SDGs 大学プロジェクト × Sanyo Gakuen Univ. -Part 2-

山陽学園大学・山陽学園短期大学の紹介

山陽学園大学・山陽学園短期大学は、岡山県岡山市中区平井の地から、専門知識や技能の修得とともに、人としての「生き方・在り方」を考えることのできる「人間教育」を進めています。また、山陽学園創立から今日までの137年間で培われた「一人ひとり」 そして「人と人との出会い」を大切にするという本学の教育の根幹を表す“Student First~あなたが変わる出会いがある~”をモットーに、 学生の目線に立った大学づくりを実践しています。

山陽学園大学は、総合人間学部言語文化学科、ビジネス心理学科、地域マネジメント学部地域マネジメント学科、看護学部看護学科に加え、大学院看護学研究科、助産学専攻科を擁する総合大学です。
県内唯一となる、地域課題の解決に特化した「地域マネジメント学部地域マネジメント学科」や、ビジネスに役立つ心理学とデータサイエンスに重点を置いた「総合人間学部ビジネス心理学科」など、時代の変化に合わせて「学び」をアップデートさせていることが大きな魅力です。

2024年度からは、「総合人間学部言語文化学科」にアジアコースを新設し、韓国・中国をはじめとしたアジアの言語と文化に強い学科を目指します。また、言語文化学科と地域マネジメント学科にまたがる副専攻「観光専修課程」を新設し、観光需要の回復に伴って今後増大すると見込まれる観光関連企業や団体の人材ニーズに対応できる、観光分野の知識・技能を身に付けた人材の育成を強化します。

山陽学園短期大学は、「健康栄養学科」「こども育成学科」を擁し、栄養士、保育士、幼稚園教諭を目指す学生が学んでいます。

山陽学園短期大学では、県内で唯一、2年間のカリキュラムを3年かけてゆとりをもって学ぶ「3年コース」を設けています。学科で目指す免許・資格取得に向けてじっくりと勉強をする、ボランティアやアルバイトに励む、健康栄養学科では栄養教諭、調理師、製菓衛生師といったプラスワン資格の取得に取り組むなど、学生が自ら学びのスタイルをデザインすることができます。
この「3年コース」と、2年間で資格を取得して早期に社会人として活躍することができる「2年コース」を選択できることは、山陽学園短期大学ならではの特長となっています。

食育の重要性

― 健康栄養学科に在籍する岩崎先生のゼミでは食育実践活動を進めていらっしゃいますが、昨今、なぜ食育が重要視されているのでしょうか?

私たちが生きている上で、食事は欠かせない要素ですよね。何をどのように食べるかが、私たちの健康に大きな影響を与えます。

しかし、多くの子どもたちが食事の重要性を十分に意識できていないことから、現代において食育は、将来の健康のために力を入れていきたい活動のひとつとなっています。

― 子どもの頃からの食育活動が、将来にどのような良い影響を及ぼすのでしょうか?

味覚が未熟な子どもの頃から食育を通じてさまざまな味を経験し、バランスの良い食事習慣を身につけ偏食を減らすことができれば、生活習慣病のリスクも低減されると考えられています。

さらに朝食を抜いてしまう習慣は、子どもの頃は目立った症状が現れないものの、成人後の生活習慣病のリスクを高めることが明らかになっています。そのため、子どもの頃からバランスの取れた食事を心がけ、欠食を避けることの重要性を伝えていきたいですね。

食育実践活動の難しさ

― 実際の食育実践活動のなかでも、食わず嫌いをしている子どもは多いですか?

確かに、偏食や食わず嫌いをしている子どもは多いと感じます。先日、おもちゃ王国というレジャー施設で学生たちと共に子どもへの食育活動として「野菜バーベキュー&パッククッキング」を行いましたが、そこでも「野菜が苦手な子どもが多いので、野菜に関する食育をしてほしい」という依頼がきっかけとなってイベントが開催される運びとなりました。

野菜を食べていない、食べたことがないから苦手、味を知らない…など、食わず嫌いの原因は多岐にわたります。だからこそ、食育を通じて子どもたちに野菜の味を覚えてもらいたいです。

食の選択肢が豊富になった現代では野菜を避けることが容易になり、以前と比べて食の経験が少ない子どももいます。多様な野菜を食べる機会が減少しているのです。子どもの頃からさまざまな野菜を経験しておかなければ偏食が続く可能性が高いため、将来の健康を懸念しています。

― 身近な食育である学校給食だけでは、食習慣を形成することが難しいのでしょうか?

学校給食は栄養バランスが整っており野菜も十分に提供されていますが、1日1回だけなので、その恩恵が家庭にまで及んでいるかというと、まだ十分とは言い難いです。そのため、地域社会での発信を活用し、さまざまな機会で食育を行うことの重要性を学生たちに伝えることも心がけています。

― 最近の給食では食べ残しをしないことを強制しない傾向があると感じますが、岩崎先生はどのように感じられていますか?

確かに、過去には食べ残しを防ぐために担任の先生が生徒に居残りをさせることもありましたが、現代では無理に食べさせるようなことは行われていません。

しかし給食は必要な栄養素が綿密に計算されているため、食べ残しを続けていると、必要な栄養が不足してしまうリスクもあります。小学校で偏食が身につくと、中学校や高等学校に進学して自分で食事を選ぶ際にも、偏りが生じてしまうことが怖いところです。

特に一人暮らしを始める成人期には、朝食を抜く人が最も多いとされています。小学生の頃は保護者がいるため栄養バランスが保たれやすいですが、大人になって偏食が続くと、日常的に食べないものを摂取する機会はぐっと減少してしまいますよね。

その後の特定健診などで健康問題が発覚して、初めて食生活の誤りに気づく人もいます。そういったことを防ぐためにも、独り立ちする前の子どもたちに自己管理能力やバランスの良い食事選び、食べ残しをしない習慣を身につけてもらうために食べ物の役割や必要性を伝えることを大切にしています。

― 岩崎先生が特に注目している栄養課題はありますか?

一つ挙げるとすると、カルシウムの摂取でしょうか。学校給食がある時期は牛乳を出されるためカルシウムを十分に摂取できていますが、他の年代ではカルシウム不足が顕著です。この問題は特に女性の更年期で明らかになり、高齢期の骨粗鬆症のリスクが非常に高くなります。

子どもの頃から適切な食習慣を身につけることが、高齢期の健康維持につながります。そのため、学生に対し、子どもの食育に力を入れることの重要性を日頃から伝えているのです。

地元企業との協働による地域貢献活動

― 特徴的な取り組みのひとつとして、地元企業である株式会社サンヨープレジャーとの協働があるとうかがっています。活動の経緯や活動内容を教えていただけますか?

本学がサンヨープレジャーと包括連携協定を締結した際、先方から各学科と連携した地域貢献活動に関する提案があり、その中で先方のグループ会社である株式会社せとうち農園を活用した取り組みが挙がったことを受けて、健康栄養学科にもお声掛けを頂きました。

健康栄養学科は、せとうち農園のトマト収穫体験を通じた子どもたちへの食育活動を行っています。この活動は、教育現場で食育を行う栄養教諭を目指す学生たちにとっては食育を実践する絶好の機会であり、せとうち農園にとっても地域への貢献活動となります。

さらに、私が行っている災害時の食支援に関する取り組みも連携しています。私は災害時にも実現可能な調理方法など、災害食に関する研究に取り組んでおり、せとうち農園との打ち合わせを通じて、災害時の食支援に関する知識を地域の方々に普及させることを目的に、トマト果汁の備蓄や栄養補給への活用を提案しました。

この協働活動は、教職を目指す学生の食育指導、せとうち農園の地域貢献活動、災害時の食支援の普及という3つの柱で進められています。

― トマトが苦手な子どもは比較的多いのではないでしょうか? 何か印象に残っているエピソードはありますか?

以前行った食育実践活動では、通常はカレーに水を入れて作るところ、密かにトマト果汁を加えたことがありました。ルーに溶かした結果、わずかな酸味はあるものの、子どもたちは普通のカレーとして美味しく完食してくれたのです。この方法で、トマトが苦手な子どもたちにもトマトの栄養を摂取してもらうことができました。

トマト果汁は備蓄食材として非常に優れており、災害時に不足しがちなビタミンAやCを豊富に含んでいます。栄養バランスを保つことができるため、災害時も積極的に摂取してほしい食材の一つですね。

学生の活躍や成長

― サンヨープレジャー社との協働や食育活動以外に、学生が活躍している事例はありますか?

例えば、災害時にも活用できる調理法「パッククッキング」を用いたレシピ開発など、教育活動以外にも様々な分野で学生が活躍しています。

私のゼミに在籍している学生たちは、実際に災害食を地域の人々に提供し、その効果を研究するなど実践的な経験を積んでいます。

― 入学前から災害食に関する学習意欲が高い学生の方が多いのでしょうか?

災害食は簡単に作ることができることもあって、オープンキャンパスでも紹介しているのですが、そこで私たちの活動に興味をもち、災害食を学ぶことを目標に入学してくれる学生もいます。また、パッククッキングなどの災害時の食支援について学ぶことができる大学は少ないことから、本学を選んでくれる学生もいるようです。

サンヨープレジャーとの協働活動は継続しており、公民館や小学校からの依頼もいただいています。高い学習意欲をもって入学してくる学生に対し、非常に価値ある機会を設けられているのではないでしょうか。

― 学生の成長をどのように感じられていますか?

学生たちの成長は顕著です。例えば、最初は子どもたちへの声かけに苦労していた学生も、次第に上手にコミュニケーションを取れるようになっていきました。
また、一度社会人を経験し、給食施設でアルバイトをしながら本学に通っている学生は、ゼミでの学びを実際の給食施設で実践しています。本学での経験が、栄養士の現場でも役立っているようです。ほかの学生も、周囲への話し方や声のかけ方など、自信を持って行動できるようになっている様子が見られます。

私が取り組んでいる活動は、過去から多くの卒業生が卒業研究のテーマとして取り組んでいます。卒業後は保育園で働く学生が多く、彼らは卒業後、保育園の園児たちと一緒に大学で考案したレシピを使用した食育などを行い、災害時の対応に関する意識や知識を養うための活動をしています。これらの経験は学生たちにとって非常に価値があり、卒業後も彼らの成長に大きく寄与していると考えています。

”食” に関する防災活動

― 先生の研究の一環として取り組まれている、パッククッキングについて教えてください。

パッククッキングは、もともとは日本赤十字社や自衛隊などが災害時に配布していた災害食です。一般的には白飯を調理することが多いですが、それでは栄養バランスが取れていないという問題がありました。

そこで、単なる防災訓練ではなく栄養バランスの取れた食事の提供を目指しました。この過程で、パッククッキングに用いる食材をトマトジュースなどに変更したのです。パッククッキング自体は既存の手法ですが、そのレシピを学生たちと研究し、栄養バランスを考慮したものに改良していきました。

当初はあまり一般的ではなかったパッククッキングですが、現在は多くの場所で取り組まれています。トマトジュースを使用する方法も、今となっては広く普及していますね。

― パッククッキングを用いたレシピ開発のほかに、防災などに関連した取り組みは展開されているのでしょうか?

先日行った福祉施設や病院に勤務する栄養士向けの研修会では、「BCP(ビジネスコンティニュイティプラン)」に焦点を当てました。BCPとは、災害時に病院や高齢者施設が業務を継続できるようにするための計画です。現在の日本では、BCPがなければ診療報酬や介護報酬が受け取れないこともあり、各施設で事業継続計画を立てる必要があります。

多くの高齢者施設で災害発生時の対応計画が立てられていますが、給食に関する計画はあまり含まれていないのが現状です。しかし、給食が停止すると施設の業務継続は困難になりますよね。そのため、私は保育園や学校関係者の方々などと一緒に、給食施設の業務継続計画について専門的に取り組んでいます。災害時における食支援は非常に重要な側面であり、多くの施設に認知や取り組みを広げていきたいと思っています。

災害食に関する研究を通じて期待していること

― 災害時の食支援に関する研究を続けるモチベーションはどこにあるのでしょうか?

私のモチベーションは、周囲からの支援や学生たちの熱心な学習意欲にあると感じています。多くの人が災害時の食事提供の重要性に興味を示し、実際に炊き出しにも協力してくださることから、この分野の重要性を強く感じています。

特に2018年7月に発生した西日本豪雨の経験は、強く印象に残っています。岡山県倉敷市の真備地域は被害が大きく、地元の住民は豪雨以前から災害のリスクを認識されていました。彼らは私が行う炊き出しにも積極的に参加してくれていたのです。

豪雨が発生した時、彼らのことが心配で連絡をとったところ、特に高齢者や乳幼児向けの食事支援が必要だということがわかりました。そこで学生と共に、通常のお米よりも早く簡単に調理することができるアルファ化米を使って、幅広い年代が口にしやすい雑炊を提供し、食事を支援しました。この活動は、参加した学生にとっても強く印象に残ったようです。

この経験から、災害時の食支援の必要性をあらためて強く感じ、研究のやりがいを感じています。昨今の防災意識は高まっていますが、特に災害弱者への支援および高齢者や乳幼児向けの食事提供は重要です。これらの活動を通じて、災害時の食支援に関する意識を高め、より多くの人々が協力し合えるよう努めていきたいです。

― 災害食に関する知識を広めるために、先生自身はどのような役割を果たされていると感じられていますか?

周囲の方々からいただく「先生の研究のおかげで災害食について学べています」という言葉が、研究を続ける大きな動機の一つとなっています。災害時の食支援に関する研究はまだ一般的ではなく、他の大学でもここまで深く取り組んでいる例は少ないことから、私にはそれらを伝えていく役割があると感じています。

また、この分野は皆さんとの絆や意識を深める機会にもなっていると感じています。これからも、周囲の人々に頼ってもらえる限り研究を続けていきたいです。

― 災害食の意識の拡大に向けて、学生とはどのような取り組みをされていますか?

最近では、例えば学生たちと一緒に短時間でお湯を沸かす方法について考えています。先日開催した講座に、1995年に起こった阪神・淡路大震災の経験者の方が参加され、災害時のカセットコンロ使用に関する恐怖や、長時間の調理に対する不安について話してくださいました。このお話を受けて、私たちは現在、カセットコンロを短時間で使用し、できるだけライフラインに頼らない調理方法の研究を進めています。

このように、大きな災害を経験した方々との交流は、学生たちのモチベーションも大いに高めます。こうした機会をもてる学生はまだ少なく、なんとなく大学に通いながら栄養士を目指す段階に留まってしまう学生も多いことから、私とともに活動に参加する学生たちは、非常に前向きな姿勢を身につけられていると感じています。

今後の展望

― 今後の展望について教えてください。

食育実践活動に限らず、災害時の食支援などを通じて学生たちの学びの幅ややりがいが広がると考えています。そのため、私の研究と学生たちの学びを結びつけ、彼らのモチベーションを高めていきたいです。

さらに、この活動は地域社会に対しても大きな貢献をもたらすと確信しています。まずは手が届く範囲での学びと活動ではありますが、この取り組みを継続していくことに意義を感じています。