持続可能なまちづくりのための交通行動システムに関する藤井聡教授の洞察

藤井聡 教授の紹介

京都大学大学院工学研究科教授、1968年生。
京都大学卒業後、スウェーデンイエテボリ大学心理学科客員研究員,東京工業大学教授等を経て現職。
2012年から2018年まで内閣官房参与。
専門は、国土計画・経済政策等の公共政策論.文部科学大臣表彰等、受賞多数。
著書「ゼロコロナという病」「こうすれば絶対良くなる日本経済」「大衆社会の処方箋」「列島強靭化論」等多数。
テレビ、新聞、雑誌等で言論・執筆活動を展開。
東京MXテレビ「東京ホンマもん教室」、朝日放送「正義のミカタ」、関西テレビ「報道ランナー」、
KBS京都「藤井聡のあるがままラジオ」等のレギュラー解説者。
2018年より表現者クライテリオン編集長。

交通に関する持続可能なまちづくりの視点


–持続可能な交通システムの具体的な実現方法と社会への影響について教えていただけますか?

政府が持続可能な交通システムについての投資を大規模に行うことですね。
第一に全国で想定されている新幹線ネットワーク計画を全て実現する、
第二にそれと同時に、並行在来線についても複線化等をはかる。これらを通して、都市間交通における大幅なモーダルシフトを促す。
第三に、それらの新幹線駅、在来線駅からのフィーダー交通を、私鉄、地下鉄、そしてLRT(ライトレール)、さらにはBRT(Bus Rapid Transit)、バスを中心に整備していく。
さらには、これらの投資にあわせて、自動車交通利用について、とりわけ都心部において抑制するためのロードプライシングや流入規制等を導入していくことが必要です。そして、公共交通システムの周辺に、大型の投資を進め、自動車に頼らなくてもよい街を整備していくことも重要です。

これらの投資を中心とした諸政策が成功すれば、大きくモーダルシフトが起こると同時に、公共交通周辺の土地利用が高度化すると同時に、郊外のロードサイドビジネス(小売りから宅地販売まで含む)が後退していく事になるでしょう。
そうなれば、地域コミュニティの凝集性が高まると共に、地域コミュニティが主体となる地域産業が活性化していくと同時に、人々の健康も増進する事になるでしょう。

※ モーダルシフトとは、トラックによる幹線貨物輸送を、「地球に優しく、大量輸送が可能な海運または鉄道に転換」することをいいます。

土木計画と人文社会科学の統合

–藤井教授がおっしゃっているように、土木の進め方には人文社会科学が関わっていると思います。土木計画と人文社会科学の統合がなぜ重要であり、具体的な研究成果や取り組みについてお話いただけますか?

土木計画というのは、基本的にくにづくり、ちいきづくり、まちづくりを目的としてインフラを整備し、運営していく行為です。

こうしたインフラの整備は、人々の意志決定の帰結であり、運営は 社会の運営そのものを意味します。したがって、必然的にあらゆるタイプの人文社会科学が土木計画においては必要となるわけです。

まちづくりにおける交通マネジメントの役割

–交通マネジメントはまちづくりにおいて重要な要素だと考えられます。具体的な交通マネジメント手法や政策について、教えていただけますか?

我々が長く取り組んできたのは、モビリティ・マネジメントと呼ばれる、モーダルシフトを中心として、人々の意識や行動に働きかける取り組みです。

交通インフラ投資の効果を最大化するためにも、こうしたソフトなモビリティ・マネジメントが必要なわけですね。いろいろな都市で実践してきましたが、適切に行えば、少なくとも対象者の1~2割程度の自動車利用において何らかの転換が起きることが知られています。

※ モビリティ・マネジメント(MM)とは、当該の地域や都市を、「過度に自動車に頼る状態」から、「公共交通や徒歩などを含めた多様な交通手段を適度に(=かしこく)利用する状態」へと少しずつ変えていく一連の取り組みを意味するものです。

交通インフラとまちづくりの相互関係

–まちづくりにおいて交通インフラは欠かせない要素です。交通インフラの計画・設計において、まちづくりの視点をどのように考慮しているのか、具体的な取り組みや事例についてお話いただけますか?

京都のまちづくりにおいて、交通は必須です。交通が無ければ人が集まらず、賑わいが生まれません
例えば、四条通は、自動車の車線を4車線から2車線に削減し、その空間をつかって歩道を拡幅しました。
その結果、自動車で来訪する人が減ると同時に、歩行者が増え、街の賑わいはさらに活性化しました。
あるいは、金沢は新幹線が開通することで、駅前の開発が大きく進み、人口や経済規模が拡大するのみならず、都市施設の質的な水準が大きく向上しました。

そして、そうしたまちの発展が新幹線の利用増をもたらすという好循環が起きています。
こうした好循環で都市は形成されるわけで、交通とまちづくりの一体的推進は、まちづくりにおいて必須中の必須なわけです。

交通行動の変化とまちづくりへの影響

–近年、交通行動はテクノロジーの進化や社会の変化によって大きく変化しています。これに伴いまちづくりへの影響も変化していると考えられますが、具体的な変化とそれに対応するためのまちづくりの取り組みについて教えていただけますか?

テクノロジーや社会の変化による交通行動の変化といえば、昨今のコロナ自粛がその典型ですし、携帯電話の普及、リモートシステムの普及が交通行動に様々な影響を与えています。
しかし、人が直接人と会うことの価値は永遠に毀損することはありません。新しい状況のなかで、人と人との交流を如何に確保していくかという問題は、交通計画、まちづくりの文脈のみならず、社会の運営、歴史の展開の中で、最も枢要なものといえます。新しい状況にあわせて、交流を促進する環境整備や文化生成を進めていかねばなりません。

地域コミュニティと交通の関係性

–交通は地域のコミュニティと密接な関係があります。地域コミュニティの特性やニーズを考慮した交通政策や取り組みについて、実践事例を教えていただけますか?

川越まちづくり研究では、かつて観光客など殆ど訪れなかった川越市が、「蔵」という地域資産を最大限に活用しつつも、道路の利用方法を改変し、電柱を地中化することで、一気にまちづくりが進展し、今では「小江戸」と呼ばれる大観光地にまで発展することとなりました。
単なる箱物投資とは違い、交通についての投資は 面的、広がりを持った影響をもたらし、地域文化そのものにディープインパクトを与える事になるわけです。

最後に

–まちづくり(地域や都市を改善)を目指す学生へメッセージをいただけますか?

まちづくりにおいて何よりも大切なのは、「まち」というのは、「生き物」だという認識です。この認識をもたず、一面的な取り組みを進めても、いたずらにまちを傷つけるだけの帰結に終わるでしょう。
「植物」という生き物を育てるには、その「植物」そのものが持つ内発的なポテンシャルや性質をしっかりと見極めつつ、適材適所に効果的な働きかけを持続的に進めることで、その植物は大きく育っていく事になります。
生き物としての街をどうすれば、生き生きと元気な生き物として育っていくのか…そんな感覚で是非、まちづくりに携わってください。

▼取材にご協力いただいた藤井聡 教授についてはこちら
京都大学 藤井研究室