
国際金融市場についての可能性と重要性:中田勇人教授の研究
目次
中田勇人 教授の経歴と研究内容
早稲田大学から一橋大学院を経て、2020年から明星大学にてご活躍されている中田勇人教授は、途中一年間カナダの在外研究員としてのご経験もある国際金融市場の専門家です。
国際金融市場に関する研究を行われており、近年は石油価格などのエネルギー価格のショックが日本経済やアジア経済に与える影響といった研究もされています。
国際金融市場の統合とその研究の背景
中田勇人 教授に国際金融市場の統合とその背景についてお聞きしました。
研究の背景と動機
この研究を始めたきっかけは、国際金融市場のようなものが統合すると、各国の金融市場でリスクが減少し経済構造が改善するのではないかという少し抽象的な興味からでした。
現在はより具体的なテーマに焦点を絞っており、アジアの株式市場の株価について研究しています。金融市場の統合に伴い株価の相関性が重要な話題となっていますが、私は最近はその株価の変動と、石油価格などの外部ショックとの関連性についても研究しています。
研究目的
金融市場が統合すると、株価がより強く連動するのではないかという話題があります。一般的には、日本の株式市場もアメリカの株式市場の影響を強く受けるとされています。
もちろん、取引の自由化や規制の問題も重要ですが、もう一つ考えられるのは、最近のパンデミックのような世界的なショックが存在するため、両市場に同じような反応が起こっているということです。そこで、ウクライナでの戦争のような外部のショックを取り除いた場合に、どの程度株価が連動しているのかを分析し、アジアの株式市場が統合しているように見えるかを研究したいのです。
研究目的は、2つの理由による影響を区別して考えることです。1つは同じような人が日本でもアメリカでも取引をしているから株価が同じように動くという考え方です。もう1つは共通の株価動向の原因があるから、同じように株価が動くのだという考え方です。
研究背景
この話を考える背景として、海外の投資に関心を持つ場合、特にアジアに注目することが多いと考えられます。しかし、アジア諸国、例えばタイやインドネシア、フィリピンなどを考えると、投資に対する規制は必ずしも自由化に向かって進んでいるわけではありません。
実際には自由化が停滞している国や、規制が厳しくなっている国も多いです。これは、金融市場の自由化には一定のリスクが存在するためです。しかし、データを見ると、インドネシアもマレーシアも、アジアの株式市場はやはり同じように動いていることがわかります。つまり、それぞれの国の市場が切り分けられているにもかかわらず、同じような動きをしているのではないかという疑問が生じます。
自由化をすれば何かしらの相関が生まれるというシンプルな考え方があるかもしれませんが、実際には必ずしもそうではないということが示唆されるのです。
金融市場統合
金融市場の統合については、2つの側面で考える必要があると思います。一つは、G7などの先進国を中心に見た場合、これらの市場は自由に取引できるという意味で統合されていると言えます。しかし、中国やインドネシア、タイなどを考えると、必ずしも自由な取引ができるわけではありません。それでも、これらの国々の株式市場が目先で一緒に動いているように見える場合に、その理由を探求しているのです。
私が研究を始めたのは1990年代で、その当時は日本は不況でありながらアメリカは絶好調の景気でした。日本とアメリカに投資を分散させることで、リスクを抑えることができると考えられました。つまり、日本の景気が悪いときはアメリカのポートフォリオが利益をもたらし、アメリカが不調なときは他の国の投資で補える可能性があるわけです。これが私が最初に興味を持った背景です。
当時は、金融市場が統合されれば全体的に良い方向に向かうという考え方が一般的でしたが、その後、問題が出てきました。新興国の金融市場で混乱が生じたり、世界金融危機(2007〜2010年)が各国市場に影響を及ぼしたことなど、統合の利益について疑問が生じたのです。
ただし、現実には国際的な投資は自由化されており、NISAなどで利用できるグローバル信託が沢山存在しています。皆さんが自分のお金を国際金融市場で動かしている現状を考慮すると、統合された市場についての知識を持つことは重要だと思います。リスク分散のためにさまざまな国の資産を持つことは有益な側面もありますが、いつでもそれが最適な選択肢とは限らないということを念頭に置く必要があります。
株式市場を中心とする金融統合のトレンド
1990年代以降、先進国の市場についてはすでに統合が進展していて、規制や実際の取引の面でも統合されていると思います。一方で、新興国では意外とまだ規制が行われており、時間が経つにつれて自由化されているわけでもないということがあります。
おそらく新興国と先進国の2つを分けて考えた方が良いということです。私たちが自由だと思っているのは、あくまで先進国に限ったフィールドでの自由であり、実際に日本や世界全体を見据えたときには特別自由ではないことを、幾ばくか認識していた方が良いと思います。
国際金融市場統合の経済への影響
色々な国の資産を持つことによって、各国の投資家がリスクを抑えることができるというのが、ある意味理論的に考えられる影響だと思います。資金を調達する側としても、色々なリスクをシェアすることで、特に新興国などではより安い金利で資金を調達することが可能かもしれません。それが実現すれば、投資を増やすことができ、経済成長を促進できる可能性があります。
2000年代では、こうした理論によって非常にポジティブな展望が示されていました。
メリット
金融市場の統合という観点では、新たな投資対象が増えるという期待が存在します。また、国際金融市場の統合においては、すでに実現されている側面が強いと考えられます。
たとえば、規制の緩和により可能になった代表的な投資の一つがFX(外国為替取引)です。かつては金融機関以外では規制が厳しかったため、個人がFXを行うことは難しかったのですが、2000年代初頭に規定が緩和され、今では個人でも為替取引を行うことができます。
ただし、他の国々ではまだまだFXが制限されている場合もあります。新たなビジネスチャンスとして、これまで開拓されてこなかった例では、近年成長してきたアフリカの新興国などがあります。アフリカや南アメリカといった新たな市場に目を向けることで、新しいビジネスが生まれる土壌となる可能性があります。
逆に、新興国などで自由化が進展する場合は、日本で発展したFXのような業界のノウハウを持ち込むことができるかもしれません。そのため、将来的な変化によっては、日本が自由化された市場で色々なビジネスを展開するチャンスが生まれる可能性もあります。
デメリット
個人や投資家レベルのデメリット、市場全体のデメリットというのがありますが、国家投資などに関わる場合は常に課題やリスクが伴います。特に自分が相対的に詳しくない市場に投資をする場合、損失を抱える可能性があります。
昔、アルゼンチンの国債価格が経済危機で暴落し、日本の投資家も大損したという話がありましたが、実際には新興国などの資産は見た目に利回りが高く見え、それを知識が乏しい人々に買わせることがあります。
しかし、こうした資産は実際は非常に高いリスクが伴い、場合によっては大きな損失を出す可能性があります。そのため、こうした市場に投資する前によく知っておくべきことがありますし、単純に利回りが高いというだけで投資を決めるのではなく、充分にリスクを考慮する必要があります。
途上国のハイリスクハイリターンと判断
これは非常に難しいところで、途上国では資産の種類が多くないため、国債などが主な選択肢となります。国債は先進国では安全な手段の代表格と思われますが、アフリカや南アメリカでは簡単に信用するわけにはいかないこともあります。アルゼンチンやエクアドルなどの国債にも格付け機関による格付けが存在するものの、完全に信頼して良いというわけではありません。したがって、最低限のチェックは必要です。また、過去にその国がデフォルトをしたかどうかの履歴は調べることができるので、そうした情報も確認した方が良いと思います。
第三者機関の調査結果に基づいて信用できるか否かを判断したり、そういった情報がない場合にどの程度のリスクを負担するかを検討する必要があります。
その他のリスクとしては、国全体のリスクに関連して、先ほども述べたように小国は一度に大量の資金が流入・流出するため、マーケットが不安定化する可能性があるという点が挙げられます。
統合が進むと、各国の市場に同じ投資家が参加することになり、世界金融危機のようなパニックが発生した場合には、どの国の資産価値も下がってしまうという問題が発生することもあります。
これまでの分散投資の利益は、色々な国の資産価格がバラバラに動くことで全体的な利益が安定するという点にありました。しかし、統合が進むと各国の資産価格は意外と同じように動く傾向があります。全く同じものを分けているように見えるけれども、実際は同じところに投資しているだけなので、本当のリスクの分散にはつながらないということです。
国際金融市場統合の学習リソース
最終的には、色々な論文を読むことにもなりますが、国際金融や国際ファイナンスという分野もあります。
現実の動向について研究する分野であり、まずは日本経済新聞などのメディアで国際金融市場に関するニュースを追うだけでも非常に効果的だと思います。さらに、公的機関が情報を提供している場合もありますので、例えば日本銀行が出している読みやすい報告書なども参考にできます。こうした情報を読むことは非常に有益です。
日本銀行以外にもシンクタンクなどが資本市場に関する記事を発表しているので、それらも読むことをおすすめします。
情報の入手方法
日本の情報収集ツールを使って取得する方法や、海外のメディアから日本人にはない視点の情報を得る方法もあると思います。何が正しいかといえば難しいところで、直接研究のアイディアを得るためにはやはり論文などが必要になってきます。
金融問題に関する研究については、学術雑誌の他にも、IMF(国際通貨基金)やアジア開発銀行などの国際機関が色々なワーキングペーパーやディスカッションペーパーを出していますので、ある程度知識を身に着けた方、専門家手前の方にはそういったものも非常に参考になるかと思います。
知識のない方が情報収集を行う場合は、例えばエコノミストのような雑誌を読むことはとても有益だと思いますが、まずは日本経済新聞の記事を読み込むことから始めるのはいかがでしょうか。日経新聞などを読んで自分の解釈を加え、人とディベートなどができる域に達してから、次の一歩として海外の情報誌やシンクタンクなどのメディアを通じて、自分の価値観がどれほど正しいのかを実証するといった段階を踏んだ方がより適切ではないかと思います。
今は本や新聞といったメディアだけでなく、学生なども含めて実際に投資をしている人は、ブログなど他の投資家から発信される情報も取得しています。もし本当に投資をするのであれば、そういう情報を参考にすることも大切かもしれません。
今回の話とは直接結びつかないかもしれませんが、外国為替などは取引にスピードが必要になってきますので、アルゴリズムを使った自動的な取引をしている人も多いのです。こうした情報は当事者が発信するブログなどが参考になります。
世界的金融の要素を理解した活用法
落とし込みという意味であれば、要するにその方法にこだわらずに投資を行うことも考えられます。投資対象も投資信託のようにある程度リスクの低いものからになると思いますので、日経新聞などでしっかりとニュースを追っていきながら適切に売買していくのはいかがでしょうか。もう少し専門的な記事を読みたいという場合は、日本語の金融系記事も出ていますので、ブルームバーグなどが参考になるでしょう。
国際金融市場統合の学習の重要性
ビジネスパーソンとして、国際金融市場に関する知識と情報を持たないことは避けられないと思います。今回は投資の話をしましたが、私が知っている研究者たちは、企業の為替リスク管理などを研究しており、投資と同様に企業の業績にも大きな影響を与えることを理解しなければいけません。
したがって、国際金融市場の情報に敏感になることは、どの業界の人にとっても重要な課題だと考えます。そして、海外との取引に関係なければ必要ないかというと、そうではなく、リーマンショックやパンデミックのような時期は特に、日本経済は海外の動向から大きな影響を受けやすくなっています。したがって、海外の動向が日本経済にどのように影響するかを理解するためにも、国際金融について学ぶ必要があると考えています。
▼取材にご協力いただいた中田勇人 教授のHPはこちら 中田 勇人|教員紹介|明星大学大学院 経済学研究科 応用経済学専攻