特徴ではないかと思います。

確かに、管理会計を学ぶ際、ここまで取り組むケースは珍しいと思います。しかし、私は「数字を現場の言葉で理解し、活かせる会計」が非常に重要だと考えています。学生にも、数字で計画を立てるだけではなく、それをアクションプランに落とし込んで改善を重ねるプロセスを学んでほしいという気持ちで取り組んでいますが、実際はなかなか難しいですね。

例えば、マルシェ全体の売上目標達成に向けて各事業所がプランを立ててくれるのですが、どうしても思ったように達成に貢献できず、数字が下がってしまう事業所もあります。具体的な改善策が見つかっていない事業所も多く、今も模索を続けているところです。われわれのマルシェでは「売上高=作り手・買い手の喜びの大きさ」と理解していますので、これを大きくすることがとても大事だと考えています。

コロナ禍で生まれた新たな挑戦「くすのきエール・マルシェ」

― マルシェはいつ頃から始められたのでしょうか?当初のきっかけや目的についても教えてください。

大きなきっかけは、2021年6月頃まで遡ります。当時は新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が発令され、学生たちは自由に行動することが難しい状況でした。そもそも初期の私のゼミでは、会計学の本を読んでゼミ生同士が討論する、伝統的な講義を行っていました。しかしこの形式を続けているうちに、学生たちの反応はどこか生気がなく…このままではいけないと感じていたんです。

そこで、福岡大学で飛田努先生が取り組まれている「創業体験プログラム」をヒントに、少し簡略化したかたちにして、新たな取り組みを試みました。毎年開催される本学の大学祭でゼミ生が模擬店を3日間経営し、チーム同士で競い合うという取り組みです。

結果としては学生からも好評で、数年のうちに大学祭全体の約70店舗中、私のゼミから14店舗ほどが出店する規模にまで成長しました。しかし、新型コロナウイルスの影響で大学祭が中止となり、この取り組みもできなくなってしまったのです。

コロナ禍で自由な活動が制限される中でも、何かしたいと思っている学生は多くいました。その中で、東淀川区役所に相談に行っていた3年生がいろいろと模索しているうちに、福祉事業所との連携に目をつけたんです。
2021年6月には、あるゼミ生が5つの福祉事業所と学内で商品を販売する話を整え、私に持ちかけてくれたことが、マルシェのスタートとなりました。その後は他の学年も巻き込み、さらに新たに5つの事業所と連携して、2021年11月に第1回目のマルシェを開催したのです。

マルシェの目的の一つは、学生がビジネスを学ぶことです。 福祉事業所への貢献や支援と捉えられることが多いのですが、むしろ「福祉事業所にお世話になろう」というコンセプトでスタートしていますね。実際には、私たちが助けていただいている割合がかなり大きいのです。

浅田ゼミ生が担う「つなぐ」役割

― くすのきブレンドの開発をはじめ、マルシェでは学生主体の活動が印象的です。学生の方々は、具体的にどのような役割を担っているのでしょうか?

各取り組みで異なりますが、基本的には学生が主体となって取り組んでいます。
例えばくすのきブレンドの開発では、連携した学生サークル「珈琲倶楽部」の学生たちがコーヒーのブレンドを担当しています。「ここある」さんは、コーヒー豆を丁寧にハンドピックし、自家焙煎してパッケージの印刷までできる事業所です。

私のゼミでは、常に、これまでつながっていなかったものを「つなぐ」ことを意識するように伝えており、ゼミ生たちは「珈琲倶楽部」と「ここある」をつなぐ役割を担っています。

具体的に言うと、例えば過去にクラウドファンディングで集めた資金を活用し、焙煎に必要な珈琲豆や場所を手配しました。パッケージデザインの発注なども、私のゼミが担当しました。最終的な販売も私たちの大きな役割であり、現在も継続して責任を持って取り組んでいます。

― 学年間の役割分担や連携、ノウハウの共有はどのように行われていますか?

毎年10月ごろに2年生が入ってくるため、12月に開催されるマルシェで引き継ぎを行います。3年生になると、マルシェのメイン担当として各担当事業所との関係を構築し、上級生がそれをサポートします。そして4年生になると、現状を大きく改善するために、事業所や外部との連携プロジェクトに取り組むことが多いですね。

また、日頃から可能な限り情報共有をするように指導していることもあって、ノウハウを共有する土壌が形成できています。異なる学年の学生同士が協力することで、学生たちはより多くのことを学べていると思います。ノウハウを受け継ぐことで、活動の質の向上にも繋がっているのではないでしょうか。

― くすのきブレンドの開発よりも前から、事業所や外部を繋げるマッチングをされていたのでしょうか?

実は「くすのきブレンド」は共同商品開発としては3つ目の商品で、すでに複数の実績があります。
初めに取り組んだのは、初期からマルシェに参加してくださっていた事業所の中でも、縫製技術を持つ「ミシン工房 道の空」さんの事例です。当時のマルシェでは商品があまり売れず、改善策に悩んでいた時期がありました。

そこで、まずは幼稚園と事業所をつなぎました。園児が好きな生地を持ってきて幼稚園に預けると、事業所がその生地をお着替えかばんや絵本かばんなどに加工してお返しするという新サービスのプロジェクトを始めたんです。

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入園準備用品 オーダー・サービス(公式HP)

その後、さらに別の幼稚園と始めてみたところ、今度は「オリジナルトートバッグを作ってほしい」という依頼があるなど、最初の取り組みは成功を収めました。

次に取り組んだのは、近隣の福祉事業所(フリーダム創生)とのクッキーの共同開発です。福祉事業所の商品は、働いている方が作れるものであることが大前提です。

それを踏まえた上で、5名ほどのゼミ生が製菓衛生師の方にサポートいただきながら、全卵と卵黄のみの違いやフレーバーの組み合わせなどを研究し、試食を重ねて商品開発に取り組みました。パッケージも、可愛く魅力あるものにするためにクラウドファンディングで資金を集めるなど、「ものを作る」という意味では、これが最初の共同商品開発プロジェクトだったと思います。最終的には「カンフォーラ」という商品名で、8種類のクッキーを作りました。

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大阪の大学生による商品パッケージ開発プロジェクト(CAMPFIRE)

さらにその後は、マルシェではどうしても甘いお菓子が多くなりがちなので、甘いお菓子を買わない方々にも訴求できる商品を作ろうということで、奈良県にある福祉事業所(ワークセンターこすもす)と共同で「乾杯アモーレ」というおつまみスナックを5種類開発しました。トリュフ・ペッパー味や、地場のカレー屋さんのカレー粉を使ったスパイスカレー味のほか、ガーリック・パルメザン味が人気ですね。これが2つ目の共同開発商品です。

挑戦と失敗を繰り返し生まれた成長と変化

― 試行錯誤を繰り返しながら実際に開発された商品に対して、周囲の方々からの反響はいかがですか?

多くの方から好評を頂いています。「カンフォーラ」を作っている事業所には、お客様から「美味しかったよ」というお電話がかかってきたそうです。実際に製作に携わっている方々も、楽しんで作ってくれているというお話も聞いています。

「乾杯アモーレ」も、これまであまりお菓子を購入されていなかった男性のお客様をはじめ、学生たちからも好評です。当初の狙いが実現して良かったと思っています。

入園準備品オーダー・サービスのプロジェクトでは、「来年も早くこの仕事をしたい」と仰ってくださる事業所の利用者の方もいて、実際に園児たちが使うものを作ることで、作り手の方々も喜びを感じてくださっているようです。マルシェの取り組みが多くの人の幸せに繋がっていることが、私たちも大変喜ばしいですね。

― 学生の方々の変化は感じられていますか?

実際の商品開発に取り組むには、非常に幅広いスキルが必要です。その中でなんとか形になったものが、今日お話ししている取り組みです。実現に至るまでには多くの課題に直面して試行錯誤を繰り返しており、中には失敗してしまった取り組みもあります。

しかし失敗しても、それを糧に粘り強く解決策を探究し、成功するまでやり切ろうという姿勢が学生たちの中には見られます。このような取り組みの中で、自ら考え、行動していくことが次に繋がることを学んでくれているのではないでしょうか。

また、複数の関係者で成り立っている商品開発の過程では、スケジュール管理能力など、緻密な段取りが不可欠です。いかなる場面でも、自分たちだけでなく、広い視野でさまざまなことを考慮する必要がありますよね。学生たちも、「マルシェの取り組みを通じて、計画能力が身についていると感じる」と話してくれました。

実践的な学びを通じて、学生の主体性とビジネス全体を捉える力を育む

― 浅田教授ご自身は、試行錯誤を繰り返しながら挑戦を続ける学生の方々をサポートされる中で、どのようなことを意識していらっしゃいますか?

私が重視しているのは、学生たちが自律的に行動し、いかに楽しみながら真剣に学べるかということです。このバランスを実現することは非常に難しく、実際に、学生たちは初めての挑戦に苦労しています。

そこで、まずは学生たちが様々な経験を得られる機会や環境をできる限り用意できるように努めています。しかし、私から「やるべきこと」を提示するだけでは、学生たちは主体性を失い、やらされ仕事になってしまいますよね。そのため、学生たち自身が答えを見つけていけるような指導を心がけています。

私が先導して進める方が効率的かもしれませんが、それでは学びが生まれません。学生から「何かアイデアが欲しい」という相談とのせめぎ合いもありますが、「こうすれば良いのでは?」と伝えると学生たちの思考が停止してしまうため、学生たちが自発的に行動しながら楽しめるよう、私自身も試行錯誤を続けています。

― 自分たちの苦労が商品や成果に繋がり、さらに周囲から良い反応があると、全体のモチベーションも高まるのではないでしょうか?

学生たちが成功体験を積み重ねることは、モチベーション向上のためにも非常に重要です。成功事例ができた際は、他のプロジェクトにも活かせないか考えてもらうようにしています。

冒頭でもお話ししたとおり、マルシェを運営していると、どうしてもなかなか売れない商品が出てくることもあります。また、福祉事業所の商品は必ずしもビジネスを前提に作られているわけではないため、できることには限界もあります。

そのような制約もあってか、全員で試行錯誤しながら改善に取り組んでも良い成果が出ない場合、「どうしようもない」と諦めてしまいがちです。しかし、簡単に思考停止しないことも、意識して伝えていますね。

― ビジネス全体を俯瞰的に捉えることができる、非常にユニークで実践的な取り組みですね。

学問として管理会計を学ぶだけであれば、座学だけで十分かもしれません。しかし私は、学生たちには管理会計という枠にとらわれず、社会やビジネスの仕組み全体を捉え、学んでほしいと思っています。

管理会計や事業戦略、マーケティングなどの学問領域は、人工的に設けられた分野ですよね。実際は全てが噛み合わなければ、ビジネスはうまく成り立ちません。

だからこそ、くすのきブレンドやクッキーなどの商品開発も、一回限りのイベントではありません。次は、これらの商品を販売するフェーズに進みます。そこでは販売戦略やマーケティング戦略を学び、実践していく必要があるでしょう。

このような取り組みを通じて、細部の数字だけを見るのではなく、ビジネスの全体観・大局観を学生たち自身が育んでいくことも必要だろうと考えています。私自身もそのサポートができるよう、これからも模索を続けていきたいです。

今後の展望

― 今後の展望についてお聞かせください。

課題や展望はたくさんあるのですが、まずは成功パターンを他の事業所の商品にも展開し、販売促進にも注力していきたいと考えています。他にも、既存の商品展開に加え、SDGsなどに感度の高い外国人の方に向けた商品開発の検討も行っています。多言語での店頭展示など、課題が山積みです。

また、最近では「マルシェを大阪経済大学だけでやっていていいのだろうか?」とも考えています。本当に社会的インパクトのあることをするのであれば、もっと大きな枠組みを設け、日本全国で実施できる何かを考えなければいけないと思っています。この記事を読んだ方が「うちでもやってみよう」と思ってくださると、非常に嬉しいですね。

私自身の問いに対する1つ目の施策として、昨年からメタバースを活用した「メタ・マルシェ」を開催し、少しずつ商品を販売する取り組みを進めています。

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11月30日まで開催 メタバース上に新たな経済圏を!「メタ・マルシェ2023」(大阪経済大学HP)

今年も10月頃にオープンする予定です。このような活動をさらに展開して、より広範な地域を巻き込むことができればと思っています。

メタ・マルシェでは、遠方の方も参加できる利点を活かします。障がいを持った方が多く働いていらっしゃる北海道にある新得農場の世界一の評価を受けたチーズをはじめとして、仙台のはらから福祉会の牛タンや、沖縄の楽ワーク福祉作業所のパッションフルーツ・シロップなど、日本全国の素晴らしい商品が一堂に会します。

将来的には、このような機会を通じて福祉事業所同士がつながることで、事業所の方々の学びも生まれる場になっていくのではないかと考えています。福祉事業所と聞くと安価な商品を作って販売しているイメージが先行しがちですが、そうではなく、きちんと付加価値のあるものを作ることができると示していくことも大切ではないでしょうか。

2024年度 福学地域連携セミナーのご案内

今年8月18日(日)に、私のゼミ生が主体となって運営しているプロジェクトの一環として、本学のキャンパスで「福学地域連携セミナー」を開催します。

メインゲストとして登壇いただく杉之原千里さんは、場面緘黙症(自分の意思と関係なく話せなくなる症状)を持つ娘であるみいちゃんの「パティシエになる」という夢を実現するために、「みいちゃんのお菓子工房」というケーキ屋さんを立ち上げられた方です。

このセミナーは昨年から開催しており、今年が2回目となります。今回は、杉之原さんに加え、本学が設けている中小企業診断士登録養成課程の修了生5名を講師に迎え、みいちゃんのお菓子工房のように起業するにはどうすればいいのかについてお話しいただく予定です。仕事を続けながら、副業として起業する選択を考える機会になればと思っています。

今日の取材内容とは趣旨が少し異なっているかもしれませんが、どなたでも参加して頂けるセミナーなので、気になる方はぜひ一度ご参加頂けると嬉しいです。

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案内ページ(大阪経済大学HP)
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