SDGs 大学プロジェクト × Yokohama College of Commerce.

横浜商科大学の紹介

横浜商科大学は、1941年に開学した横浜第一商業学校(現在の横浜商科大学高等学校)を前身としており、本学の建学の精神は第一商業学校のそれを引き継いでいます。

創立者である松本武雄は、現在本学が立地する横浜市鶴見区の地において、信義誠実を第一義と考える「安んじて事を托さるゝ人となれ」という建学の精神のもと、商業学校を設立しました。その前半にある「安んじて事を托さるゝ」という言葉には、他者から安心して物事を委任されるためには、その物事を遂行するための実力、すなわち専門的知識や技能が必要であること、そして後半の「人となれ」には、人間味豊かな誰にでも好かれる人材、すなわち豊かな人間性を備えた人材を育成するという意味が込められています。

このような建学の精神に基づき、「国境をこえて相互理解に及ぶとき、世界人類の悲願である世界平和が達成される」という創立者の強い信念のもとに教育の実践にあたってきました。

その後、1966年に高校を移転させ、第一商業学校開学の地に、商業教育の完成を目指して横浜商科短期大学を創立しました。そして、2年後の1968年、4年制大学に改組し、商学部商学科のみの単科大学として発足しました。さらに1974年には、全国の大学に先駆けて貿易・観光学科と経営情報学科を開設し、現在に続く3学科体制を整えました。なお現在は、商学科、観光マネジメント学科(貿易・観光学科を再編)、経営情報学科・情報マネジメントコース、経営情報学科・スポーツマネジメントコースという体制になっています。

本学は創立以来一貫して、「安んじて事を托さるゝ人となれ」という建学の精神のもと、信頼して物事を托されるための能力、すなわち商学を中心に、実際に物事を動かすために必要となるビジネスやマネジメントに関する専門的知識を教授するとともに、信義誠実を尚び、高潔な倫理観を有し、職業に対する使命感・責任感と崇高な奉仕の精神を持った、豊かな人間性を備えた人材の育成に努めています。

佐々ゼミの活動内容

– 佐々先生のゼミでの活動内容を教えてください。

私のゼミは地域型の起業家や家業の後継ぎの育成を主な目的とするゼミです。「いつでも、さまざまな活動の中心にいる人になろう!」という目標を掲げ、そのために必要な以下の5つの力を卒業までに高めるトレーニングを行っています。

  1. 仲間をつくる力
  2. チームを動かす力
  3. 自分で決める力
  4. 現場をしきる力
  5. 自力でかせぐ力

ゼミのプログラムは学内での学びと、学外でのフィールドワークの2つで構成されています。学内では、私が設定したテーマのもと、全員でプロジェクトを進行しています。

2022年度には、「商大SDGs推進プロジェクト」と題してSDGsに焦点を当て、大学祭での発表に向けてSDGsに関連する企画の提案や商品開発を実施しました。

また、学外では地元の商店街を支援し、横浜市中区の野毛商店街と神奈川区の大口通商店街において、イベントの企画と運営などを一緒に行っています。例えば、野毛商店街では野毛大道芸、大口通商店街では納涼夜店や川柳コンテストなどと言ったまちのイベントに携わっています。

地域型の起業家育成に力を入れる理由

– 起業家育成と聞くとベンチャーや新規事業の立ち上げといったイメージを持つのですが、佐々先生はなぜ地域型の起業家や家業の後継ぎの育成に力を入れているのでしょうか。

私が地域型の起業家や家業の後継ぎの育成に力を入れている理由は2つあります。

ひとつ目の理由は、地域に密着した中小企業やお店の経営者の師弟が横浜商科大学に多く入学していたという特徴があったからです。私のゼミは約30年前に開講しましたが、当時の横浜商科大学の学生には、個人商店を含む家業の後継者となる学生が多く在籍していました。

現在は全国的な自営業者の減少に合わせて、その特徴は以前ほど顕著ではありませんが、家業の後継ぎとして活躍している卒業生が多く、中には野毛商店街や大口通商店街で店舗を経営している卒業生もいます。

ふたつ目の理由は、私自身が研究者として家業の大切さに着目し、その継承が重要であると考えているからです。私はすでに大学院のときから、中小企業の後継者問題に関する研究を行っていました。

過去を振り返ると、人類の歴史のほとんどは家族での営みによって生計を立てており、家族が力を合わせて事業を営みながら暮らしていくことこそ、私たちの本来の暮らし方なのだと考えています。

もちろん、家業を営む上でも家族内の人間関係の悩みや克服すべき困難はありますが、家族がお互いに支え合うという仕事の仕方は、私たちにとって最も幸福な働き方であると私は信じています。

そのため、家業、つまり家族が力を合わせて事業を営む経営形態の素晴らしさを、次の世代に伝えていきたいと考えています。

このような理由から、私は地域型の起業家や家業の後継ぎを育成し、そうした人材が大学から輩出することに力を注いでいます。

商店街との連携で地域の活性化に貢献

– 佐々先生のゼミでは商学連携事業として商店街との連携を行われているかと思いますが、この商学連携事業について教えていただけますでしょうか?

大学での地域連携や商学連携がまだ盛んではなかった2004年に、当時私のゼミに所属していた学生たちが、ゼミの活動を地域の方々にも知っていただき、協力して何か新しいことを試みたいという思いから、自分たちから働きかけて商店街との連携事業をスタートさせました。

当時は、都市部でも商店街の衰退が社会問題になり始めた時期であり、ゼミで見学に行っていた神奈川県主催の「かながわビジネスオーディション」に触発された学生たちは、これをヒントにして、商店街を活性化するためのプランを公募して実施する「横浜・商店街イベントプランコンテスト」を自主的に企画しました。

この企画は、神奈川県内や都内の大学の学生を対象に、コンテスト形式で新たな商店街のイベントプランを募集し、優勝したプランはコンテストに協力してくださった商店街で実施するというもので、学生たちはこの企画を横浜市経済局や横浜商工会議所に提案し、これに興味を持った野毛商店街の協力を得て、2004年に第1回のコンテストの開催を実現しました。ここから野毛商店街と横浜商科大学の商学連携事業が始まり、さらにはその1年後に、横浜市経済局の働きかけによって大口通商店街との連携事業も開始されました。

このような経緯から始まった商学連携は今日でも続いています。特に、野毛商店街や大口通商店街との間では20年近くにわたって連携が継続しており、学生が主体となって様々な事業に取り組むことで地域の活性化に貢献しています。

なお、この連携事業は私や大学が働きかけて始まったものではなく、学生自身が商店街とのつながりをつくり、築き上げていったものです。私は、そのことをとても誇らしく思っています。

商大SDGs推進プロジェクト

– 2022年度から佐々ゼミで始まった「商大SDGs推進プロジェクト」についてお伺いします。ゼミでSDGsを取り上げたきっかけはなんだったのでしょうか?

横浜商科大学は商学部のみの単科大学で、将来的にビジネスの世界に進む学生がほとんどです。

そのため、これからの時代において、ビジネスの世界で「活動の中心にいる人」を育成することを考えると、今後はあらゆる企業活動と密接に関連するSDGsへの理解が不可欠であるとの認識に至りました。

そこで、最初にSDGsについて正しく「知る」ということからスタートし、全員で17のSDGs目標を一つ一つ丁寧に学びました。その後、私たちが直ぐに取り組むことのできる具体的な企画を考え、大学祭という場を手始めに実行に移すことを試みました。これが、佐々ゼミの「商大SDGs推進プロジェクト」です。

– 昨年度の商大SDGs推進プロジェクトではどのような活動をされましたか?

昨年度は、「大学」、「暮らし」、「食」の3つの分野においてSDGsを推進するための提案として、以下の3つに取り組み、大学祭で成果を発表しました。

すなわち、①大学でSDGsを推進するための「商大生が商大内で実施可能なSDGs活動の企画」、②暮らしの中でSDGsを推進するための「オリジナル・リユース商品の企画・開発と販売」、③食においてSDGsを推進するための「プラントベース食品やフェアトレード食品を使用したオリジナルメニューを提供するコンセプトカフェの運営」です。

大学祭当日は、ゼミで「SDGsコンセプトショップ&カフェ」を出店し、植物由来の原材料を使用したオリジナル料理やフェアトレードコーヒーの提供と、ゼミの学生がアイデアを出し合って企画・開発したリユース・グッズの販売、さらには「商大生が商大でできるSDGs活動」の企画の発表を行いました。

リユース・グッズの開発は、初めは難し過ぎるかと心配していました。しかし、SDGsへの理解が高い学生が予想以上に多かったことから、アイデアが次々と浮かび上がり、面白いグッズがたくさん誕生しました。また、学生たちが自主的に面白いアップサイクル商品を探し出し、仕入れて販売するということも加わり、予想以上に本格的な品揃えとなりました。

一方、カフェでは、プラントベース食品やフェアトレード食品を使用したオリジナルメニューの提供以外にも、より多くの人々にSDGsへの理解を広げるための試みをしました。例えば、食品提供時にはプラスチック食器を一切使用せず、すべてバガスから作られた再生可能なエコ食器を使用するなど、環境への配慮もアピールしました。

さらに、このプロジェクトの売上については、ゼミ生たちが協議し、SDGsの目標達成に向けた活動を推進する団体に全額寄付することとしました。寄付先については自ら検討を重ね、「子どもたちの未来を守りたい」、「教育格差を作ってはならない」といった共通の想いから、「公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン」(※)を選定し、この団体への寄付を実行しました。

(※)「公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン」…「多様な学びを すべての子どもに」というミッションを掲げ、経済的な困難を抱える子どもたちに向けて教育格差をなくすための活動に取り組む活動団体。

学生に活動を通して身につけてほしい力

– 佐々先生はゼミでの活動を通して、学生にどのような成長を期待されているのでしょうか?

私が学生に対してゼミでの学びを通じて最も身につけてほしいと思っている力は、自分の頭で考え、自分自身で判断し、それに基づいて行動する力です。

しかしながら、こうした力は大学を卒業するまでに完成するものではなく、むしろ人生の長い道のりの中で磨かれていくものだと考えています。そのため、ゼミでの学びの成果が在学中に学生たちの変化や成長となって結実することは、あまり期待していません。

大学教育は、在学中にすぐに学びの成果が出るようなものではなく、学生が社会に出て10年、20年と経過していく中で様々な問題に直面した際に、「大学で学んだことは、このときのためのものだったのか」と真価を実感できるものを提供すべきだと考えています。

もちろん学生たちは卒業するとすぐにビジネスの現場に入り、熾烈な競争に立ち向かう必要があることは認識していますが、これから先の彼らの長いキャリアを見据え、長期的な視点に立った教育がより重要であると私は思っています。

そのため、私にとって最大の喜びは、学生が卒業して社会に出た後に、ゼミでの学びが役に立ったと語ってくれることです。実際、ゼミの卒業生の中には10年・20年という時を経て、起業家や後継者として自分の力で身を立て、大いに活躍している人たちが何人もいます。また、彼らはゼミでの学びが役に立ったと言ってくれています。

学生時代に大きな成長を見せてくれることももちろん嬉しいですが、私はむしろ彼らのようになってくれることを期待しています。

佐々先生の考える起業家や後継者にとって必要な能力とは

– 地域の課題を解決するにあたって、佐々先生の考える起業家や後継者にとって必要な能力とはなんでしょうか?

私は、「自身の周囲で起こっている出来事に対する感受性や共感力」と「ヨコの関係で繋がる人びとを巻き込み、動かすプロデュース力」が特に重要だと考えています。

「自身の周囲で起こっている出来事に対する感受性や共感力」とは、身の周りで起こっている出来事に対して敏感に気づくアンテナを持っているだけではなく、その本質を見極め、具体的な課題として捉える能力を指します。

同じ出来事に接していても、いつも注意深く観察している人とそうでない人の間には大きな違いが生じます。地域社会で起こっている問題に対しても、それを具体的な課題として捉えられるか、見過ごしてしまうかで、大きな違いになるのではないでしょうか。

出来事の本質や課題をしっかりと認識し、真摯に向き合い、解決のためのアイデアを練り上げていくことができる人材が、地域の課題解決を推進する力となります。こうしたことのできる起業家や後継者が地域の課題解決に必要であると考えます。

次に、「ヨコの関係で繋がる人びとを巻き込み、動かすプロデュース力」とは、指示・命令系統の中で人を動かす上下関係でのリーダーシップとは異なり、様々な分野の専門的な知識・技術・ノウハウを有する人や組織を横断的に結びつけ、協力や協働を促進して共通の目標を達成するためのリーダーシップを発揮できる力を指します。これは、特にボランティア活動でのネットワークづくりやNPOの事業展開など、地域課題の解決に向けて共助の社会の構築を支える活動に不可欠な力です。

昨今では私たちの社会や地域の課題がますます多様化・複雑化しており、企業や行政機関といった従来のセクターでは対処できない領域の課題が増加しています。今後、この傾向はますます強まっていくでしょう。

こうした状況の中では、共助の社会の構築を支える活動がますます重要になります。そして、それに伴い「ヨコの関係で繋がる人びとを巻き込み、動かすプロデュース力」を養うことが、地域課題の解決にとって不可欠になると考えています。

今後の展望

– 今後の展望を教えてください。

私はこれまで、起業家や後継者の育成を目指して、特にゼミでは様々な活動において中心的な役割を果たせる力に照準を合わせ、それを養うためのトレーニングを行ってきました。

しかし、今後はそれに加えて、「共助の社会の発展を担える人材をどのように育成していくか」という点にも焦点を当てたいと考えています。

企業や行政機関の組織を支えてきた指示・命令系統の中で人を動かすタテのリーダーシップに関する知識は、経営学などの分野での研究を通じて蓄積され、体系化されています。しかし、協力や協働を推進するヨコのリーダーシップに関しては、知識の蓄積や体系化がまだ十分ではないと言えます。

したがって、ヨコのリーダーシップの本質やその育成方法についてさらに研究を進め、進化させていく必要があると思いますし、これはタテのリーダーシップ以上に難しい課題であると認識しています。

しかし、私はヨコのリーダーシップを発揮し、共助の社会の構築と発展を担う人材を育てることが、これからの時代の社会や地域の課題を解決するために不可欠だと確信していますので、今後はこのような活動に積極的に取り組んでいきたいと考えています。