SDGs 大学プロジェクト × Jinai Univ.

仁愛大学の紹介

仁愛大学を運営する学校法人福井仁愛学園の歴史は長く、創立は1898(明治31)年に遡ります。この年、「婦人仁愛会教園」を創設。その後、仁愛女子高校、仁愛女子短期大学、付属幼稚園を開設し、そして2001年に、「仁愛兼済」の精神で現代社会が抱える諸問題を解決できる人材育成を目的に、仁愛大学を開学しました。

「仁愛兼済」の「仁愛」は「いのちあるものに対する尊厳と相互敬愛」を示しています。そして「兼済」は、「仁愛の自覚をもって自己のあるべき姿を確立すると同時に、他者のために身を捧げて活きる仏教の慈悲にもとづく実践的活動の精神」を意味します。

同大学は「人間」をキーワードに二学部を設置。「人間関係」をテーマにした人間学部と、「人間生活」をテーマにした人間生活学部です。人間学部には心理学科とコミュニケーション学科があり、人間生活学部には健康栄養学科と子ども教育学科があります。また、大学院人間学研究科には、臨床心理学専攻を設置しています。ここは、県内唯一の公認心理師の養成機関です。

就職に強いのも、仁愛大学の特徴と言えるでしょう。2023年度実績では、人間学部卒業生の就職率は97.0%、人間生活学部の就職率は99.2%に上ります。

キャンパスがある福井県や越前市との連携事業も積極的に行っています。越前市とは多文化共生事業などを実施。福井県・越前市・県観光協会から要望を受け、観光学特設コースを開設するなど、地域貢献にも力を入れています。

「FUKUI SDGs AWARDS」とは

――「FUKUI SDGs AWARDS」の概要を教えてください。

伊東 知之 地域共創センター長(以下、伊東 地域共創センター長):「FUKUI SDGs AWARDS」は、2030年のSDGs達成に向け、福井県内で優れた取り組みを行っている個人や企業、団体などを表彰する企画です。本学が主催し、福井市や越前市を始めとした行政、FBC(福井放送)や福井テレビ、福井銀行などの企業が協賛・後援しています。

開始したのは、2020年度です。本学は、2020年に福井県 SDGs パートナーシップに登録し、全学をあげて SDGsに取り組むこととしました。それ以前より SDGs に取り組んできた人間学部コミュニケーション学科では、SDGs 活動の普及と SDGs の活動を行う企業・団体・学校などの支援として、SDGs アクターの養成を行っており、2019年度に 10 人、2020年度には 16 人が SDGs アクター第 1 グレードに認定されました。

アクターに認定された学生たちは、安彦ゼミを中心に、周辺地域の自治体や企業、中学校などで SDGs についての啓蒙活動を行い、苦労しながらもともに活動内容を考えるなどの支援を行ってきました。こうした活動の中で、主に福井県内の企業や団体、学校等の活動を対象にした「FUKUI SDGs AWARDS 2020」を、学生が主体となって企画しスタートしました。

さらに本学では、学術・研究的な側面として、本学教員による未来協働プラットフォームふくいの助成を受けた SDGs に資する研究活動も始まり、学生の卒業研究や PBL においても SDGs に関する活動が実施されています。そして2022 年度からは、仁愛大学地域共創センターSDGs AWARDS 実施専門委員会が「FUKUI SDGs AWARDS 2022」の開催主体となり、名実ともに全学的な取り組みとして継続されています。

この背景には、本学の名称でもある「仁愛」も関係しています。というのも、「仁愛」は社会貢献も意味しているからです。現在は、SDGsを扱う地域共創センター内に立ち上げた運営委員会とSDGs AWARDS実施専門委員会が準備から当日の運営まで行っています。

運営を担う地域共創センターが開設に至った経緯

――「FUKUI SDGs AWARDS」を運営する地域共創センター様の概要をお聞かせください。

伊東地域共創センター長:地域共創センターが開設されたのは、2013年です。大学には、研究・教育・地域貢献の3つの使命があります。地域共創センターは、その中の地域貢献を担っています。

開設のきっかけは、本学が開学10周年を機に、地域と共に未来を拓く「共創」を新たな教育理念に掲げたことです。そこで、地域連携や地域貢献の進展を図るため、「地域共創センター」が創設さました。

――普段はどのような活動をされていますか?

伊東 地域共創センター長:地域共創センターでは、地域の方々を対象とした公開講座の開催や地域のイベントへの支援などを行っています。これまで地域住民からは、「地域で開催されるイベントのスタッフとして、学生に参加してほしい」「イベントに仁愛大学のブースを出展してほしい」などの要望が寄せられていました。こうした要望に応え、学生に参加を案内しています。要望に対応していくことで、年々地域からの要望も増え、地域と連携した活動も増加しています。

地域のイベントへの参加は、地域貢献につながるだけではなく、学生にとっては人とのかかわりを学べる良い機会になっています。加えて、学生が地場産業や特産品、地域住民の活動などを知るきっかけにもつながっています。地域への理解が深まれば、学生が卒業して地域で働くうえでも役立つでしょう。

本学は「人間」をキーワードにし、「人間を知る」を大きな教育の柱としています。学生が所属している学科で人間について学ぶだけではなく、地域貢献を通じてその学びを深めていると感じています。

――他にはどのような活動をしていますか?

伊東 地域共創センター長:ハピラインふくい線武生駅の駅前には、駅前サテライトを開設。大学のPRに加え、授業やイベント開催に活用しています。

最近では、ポルトガル語公開講座を開始しました。越前市は、総人口に占める外国人市民の割合が2018年時点で5%と、全国平均2%に比べて非常に高くなっています。保育園や幼稚園に通うお子さんのうち、半数が外国人市民というケースも出てきています。特にブラジル出身者が多いものの、保育園や幼稚園の先生はポルトガル語がまったくわからない人もたくさんいます。

意思疎通の難しさを感じているという声を聞き、本学が講座を開くことで、課題の解消を図れればと考え、開講に至りました。

▼ 越前市の外国人市民数の現状についてはこちら
越前市多文化共生推進プラン

小学生など幅広い世代から寄せられたエントリー

――そんな地域共創センターで運営している「FUKUI SDGs AWARDS」ですが、昨年の応募状況はいかがでしたか?

伊東 地域共創センター長:「FUKUI SDGs AWARDS 2023」は、2023年10月からエントリーを開始しました。前年のエントリー数は16件でしたが、「FUKUI SDGs AWARDS2023」は32件と増加しました。

その中には、社会人だけではなく小学生からのエントリーもあり、うれしかったですね。SDGsが若い世代に浸透していると感じるとともに、社会全体で見ても子どもの頃からSDGsを意識できるのは、とても良いことだと思います。また、「FUKUI SDGs AWARDS」が、これからの社会を担う若い世代がSDGsに取り組んでいることを社会にアピールしていく機会につながっているようです。

――どのようにして最優秀賞などは決定しましたか?

伊東 地域共創センター長:2024年2月11日に本学で最終審査会を開き、書類審査を通過した10団体によるプレゼンテーションが行われました。審査員には、仁愛大学で教鞭をとっているSDGsの専門家も加わり、専門的な視点での審査を実施しました。

最優秀賞は、エクネス株式会社の「食品ロスを削減する規格外野菜の定期配送サービス『ロスヘル』サービスから開始1年で総出荷数1万箱に」、学生最優秀賞は福井県立若狭高等学校「フードドライブで食品ロス削減を目指そう!」、優秀賞はなろっさ!ALLY えちぜんの「当事者だけが声をあげ続ける社会を変えるために、ALLYの輪を広げる」に決定しました。

この学生最優秀賞を受賞した取り組みは、賞味期限が迫っている食品を集めるフードドライブの活動を行い、集めた食品を子ども食堂に寄付するというものでした。

最優秀賞には賞金10万円とトロフィー、賞状を授与しました。トロフィーは木材の廃材を活用してつくられたもので、トロフィー自体がSDGsの象徴となるよう、工夫を施しています。

――印象的だったエントリー内容はありますか?

伊東 地域共創センター長:立場上、高校生のプレゼンテーションには興味を引かれます。特に印象的だったのは、福井県立大野高等学校IRC「結」の「地域の宝を未来へつなぐ~水・繊維・『すこスコーン』」ですね。

大野地区には昔から八つ頭の茎である赤ずいきを使った「すこ」という食べ物があります。「すこ」は、本当なら捨てられてしまうような食材を使った料理ですが、年々需要が減少しているという課題がありました。それを何とかしたいと考えた高校生がスコーンにしたのです。

最終審査会には、実際につくったスコーンを持って来て、プレゼンテーションを行いました。大人では考えつかないような視点は、高校生ならではだと感じました。

▼ 福井県の「郷土料理 すこ」についてはこちら
すこ 福井県 | うちの郷土料理:農林水産省 (maff.go.jp)

福井県内で活動する団体同士の交流の場

――「FUKUI SDGs AWARDS」の開催による効果はいかがですか?

伊東 地域共創センター長:「FUKUI SDGs AWARDS」は、SDGsに取り組む人たちがプレゼンテーションを通し、社会や他の団体などに自分たちの活動をアピールする場として役立っています。

また、福井県内では企業や学校、団体などがそれぞれ個別にSDGsの活動を行っていますが、他の団体などの活動情報を得る機会はあまりありません。そのため、他の団体の情報を得る場にもつながっています。

書類審査を通過できなかった人たちも、最終審査会の会場に足を運び、他の活動を知って自分たちの活動に活かそうとしています。互いに切磋琢磨することで、さらにSDGsへの取り組みが活性化する期待もあります。

――「FUKUI SDGs AWARDS」には、学生の皆さんも関わっているのでしょうか?

伊東 地域共創センター長:最終審査会を手伝ってくれる学生は、先生を通じて募集しています。20名ほどの学生が集まり、当日は司会進行や受付、マイク係などを担当してもらっています。さらに、審査員の一人を学生が務めています。学生からは「いろいろな活動を知ることができてよかった」と前向きな声が上がっています。

県内のSDGsの取り組み活性化に必要な持続性の担保

――開催で苦労した点はありましたか?

伊東 地域共創センター長:開催にあたっては、企業などに協賛や後援の依頼を行うなど、準備段階から労力を必要とします。準備期間は1年ほどですね。第1回の開催時にゼミの学生が、さまざまな企業を訪問し、協賛を依頼しました。当時から協賛してくれている企業を中心に、今も協力をお願いしています。

費用は、福井県の助成金と大学の予算の一部を活用していますが、助成金の申請書類の作成にも時間を要します。

しかし、「FUKUI SDGs AWARDS」の開催は、本学にとってもプラスとなっています。本学がSDGsに取り組んだ結果、教員の意識も高まり、自身の研究にSDGsの観点を加える教員も出てきています。そのため、まずは持続していくことが大事だと考え、今後も開催できるように試行錯誤を行っているところです。

学びたい学生が学べる環境の整備

――「FUKUI SDGs AWARDS」以外にも行っているSDGsの取り組みはありますか?

伊東 地域共創センター長:本学では、学習支援が必要な学生へのサポートにも力を入れています。学生の中には、精神面で課題を抱える学生もいます。誰も取り残さず、質の高い教育を受けられる環境を整えるためにも、臨床心理の専門的な知識が特に必要とされるような相談について、専門のカウンセラーにカウンセリングを受けることができる学生相談室を設置して、心の悩みを持つ学生が相談できる体制を整備しています。

加えて、障がいのある学生や特別な配慮を要する学生に対する修学上の支援など、大学全体で配慮する仕組みが出来上がっています。こうした取り組みにより、学びたい人が学べる環境づくりが進んでいます。

――地域特性に合わせた取り組みは、何かありますか?

伊東 地域共創センター長:本学では地域特性を鑑み、地元自治体である越前市と、外国人市民を多く採用している大手企業と3者連携協定を締結し、地域住民を対象とした寄附講座を実施するとともに、本学においても、第二外国語を履修する場合、ポルトガル語を選択できるようにしました。地域住民に向けて、地域共創センターの寄附講座を通じてポルトガル語を教えるだけではなく、学生にも学んでほしいと考えたためです。

学生は卒業後、地域のあちこちに就職します。ポルトガル語を学んでもらうことで、地域で暮らす外国出身の人たちとコミュニケーションがとれることを期待しています。また、お金を得るためだけに働くのではなく、仕事が社会貢献にもつながり、また仕事を通じて本人もいろいろ学んでいるのだということを意識できる学生に育ってほしいと思っています。

今後の展望

――最後に今後の展望をお聞かせください。

伊東 地域共創センター長:「FUKUI SDGs AWARDS」は新聞記事で取り上げられるなど、地域住民からも関心を持ってもらえるようになっています。より多くの人に知ってもらい、今後はさらにエントリー数を増やしていきたいと考えています。

今回のエントリー内容を見ても、SDGsの活動は多岐に渡っています。今まで意識せずに行っていた活動が、実はSDGsにつながっている場合もあるでしょう。「FUKUI SDGs AWARDS」をきっかけにSDGsについて改めて考えてもらい、今まで以上に幅広い取り組み内容がエントリーされることを期待しています。