SDGs 大学プロジェクト × Wakayama Univ.

和歌山大学の紹介

和歌山大学は、1949年に設立された和歌山県唯一の国立大学です。従来の教育学部、経済学部、システム工学部、観光学部に加え、令和5年4月に文理融合型の社会インフォマティクス学環を新設しました。多様な専門分野がそれぞれの知識力を発揮し、活気溢れる大学を形成しています。

全学部・学環が集う大学キャンパスは、高野・熊野世界文化遺産、紀伊半島を含む豊かな歴史と環境のなかにあります。この歴史、自然、経済、文化を活かした教育研究活動によって、地域と世界に貢献できる新たな知識や学問を構築し、地域に融合する大学を目指しています。

和歌山大学は、変化し続ける社会の中で、高度な知識と教養を身に着け、コミュニケーション能力や問題解決力の高い国際的な広い視野を持つ人材の育成に取り組んでいます。社会のニーズを踏まえ、起業家精神を養う「アントレプレナーシップ教育(ES教育)の拠点になる「アントレプレナーシップデザインセンター(EDC)」を令和5年4月に新設し、現代社会にかかせないデータサイエンス関連の教育プログラムも展開しています。

国内外の社会、特に地域との強い連携を通じて多様な価値観を理解し、新しいアイデアを生み出す実践的な力を身につけるための取り組みを行っています。地域に密着しながら、地域社会とともに、学生一人ひとりが未来に向けて成長し、社会へ貢献できる人材を送り出しています。

和歌山大学の学生が考案した「留学生のお守りになる手帳」とは?

― 和歌山大学 経済学部の柳到亨ゼミに所属する「ハイファイブ」の皆さんが企画した「留学DIARY」はどのような手帳なのか、まずは概要について教えてください。

天野優音さん(以下、天野さん):留学DIARYは、3ヶ月以内の語学留学を目指す日本人留学生に向けた手帳です。留学に対する不安や悩みを解消し、留学という貴重な経験を形に残すことができる「心のお守りと宝物になる手帳」を目指して作りました。

この手帳の大きな特徴は、留学前後の記録ができる上に、留学に対するさまざまな不安や悩みを解消できる点です。さらに、留学後にはその記録を振り返り、貴重な経験を形として残し、思い出の宝物として保管できることを重視しました。

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Sカレ 2023 伊藤手帳株式会社‐和歌山大学柳ゼミ  (Facebook)

― 留学DIARYが学生賞・テーマ優勝・プラン優勝で3冠を獲得した「Sカレ(Student Innovation College)2023」には、どのような経緯でエントリーされたのでしょうか?

天野さん:私たち「ハイファイブ」は、和歌山大学の柳到亨ゼミに所属し、マーケティングや商品企画を専門に学んでいます。このゼミでは、活動の一環として、商品企画の全国大会「Sカレ」への参加が当初から予定されており、それが全てのきっかけとなりました。

Sカレには9つのテーマが設定されており、私たちは「デジタル化時代に必要な手帳」というテーマで商品企画に挑戦しました。3人1チームで取り組んだこのプロジェクトは、全員にとって初めての経験の連続であり、長期間にわたって試行錯誤を重ねる挑戦となりました。

― 手帳という商品を企画するにあたり、「留学」に焦点を当てた理由を教えてください。

天野さん:大きなきっかけは、「ハイファイブ」のメンバーである木村満厘さん(取材当時は留学中のため不在)が、留学中に抱いたさまざまな不安や「留学の経験を十分に形として残せていない…」という悩みでした。

とはいえ、「手帳」というテーマに挑戦することが決まった当初から、企画の方向性が明確に定まっていたわけではありませんでした。最初は「旅行を形に残せる手帳」など、さまざまな案が浮上しました。

しかし、木村さんの経験談を聞いたり、留学予定者や経験者から得られたアンケート結果を通じて、多くの人が留学に対して不安を抱えていることが明らかになり、留学に特化した手帳を作ることは意義深いのではないかと感じるようになりました。

池中唯人さん(以下、池中さん):私たちが行ったアンケートやインタビュー調査によると、80%以上の回答者が留学に挑戦する際に何らかの不安を感じていることがわかりました。

この調査結果を受けて、留学に特化した手帳の開発にはとても魅力があると確信し、企画を進めることに決めました。

「留学DIARY」製作過程で得られた新たな気付き

― 留学DIARYは今年3月から実際に発売が開始されましたが、企画から製作までにどのくらいの時間がかかりましたか?

池中さん:2023年5月頃から、Sカレに向けて準備を始めました。まずは「どのような手帳を企画するか」というアイデアを具体化するため、さまざまな検討を重ね、データ収集を行いました。最初の2ヶ月~3ヶ月ほどは、アイデアを固めていく作業に集中していたと思います。

天野さん:メンバーは週に複数回集まり、意見を交わしました。時には意見が衝突することもありましたが、3人全員がチームとしてバランス良く進めようと意識していたと思います。時には息抜きもしながら、終始楽しみつつ取り組みを進めることができました。

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留学DIARY 留学生の気持ちに寄り添う手帳 販売ページ  (手帳・雑貨のユメキロック)

― 事前調査やアンケートを通じて得られた意見は、どのような点に活用されたのでしょうか?

天野さん:非常にたくさんあるのですが、まずは事前調査を通じて、市場に実際の需要があることを実感しました。また、ターゲットとなる留学経験者や留学予定者、留学中の方々から集めたリアルな悩みや不安をもとに、どのような内容の手帳が求められているかを具体化しました。

集められた声を反映させることで、本来の目的である「留学時の悩みや不安を解消するための効果的な手帳」を作ることができたと感じています。さらに、メンバーの木村さんや留学経験のある方々の視点と、私や池中さんのような留学未経験者の視点が組み合わさったことで、さらに良い商品に仕上がりました。

池中さん:プロトタイプの段階で紙の選定や試作品の確認を行い、実際にモロッコやアメリカなどに留学している方々に試用してもらいました。彼らからのフィードバックも取り入れることで、製品の細部にわたるこだわりが生まれたと感じています。

― 留学未経験者であるお二人だからこそ得られた発見や気付きはありましたか?

池中さん:最初は木村さんの留学経験談を聞き、「そんな悩みがあるんだ」という新鮮な驚きや興味を持ちました。それから検討を重ねるうちに、留学に関する不安を解消する手帳が多くの人に役立つのではないかという共感が生まれ、需要があることを確信していきました。

このように、留学未経験である私や天野さんも「留学」というテーマに取り組む中で学びや共感を深めることは多く、新たな視点で市場に潜在する需要を発見することができたと感じています。

さまざまな工夫とチームワークで乗り越えた営業活動

― 留学DIARYの製作過程で、特に印象的だったエピソードや大変だったことは何ですか?

池中さん:多くの課題に直面しましたが、特に記憶に残っていることが二つあります。
一つ目は、「留学DIARYの内容や機能をどのように決定するか」という点です。約300名の留学経験者や予定者から集めた声をもとに、留学に対する不安や語学面に対する悩みをどのように解決できるのか、その最適解を考え、一つの商品にまとめあげることは非常に難しい作業でした。

幸いにも、Sカレではテーマごとに企業の方と協力しながら取り組むことができます。私たちは企業の方やゼミの教授、先輩から多くのアドバイスをいただき、試行錯誤を重ねることで、留学DIARYを完成させることができました。

二つ目は、完成した留学DIARYの営業活動です。商品開発だけでなく、営業活動も初めての経験だったため、かなりの不安を感じました。また、留学をテーマとした手帳という、ターゲットが限定されたニッチな商品をどのように相手に理解してもらうか、どの程度の需要が見込めるかを考えながら交渉を進めることは、非常に難しかったです。

チームで役割分担しながら努力した結果、最終的には留学エージェントさんや旅行代理店さんなどに採用していただけることとなるなど、大きな結果を得ることができました。実際の営業活動を通じて、社会人としての言葉遣いや丁寧な対応の重要性を痛感し、商品開発だけでなく営業の現場でも多くのことを学べたと感じています。

― チーム内の連携や、学外の企業や留学経験者の方々へのアプローチのなかで心がけたこと、難しかった点があれば教えてください。

天野さん:チーム内では、お互いの考えを尊重し、異なる意見も積極的に取り入れることで、スムーズにプロジェクトを進めることができました。全員が納得できるような取り組みを目指し、意見交換を活発に行いやすい雰囲気作りを意識していたと感じています。

学外へのアプローチでは、例えば営業活動においては、相手企業の状況を事前にしっかりと調査し、双方のメリットが最大限に伝えられるような提案を心がけました。プレゼンテーション資料の作成にも力を入れるなど、多くの努力が身を結び、チームの大きな成果にも繋がったと実感しています。

また、営業活動の初期段階では、まずは和歌山大学のOB・OGの方や、和歌山県内の企業の方など、話を聞いていただける可能性が少しでも高い相手からアプローチを開始しました。成功確率を上げるための情報収集も、工夫したポイントの一つです。

ほかにも大学内にある国際交流課など、留学に関するサポートを行っている部署に協力を依頼し、より効果的な営業活動を目指しました。実際に、国際交流課を通じて紹介いただいた旅行会社のOBの方とつながり、留学DIARYを採用いただけた時は本当に嬉しかったですね。

留学DIARYと共に成長したメンバーの思いと挑戦

― 実際に留学DIARYが販売開始された後、周囲からの反応やご自身の変化はありましたか?

池中さん:留学DIARYが完成し、多くの方々から嬉しい声をいただけたときは、非常に大きな達成感がありました。特に、ご協力いただいた学内や企業の方々から高い評価をいただけたことは、チーム全員が全力で頑張ってきたからこその喜びでした。「やってよかった!」と、心の底から感じられた経験ですね。

今回の経験を通じて、周囲からのフィードバックの大切さを実感しました。嬉しい反応や感想をいただけることは、商品企画において大きなやりがいの一つだと思います。今後も商品企画に携わることができる機会があればぜひ挑戦し、多くの人々に喜んでもらえるような商品を作りたいという気持ちが一層強くなりました。

実は、私の父もマーケティングの仕事に携わっており、私が商品企画に興味を持ったのも父の影響があります。当初、この取り組みが全国で発売される商品に繋がるとまでは想像できなかったのですが、時には具体的なアドバイスをもらうなど協力してくれていました。最近、顔を合わせた際に「すごいな」と言ってもらえたことも、素直に嬉しかったです。

天野さん:私も、留学経験者の方々から「留学DIARYがあってよかった」という声を直接いただいた時は、とても感動しました。座学で学んだことを実践できただけでなく、Sカレで優勝し、商品化できたことは、私たちにとって貴重な経験となったと思っています。

池中さんと同じく、この経験を通して商品企画の仕事への興味が一層深まりました。今後もこのような機会があれば、積極的に挑戦したいと思います。

― 留学DIARYの全プロセスを通じて、多くのスキルが身についたと思います。特に印象的なものを挙げるとすれば、何でしょうか?

池中さん:特に成長を感じているのは、プレゼンテーション能力です。実は、以前は人前で話すのが苦手だったのですが、Sカレに参加することでプレゼンの機会が増え、次第に克服することができました。

私たちのゼミには4チームあり、それぞれ異なるテーマでSカレに参加していました。ゼミでは毎週チームプレゼンがあり、最初は緊張のあまり頭が真っ白になることも多かったんです。しかし、進捗報告やフィードバックを通じて他のチームと意見交換を行い、準備や練習を重ねるうちに、苦手な部分が改善され、徐々に自信を持てるようになりました。

特に印象的だったのは、近畿大学の大ホールで行われたSカレの最終大会です。大勢の人の前で発表する場では、それまで積み重ねてきた練習の成果を実感し、自信を持って挑むことができた上に、「優勝」という高い評価をいただくことができました。プレゼンテーション能力は、今後社会人になった際にも役立つと考えており、一番成長を感じた点でもあります。

天野さん:私も、プレゼンテーション能力の成長が一番大きいと感じています。実は、私がこのゼミに参加した理由には、商品企画のSカレに携わりたいという思いと、人前で自信を持って話せるようになりたいという目標がありました。毎週のプレゼンや練習を通じて、パワーポイントなどの資料作成や、相手にどのように伝えれば最も効果的かといったスキルを学ぶことができました。この経験は、今後も大いに役立つだろうと思っています。

また、チームでの活動スキルも身についたと感じています。もともと単独活動よりチームでの活動が好きだったのですが、今回のように7ヶ月以上の時間をかけ、チームで一つの大きな目標に向かって取り組む経験は初めてでした。時には意見が対立しそうになることもありましたが、それら全ての過程を通じて、チームで活動する際には、自分が最も得意とする役割をどれだけ全うするかが大切だと感じました。

これから社会人になり、チームで活動する機会はさらに増えると思います。そこでも今回の経験を活かし、積極的に取り組みたいです。

今後の展望、ビジネスコンテストに挑戦したい方へのメッセージ

― 今後新たに挑戦したいことや、さらに深めたいこと、今後の目標があれば教えてください。

池中さん:留学DIARYでの活動としては、昨年の冬の大会での優勝以降、商品化に進み、今年3月に発売に至りました。そして今年の秋には、商品化された各チームの販売実績やプロモーション成果を競う大会があり、そこで最終的な優勝チームが決定されます。

現在、私たちはその大会での優勝を目指して活動しています。目標は、留学DIARYをより多くの人に広め、秋の大会で優勝することで、その知名度をさらに高めることです。冬の大会で策定した販売戦略やプロモーション計画に基づき、目標達成を目指す中では、新たな出会いや発見がたくさんあります。時には「こんなこともできるんだ」という驚きもあったりと、日々予想もしなかった新たな挑戦を続けることで、チーム目標の達成を目指したいです。

また、長期的には、私たちが企業の方々と一緒に作り上げたこの商品が、大学卒業後も「留学といえば留学DIARY」と言われるほど、留学に欠かせないアイテムとして認知されることを目指していきたいですね。

個人的には、商品企画やマーケティングの基礎知識から応用力まで、非常に多くのことを学びました。プレゼンテーション能力をはじめ、身につけた知識やスキルを社会人としても活かしていきたいです。今後のキャリアでは、いずれは商品企画職に就き、そこで活躍したいという強い思いがあります。

天野さん:私たちは、3人が共通して商品企画の仕事に携わりたいという思いを抱いていますが、実際に就職活動を進める中で、最初からマーケティングや商品企画の職に就くことは難しいものです。そのため、まずは営業などの領域で、これまで培ったプレゼン力や交渉力、チームでの活動力を活かしつつ、活躍したいと思っています。そして将来的にはマーケティングや商品企画に携わり、もっと多くの人に届けられるような商品を開発することを目指しています。

― Sカレに限らず、今後ビジネスコンテストに挑戦したいと考えている学生の方々に向けてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。

天野さん:Sカレに限らず、ビジネスコンテストに挑戦することは、かなりの時間と労力を要することと思います。大変なこともたくさんあると思いますが、失敗を恐れずに挑戦することで、マーケティング力や商品企画力、営業スキル、そしてチーム活動に関する幅広いスキルや経験を得ることができました。

私たちは、全員で楽しく取り組めたからこそ優勝できたと感じています。ただ、仮に優勝できなかったとしても、「やってよかった」と心から思えるほど、全力で取り組むことができました。学生だからこそ出来ることがたくさんあると感じられたので、ぜひ一歩踏み出してチャレンジしてみてほしいというのが、チーム全員からのメッセージです。

そしてもう一つ伝えたいのは、Sカレの経験が就職活動にも非常に役立ったことです。企業の方からは、必ずと言って良いほど「学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)」について聞かれますよね。私たちは全員、このSカレでの取り組みについて自信を持って伝えることができました。

大学に入ると、さまざまなチーム活動を経験すること機会があると思います。そして、何かに全力で取り組んだ経験は、就職活動で自分の魅力をアピールする際の大きな武器になるはずです。Sカレは、このような貴重な経験を提供してくれる場でもあると感じました。

池中さん:私自身、Sカレを通じてプレゼンテーションやコミュニケーション能力など、さまざまな面で大きく成長できたと感じています。

例えば、最近顔を合わせた高校時代の友人からは、「変わったね」とよく言われるんです。以前の私と今を比べると、発言する場面が増えたからだと思います。こんなふうに、ビジネスコンテストへの挑戦は自分自身の成長や変化を促す大きなきっかけになると強く実感しています。

だからこそ、ビジネスコンテストに挑戦できる機会があるのであれば、ぜひ取り組んでみてほしいです。失敗することもあるかもしれませんが、その失敗をどう活かしていくかが大切だと思います。私たちも、「この失敗をどう商品に反映させるか」という試行錯誤を繰り返し、最終的に留学DIARYを完成させることができました。積極的に挑戦し、自分自身の成長に繋げてほしいと思います。