
社会貢献活動 × Senzoku Gakuen College of Music.
今回は、洗足学園音楽大学の石井喜久子教授に被災地支援、社会連携・社会貢献の活動内容と、この活動による学生たちへの教育効果についてお話をお伺いしました。
洗足学園音楽大学の紹介

洗足学園音楽大学は、創設者である前田若尾先生が1923年(大正12年)に私塾を開いたことに由来する、1967年設立の音楽大学です。「理想は高遠に、実行は卑近に」という建学の精神を受け継ぎ、単に専門分野の知識や技術のみの習得を目指すのではなく、豊かな人間性を養うことを重視した教育を行っています。
管楽器や弦楽器、打楽器など楽器演奏を極めるコースだけでなく、ミュージカルやバレエ、作曲、音楽・音響デザインなど、多彩な19のコースを設置しており、多様なコースと自由度の高いカリキュラム、そして一流の指導陣からの学びから、音楽に対するより深い理解や豊かな音楽表現を身につけていきます。
また、学びの成果を発表する場として、年間200回を超える演奏会を開催しています。各コースの演奏会はもちろん、一流の国際的な音楽家の指揮や指導による演奏会、ジャンルの枠にとらわれない様々なコースの競演も多数あり、実践力を高める貴重な機会となっています。
このように、本学では音楽の既成概念にとらわれない学校づくりを目指しています。
被災地支援チームのチャリティ活動

本学は、東日本大震災後にいちはやく被災地支援チームを組織し、学生と教職員が連携してボランティア活動に参加してまいりました。被災者の方々の心を明るくするために「音楽で笑顔を届けよう」という志をもった仲間が集い、私を含む5名のメンバーが茨城の避難所を訪れました。
当初は目の前の生活を何とか立て直すのに奮闘し、音楽に向き合えない現実に直面しました。しかし、それでも電子ピアノを携え、歌を披露することで、だんだんと音楽を純粋に楽しむ雰囲気になり、私たちも被災地の方々の心に寄り添えるようになりました。
震災から一年後、約20名の教員と共に、被災した東北地方の学校を訪れました。吹奏楽部の活動ができない状況にある子供たちに対し、楽器の指導や様々なお話を通じて交流を行いました。
活動二年目には、会津で最初の大規模なコンサートを開催しましたが、まだ生活が大変な時期だったため、音楽を聴く気持ちを持っている方は半数程度でした。
震災から10年間、毎回異なる場所を訪問し演奏活動を行ってきましたが、500人、700人と年々観客が増えていき、我々も音楽の「力」を実感する機会となりました。
-チャリティ活動の告知および広報は、どのように行われましたか?
自治体、地元のコミュニティスペース、および図書館などの文化施設を訪ね、イベントのチラシを設置・配布させていただきました。同時に、生の演奏をお届けするために地元の教育委員会とも連携を図り、多岐にわたる宣伝にご協力いただきました。また、学生たちが貴重な経験を積む場となるべく、多くの方にご参加いただきたいと考え、地元のラジオにも出演し、積極的に広報活動をしました。
チャリティ活動を通じた学生たちの成長

-具体的に、この活動を通して学生たちが成長しているなと感じられた瞬間はありましたか?
この活動は10年にわたり、継続されました。最初は私と数名の教員が学生たちを指導しながら進めていましたが、5年目あたりからは学生たちが日々の授業やレッスン、練習などの忙しさの中で、チャリティ活動も同時に準備を重ね、自主的に動くようになりました。これは、強い意志がなければ成し遂げられないことだと思います。
コンサートの終了間際には、演奏者が客席に下りて皆さんと一緒に歌う瞬間があります。この時、地元の方々から「来てくれてありがとう」と感謝の言葉をたくさんいただきました。学生たちはこの経験を経て成長し、自主的に行動するようになったと思います。
また、チャリティ活動を通じて、学生たちの”心から誰かのために尽くしたい”というボランティア活動への意欲が高まり、初めは私が指示を出していましたが、次第に学生たちが主体的に行動する姿勢が見受けられ、頼もしく感じました。
社会連携・社会貢献活動へ
-コロナ禍以降、現地に出向いて実際に演奏することが難しくなってきた中で、活動内容が変わったとのことですが、経緯を教えてください。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、これまでの活動が制約を受ける中で、被災地支援にとどまらず、広範な社会連携・社会貢献活動を展開することを目指しました。
本学は、「音楽のまちかわさき」として知られる川崎市にあり、演奏会をはじめとした音楽活動を通して、地域のみなさまに、様々な音楽を提供しています。
チャリティ活動の中で印象的だったこと
-被災地支援、社会貢献活動を通して、石井先生の中で一番印象に残っている地域の方々からのお声はどんなものでしょうか?
被災地を訪問した際に、家族が津波で流されたという方が「本当に気持ちが沈んでいて、今日コンサートに行くかすごく迷ったけれど思い切って来てよかったです。」とおっしゃってくださいました。
その後、大学でその地域の方々を本学に招いて演奏会を行ったのですが、その方がお越しになり、「あの時に聞いて、どうしてもまた聞きたくて来ました。」と仰ってくださいました。
その瞬間、本当にやっていて良かったなと思いましたし、学生たちにもその話を伝えて、一緒に喜んだのをよく覚えています。
今後の展望
-現時点で、今後川崎市と連携した活動をする予定はありますか?
被災地支援の活動は現在は行っておりませんが、本学としては日々変化する時代のなかで、被災地支援活動の経験を活かし、今後も一層大きな社会貢献ができるよう努めていきたいと考えています。
今後も引き続き、学内においては地域に開かれた演奏会を実施し、その他学外においては、吹奏楽部の楽器指導や学外での演奏など、音楽の活動を通して文化的な価値を発信してまいります。
さらに、学生たちがこの活動を通して楽器を学ぶだけでなく、人として成長できるよう、人との繋がりの重要性を感じ、感謝の気持ちを持って自身の音楽活動を続けてもらいたいと願っています。