
国際ビジネスにおけるベンチャー企業の戦い方と「知的財産権」の捉え方:梶浦雅已教授の見解
目次
梶浦 雅己 教授の経歴
愛知学院大学商学部商学科・大学院商学研究科教授
博士(学術),博士(商学)
経験職:経済産業省・標準化経済性研究会委員,(財)海外技術者研修協会 企業経営者研修コース講師,
横山国際奨学財団創立理事
授賞等:2018 年 2018 ALBERT NELSON MARQUIS LIFETIME ACHIEVEMENT AWARD
2011,2018,2019年 Featured Listee, Marquis Who’s Who in the World
2016 年 Featured Listee, Marquis Who’s Who in Science & Engineering
2002 年 日本貿易学会奨励賞
学歴:横浜国立大学大学院 国際開発研究科(国際開発経営専攻)博士課程後期修了
研究専門領域:グローバルビジネス戦略,国際標準,オープン・イノベーション,グローバルマーケティング戦略
経歴:名古屋市出身,北海道大学卒業後,ハウス食品,ユニリーバ・グループ,ネスレ日本などで製品開発,マーケティング,セールスなど23年間の実務経験後,2000 年4 月愛知学院大学着任,横浜国立大学大学院 環境情報研究院 客員研究員を経て現職
国際ビジネスの主流
多国籍企業が中心で、新技術による新市場の創造がなされています。企業の新旧や国籍、規模を問わず競争優位性を保持し維持することが決め手になります。とくに多数企業が提携して新市場を創り出す動向が目立ちます。
梶浦 教授が考える優れたベンチャー企業とその条件
トレンドになるような優れた独自技術をベースにした新グローバルビジネス市場を創造する企業は成功します。その場合は自前で達成することは難しいことが多く、パートナーを見つけ臨機応変かつ継続的な戦略提携が有効です。最近注目されている生成AI「チャットGPT」を開発したオープンAI社を例にしてみます。
技術提携の背景と重要性
同社は、2015年12月に創業し、当初はイーロン・マスクも関わり、汎用人工知能の開発研究を行っています。その技術は先端的かつ独自的であり、ビッグテックの一角であるマイクロソフトが継続投資をしてパートナーシップとして提携を継続しています。マイクロソフトは、2019 年以降、同社に投資して、AI スーパーコンピューティングと研究全体に広がり、新グローバル市場の創造がなされつつあります。
オープンAIとマイクロソフトの事例
2022年11月に公開されたチャットGPTは、ユーザーの質問に対し、対話形式でAIが回答するサービスで、テキストの指示に対して自然言語で応ずる生成AIです。インターネットから膨大な情報を学習し、複雑な語彙・表現が理解でき、既存の会話内容を記憶し、誤謬はユーザーが訂正するなどして自然な会話創造機能を持っています。
マイクロソフトは自社の既存技術システムに組み込むために多くのベンチャー企業とパートナーシップを結んでおり、ナデラCEOは「最先端AI研究を責任を持って前進させ、AIを新たな技術プラットフォームとして民主化させるという共通の熱意のもと、オープンAIと提携を結んだ」と述べ、2023年に検索エンジンのBingを実用化し、チャットGPTを活用する「Bing AI」の利用が始まっています。マイクロソフトは、継続してオープンAI に投資し、 得られるであろう高度な AI 技術によって競争優位性を長年にわたって維持しています。
生成AIとその特許競争のトレンド
AI技術の技術開発はトレンドであり、「日韓米中と欧州、超巨大AI特許競争本格化―10年間で28倍」となっています(KOREA WAVE/AFPBB News、2023年2月22日付)。
オープンAI社のチャットGPTを始めとしてグローバルな特許出願競争が激化し、特許庁によると、知的財産権5大主要国(IP5=日韓米中と欧州)に出願された巨大AI関連特許出願は、2011以降の10年間に約28倍(2011年530件→2020年1万4848件、年平均44.8%)増加しています。出願者の国別は、米国(35.6%、1万5035件)、中国(31.0%、1万3103件)、日本(11.6%、4906件)、韓国は4位(11.3%、4785件)となっています。
企業別特許出願状況について解説します。日本経済新聞社は6月16日、生成AIに関連する特許出願について、Googleが最多であるとして調査結果を公開しています。知的財産関連のコンサルティングを手がける知財ランドスケープ(東京都中央区)との協力して分析もされています(生成AI関連特許、Googleが最多、日経新聞電子版会員限定版、2023年6月6日)。
技術提携と特許出願の関連性
生成AIは、オープンAIが提供するチャットGPTを筆頭に、IT大手各社で開発が相次いでおり、チャットGPTの基盤となる「GPT-4」などの大規模言語モデル(LLM)や機械学習の手法の一つである「トランスフォーマー」などに関連する特許を調べると、Googleの特許出願数が19件と最多であり、マイクロソフトが12件と続き、IBMやセールスフォース、中国のアリババやバイドゥ、テンセントも存在感を示しています。
オープンAIの特許戦略とマーケティング戦略
2021年以降に出願された特許に着目すると、Googleは12件と次点のマイクロソフトの5件を上回っています。オープンAIの特許出願は確認できなかったとされ、知財ランドスケープの山内明最高経営責任者(CEO)はオープンAIの技術特許未出願は、戦略的かつ意図的な知財戦略であると指摘しています。ただしチャットGPTの商標申請は2023年2月なされています。マーケティング戦略としては、オープンAIは、利用料を無料化して普及を図ることをしており、高度な機能を利用出来るバージョンでも安価な利用料設定をし、オープン化して市場拡大を進めようとしています。
マイクロソフトのビジネスエコシステムと提携の影響
マイクロソフトの進めているベンチャーなどとのパートナーシップという提携はマイクロソフトビジネスの要であり、この提携関係は、全世界で40万社を超えるパートナーによる確固たるビジネスエコシステムを構築しており、新AI技術をお客様に提供する上で重要な役割を果たしています(マイクロソフト公式ブログ、2023年7月18日、フランク ・ ショー 最高コミュニケーション責任者の見解)。
このようにして、オープンAIは、マイクロソフトが創造したビジネスエコシステムで重要な存在感を示しています。ビジネスエコシステムとは、グローバルビジネス市場においてはパートナーシップという提携関係によって、それぞれ企業が強みを発揮して互恵的な競争優位性を確立する仕組みのことです。冒頭に述べたように、ビジネスエコシステムによって新技術による新市場創造がなされつつあります。
総括と展望
企業の新旧や国籍、規模を問わず、競争優位性を保持し維持することが可能になります。
オープンAIのようにビジネスエコシステムで競争優位なポジションを獲得することができる企業のみがグローバルベンチャーになることができるのです。
▼取材にご協力いただいた梶浦雅己 教授についてはこちら 梶浦 雅己 (Masami Kajiura) - マイポータル - researchmap