
SDGs 大学プロジェクト × Kyoto Bunkyo Univ.
目次
京都文教大学の紹介


京都文教大学は、1996(平成8)年、京都府宇治市において開学した私立大学です。
本学は、仏教の教えである「四弘誓願(しぐぜいがん)(※1)」を建学の理念に掲げ、この言葉をわかりやすく表現した「ともいき(共生)(自己と他者とがともに幸せを感じられる状態)」を大切に、「ともいき」を創造できる「ともいき人材」を育成することを教育目標としています。そのため、本学では学びのフィールドをキャンパスのみにとどめず、地域全体をキャンパスに「大学」「地域」「企業」、そして「行政」が連携を図りながら、さまざまな人との出会いとつながりを大切に、地域に開かれた大学として進化を続けてまいります。
地域まるごとを学びのフィールドとして位置付けた「ともいきキャンパス」において、「地域との出会い」を大切に、多様な体験を成長の力とした「可能性との出会い」、就職支援・キャリアサポートを重視する「未来との出会い」という3つの出会いを結び付け、学生の成長を後押しします。
学生たちには、一人ひとりが認め合い、互いに生かし合うことと、他者の幸せを自分の幸せと感じることができるように成長し、専門分野を問わず、困難を抱えた人、自分と違う立場や考え方の人など、どんな人にも寄り添い、ともに生きていける社会、自分も生かされることのできる社会を一緒につくっていけるようになってもらいたいと思います。
本学は現在、総合社会学部、臨床心理学部、そして、こども教育学部の3学部4学科13コースを設置し、それぞれ、専門の分野を学び、将来、地域社会に貢献できる人材となれるよう研究・実践を積み重ねており、学生たちの将来に向けて、教職員一丸となって支えてまいりたいと存じます。
(※1)四弘誓願…すべての仏・菩薩が起こす4つの誓願のことで、他者の幸せに貢献する「衆生無辺誓願度」、己を厳しく律する「煩悩無量誓願断」、何でも学びとる精神をもつ「法門無尽誓願学」、必ず人格の完成を成し遂げる「仏道無上誓願成」の4つ誓いのこと
地元を元気に!「宇治☆茶レンジャー」プロジェクトの全貌
– 宇治☆茶レンジャーとは、どんなプロジェクトですか?
京都文教大学の「地域連携学生プロジェクト」のひとつです。
京都文教大学では、地域を対象とする学生の自主的活動のなかから、地域特性を活かしつつ、成果が期待できる取組を「地域連携学生プロジェクト」として選定し、支援、助成しています。学生たちが地域課題を見つけ、地域の方々の協力を得ながら自ら進める課外活動です。
宇治茶は、京都・奈良・滋賀・三重の四府県産のお茶として、鎌倉時代に栽培が始まったとされ、日本の歴史と文化とともに、その歴史を刻んでまいりました。そのような中、京都文教大学の学生有志が課外活動として、宇治茶の歴史や文化、味の違いを学び、感じた魅力を広く地域に発信する目的で立ち上げたのが宇治☆茶レンジャープロジェクトになります。
宇治☆茶レンジャーは、2010年、宇治茶の魅力を発信するイベントとして、「親子で楽しむ宇治茶の日」を本学の学生たちが企画・実施したことに端を発し、以後、毎年多くの方々の参加のもとで、宇治市の秋を彩る一大イベントに育ってきました。
また、京都・宇治市を訪れる観光客への宇治茶接待や、地域の子どもたちを対象とした「美味しいお茶の淹れ方ワークショップ」など、地域と協働した取組みも数多く行っております。
誕生秘話!地域愛が生んだユニークプロジェクト
– 始めたきっかけを教えていただけますか?
宇治☆茶レンジャーの発足は、2009年度、アドバイザー教員である森正美先生(現学長/総合社会学部 教授)が担当していた3年次生のゼミでの活動がきっかけになります。
ゼミでは、世界遺産の「平等院」の近くにある「宇治橋通り商店街」をフィールドに、地元の小学校と連携を図りながら、地元のフェスタ(宇治橋通り笑顔いっぱいわんさかフェスタ)への参加を目標に、商店街の各店舗を調査し、お店にまつわるクイズを作成、それを用いたクイズスタンプラリーを企画・実施しました。
スタンプポイントを得られる店舗の中には、宇治茶を扱う老舗のお茶屋さんも含まれており、ゼミを通して、学生たちが商店街というものについて学び、特に宇治茶を扱うお店に対して興味を持つようになりました。さらに、翌年(2010年)度のゼミでは、「宇治茶」に注目し、お茶屋さんや宇治茶に縁のある施設を巡るスタンプラリーを企画・実施しました。これが第1回目の「宇治茶スタンプラリー」です。
「宇治茶スタンプラリー」の運営は、当初、ゼミ中心で行われましたが、ゼミ生だけでは人手が足りなくなり、また、ゼミ生以外にもこの活動に興味を持った学生たちが集まりだしたことから、「宇治☆茶レンジャー」というプロジェクトチームを立ち上げることになりました。
その後、宇治☆茶レンジャーは、地域に根差した課外活動団体(地域連携学生プロジェクト)として学部や学年を越えた有志メンバーによるプロジェクトチームとして、発展していき、現在に至っています。
宇治☆茶レンジャーの使命!茶文化を守り、伝えるために
– 宇治☆茶レンジャーの活動目的を教えてください。
宇治☆茶レンジャーの活動の目的は、宇治茶の美味しさと楽しさを、年齢に関係なく多くの方々に知っていただけるように伝えていくことにあります。
ペットボトルの普及により、急須でお茶を淹れる習慣が残念ながら薄れつつあります。特に、宇治市で暮らしているにもかかわらず、急須で淹れた宇治茶を飲んだことのない方々も少なくありません。そのような方々に急須で淹れた宇治茶を飲んでいただくことで、急須で淹れるお茶の美味しさを伝えたいと考えています。
また、「お茶を楽しむ時間は家族や友人とのコミュニケーションを育む時間である」という思いから、家族のコミュニケーションを深めることも目的の1つとしています。
また、宇治を訪れてくださった方々に宇治茶の魅力を伝えて、その方々が帰宅してから家族や友達にも宇治茶の魅力を広めてもらえるように、宇治茶の魅力を様々な形で伝え、京都・宇治を全国に知ってもらえるようになることも目的にしています。
プロジェクトが学生に提供する学びとは
– 宇治☆茶レンジャーは、学生たちにどのような学びや体験を与えているのでしょうか?
宇治☆茶レンジャーは、課外活動団体であり、学部も学年も異なるメンバーが在籍しています。
年度当初に新しくメンバーに加わった学生たちとともに、メンバー全員で、宇治茶の歴史や文化を紹介・体験する施設「お茶と宇治のまち歴史公園 茶づな」や、お茶に親しむ体験施設「宇治茶道場 匠の館」などに出向いて、宇治茶についての基本的な知識を学びます。また、「茶づな」ではこのプロジェクトの卒業生が学芸員として働いており、後輩の学びのサポートに尽力してもらっています。
さらに、イベントでもお世話をいただいているお茶屋さんへの訪問を通して、お店の成り立ちや、こだわりなど、店舗ごとの個性についても学んでいきます。地域において、プロジェクトに携わる学生たちをサポートしてくれる土壌もできあがっており、地域のサポートのもとで学びを深めています。
このプロジェクトが一定の成果を上げている背景として、本学が宇治市に本拠を置く唯一の大学として、地域連携に力を注いでいるという特徴と、プロジェクトのアドバイザーであり、早くから地域で学ぶことの大切さを実践してきた森先生の存在が大きいものと感じております。これまでに先生が培ってきた茶業界とのつながりにより、地域のみなさんも学生たちを認知してくださっており、学びや事業実施についてのサポート体制が確立されております。
また、宇治☆茶レンジャーの定期ミーティングでは、メンバー同士がお茶を淹れ合い飲みながら打ち合わせを行っています。新しいメンバーの中には、急須でお茶を淹れた経験のない学生もおり、この定期ミーティングを通して、急須でお茶を淹れる習慣を身に付けてもらい、この経験を活かした地域イベントととして、子どもたちと一緒に急須でお茶を淹れるワークショップを開催しています。
茶園から学ぶ、地域貢献の現場
– 宇治☆茶レンジャーでは、具体的にどのような活動を行っていますか?
宇治☆茶レンジャーは、宇治茶の魅力を広めるために宇治のまちを中心に様々な活動を行っています。その具体的内容として、次のようなものがあります。
宇治茶スタンプラリー(2010年度 ~ )
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2010年度から始まった「宇治茶スタンプラリー」は、コロナ禍で様々なイベントの中止を余儀なくされた2020年度を除いて毎年実施しており、2023年度で13回目を迎えました。
具体的には、中宇治地域のお茶屋さんや、お茶に関する施設など約20カ所に協力いただき、中宇治地域を周遊するデジタルスタンプラリーを実施しています。
うち7カ所では、学生たちが問題を考え出したお茶や地域に関するクイズを出題しており、親子など、訪れる人々とコミュニケーションを交わし、宇治茶についての学びを深めるきっかけづくりを行っています。
美味しい宇治茶の淹れ方体験(ワークショップ)
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小学生の児童たちを中心に、子どもをメインターゲットとした、お茶淹れ体験のワークショップを開催しています。内容としては、学生たちが子どもたちに、急須で美味しくお茶を淹れるコツをわかりやすく伝えるもので、プロジェクト主催のイベントや、大学行事、地域イベントに出展し、年間10回程度開催しています。
お茶当て☆茶レンジ(茶香服体験)
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2023年度に新たな取り組みとしてスタートさせました。数種類のお茶を飲み、その種類を当てる「茶香服(ちゃかぶき)」を子ども向けに実施しています。
2023年度は、プロジェクト主催のイベントや大学行事、地域イベントなどで年間2、3回実施しました。2024年度は、学外のイベントやお祭りなどでも実施したいと考えています。
聞き茶巡り(2011年度 ~ 2019年度)
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中宇治(平等院周辺のエリア)のお茶屋さんに協力をいただき、試飲を楽しみながらお茶屋さんを巡るイベントとして実施しています。参加する際に、オリジナル茶器(湯呑)と無料試飲券5枚付の「聞き茶巡りセット」をワンコイン(500円)で購入し、10店舗ほどある協力店舗の中から5店舗を選び、店主との会話と、店主自らが淹れるお茶を味わうイベントになります。当初は宇治茶スタンプラリーと同日開催で実施していましたが、その後、ツアー形式に変更し、学生がガイドとして付き添いながらまちの散策も併せて楽しむ形に変えました。
2020年度、コロナ禍で飲食イベントが懸念されたことで中断し、それ以降は実施できていません。
なお、コロナ禍により、全国的に様々なイベントが中止される中で、宇治☆茶レンジャーのプロジェクトの起源ともいえる「宇治茶スタンプラリー」は、宇治☆茶レンジャー発足当初より実施しており、コロナ禍以前は、1日限定の対面式イベントとして行っていましたが、コロナ禍以降、非接触でも可能となる「デジタルスタンプラリー」として再構築いたしました。
また、実施期間も1日のみでなく、3週間〜1か月とし、期間中の週末(土日祝)限定で、プロジェクトメンバーの学生たちが現地で対応に当たる形式で実施しています。
地域と手を取り合う連携戦略
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– どのような形で地域との連携を図っているのでしょうか?
宇治茶スタンプラリーなどの大型イベントの予算を確保するため、京都府茶業会議所が主催する茶業会議において、「宇治茶振興助成事業」に申請・認定してもらうことで必要な経費の一部を得ています。
京都府茶協同組合との連携については、メンバーの学生達が茶業界主催のイベントや、行事へのブース出展、イベントスタッフとして参加する一方で、京都府茶協同組合から宇治茶スタンプラリーの景品を提供していただくとともに、ワークショップの資料として組合発行の「宇治茶大好き」を活用させてもらっています。
行政である宇治市には「宇治茶スタンプラリー」で後援をいただく一方で、市主催のイベントにおいて、本学のメンバーがお茶淹れワークショップを実施するなど、相互連携を図っています。
また、近隣商店街との協力関係についてですが、商店街主催のイベントに本学のメンバーが参加し、ブースの出展や、ワークショップの開催を行っています。宇治茶スタンプラリーでは、スタンプラリーのエリアとして、各商店街にあるお茶屋さんにスタンプポイントとして、ご協力いただいております。
商工会議所とのかかわりについては、宇治☆茶レンジャーはもとより、本学の地域連携学生プロジェクトに携わる学生たちが、商工会議所の会員企業を取材し、記事にまとめ、会議所の刊行物等に掲載してもらう取り組みを続けています。また、商工会議所には、宇治茶スタンプラリーの景品も提供いただいております。
これまでの軌跡と成果
– 多くの方々との協力でプロジェクトを成功に導かれてきたんですね。これまでの成果や実績についてお伺いしてもよろしいでしょうか?
宇治☆茶レンジャーが活動を始めた2010年頃は、海外からの観光客も今ほど多くなく、当時、平等院鳳凰堂の改修工事が行わていたこともあって、工事期間中の2、3年間、訪れる観光客が激減し、平等院周辺のお茶屋さんにとって、非常に厳しい状況を余儀なくされました。
宇治茶を扱う老舗は、一般の人には敷居が高く感じられ、入りづらいと感じているようでありました。そのような状況にありながら学生たちが企画した、親子を対象とする「宇治茶スタンプラリー」は、子どもたちに好評で人気を博すようになり、また、「聞き茶巡り」ではイベントを進めるためにはお茶屋さんに入らなければならず、結果、敷居の高さや、入りずらさを軽減してくれることにつながりました。
実際に「聞き茶巡り」に参加した方々からは「イベントの後に再度そのお店を訪問しましたよ」という声も聞き、お茶屋さんを身近に感じてもらえるきっかけ作りに寄与できたものだと思っております。
宇治☆茶レンジャーの活動以前は、多くのお茶屋さんが一同に会するイベント等の実施がほとんどなかったことから、宇治☆茶レンジャーにおいて進めるこれらのイベントは、お茶屋さんや茶業界をつなぐ大きな役目も果たしているものと考えています。
宇治☆茶レンジャーのプロジェクト活動は、チームとして運営するため、メンバーの個性や特技、特性を認め合いながら進めていくこととなり、メンバーの中には、話すことが苦手で、そのことをコンプレックスに感じている者が、いざイラストを描いてみると、飛びぬけて上手だったり、細かな作業が苦手でも、大きな声でチームのムードメーカー的な存在となる学生がいたりすることから、プロジェクト活動を通して、個々の強みを知ることができた学生が多くいたように感じました。
また、最初は自分の意見を言えない、引っ込み思案な学生が少しずつ気持ちを伝えられるようになり、3年生になった頃にはチームをまとめる代表を務めるまでに至るなど、自分でも気づいていなかった力を発揮する学生もいました。学生同士の議論だけでなく、協力してくださる地域の方々と話をしたり、調整を図ったり、議論の過程において怒られることもありますが、それらの経験も大学内のみの活動では決して得ることのできない貴重な経験となっています。
また、プロジェクトを通して、普段の大学生活では接することない茶業界や、お茶屋さんなど、いわゆる「学外の大人」とかかわり合いを持つことで、働く大人たちの仕事に取り組む姿勢や、情熱や熱意、仕事への向き合い方などに直接触れることができたことは、学生自身の将来のキャリアを考えていく上で、非常に素晴らしい経験と刺激を与えてくれたものと存じます。
また、地域にかかわることにより、まちづくりの素晴らしさや、地域での役割についても学べたことが、将来の進路選択にも大きな影響を与えてくれているものと考えております。
次世代へつなぐ!宇治☆茶レンジャーの挑戦
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– 今後のビジョンと展望について、教えてください。
プロジェクトを実施していく上で、コロナが大きな影響を与えました。
特に、2020年度においてはすべての行事が中止となり、翌年度以降も、制限のある中でプロジェクトを進めていくこととなり、特に、飲食を伴う「聞き茶巡り」の再開に至らないまま3年が経過しています。学生たちは、年度を境に代替わりするため、コロナ禍による影響は非常に大きく、現在在籍している学生たちは、コロナ前の「宇治茶スタンプラリー」や「聞き茶巡り」を知りません。
一方、地域の状況も変わってきており、発足当初の2010年頃に比べて観光客数が格段に増えています。海外での宇治茶人気も絶大で、お茶屋さんを訪れる海外からの観光客の数も多くなっていると実感しています。コロナ以降、ここ3年間は一度途絶えかけてしまったプロジェクトの立て直しについて議論し、「現状でできることをやる」ということを念頭に掲げて取り組んできました。
人と人との接触を避けるため、スタンプラリーを従来の方法からデジタル化に変更し、少ないスタッフでも取り組めるように工夫を凝らしてまいりました。その結果、この3年間で地域イベントもコロナ前のように実施できるようになり、イベントに参加できる機会も増えてきました。
今後は、「今、この地域にとって、宇治茶にとって必要なこととは何か?」ということを考えながら、プロジェクトの推進に向けての土台作りに力を注いでまいりたいと存じます。