
社会貢献活動 × Osaka University of Tourism. -Part 2-
目次
大阪観光大学の紹介

本学は「観光人材になりたい方」「地域やまちづくりに関わりたい方」「国際交流を楽しみ語学を磨きたい方」におすすめの大学です。
「楽しむ力」と「生きぬく力」を備えた市民の養成を教育目標としており、教職員全員で皆さんの学生生活をバックアップします!
身をもって体験する新しい「地域連携実習科目」
–大阪観光大学の地域連携実習科目について、狙いと内容を教えてください。
小野田教授:一昨年前から、観光における教育課程を大幅に変更し、観光業における「楽しむ力(旅人力)」と「生き抜く力(観光職業力)」を育成する科目を導入いたしました。
それ以前のカリキュラムは、スキルに焦点を当てたものでありましたが、観光業は「楽しませる」ことが本質であるため、特にコロナを契機に、観光業界における基盤的な「楽しむ力」を強化する必要性を認識しました。
さらに、現代社会はコロナなどの感染症や戦争など、予測困難な出来事が発生する可能性があります。観光業は、平和を前提として存続している産業でございます。このため、観光業を「生きていく」ことがどういう意味であるかを、身をもって体験いただきたいと考えております。これが、新しいカリキュラムの基盤となる科目の主旨でございます。
小野田教授の考える観光職業人に必要な「生き抜く力」とは
–小野田教授は観光の勉強をするために大学院にいかれ、現在は大学で学生たちに教えるという、観光にまつわるお仕事をされています。ご自身の経験を通して、小野田教授にとっての観光職業人に必要な生き抜く力とはどんなものでしょうか?
小野田教授:私は1999年、旅行会社に勤めていた際に、和歌山で開催された『JAPAN EXPO南紀熊野体験博』という体験観光イベントのコーディネーターとして携わる機会を得ました。
その中で私が作成したプランの中には、正直売れるとは思っていなかったものもありました。その中でも、7日間滞在して備長炭を焼く「炭焼き体験1週間」というプログラムが意外にも最初に売れたのです。この出来事を通じて、観光業界が今後大きく変わっていくことを実感しました。
その炭焼きの体験を提供したおやじさんは、背伸びせず、ただありのままを見せているだけ。観光客だからといって特別扱いはしない。炭焼き職人と同じように扱う。それが彼の「身の丈にあったおもてなし」でした。その結果として、参加したお客様は若者からお年寄りまで、「身の丈にあったおもてなし」に感動され、満足して帰っていかれました。この経験をきっかけに、旅の本質を再考する必要性を感じ、44歳の時に休職し、和歌山大学の大学院に通い始めました。
現在、ポストコロナの時代において、リカレント教育やリスキリング教育など、学ぶ方法は多様化しています。何かをきっかけに学びを深めることは非常に意義のあることだと思います。観光業はテクノロジーの進化によって大きく変わっていますが、本質的な楽しみや喜びは変わらないと信じています。したがって、テクノロジーだけでなく、観光の本質についても学び続けることが必要だと考えています。
『おてつたび』との産学連携
この章では、小野田教授に地域連携実習科目である『おてつたび』との産学連携についてお伺いしました。
産学連携のきっかけ

–今年3月に、人手不足で困っている地域と地域で働きたい旅人を繋ぐお仕事マッチングサービス『おてつたび』を運営する株式会社おてつたび(代表取締役:永岡里菜)との連携協定を締結されたとの発表がありました。産学連携のきっかけを教えてください。
小野田教授:テレビ番組『ガイアの夜明け』でおてつたびの存在を知り、リカレント教育の講座で永岡社長をゲスト講師に招いたことがきっかけとなりました。
おてつたびは、人手不足に悩む地域の農家や旅館と旅行者をつなぐ人材マッチングサービスです。このサービスを通じて、著名な観光地ではない地域にも多くの人々が訪れ、地域の人手不足解消だけでなく、地域活性化や地域のファン創出に寄与しています。
以前より、観光を専門に大学で地域へ入り込んで働くように学生たちに教えてきました。永岡社長の手腕を知り、彼女が「地方での楽しさ」を自由に選択し、手軽に地域課題を解決する仕組みを見事に展開されているのを知り、私は長年の夢のシステムが実現したと非常に感動しています。
私が「炭焼き体験1週間」プログラムで経験したことをデジタル技術を使ってうまく実現している仕組みに魅力を感じ、ぜひ学生のみなさんと共有できたらと思い、それを取り入れることにしました。
授業の一環で旅に出る
–今まさに、学生さんは『おてつたび』を利用して旅に出ているかと思いますが、授業はどのように進めているのでしょうか?
小野田教授:前期に事前学習として、講義を通じて『おてつたび』についての基本的な知識や一般的なマナー、気をつけるべき点などを伝えました。その後、学生たちは8月~9月にかけて自分で興味のある旅先に応募し、実際に地域の方とのマッチングに挑戦し現地に行っています。
マッチングは、応募先の方が実際にプロフィールに登録された自己紹介文や応募理由を読んで成立の可否が決まります。これは、就職活動をイメージしていただくとわかりやすいでしょう。本学では「生き抜く力」の養成を目指しており、マッチングに関して自己PRの書き方などのアドバイスは行いますが、基本的にはすべての学生に任せています。
おてつたびに登録している方々の中には、旅慣れている方たちもいるため、ビギナーの学生にとってマッチングは難しい場面もありますが、経験を積むことで学生たちも上手くマッチングするための方法が次第にわかってくるようです。
小野田教授の見る学生の様子
–小野田教授から見て、いまの学生さんたちはどう見えますか?
小野田教授:コロナウイルスの流行により、ここ数年間、多くの学生が海外に行くことが難しく、国内でも自分の住む町を出る機会が限られています。そのため、ネットで得られる情報に頼り切っているように感じます。
しかしながら、実際に出かけてみないと分からないことはたくさんあります。実際にその場に足を運び、自ら触れることで得られる経験は、観光職業人として活躍する上で非常に重要な要素だと考えます。ですので、今後は是非ともしっかり旅の経験を重ね、多様な体験を積んでいってほしいと思います。
このような視点から、授業の中で『おてつたび』という形で異なる場所に足を運ぶ機会が提供されることは、ネットの情報に凝り固まってしまった視野を広げる良いきっかけになるのではないでしょうか。さらに、『おてつたび』を通じて異なる環境の人々と交流することは、学びの機会としても非常に有益です。
学生たちは授業の一環としてこの活動に参加していますが、他の参加者は自らの意思で参加しています。さまざまなバックグラウンドを持つ人々と一緒に働く経験や、異なる世代の人々とコミュニケーションを取ることは、学生たちにとって非常に良い刺激となるでしょう。
地域との関わりの中で気づく観光の重要さ
–実際に地域の人々と学生たちが交流することで、地域の人々にはどんな影響があるのでしょうか?
小野田教授:私は青森の十和田奥入瀬観光機構というDMOの理事長を務めており、受け入れ側の経験もあります。受け入れ側の立場から見ると、十和田は雪深い地域であり、人口も少なく、若者も少ないため、地域の魅力よりも課題が先行して浮かび上がります。
例えば、冬に行う花火のイベントにアルバイトが集まらないという課題がありますが、“冬の寒い夜にそんなことできない”といった理由から人が集まらないのです。
しかし、『おてつびと』を利用して他県から訪れる人々にとって、雪は「楽しみのひとつ」となっています。地元の予想とは異なり、「異空間で非日常的な体験ができる。雪の夜に花火が上がる光景は素晴らしい。」と感動しています。こうした体験を通じて、地域の人々も「雪は課題ではあるが、それが人々を引き寄せる要因にもなるのだ。」と気付くのです。
また、台湾や他のアジア諸国からも雪を楽しむために訪れる人々がいる光景を見ると、彼らは地元の人々が抱える課題を、観光の魅力として捉えているのではないかと推測されます。
そこが観光の一番面白いところで、地域の人たちにとってはなんでもないことや課題だと感じる事であっても、他の人にとっては貴重な体験になるのです。
前述した備長炭の炭焼き作業も、都会の人々から見れば貴重なエンターテイメントとして捉えられるのです。地域の魅力を発見する手段として観光を活用し、地域と訪れる人々との交流を促進することが、持続可能な街づくりへの道を開くのではないかと考えます。
そのため、皆さんには観光の重要性に気づいていただき、地域と訪れる人々を結びつける一翼を担っていただければ幸いです。
小野田教授の思う旅の本質
–小野田教授の思う旅の本質を教えてください。
小野田教授:「どこへ行くか」よりも、「誰と何をするか」という部分に旅の本質があると思います。天候なども含めて予想と違うことが起きるのも旅の面白さなので、いろいろ経験したことが、のちのち振り返ってみると思い出になると思います。
–「誰と何をするか」という部分は、学生たちが将来、就職して携わっていく仕事にも関係してくると思います。やりたいことがないと悩む若者が多い現代において、キャリアを考えるためのアドバイスをお願いします。
小野田教授:まずは、自身の喜びを見つけることが重要だと考えます。
目標として楽しみを追求することで、一時的な困難も耐え忍べるようになり、継続的な努力を持続することが可能です。また、自身が何を楽しむのか見極められない場合、就職先を見つけることや将来のキャリアを決めることは非常に難しいのではないでしょうか。
ただし、人それぞれに楽しみのポイントは異なります。仲の良い仲間と共に働くことに喜びを感じる人もいれば、魅力的な給料がモチベーションの源となっている人もいます。したがって、即座に決断する必要はなく、慎重に検討することが重要です。
自身の喜びも時として変化するものであり、究極的な答えは存在しないと考えます。ですから、楽観的な視点で物事を捉え、経験を通じて喜びを見出していく姿勢が、人生の中で非常に大切です。このような気づきがあれば、仕事を選ぶのも楽になるのではないかと思います。