
秋澤淳教授に聞く!再エネの未来へ向けて―日本の省エネと再生エネの挑戦と可能性―
目次
秋澤淳 教授の自己紹介
東京農工大学の機械系に所属している、秋澤と申します。研究テーマは、省エネルギー(以下「省エネ」と称する)と再生可能エネルギー(以下「再エネ」と称する)の利用に焦点を当てており、特に排熱の利用に注力しています。
排熱とは、工場や発電プロセスなどで発生する温度がそれほど高くない副産物の熱のことを指します。この低温の熱を有効に活用するために、ヒートポンプ技術を研究しています。
また、再エネの中でも特に熱に関心を持っています。太陽光発電は広く知られていると思いますが、太陽熱利用やバイオマスの熱利用など、熱を利用する再エネにも興味があります。省エネの観点からは、コージェネレーションという小規模なエンジンを使用して電力と熱を取り出し、有効に利用する方法もあります。このような地域分散型エネルギーシステムにも取り組んでいます。
現在、私は日本太陽エネルギー学会の会長を務めており、再エネの重要性をより多くの方に知っていただきたいと考えています。電力については広く認知されていますが、熱に関する再エネについてはあまり知られていないことが多いです。ですから、皆さんにも再生可能な熱の利用について知っていただきたいと思っています。
効率的なエネルギー/再エネを研究するきっかけ
実は、太陽光発電について研究されている方は本当に多くいる中で、私があえて熱エネルギーを研究しようと思ったきっかけについてお話しします。私はもともとエネルギーシステムを専門としていましたが、個別の技術に焦点を当てるよりも、いかに技術を組み合わせることで省エネやCO2削減につなげるかという観点から研究を行ってきました。
東京農工大学に着任した時に、共同で研究を始めた先生が排熱を使ったヒートポンプなど、熱エネルギーに深い造詣がある方でした。一緒に研究を始めたことで、排熱を利用して冷房できる仕組みを知りました。これは排熱だけでなく太陽熱にも応用できるのです。ある程度の温度の熱があれば、それを利用して冷水を生成することができます。このアイデアに魅了され、面白いと感じました。
一般的に冷房は電力で行われるものだと考えられがちですが、実際には大型のビルなどではガスを利用した冷房が行われている場合が多くあります。さらに、再エネを活用したいと考えるビルオーナーは、太陽熱を利用して冷房を実現するシステムを導入しているケースもあります。こうした限られた事例ではありますが、将来性を感じる研究分野だと思います。
今後、再エネは必ず普及していくと信じています。私自身は30年から40年前からエネルギーに関する研究に携わっており、再エネへのシフトが進むと予測しています。再エネの研究に関われることは非常に面白く、やりがいを感じています。
研究の推移としては、省エネから再エネへの移り変わりがありました。しかし、両方が重要であり、省エネと再エネを組み合わせていくことが基本的だと考えています。炭素を排除するためには省エネも欠かせないからです。再エネも適切に活用していかなければなりません。脱炭素が達成されたとしても、省エネに取り組む必要があります。エネルギーは効率化が重要であり、使わないに越したことはありません。エネルギーロスをどこまで減らせるかが最終的な課題となります。
省エネに向けた取り組み
エネルギーの節約は、環境への負荷軽減と経済的なメリットをもたらすため、個人にとっても重要な取り組みとなっています。エネルギーの無駄な消費は、地球温暖化や資源の枯渇などの環境問題に寄与し、エネルギーの価格上昇にもつながります。
“使うエネルギーを減らすことの重要性”と”個人ができる省エネの具体的な方法”にて、詳しく解説します。
使うエネルギーを減らすことの重要性

–省エネには、使うエネルギーを減らす、エネルギーの使い方を変える、捨てたエネルギーを回収する、の3つの方法がありますが、これらの中で特に効果的なのは、”使うエネルギーを減らす”方法でしょうか?
“使うエネルギーを減らす”というのは効果的ですね。まずはエネルギーの使用量自体を削減することが重要です。電気や熱の使い方に工夫を凝らし、効率的な使い方を心掛けて減らしていくことが大切です。さらに、”コージェネレーション”という方法も効果的です。これは電気を生成する際に出る熱を有効活用する方法で、家庭用でも燃料電池コージェネレーションがあります。電気と熱を同時に生み出し、家庭内で使うことで燃料の利用効率を90パーセント以上に高めることが可能です。
実は、燃料には物理的に非常に価値のある高温の熱と、価値の低い低温の熱があります。現在、低温の熱はあまり活用されていないため、質的な面でもったいない状況にあります。コージェネレーションは、価値の高い部分を電気に変えて、残った価値の低い部分の熱を使うことで、質的にも効率的な使い方と言えます。
▼コージェネレーションについて詳しくはこちら コージェネについて(コージェネ財団)
個人ができる省エネの具体的な方法
一般の方にも理解してもらいやすいよう、具体例を挙げて説明してみましょう。
例えば、電気ポットでお湯を沸かす際に、高級なエネルギーである電気を使うのはもったいないですね。代わりに、ガスを使ってお湯を沸かし、魔法瓶に入れて保温する方が、エネルギーの効率的な利用と言えます。電気ポットは保温が悪いため熱が逃げてしまい、再び電気で加熱して温度を保っています。
このような無駄なエネルギー使用を避けるためにも、次世代のカーボンニュートラルを考える上では、熱について意識的な行動が求められます。
再エネの可能性と遅れの要因
再エネの普及には、個人と企業の積極的な取り組みが欠かせません。ここでは再エネの普及状況と、その際に直面する課題について触れ、個人と企業がどのように促進できるかについて考えていきます。
再エネの重要性と普及に向けた期待
–省エネに関して先進国の中でも遅れているとの話を聞いたことがあります。なぜ日本が遅れてしまっているのか、もし遅れていると仮定すると、その要因は何なのかをお尋ねしてもよろしいでしょうか?
日本は省エネの面では先進的な国ですが、住宅の断熱基準に関してはヨーロッパと比べるとまだ遅れていると言えます。ヨーロッパは寒い地域が多いため、断熱は非常に重要な要素となっています。それに対して、日本は温暖な気候であるため、過去は断熱にあまり厳しくなかったと言えます。しかし、日本が省エネに遅れているわけではないと思います。
特に家電製品やエアコン、冷蔵庫などは非常に効率が高いです。日本は再エネの産業としても先進的な国の一つです。省エネに関しては進んでいますが、再エネの面では確かにまだヨーロッパと比べると少ないです。
省エネは進んでいる一方で、再エネの導入は遅れているとも言えるでしょう。このような状況がなぜ極端になってしまうのか、省エネと再生エネの違いを理解する必要があると思います。
再エネ利用と省エネは異なる概念です。省エネはエネルギーの使用量を減らすことを目指すのに対し、再エネは化石燃料から再生可能なエネルギー源への転換を意味します。例えば、家庭でLEDの使用に切り替えることや熱の負荷を下げる断熱は省エネです。再エネを導入したからといって省エネになるわけではありません。再エネはCO2排出を減らすことに寄与しますが、省エネとは違うと区別することが重要です。
なぜ日本は省エネ面では先進的でありながら、再エネの開発や利用に遅れがちなのか、自然資源に恵まれている日本ならではの要因があるのか、という点についても考える必要があると思います。
日本が再エネ導入に遅れる理由とその要因
–太陽がない場合は太陽光発電の導入に遅れるし、風がない場合は風力発電の導入が遅れるのは理解できますね。日本は四季に恵まれ、豊富な自然資源がありますが、なぜそれらを活かして再エネの導入で遅れを取るのか、理解できない部分があります。先生はどのようにお考えでしょうか?
確かに、再エネの発電ポテンシャルは環境省の資料によれば日本の電力をすべて賄えるほどにあります。しかし、現実には経済ベースに乗せることや技術的な課題があるため、まだ完全にポテンシャル全てを活用できるとは言い難い面もあります。太陽光発電のコストは下がってきており、固定買取制度の導入により再エネの普及が進んでいますが、買取価格も徐々に下がってきている状況です。
太陽熱給湯器の普及も昔と比べるとかなり減少しています。一時はオイルショックの影響で普及していたものの、現在では導入量は少ない状況です。ヨーロッパでは日照条件が良くないにもかかわらず、太陽熱利用の導入が積極的に行われています。大規模な太陽集熱プラントや産業応用については、日本が参考にすべき点と思います。
–エネルギーは日本を支える基幹事業でありながら、資源があるのにもかかわらず再エネの導入に遅れが見られるのは不思議な話です。過去にオイルショックの痛手を経験したにもかかわらず、進展が鈍い理由は何なのでしょうか?
過去のアンケート調査を見ると、再エネについて知識が少ない人が多いようです。再エネに対するリテラシーが普及していないことが一つの要因かもしれません。情報が手近にないという側面も影響しているのかもしれませんね。
例えば、工務店に家を建てる際に相談すると、太陽電池の取り扱いは多いですが、太陽熱に関してはまだまだ少ないようです。再エネの選択肢があまり入ってこないことが、再エネの普及に影響しているのかもしれません。再エネを活用するには、ユーザーや施工業者、工務店などの共通の理解や仕組みが必要です。メディアで積極的に再エネについて取り上げていただけると、普及に寄与するでしょう。再エネを選択肢に含めることで、より持続可能なエネルギーの利用が可能になるといえるでしょう。
再エネには二面性があるのは事実です。燃料費削減の経済性の観点から入れたい人もいれば、設備投資の問題から入れたくない人もいます。情報の伝え方や見せ方が重要ですね。特定の条件や地域に即した再エネの利用方法を適切な情報として発信する必要があります。
特定の意見の情報だけが流れると、バイアスがかかりやすい点にも注意が必要です。客観的な情報を得ることが大切です。
再エネの普及を促進するための個人と企業の役割
–地球環境に配慮したエネルギーの使い方をするために、個人や企業ができることはありますか?
個人の場合は、家の中の製品の性能や住宅の断熱などが考えられますね。断熱は特に重要で、窓から熱が逃げることを防ぐためにしっかりと対策することが必要です。また、換気も大切ですが、冬に冷たい空気が入ってくることで冷暖房の負荷が増えるため、熱交換換気の導入も有効でしょう。このような装置を導入することで省エネが進むと思います。
また、長い期間使用した家電製品の見直しをすることも大切です。例えば、家電製品は10年以上使うことが多いですが、古いものから省エネ性能の良い製品に買い替えることで電気代の節約につながります。
太陽光発電や太陽熱給湯器の導入も考えられますが、特に太陽光発電は面積の制約があるかもしれません。太陽熱は比較的小さな面積で効果を発揮できるので、屋根面積が限られる場合に有用です。
一方、企業は脱炭素の取り組みがますます重要になっています。法規制で縛られる前に、脱炭素化しない企業はビジネスの仲間に入れなくなるといわれています。サプライチェーンに参加するためにも脱炭素化は必須です。Appleのような企業はサプライヤーに対しても脱炭素を要求しており、脱炭素化の取り組みが進んでいない企業は取引の機会を失うことになります。
個人や企業がエネルギーの使い方を見直し、省エネな取り組みを行うことで、地球環境に配慮したエネルギーの利用が進むと思います。引き続き積極的な取り組みを行っていきましょう。
日本太陽エネルギー学会の取り組みと今後の展望
日本太陽エネルギー学会は、再エネの普及と利用に向けた重要な活動を行っています。再エネ技術に関する研究や情報交換を通じて、持続可能なエネルギー社会の構築を目指しています。
学会のもつ役割と展望について、触れていきます。
学会の役割と活動内容
–日本太陽エネルギー学会の会長も兼任されておりますが、個人や企業への働きかけと今後の活動について教えてください。
学会と聞くと、一般の方々には少し敷居が高いように感じられるかもしれませんが、実際はそんなことはありません。興味がある方はぜひ参加していただければと思います。学会では技術的な情報が豊富に共有されており、参加者にとって有益な情報を得ることができます。また、見学会やセミナーなども定期的に行っていますので、どなたでも参加可能です。学会のプラットフォームを活用して、色々なイベントに参加していただけるとよいでしょう。
特に企業の方々にも学会は有益な場です。大手企業から太陽光発電設備施工を行う企業まで、様々な企業・団体が参加しています。学会を通じてコミュニケーションを取り、新しい仲間を見つけることも可能ですし、情報交換の場としても利用していただけます。
学会の教育的な取り組みと次世代への啓蒙活動
学会には教育的な要素もあります。特に子供向けの取り組みとして、再エネの入門的な動画などを作成しています。次世代のエネルギーに興味を持ってほしいという思いで、分かりやすい教材を提供しています。
ですので、気軽に参加していただいて、面白いセミナーや見学会を見つけたらぜひ参加していただけると嬉しく思います。
日本太陽エネルギー学会は、再エネに関心のある個人や企業にとって有益な場です。今後もさまざまな活動を展開していきますので、多くの皆さんの参加をお待ちしています。
▼日本太陽エネルギー学会のHPはこちら 日本太陽エネルギー学会(公式HP)