学び続ける力 リカレントストーリー – 愛媛大学が描く地域創生の未来図

愛媛大学の紹介

愛媛大は、1949年に設立された、愛媛県松山市に本部を置く国立大学です。7つの学部(法文学部、教育学部、社会共創学部、理学部、医学部、工学部、農学部)、6つの研究科と2つの学環(人文社会科学研究科、教育学研究科、医学系研究科、理工学研究科、農学研究科、連合農学研究科、医農融合公衆衛生学環、地域レジリエンス学環)、文部科学省の共同利用・共同研究拠点に認定された3つの先端研究センターを含め、5つの研究センター​​を擁し、多様な学問分野をカバーしています。

教育・研究・社会貢献の3つの柱を基盤に、質の高い教育と先端的な研究を推進し、地域社会との連携を深めています。学生には実践的な学びの機会を提供し、国際的視野を持つ人材の育成に注力しているほか、持続可能な社会の実現に向けたSDGsの取り組みも積極的に行っています。

愛媛大学は、大学が掲げている方針に基づき、地域に根ざした教育と研究を推進し、地域社会と共に成長することを目指しています。学生の国際交流や地域貢献活動も盛んに取り組まれており、地域社会との強い結びつきを持ちながらグローバルな視点を持った教育が行われています。

地域と未来を繋ぐ新たなアプローチ「リカレント教育」とは?

― 「リカレント教育」は、一般的にはまだあまり知られていないテーマではないかと思います。「リカレント教育」とは、どのような教育なのでしょうか? 具体的な定義や、従来の大学教育との違いについて教えてください。

愛媛大学地域専門人材育成・リカレント教育支援センター長 羽藤堅治 教授(以下、羽藤 教授):リカレント教育とは、一言でいうと「学び直し」を指します。社会に出た後も、新しい知識やスキルを身につけるための教育ですね。例えば、今の仕事でさらに活躍するために必要な能力やスキルを磨く「アップスキリング」、新しい時代のニーズに応じたスキルを身につける「リスキリング」、さらに仕事には直接関連しない技術や教養の習得など、幅広い学びが含まれます。

「リカレント」と「リスキリング」はよく混合されますが、定義は異なります。前者は学びと仕事などを通じて生涯にわたって学び続けることを意味し、後者は社会の変化に対応するために新しいスキルを習得することを指します。一般にはまだあまり浸透していないので、混合される方も多いかもしれませんね。

愛媛大学では、こうした「学び直し」を支援するため、さまざまなリカレント教育の機会を提供しています。例えば、キャリアチェンジしたい方や最新技術を学びたい方はもちろん、仕事に直接関係のない教養を深めたい方を対象に、多彩な講座を用意しています。

企業の中だけでは学びにくい新しい知識や技術を習得できることが、本学のリカレント教育の役割であり、大きな特徴です。受講者は幅広い年齢層にわたり、生涯学習の一環として学び直しに取り組む方もいます。特に、若年層から中堅層を対象とした講座を数多く提供しています。

本学は、幼稚園から大学、そして社会人まで、あらゆる世代に教育を提供し、誰もが学び続けられる社会を目指しているのです。

― 貴学が地域専門人材育成・リカレント教育支援センターを設置された経緯や目的について教えてください。

羽藤 教授 :本学は、実は2008年頃から「リスキリング」と呼ばれるような人材育成に取り組んできました。当時本学では、防災情報研究センターなど、新しい考え方を社会人に広めようという動きが活発化していた時期でした。そんな中、国が推進する大学COC事業(※)の一環としてリカレント教育に取り組んでいましたが、この事業自体は2018年度をもって終了しました。

しかし、地域に貢献できる人材の育成は依然として重要であると考え、2019度に「地域専門人材育成・リカレント教育支援センター」を設立しました。このセンターは、地域や地域産業に関する専門的知識や技術を持ち、地域活性化のリーダーとなる「地域専門人材」を育成することを目的としています。

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愛媛大学 地域専門人材育成・リカレント教育支援センター (ehime-u.ac.jp)

※ 大学COC事業(Center of Community事業):大学が地域の中心となり、主に地域の課題解決や発展に貢献することを目的として、日本の文部科学省が推進している取り組みを指す。
大学と地元企業・住民が協力し、地域の経済活性化に取り組むことで、学生は実際の地域問題に取り組み、社会貢献の体験ができます。また、地域も大学の知見を活かして発展を目指すことができるため、双方にメリットがある仕組みです。

副センター長 正本英紀 准教授(以下、正本准教授):本学は、これまで長きにわたり地域の人材育成に注力してきました。近年、社会全体で「リカレント教育」への関心が高まる中、地域人材の育成とリカレント教育を統合するかたちでこのセンターを立ち上げ、現在に至るまで発展を続けています。

リカレント教育の概念を取り入れたことで、本学の人材教育の取組はブラッシュアップされ、より積極的なものへと発展を遂げました。特に2021年度からは、地方創生を推進するための専門知識と実務経験を持つ実務家教員を配置し、地域共創型のリカレントプログラムを推進しています。

地域と専門家を繋ぐ「ハブ人材」の育成!学外へも広がる学びの可能性

― 貴学で開講されているリカレント教育プログラムには、どのような特徴がありますか? 特に力を入れているプログラムについて教えてください。

正本 准教授:2024年度には、計11のプログラムを開講予定です。その中でも特に注目していただきたいのが、「地域創生イノベーター育成プログラム(東予)」です。

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地域創生イノベーター育成プログラム(東予)パンフレット (ehime-u.ac.jp)

このプログラムは、愛媛県と広島県の港湾都市を対象に、瀬戸内海を跨いだ広島大学との共同で実施しています。開講前には地域の方々へのヒアリングを行い、地域が抱える課題を把握した上で、今後必要となる要素を反映させ、課題解決に必要な知識やスキルを持った地方創生のための人材育成に注力しています。このプログラムの大きな特徴は、専門家を育成するのではなく、地域全体をつなぎ、盛り上げる役割を担う、「地域ハブ人材」や「イノベーションマッチング人材」の育成に焦点を当てている点です。

地方では、専門家が足りないというよりも、彼らを支える環境や仕組みが整っていないことが課題となり、首都圏に比べて人材の定着が難しいという課題があります。そこで、幅広い知識や技術を持ち、地域と専門家を繋ぐことができる多様なスキルをもつ人材の育成を目指し、このプログラムを立ち上げました。

また、このプログラムは市町村や民間企業とも連携し、地域に根ざした実践的な視点で設計されています。半年間の履修後には「地域創生イノベーター」として認定される履修証明プログラムです。修了者には、地域に貢献できる実践的なスキルと称号が付与されます。

本学のリカレント教育プログラムは、地域に貢献できる人材の育成を目指しています。地域の課題を解決し、より良い地域社会の構築に向け、これからも自信を持ってさまざまなプログラムを展開していきたいと考えています。

― 愛媛大学では、学外との繋がりや学びを広げることにも力を入れていらっしゃるのでしょうか?

羽藤 教授 :そうですね。例えば、本学は愛媛県出身の学生が最も多く、次いで広島県出身の学生が多いという特徴があります。このような地理的背景を踏まえ、愛媛県と広島県の地域を一体となって地域の活性化を図るべく、特に広島大学との大学間連携を深めています。この連携は、地域社会への貢献のみならず、将来的な社会全体への貢献にも繋がるものと考えております。

また、本学のリカレント教育プログラムは、地域や地域産業の活性化に留まらず、イノベーションの推進、防災対策、社会基盤のメンテナンス、新産業の創出といった多岐にわたる分野にも注力している点が特徴です。

▼ 詳しくはこちら
愛媛大学 リカレント教育プログラム一覧 (ehime-u.ac.jp)

正本 准教授: 多くの大学では、特定の分野に特化した研究や教育を行う傾向がありますが、地域や社会全体に貢献するためには、様々な分野の知識と経験が必要です。他大学や地方自治体、さらにNPOや一般企業との連携が不可欠ですが、時にはそこに課題やハードルもあります。

そのため、私たちはそれぞれの教員が得意な分野を持ち寄り、学外の方々とも協力しながら学びの幅を広げています。これにより、地域や社会全体に貢献できる、幅広い学びを提供できる環境が整えられていると感じています。

若手リーダーが活躍し、育つ、愛媛大学のリカレント教育

― 貴学のリカレント教育プログラムは、どのような講師の方々が担当されているのでしょうか?

正本 准教授:本学のリカレント教育プログラムでは、さまざまなバックグラウンドを持つ講師が活躍しています。例えば「地域創生イノベーター育成プログラム(東予)」では、講師の半数以上が外部から招かれています。企業やNPO、地方自治体で活躍している方々や大学教授など、多岐にわたる専門家が参加しているのです。

また、大きな特徴として、講師陣の年齢層を意識的に若くしています。通常、講師は年齢が高い傾向にありますが、私たちは若手から中堅の専門家を中心に、社会と直接関わる実践的なプロジェクトに従事しているリーダーや革新者と呼ばれる方々を招いています。

私たちは、学内外の知見を融合させることをよく「カフェオレ」に例えることがあります。さまざまな要素が混ざり合うことで、より豊かな学びが生まれるように、地域連携に優れた学内教員と産学官の若手・中堅人材を組み合わせることで、他大学にはない独自の教育プログラムを形成しているのです。

常に新しい知識を取り入れることは、誰にとっても重要です。受講者は、こうした講師から最新の知識や技術を直接学ぶことができるため、社会人としてのスキルや知識を確実にアップデートできていると思います。

― 実際に「地域創生イノベーター育成プログラム(東予)」を受講した方々は、その後はどのように学びを活かしているのでしょうか?

正本准教授:リニューアルされた「地域創生イノベーター育成プログラム(東予)」が始まってから2年が経過し、修了者はさまざまな分野で活躍しています。例えば、エネルギー業界で働くエンジニアの受講者は、新しいエネルギー源への転換という課題に直面していました。このプログラムを通じて外部の知識を吸収し、新エネルギーや省エネルギーに関連する新規事業の立ち上げに向けたヒントを得たそうです。

また、定年を迎えた受講者の方は、新たなまちづくりに関わる資格を活かす方法を探していました。このプログラムを通じて、自身の現状とスキルを見直し、再就職や社会貢献の糸口を見つけることができました。

さらに、現在の仕事を続けながらも新たな挑戦を志す受講者もいます。この方は、単なる技術の習得だけでなく、社会全体のために必要な基礎を学び直したいという思いから受講していますね。

このように、受講者一人ひとりの悩みや課題に応じて幅広いサポートを提供しています。どのようなケースでも、異なる考え方や新しい技術を導入することが、イノベーションの本質であると考えています。本学のリカレント教育プログラムは、彼らの目的を達成する一助となっていることを、誇りに感じております。

羽藤 教授 :一度プログラムを修了した受講者の中には、数年後に同じ、または類似のプログラムを再受講するケースもあります。さらに深く学びたい方は、本学の「地域レジリエンス学環」など、社会人を対象とした大学院への進学の道も開かれています。

私たちは、社会人が仕事と両立しながら学べる環境を提供するため、常にプログラムの改善を行っております。実際に、大学院に進学された方や、他の受講者と協力して新規事業を立ち上げる方、NPOの設立を通じて社会復帰を目指される方など、たくさんの事例が見られますね。

気軽に参加できる柔軟な受講スタイルで、自分に合った学びが見つかる

― 愛媛県に住んでいなければ、貴学のリカレント教育プログラムを受講することは難しいのでしょうか?

羽藤 教授 :そんなことはありません。新型コロナウイルスによる環境の変化もあり、現在本学のプログラムは対面での受講に加え、オンラインでの受講も可能となっております。一部のプログラムでは、対面での受講が必要となる場合もありますが、受講者ができるだけ参加しやすいように配慮しています。

正本 准教授 :オンラインで受講できるとはいえ、敷居が高いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。そこで本学では、企業や地方自治体の研修担当者に対し、積極的に情報を提供し、気軽に参加できるよう働きかけを行っています。

また、気軽に試してみたい方向けに「お試し受講」も設けています。例えば「地域創生イノベーター育成プログラム(東予)」は、最大8コマまでオンラインで部分受講することが可能です。受講者は特定のテーマや講師の講義を選んで参加できるので、自分に合っているかどうかを試すことができます。一日だけの参加も可能なので、興味のある方にはぜひ気軽に「お試し受講」に参加してみてほしいですね。

― リモートで参加できる環境やお試し受講は、受講のハードルを下げるための工夫の一つだと思います。それでも、やはり受講前に悩まれる方は多いのですか?

正本准教授 :そうですね。実際に受講を検討する方々は、本当に受講しても大丈夫かどうか悩んでいたケースが多く見受けられます。

例えば、「子育て中で時間が取れるか心配」や「新しいことを学ぶのは難しそう」といった不安を抱えている方は少なくありません。特に、仕事と育児を両立している方や、新しい仕事を学んでいる最中の方にとっては、さらに大きなハードルに感じられるかもしれません。また、中堅層以上の方々からは「新しい知識を吸収できるか不安だ」という声も聞かれます。特にご自身の専門外の分野に挑戦しようとされる方には、こうした不安がより強く表れるようです。

本学は、受講者が安心してプログラムに参加できるよう、多様なサポート体制を整えておりますが、そこに企業や家庭のサポートが加わると、受講の決断がしやすくなる傾向があるようです。上司から「この講座を受けてみたら?」と勧められたり、企業や家庭からの理解や支援があることで、受講のハードルがぐっと下がることが多いようです。周囲のサポートは、個人のスキルアップを促進する重要な助けとなっていると感じます。

一歩踏み出して受講された方々から、前向きな意見や声は多く聞かれますか?

正本准教授:はい。実際に、多くの受講者にポジティブな変化が見られます。例えば「地域創生イノベーター育成プログラム(東予)」は非常に総合的で幅広いテーマを扱うため、最初は全体像がつかみにくいと感じる方もいるかもしれません。

しかし、このプログラムは長期にわたりじっくりと学ぶことができるため、最初は漠然としていた目標も、少しずつ明確な着地点が見えてきます。受講者は、半年にわたる学びの中で、徐々に霧が晴れるように学びを深め、結果的に多くの利点や達成感を得ているのではないかと思います。

地域創生の未来を支える、愛媛大学が描く今後の展望

― リカレント教育を通じて、今後期待されていることや目標を教えてください。

羽藤 教授 :本学の大きな目標は、地方創生を支えるために必要な人材を育成することです。大学は地域の拠点として、地域貢献における重要な役割を担っており、私たちは受講者が社会に出て地域活性化のために活躍することを期待しています。

社会には優れた専門家がたくさんいらっしゃいますが、彼らの横の連携は不足しているのが現状です。イノベーションを起こすためには、優れた専門家だけでなく、部門間や企業間での連携を促進できるスキルも求められます。このギャップを埋めるために、本学では地域の即戦力となる人材、いわゆるハブ人材の育成と支援に力を入れています。

正本 准教授 :現在、本学では、特に中堅層以上の方々が経営者に一歩近づくための学び直しに焦点を当てています。技術や知識が急速に進化する現代では、中堅層が新しい提案を理解できず、若手の意欲を削いでしまう可能性もあります。

組織の中心的な役割を担う中堅層には、情報を受け取るだけでなく、前線で積極的に新たなことに挑戦していく役割も求められています。リカレント教育を通じて新しい知識やスキルを身につけることで、企業に戻った際の感覚が変わり、組織の活性化につながると考えています。だからこそ、中堅層の方々には特に興味を持って受講してほしいと考えています。

羽藤 教授:企業の中だけでは、新しい技術や知識を更新することが難しい場合もあります。しかし、例えばDX(デジタルトランスフォーメーション)やカーボンニュートラルといった、これまでにない新しい技術や社会の変化に対応する必要性が高まっています。

本学は今後も地域社会のニーズに応え、地域人材の育成とサポートを提供する大学であり続けたいと思っています。

― 愛媛大学の地域専門人材育成・リカレント教育支援センターとして、今後新たに始めたい取り組みや、さらに注力したいことはありますか?今後の展望をお聞かせください。

羽藤 教授:私たちの直近の大きな目標は、「地域創生イノベーター育成プログラム」を更に強化することです。異分野・異種間連帯型のアプローチをさらに強化し、進化する地域共創型リカレントプログラムの新たなかたちを模索しています。

また、これに加えて、大学間、さらには経済団体や人材育成企業、NPO、金融機関、国の出先機関、地方自治体など、様々な組織との連携を強化し、総合的な学び直しのプラットフォームを今年設置することとしており、受講者が新しい知識を吸収し、スキルアップできる環境をさらに整えたいと考えています。

加えて、学内においても、外部講師と教員、あるいは学内教員間の横連携を強化し、社会人向けの教育も充実させていきたいです。

正本 准教授:本学は総合大学として、地域人材のスキルアップの一翼を担っていると感じています。
例えば、地域共創型リカレントプログラムなど、世界観を変える広範な学び直しを目指す方は愛媛大学へ、専門的な職業での資格取得によるキャリアアップを目指す方は特定の私立大学や専門学校へ、パソコンの基本操作など特定のスキル強化が必要な方は訓練施設へといったように、それぞれの教育機関や訓練施設が共同・分担して各々のニーズに応じた教育ルートを提供していくことができれば、と考えています。

全員がそれぞれ自分に適した方法で学び、知識を更新し、考え方を良いほうに変えていけるように私たちがサポートしていくことが、地域活性化への貢献につながると考えています。自分の考え方を変えたい方は、ぜひ本学で新たな知識を取り入れていただきたいと思います。